1:プロローグ*あの日
ずっと不思議に思っていた。
自分がこの世界に生まれた理由。
鏡に映る度、人混みに飲み込まれる度、世界が嫌いになった。
だから、生まれ変わらせてくれたこの"世界"は何があっても嫌いにはなれない。
たとえ大きく運命をねじ曲げられたのだったとしても。
白銀の証 ―ソードアート・オンライン―
アインクラッド アナザーストーリー
「俺は閃光のアスナかな。」
「やっぱかわいいよなぁ。」
残り約6000人のデスゲームの虜囚。
数少ない娯楽と言えば更に少ない女性プレイヤーの噂話。
その中でも実力、容姿ともにトップレベルなものと言うと何より稀少で。なんせ重度なネットゲーマー。失礼ながら現実の容姿が反映されているこのゲームで見つけるのはなかなかに難い。
現実世界と隔絶されている今、さながら手の届かないアイドルのような存在だ。勿論自分より強いと想定されるからには軽々しく声もかけられずお近づきになるのも畏れ多い。
「俺は舞神のセツナ派かなぁ。」
「赤のアスナと青のセツナね。おっと噂をすれば、だ。」
容姿の美しさだけなら他にもいるが、実力も伴うとすると100人に聞けば100人がどちらかの名前をあげるだろう。
一人は最強ギルド血盟騎士団に身を置く閃光のアスナ。
栗色の髪に紅白の制服。腰には白銀のレイピアを履き、そこから繰り出される剣技こそがその名の由来。黙っていてもいなくてもその美しさと聡明さは品を醸し出しこんなゲームの中でなければどこぞのご令嬢に見える。
そんな彼女と双璧をなすのは白銀の髪に空色の軽鎧に身を包んだ赤い瞳の少女だった。
名をセツナ。それ以外の情報はアスナと違って情報屋にもあまり記されていない。
「もうじき2年…か。」
男達の無遠慮な視線には目もくれず、ホームにしている50層の雑踏の中、セツナは空を見上げた。
建物が所畝ましと立ち並び、迷宮のよう入り組んでいるこの階層でも仰げば隙間から空は見える。擬似的な空間だとしても空はきちんと青く、17時を回ろうとしている今、紅く染まりかかっていた。
あの時見た空の色も確かこんな色。夕暮れ時はいつも始まりの時を思い出す。
そう。このデスゲームが始まったあの日のことを。
あの時はただ美しく、こんな形で思い出すようになるとは夢にも思わなかったけれど。
この日が待ち遠しくてしかたがなかった。ソードアート・オンラインの正式サービス開始日。初回ロット一万本という話題性の割には少ない発行本数ではあったが、とあるルートから確実に入手できることは決まっていた。自分の運の良さには感服せんところではある。
1時のサービス開始時間に遅れることなく、リンク・スタートと発し、初期設定を滞りなく進めると文字通りその世界にフルダイブした。
こんなにも心躍ることは今まで生きてきた中でそうあることではなかった。自由に動く体に五感に漂う感覚。MMOをこのような形でプレイできるなんて夢のようだった。
おそらく同じことを考えているであろう知人をログインと同時に探す。《はじまりの町》は一万人近くのプレイヤーでごった返しているし、彼はじっとしているタイプのプレイヤーでもない。まずは武器でも買ってさっそく狩りに行くのでは見当をつけ、自身も移動することにした。
案の定、彼は近くの草原に姿を見せたが、意外だったのはそれに同行者がいたことだった。
「キリト!」
見慣れたアバターに声を投げ掛けると少し驚いたような顔をしてから呆れたように彼は笑った。
「セツナ。やっぱりすぐにログインしてたか。」
当たり前でしょと手を合わせて挨拶すると、同行者の侍のような男がテンション高く挨拶をして来た。
「私! クラインと言うものです。22歳独身!」
握手に応えると隣でキリトが苦笑いをする。
「クラインー。リアルではこいつも女かどうか怪しいしこれはアバターだぜー?」
腕を組み片頬だけあげて笑む友人に真っ向から不満をぶつけずにはいられない。
「失礼ね! ホントの私が不細工みたいに言わないでくれる! クラインさん、セツナです。よろしく。この人とは他のMMOからの知り合いなの。」
キリトの脇腹に肘鉄をお見舞いし笑顔を作る。なるほど、クラインのキャラクターを見て人付き合いの苦手なキリトとはいえ同行者がいたことに納得をした。
「しっかしよぅ。すげぇもんだな。」
感慨深げにSAOの世界を噛み締めるクラインにつられ目を閉じ、五感を澄ませる。
現実よりも現実のようで。風の音も陽の光も鮮やかに感じられる。
「手に入れられて、本当に良かったね。」
