そこには少女、そして少女と対峙するトゥルがいた。
三人の理解を置き去りにするように廃工場を根城にしていた不良グループのリーダー、名蜘蛛が明らかに平静を失った状態で決闘を挑む。
祭を庇って決闘を受けた山城。勝つのはどちらか?
名蜘蛛:LP4000 伏せ0 手札5
山城:LP4000 伏せ0 手札5
「俺のタァン! 俺は手札抹殺を発動ぅ!」
手札を全て捨て、その枚数だけドローする手札交換カード。
それを初手から使うとは、余程手札が悪かったのか、はたまた墓地に送る事が利となるカードがあったのか。
怪しみながら、山城も手札全てを墓地へと送り、代わりに五枚ドローする。
「ヒャハハッ、さぁっそく来やがったぜ」
名蜘蛛がドローしたカードを見て、正気を疑う程に表情を歪める。そしてカードを天高くへ持ち上げ、カードの発動を高らかに宣言した。
「手札からフィールド魔法発動っ! 絶対の領域の元、敵対者を汝の贄に捧げん。オレイカルコスの結界っっっ!」
「え……!」
山城はカードとともに天を仰ぎ、信じられないものを見たかの如くに表情を固める。
天高くに浮かぶのは、解読不能な言語の書かれた円形の空間。それが二人を逃がさぬように降りてきて、地面に接触した瞬間に通常とは異なる六芒星を二本線で描き、全てが繋がり更なる輝きを放つ。
「な、なんだこりゃ……!」
遊羽は思わず結界に手を伸ばし、頭を鈍器で殴られるような衝撃が走る。
結界の外縁、そこに触れる事が出来た。結界内と外、完全に遮断されている。これでは内から助けを求める事も、外から干渉する事も不可能。
「そぉら、決闘を再開するぜ。俺はカードを二枚セットしてタァンエンドォっ!」
名蜘蛛の目は怪しい紅の輝きを発し、額には結界と同一の紋章が浮かんでいる。
疑うまでもない、名蜘蛛という人物の変調にはこのフィールド魔法が確実に関わっている。そして可能ならば、この決闘は短期決戦を仕掛けるべきだ。
「俺のターン、ドロー!」
ドローしたカードを加えて、六枚を確認する。
悪くはないが、決め手には欠ける。そもそも、山城のデッキは序盤から動けるタイプではないのだが。
「手札から速効魔法、アーティファクト・ムーブメントを発動! 魔法・罠カードを一枚破壊し、デッキからアーティファクトモンスターを魔法・罠ゾーンにセットする。俺から見て左のカードを破壊する!」
山城が選択した伏せカードを巻き込む形で歯車が噛み合い、噛み砕くように回転した。表になったカードはリビングデッドの呼び声、手札抹殺で捨てたモンスターを蘇生させるには持ってこいのカードだ。
「俺が伏せるのは、アーティファクト・アイギス。そして手札からモンスターを召喚。出でよ、チューナーモンスター、カオスエンドマスター!」
「出たな、カオスエンドマスター。そのままその蜘蛛野郎をぶっ飛ばしちまえ!」
星3/光属性/戦士族/1500
遊羽の声援とともに、白き羽根を広げて羽ばたく戦士。山城のデッキにおいて貴重な自身から動けるモンスターだ。
もう一枚残っている伏せカードは不安だが、やるしかないだろう。
「バトルだ。カオスエンドマスターで名蜘蛛にダイレクトアタックっ!」
カオスエンドマスターが突撃して、名蜘蛛に迫る。何もなければそれでいいが。
「ヒャハハッ、罠発動ぅ、スパイダー・エッグ! こいつは俺の墓地に昆虫族モンスターが三体以上いる時、ダイレクトアタックを無効にする!」
やはり罠か……
カオスエンドマスターの攻撃は蜘蛛の巣にぶら下がっている卵に防がれ、名蜘蛛にまでは届かない。
「さぁらぁにぃ、俺のフィールドにスパイダートークンを三体! 攻撃表示で特殊召喚する!」
星1/地属性/昆虫族/攻100→600
