白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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最新話はALO番外編です。


5話*半身との再会

 

 

 

 

 

 

 

「あなたたちって絶対変!!」

 

 少女にそう言われたのは、キリトがもう1つのゲームをアッサリとクリアしてしまったからだ。しかし二人にしてみればこれで少女に頼ることなく資金の問題が解決されたのだから万々歳だ。

 

「きっと染まりきってなかったのが良かったのよ。」

 

 もうそう言って押しきるしかない。セツナとキリトの二人が今までどのGGOプレイヤーもクリアできなかったゲームをクリアできたのは、死と隣り合わせで技術を培ってきたからに他ならないが、それを言うわけにはいかない。二人の反応速度は茅場晶彦のお墨付きだ。たとえプロゲーマーだろうと敵わないだろう。圧倒的なそれをもってすればどちらのミニゲームもクリア出来たのは当然だった。

 セツナは賑やかなBGMのかかる店内を宛もなく歩き出した。追及される前に関心を目的にシフトさせたかった。まるで美術館か博物館のように並ぶ武器たち。さっき使った銃は本当に偶々手にしたことがあっただけで、やはり銃のことは全然分からない。あれが自分に向いているのかも分からない。四方八方に視線を移していると飛び込んできたのは一際派手に装飾されたコーナーだった。2Dで描かれたキャラクターまで飛び込んでくる。

 

「あれは…?」

 

 振り返って少女に尋ねると、呆れつつも少し慣れた様子で答えた。

 

「コラボ企画のものよ。使えるんだろうけど、どっちかと言えばコレクション的な要素が強いと思うわ。だって現実には無い武器なんだもの。…ついでに言えば価格帯も高めだしね。」

 

 セツナの目を引いたのはあの世界でのユニークスキルに似た武器だった。言われてみればこの一帯の武器はリアル感があまりなく、あの頃やALOで使っているような少しファンタジー色のあるようなものに思えた。確かに2Dのキャラクターは見覚えがある。有名ゲームのものだろう。

 

「…でも売るってことは使えなくはないってことよね?」

 

 セツナは引き寄せられるようにその武器を手に取った。

 

「ちょっと…本気で言ってる?」

 

 少女が目を見張る。

 天秤刀に似た、両端に刃を持つそれを左右に少し動かしたところで、セツナはその武器の特殊性にも気付く。

 

「あれ…これ…トリガー…?」

 

 その武器は半分に分かれ双剣のように変化し、それだけではなくよく見れば先端に銃口までがあった。

 

「──へぇ。」

 

 さながら二刀流。銃の世界であるのに刃物。キリトもその武器に強く惹かれているようだった。しかし、問題はそのお値段…。

 

「…それ、銃になってるのね。それなら使えなくは無さそうだけど…35万って言ったら結構なクラスの武器が買えるわよ。ホント無駄に高いんだから。」

 

 少女が言ったように大分値段が高い。その値段にキリトは肩を落とした。

 

「35万…。」

 

 そう、先ほどキリトが稼いだのは30万とんで2千クレジット。残念ながら足りそうもない。

 

「私、これにするわ。天秤刀をまた使えるなんて運命だと思う。」

 

 そんなキリトを尻目にセツナは《buy》のボタンをあっさり押した。セツナのゲームの単純さからかベット数が多かったのだろう。セツナは50万を超えた金額を手にいれていたため痛くも痒くもない。ボタンに反応し、直ぐ様ロボットが注文した武器を持ってくる。丸い円柱型のそれはまるでロボット掃除機のように動き、少し愛らしかった。

 セツナはそれを受け取ると、確かめるように見返した。黒い柄に金の鍔、そして銀の刃。あの頃カラーではないものの手に馴染む。ブンっ…ブンっと空気を切る音。耳障りの良い音に、柄を両手で握ると腰を落とした。

 

 ブンブンっ……ブンっ

 

 標的でもあれば確実にザシュっと音が聞こえているだろう。セツナが試しに繰り出そうとしたのはあの頃のスキル、《クルサファイ》。四連擊のそれはシステムアシストが無い分、当時よりは劣るが、ソードスキルのないALOで動きには慣れていたため、そこまでのギャップは感じられない。

 

「……うん。」

 

 セツナが頷けば、隣からは小さな歓声が飛んできた。

 

「──へぇ! ファンタジー世界の技? 結構様になってるじゃない。」

「ま、ね。これに似た武器使ってたから。」

「銃にもなってるみたいだし、あなたの方は後は防具で良さそうね。次は…君か。」

 

 少女は右手を顎に当てるとセツナからキリトに視線を移した。

 

「─…お、お手柔らかに。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、キリトも主武器(メインアーム)に銃は選択しなかった。…いくら銃の世界とは言え、慣れない武器で戦うのは分が悪い。GGOを楽しみに来たのではなく、強さで目立たなければならない。そんな事は少女は当然知る筈もないので、呆れ顔だ。

 

「ちょっと二人共何しに来たの? って感じだけど…。」

 

 武器はともかく、少女はしっかりとそれぞれに合わせた防具を見繕ってくれた。予算的にもバッチリだ。

 

「…銃の世界に来たのに使わないのは矛盾してるかもだけど、私たちもBoBに一応出るから無様な戦いはしたくないもの。」

「だからなれてる武器でって? それはそうかもしれないね。」

 

 そう呑気に話せるのは、無事にBoBにエントリー出来たからだ。装備を調えるのに時間がかかってしまい、危うく間に合わなくなるところだったが、バイクをとばしてなんとか到着した。残り時間5分程。エントリー出来ていなかったらそれこそ何しに来たのか分からない。