心からの言葉が漏れた。
それから、三人で少し狩りを楽しみ、なんなく初日を終えるはずだった。…メニュー画面の表示を見るまでは。
それは空が茜色に染まり出した頃のこと。
「さて、俺はそろそろ落ちるわ。5時半にピザ予約してんだ。」
クラインのそんな言葉に二人で笑い、解散の流れになったところだった。
「あっれー。ログアウトボタンがねぇな。」
そんなはずはないと慌てて自分も右手を縦に振り、ウィンドウを開いた。すると明らかにそこにあるべき表示がないのを見てとれた。
「ホントだ…。」
「GMにコールしたか?」
各々の語尾に段々と焦りの色が出る。
「くっそー! 俺のピザ返せー!!」
嫌な予感が胸を過る。
ただのエラーであれば何も問題はない。しかしこんなトラブル通常では有り得ない。今後の運営に大きく関わる問題だ。
ウィンドウの隅から隅まで表示を確認したりGMにコールしたりと出来ることは全て試した。しかし状況は一向に変わらない。…GMからは問い合わせが殺到してるのか返答はない。
途方にくれたその時、答えは思わぬ形で降ってくる。
視界がぶれたかと思ったら《はじまりの町》にその舞台は移動していた。ログインしたときよりも多くの人。プレイヤーが一介に集められてるのだろう。
ーなぜ。なんのために。
視線をキリトに移すと空を睨み付けていた。
何が起こったのか。倣って空を見上げるとそこには顔のない被り物をした巨大なアバターが現れていた。血液を思わせる滴が集合しそれを形作る。
演出としては少々悪趣味だ。
曰く、
これはゲームではない。
この世界で死んだものは現実でも命を失う。
助かる方法はただひとつ。
100層ものフロアを突破し、ゲームをクリアすること。
アバターから発せられた言葉に広場は騒然となった。何を言っているのか理解するのに時間がかかった。と言うよりも理解することを脳が拒否していたという方が正しいだろうか。
そして残酷にもそのアバターは追い討ちをかける。
…それが私にとっては尤も辛いことになるとは。
―諸君にプレゼントをあげよう。アイテムストレージを開いてみてくれ。
皆がおっかなびっくりメニュー画面を操作しだす。当然訳も分からず自分もそうした。
「手鏡…?」
これに何の意味が。
そう思うや否や自分の体、そして周囲が光に包まれた。
「なっ!」
何が起きたのかと隣を見れば先程と隣にあったはずの友人の姿が見えない。
勇者然とした美丈夫のアバターとはうって変わってあどけなさを残した、見ようによっては少女のようにも見える容姿。しかしその装備は、
「キリ…ト?」
鏡を見て呆然とし、ゆっくりと視線をこちらに向けるとその少年は確認するように口を開く。
「セツナ…? いや、でも俺は"俺"なのにセツナは…?」
鏡を見ても私の姿にはほぼ変化はない。…キリトとおぼわしきその少年の反応からするに光が引き起こした現象は
「現実世界の姿の再現…?」
辺りを見回すと性別を逆転してログインしていたプレイヤーもいたのだろう。女性装備に身を包んだ男性プレイヤーがちらほらと。男女比は大きく男性側に傾き、美形の多かったアバターも見る影もなく、平均身長は大きく下がり、逆に胴回りの平均はやや太くなっただろうか。見るも無惨な光景だった。
「え、でもセツナは…。」
そんな光景と比較して私を見るやキリトそしてクラインとおぼわしき人物も目を丸くする。
「セツナは何も変わっていないじゃないか…!」
それの答えは私自身は知っていた。私のアバターを設定したのは勿論他ならぬ私で、現実の私を出来る限りトレースしたものだったからだ。
身長や体格は当然。髪の色から瞳の色まで。
カラフルだった集団は一気に黒が中心になっていた。
その中で私の容姿は明らかに異色だっただろう。
白い、よく言うならばプラチナブロンドの髪に真っ赤な瞳。
この世界ならば自分を受け入れられると思ったのに。この世界にも否定されるのか。
曖昧な笑顔を浮かべてその場を立ち去ること。色んなことが起こりすぎてもう処理できない。その時私に出来たのはそれだけだった。
「セツナ!!」
二人の呼び止める声が聞こえたが立ち止まることは出来なかった。
話せるほどに私は強くなく、余裕もなかった。
この、凄惨なゲームはこうして始まった。
誰が死を選ぶことができようか。
必ず生き残る。強く思い、その丈をぶつけようと背から武器を抜いた。
オリ主中心に細々と書いていこうと思います。
ゲーム未プレイのためオリジナル設定多数になるかと思いますが悪しからず。
20150922 改稿