攻撃を防いだ事で卵にヒビが入り、そこから三体の蜘蛛が姿を現した。
そして額には名蜘蛛と同様、紋章が浮かんできた。
「おっと、言い忘れていたが、オレイカルコスの結界内では俺のモンスターは全てダークモンスター化し、攻撃力が500ポイントアップする」
「何っ?」
単体ならともかく、全体強化として見れば500は決して無視出来ない変化だ。
こんな効果がある以上、相手の場にモンスターを残す事は危険だが、これ以上山城に打てる手立てはない。
「……メイン2、カードを三枚伏せてターンエンド」
名蜘蛛:LP4000 伏せ0 手札2
山城:LP4000 伏せ4 手札2
「ヒャハハッ、ならば俺の……!」
山城の宣言を受けて名蜘蛛が右手をデッキトップに置く。その瞬間、先程より一層強い鼓動を感じた。しかも一回だけではない。二回、三回と腕を通じて訴えかけている。
そしてその感覚は、この場にいる全員が共有していた。ただ異なるのは、名蜘蛛以外にこれを心地よく感じる感性の人がいなかった事だ。
「何、これ……」
「なんだよ、なんなんだよこれ……?!」
「鼓動、誰の……?」
「この力……マズイっ!」
「タァン、ドロォォォっ!!!」
全員の視線が注目する中、名蜘蛛がドローしたカードを確認せずに発言した。
「俺はスパイダートークン二体、そして数多の魂を生け贄に捧げ神を呼び起こすっ!」
名蜘蛛の宣言とともに、空気中に赤い粒子が浮遊して引力に引かれるかの如く、彼が持つカードに集約していく。
不意に祭が口を抑えた。
「どうした、祭?」
「なんだろう、吐き気がする……」
それは遊羽も、そして少女も確かに感じている感覚である。
人口密度だけが異様に高く、それでいて実際には隙間ばかり。多くの人が蠢きながら、呼吸する空気にも混ざっているようにさえ錯覚する。
「地に縛られし神よ、その姿を現世に現し、永遠の信仰を得よ!
名蜘蛛の背後、結界の外に流血を連想させるラインが走り、一つの地上絵を形作る。
それは蜘蛛。ナスカに存在する地上絵と同一の形であり、あくまで点と線の世界の住民に過ぎない。
そんな地上絵が地響きを上げて黒き立体と赤き輪郭を持ち、廃工場をも凌駕する規格外に巨大な蜘蛛が創造される。何百もの魂を無理矢理一つの器に入れ込んだ、歪で歪んだ邪な神がここに降臨した。
星10/闇属性/昆虫族/3000→3500
「当然、Uruも結界の補正を受けてダークモンスター化! 攻撃力は3500!」
頭部にやはり結界の紋章が刻まれ、赤い目は凶悪なまでに輝きを発している。
外野からでも理解出来る程に、このカードはおかしい。まして、そんな化け物と正面から敵対する山城の精神的負担は計り知れない。
「ト、罠発動! アーティファクトの
「ま……!」
遊羽の言葉よりも早く、山城はデッキから召喚するモンスターを決めていた。この場ではあのモンスターを出すしかない。
「出でよ、アーティファクト・モラルタっ!」
星5/光属性/天使族/攻2100
天から降ってきて地面に突き刺さったのは、かの英雄が使った一太刀で全てを葬る宝具の名を冠した剣。その力はデュエルモンスターズにおいても健在だ。
「その効果により表側表示のカード、地縛神Uruを選んで破壊するっ!」
動揺を隠す努力さえ放棄して、山城は神の排除を指示した。それに従い、モラルタは独りでに宙へ浮き、直線でUruに向かう。
選ぶという事は対象に取らないという事。つまり仮に地縛神とやらに対象耐性があろうとも一振りの元、問答無用で破壊可能だ。
「ハッ、手札から速効魔法発動。我が身を盾にぃ! おぉぉぉっ!」
名蜘蛛:LP2500
雄叫びを上げる名蜘蛛から紫色の気が生まれ、モラルタの元へと伸びる。
