白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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11:間層*二匹の野良猫のそれから

 

 

 30層攻略会議には二人揃って出席したことから口に出さなくとも皆安堵の様子を見せた。そんな中アスナが皆が聞きたくて聞けないことを口にする。

「どうやって仲直りしたの?」

 二人にして見ればケンカしていたと言うよりもすれ違っていたと言うのが正しいのだが、ここは訂正せずに調子を合わせた。何より説明するのがめんどくさい。

「どうやってって…デュエルして…。」

 キリトの回答にその場に集まったメンバーは騒然とした。色恋沙汰だと解釈していた人も少なくはないため予想だにせぬ回答だっただろう。つまりは拳と拳でぶつかり合って分かり合いました。大昔の少年漫画も真っ青な単純明解具合。ひょんなことから内情を知ったクラインですら苦笑いをするしかなかった。そして気になるのはその行方だ。攻略組の中でも屈指の実力者である二人のデュエル。どちらが勝ったのかむしろ興味の対象はそちらへ移っていた。二人が答えずにいるとトトカルチョが始まりオッズがキリトの方が高かったことにセツナが怒り、結局は暴露されたのであった。

 そんな様子をアスナは微笑ましく見つめる。自分の2人のヒーローには仲良くしていてもらいたかった。そしていつか追い付くのだ。今はまだ、肩を並べたとも言えないけれどそうなれるよう、いつか間に入れるよう日々鍛えているのだから。

 

 

 

 

 

「こんにちわ。」

 キリトとセツナは暇を見つけては20層にある《月夜の黒猫団》ギルドのホームを訪れていた。戦力を削いでしまった代わりに情報の提供や狩りの手伝いをたまに行っていたのだ。何より二人ともアットホームな彼らの雰囲気が気に入っていた。彼ら《月夜の黒猫団》の転機はそれだけではなかった。サチが戦いたくないとギルドメンバーに吐露したのだ。後から聞いた話ではあるがサチはキリトが本当はハイレベルプレイヤーであることを知っていたと言う。だからこそ《圏外》へ出掛けることが出来ていた、と。キリトがいる安心を知ってしまった今、もうモンスターとは対峙できない。

『元々…臆病な性格だから。でも、私のせいで《はじまりの町》に留まるのも嫌だったから。』

 だから今度は生産職として彼らを支える。その道を選んだという。そう言ったサチの表情は出会った中で一番明るかったようにキリトには思えた。

 ますますの戦力ダウンに前衛の不足。そこでセツナが槍使いでも前衛はできると提案したのだ。…それは、実際に彼女自身がソロの槍使いとして生きてきたから出来る提案だった。ギルドを訪れるのは、その指導も兼ねてのことだった。

 

「セツナさん!」

 

 ギルドに着くといつも手厚い歓迎を受ける。タメ口で良いし敬称なんて要らないと何度言っても出会いが衝撃的過ぎて直せないらしい。

 27層のダンジョン。彼らの危機は自分がいなくともキリトが救っていたのではないかと思うのだが、もしもはいらないと言うことだ。そしてキリト自身も一人だったら冷静にはなれなかったと言うのでそれ以上のことは言わなかった。ただサチとは友だちになりたかったので断固と拒否した。便利なこともあるが二つ名をもらって不便なのはこんな時だ。

「サチー、さんはいらないよ!」

 何度でも訂正する。

「ゴメンゴメン。クセになっちゃって。」

 最近はよく笑うようにもなった。黒い髪が一緒にサラサラ揺れる。

「いいなー。」

 サチの容姿はセツナとは対極だった。黒い髪に黒い瞳。平均的日本人の容姿だ。髪を手で遊ぶとサチはくすぐったそうにまた笑った。

「ホントそればっかり。私はセツナの方が羨ましいけど。」

 結局無い物ねだりなのだろう。私はサチの黒髪に憧れ、サチは私の白髪に憧れる。本来の色だと教えると初めこそ戸惑っていたものの、この世界だからか直ぐに羨ましいと言い出した。

「ねぇ!新しいアイテムできた?」

 サチが選んだのは細工スキルと裁縫スキル。元々細かな物を作るのが好きなのだと言った。今はもうアイテムストレージに格納されている以前の愛槍スプレンダーグレイブも彼女の作った鞘に収まっている。転向して以来素材を持ってきては彼女に託すのが常となっていた。