 セツナとしてはエントリー時に現実(リアル)情報を求められたのが気にかかった。少女はともかく、キリトはどうしたのだろうか。セツナは迷うことなく飛ばしたため、3人の中で一番エントリーが早かったようで、予選はEブロック。2人はFブロックに振り分けられていた。

 少女に案内され、総督府の地下の予選会場に足を踏み入れる。屈強な戦士たちがご自慢の武器を抱え、賑やかに談笑している姿がそこここにあった。すると、少女は吐き捨てるように言った。

 

「ほんっとどいつもこいつもお調子者なんだから……!」

 

 その言葉にセツナとキリトは改めて辺りを見回した。イメージするような、ステレオタイプ的お調子者は見当たらないように思えた。

 

「…お、お調子者?」

 

 おずおずとキリトが尋ねれば少女は強く頷いた。

 

「だって30分も前から主武器(メインアーム)見せびらかすなんて対策してくださいって言ってるようなもんじゃない。」

 

 そう言われてセツナもキリトも目が覚めた思いだった。対人戦の経験が無いわけではない。しかしその質と量と共に圧倒的に違う。ここにいるプレイヤー達はレベルに差はあれど対人戦のスペシャリストだ。勿論、目の前の少女も。セツナとキリトもSAO時代毎日の様にデュエルをして力比べをしていた時期はあったが、あくまでもお遊びで、相手のHPを全損させようと言ったものではなかった。

 二人はここまで半分物見遊山の気分があったことに気付かされた。本当に、そう甘いものではない。

 

「まず、控え室に行こう。私もあなたたちもさっき買った戦闘服(ファティーグ)に装備替えしないと。」

 

 そんな二人の様子には気付かず、少女は迷いなく歩を進める。確かに未だに二人共初期装備のままだ。それにしても

 

──着替え!?

 

 当然のように無人の控え室に入る少女。

 

「ちょっ…ちょっと待って!!!」

 

 セツナは慌てて声をかけた。

 

「何?」

 

 少女は小首を傾げた。

 

「あのっ…私、今更なんだけど…こう言うもので…。」

 

 セツナは自分のネームカードを可視可させると、少女に飛ばした。それと共にキリトの背中を強く叩く。キリトも察したようでセツナに倣う。

 

「s…セツナ、か。女の子にしては珍しい名前だね。…で、そっちは……。」

 

 少女はキリトのネームカードを見ると目を剥いた。

 

「……え? ………Mって…………男!? その容姿で!?」

 

─…やはりか。

 

 知っててそういう風に誘導した。…主にキリトが。

 何故そんな風にしたかは当然セツナにも分かっていた。女性プレイヤーにしたら見ず知らずの男性プレイヤーは警戒してしかるべきなのだ。たとえ、セツナが一緒だったとしても、もしあの場でキリトが男であることを明らかにしていたら少女がこんなに親切にしてくれていたかは分からない。…だからキリトのアバターを利用した。始めこそセツナも気持ち悪いと思わざるを得なかったが。よく考えればそう言うことで致し方ないと納得できた。そう、彼の行い自体に異論はない。だけど、更衣室まで…と言うのはやり過ぎだ。

 

「あの…騙すつもりはなかったのよ?」

 

 セツナは恐る恐る少女の顔を見上げた。キリトに至っては張り手の1つも覚悟しているような表情だった。そんな二人の様子を見て、少女は今日何度目かの溜め息をついた。

 

「……良いわよ。ソイツが男だからって危害を加えられた訳じゃないわ。」

 

 少女は両手を上げて、首をすくめた。もし、着替えが始まっていたら危害を加えたことになっただろうか。セツナは胸を撫で下ろした。

 

「ゴメンね。ありがとう。」

「うぅん。女の子の知り合いあんまりいないから残念と言えばそうだけど…。」

 

 少女はチラリとキリトを見ながらそう言った。そう言われては苦笑いするしかない。セツナは再び謝罪の言葉を口にする。

 

「本当に申し訳ないわ。」

「…まぁ、私も勘違いしたし。」

「あの容姿じゃしょうがないわよ。」

 

 女子二人に好きに言われキリトは居たたまれなくなる。

 

「俺だって好きでこんな姿になったんじゃない…。もっと屈強な……。」

 

 それはキリトがログインした際に思ったことだった。まさか蒸し返されるとは思っていなかった。

 

「キリトがガチムチだったら嫌だわ。パーティ組まない。」

 

 しかしセツナにピシャッと言われればもう言葉は出なかった。そんな二人の様子に少女は声を出して笑った。

 

「あなたたちホントに可笑しいわね。私はシノン。良かったら仲良くしてよ、セツナ。」

 

 そして差し出された手をセツナはしっかりと握った。

 

「こちらこそ! シノン。」

「え…俺は?」

「男とは必要以上に仲良くしない主義なのよ。さっここは私たちが使うから君は別の部屋で着替えてよ!」

 

 早くもそんな風にキリトをあしらうシノンと、セツナは顔を見合わせて笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




話がすすまなーい!!

セツナの武器はテイルズ オブ グレイセスの
ヒューバートからいただきました!
(未プレイのためテキトー)
前話では銃を撃たせてみましたが、なんかリアルな武器、似合わないなぁと思ってしまって…。
コラボ企画と言うことでお許しを!笑
ちなみに初めの構想ではFF8のガンブーレドでした。
どっちにしてもキリトの方が似合う…。
そこは賞金の額で調整調整。

次話からようやけ話が動く筈だぞ!
頑張れ私!!

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