そしてモラルタがUruに突き刺さる寸前、気に絡め取られ切っ先が僅かに触れるばかりだ。
「このカードの効果はライフを1500払う事で、相手が発動した「フィールドのモンスターを破壊する効果」を持つカードの効果を無効にして」
破壊する。
名蜘蛛の紡いだ言葉を合図に伝説の宝具は、ガラクタのように崩れて壊れた。
「ヒャハハッ! 危ねぇ危ねぇ。危うく神を消されちまうところだったぜぇ。そして先にこいつを使わなくて良かったぜぇ、まったくよぉ……」
挑発的な声色で話す名蜘蛛が見せたカードの名を、外野の遊羽が読み上げた。
「ハーピィの、羽箒……」
相手フィールドのあらゆる魔法罠を破壊する圧倒的パワーカード。
羽根が山城の前でヒラリと舞い、伏せられていた三枚のカードが全て表になる。その全てがモンスターカード、決してプレイングミスでも、決闘盤の誤認識でもない。
「アーティファクト・アイギス、アキレウス、そしてベガルタの効果発動!」
星5/光属性/天使族/守2500
星5/光属性/天使族/ 守2200
星5/光属性/天使族/守2100
表になったカードから、二つの盾と一振りの剣が立体化する。
これがアーティファクトの特性。魔法カード扱いとしてフィールドにセット出来、相手ターン中に破壊されるという厳しい特殊召喚条件と、それを補えるだけの効果を持ったカテゴリー。
この破壊される事でメリット効果を発動させる特性は、先に使用したアーティファクトの神智にもあったのだが……
「まずアイギスの効果によりこのターン、アーティファクトは効果で破壊されず対象にも取れない。そしてアキレウスの効果で攻撃対象にも出来ない!」
ベガルタの効果はこの状況では発動しても不発になるだけだ。
とはいえ、これで神とやらがどれだけ攻撃力が高く、如何なる効果を持っていようともアーティファクトには関係ない。だが、
「それでもフィールドにはカオスエンドマスターがいる……」
苦々しい声でそれを告げたのは、少女であった。
アーティファクトの名を持たないモンスターには、アイギスなどの加護は受けられない。
「そぉら、バトルを始めようかぁ! 地縛神Uru!」
名蜘蛛の宣言に、山城も覚悟して身構える。だが流石に続く言葉には理解が及ばなかった。
「プレイヤーにダイレクトアタックっ! ヘル・スレッドっ!」
Uruの口から濁流を思わせる勢いで放たれる蜘蛛の糸。それはモンスター達を素通りして真っ直ぐに山城へ迫り、
「う、うわぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「山城っ!!!」
「山城君っ!!!」
「くっ……!」
遊羽や祭の言葉を無視して、山城の姿を白濁の中へ飲み込んでしまう。一部始終から少女は目を背けて、両の拳を固く握った。
やがて糸は消え去り、代わりに地面へ横たわる山城の姿が見て取れる。
山城:LP500
「どぉしたぁ、もお寝る時間かぁ? 早く起きろよ、ハリー、ハリー、ハリー!」
煽る名蜘蛛。それを受けてか、または単に意識を失っていただけか、ゆっくりと山城は立ち上がった。余程体力に余裕がないのか、結界により生じた外界との壁に寄りかかった。
立ち上がる際に外野が視界に入る。山城には笑顔を返す余裕もないが、幾度となく山城と相対していた遊羽だけは理解出来た。僅かに見えたその目から闘志の炎が未だ消えてはいない事に。
「ヒャハッ! そうこなくっちゃなぁ!!! 俺はタァンエンド。お前のタァンだ、精々足掻けよ!」
名蜘蛛:LP2500 伏せ0 手札0
山城:LP500 伏せ0 手札2
作者のヌルです。
すみません決着は次回に持ち越しです。
アーティファクトの戦略を考えるの疲れる……!