「今日はねー」

 良いものがあったら買ってアスナにもあげよう。サチのデザインする華奢な装飾のアイテムはきっと彼女も好きなはずだ。

 

 

 

 24層の攻略会議以来ディアベルの絡みがなくなりせいせいしていたところだったが、最近それも復活した。

「弱みに付け込めないところが俺なんだよね。」

 と、相変わらず訳の分からないことを言うが彼は彼なりに心配していてくれたのだろう。

「お前の付け入る隙なんか無いからな。」

 変わったことと言えばキリトがそれを正面から突っぱねるようになったことだろうか。キリトが言わなくとも彼と別れてギルドに入ろうと言う気持ちは毛頭ないのだけども、それもくすぐったく受け止める。そんなことよりも急務はキリトのレベルあげだった。いくらレベリングをしていたとしても前線を離れていたツケは大きく、レベル差は空いて2だったはずの私たちの差が5まで広がっていた。

「そう言うならちゃんと追い付いてくれないと困るんだけど!」

 冗談めかして不平を言うとキリトが口を滑らせる。

「それはサチと一緒に寝だしてから…。」

 そう言いかけてキリトはまずいと思ったのだろう、慌てて口を接ぐんだ。

「へぇ? サチと?」

 もちろん他意はないことは分かっていたが言質は有効利用すべきだ。

「これ以上広がったらディアベルのギルドに入るからね。」

 そう言うと、冗談だろ!? と《圏外》に飛び出すのも以前にはなかったこと。キリトの後ろ姿をディアベルト二人笑いながら見送った。

 戻った日常は少しずつ色合いが変わり鮮やかになった。

 

 

 

 

 30層ボス攻略後の新聞を飾ったのは二人の後ろ姿だった。もちろんコピーは『復活の白黒の剣閃』。サチはそんな新聞を見てやはりキリトのいるべき所は《月夜の黒猫団》ではなかったんだと思った。

「なんか二人って私たちより猫らしいよね…。」

 一人で呟いたつもりだったがその新聞はケイタにも覗かれていた。

「猫らしいって?」

 ちょっと恥ずかしいと思いながらもソコは幼少期から一緒にいるケイタだ。サチは答える。

「黒猫は見かけによらず甘えん坊。白猫は気が強い、って言うでしょ。」

 そう言うとケイタは笑い、でも調子を合わせた。

「不吉の象徴として嫌われることが多いけど本当は人恋しい黒猫ね、確かにキリトにピッタリだ。」

「キリトはきっと寂しかったんだね。一緒にいたセツナは…いつだって強くて。」

 恐らく年下と思える少年が日々一人でモンスターと対峙していたと思うとサチは自分なら耐えられないと思った。

「俺は知らなかったけど皆の憧れ《舞神》様、だろ。まぁ男としてもソコは辛いよな。」

 皆を守りたい。そうおくびもなく口に出すケイタだ、強く頷きながらそう言った。

「でも、もう大丈夫だよ。」

 新聞で見ていた彼女は凛として強く、戦うのは怖いけど同じ槍使いとしてあんな風になれたら怖くなくなるのかとよく考えていた。恐る恐る敵をつつく自分とは違い、懐から切り裂くような槍技。間近で見た時に舞うと言う言葉が冠しているのがいかに的確かと思い知った。武器に使われるでも、武器を使うでもなく武器と共に歩む姿がそこにはあった。でも、そんな彼女だって普通の女の子なのだ。デュエル後の彼女は《舞神》の姿など微塵もなく、だだっ子のようにただ泣きじゃくっていた。…みんな同じなんだ。この世界とどう向き合うかの違いだと思い知った。だからサチはそれなら、とサポートすることで向き合うことを決めた。傷をなめあった黒猫さんと、いじっぱりの白猫さんたちを支えていくのだと。

 

「さてと、負けてらんないぞ。」

 

 二人の後ろ姿を見ながらどんなアイテムを作ろうかと巡らせた。

 

 




視点が入り雑じってしまい読みにくかったであろうをお詫び申し上げます。
どんどん生存ルートを通ってしまって某ゲームだと使わない機体が量産される事態になりそうですが、うまく回収していきたいと思います。

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