白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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シリカ視点です。


16:間層*竜に捧ぐ円舞曲(ワルツ)

 初めてキリトさんと会った時は、正直ちょっと怖くて、急にアイテムをくれるって、ピナを助けるのを手伝ってくれるって言い出すし…新手の詐欺かと思った。だけど、私を妹と相棒に似てるって言った時のキリトさんはなんだか可愛くて、あ、この人悪い人じゃないんだって、素直に思えた。直感を信じて良かったと本当に思う。

 キリトさんは不思議な人だ。落ち着いてるから随分年上の人かなとも思ったけど、照れた顔や寝顔は少年って感じがして、もしかしたら同じぐらいの年なのかなとも感じた。すごく強いのに高価そうな武器と言えばメインアームの片手剣だけで、それも鞘に入ってるから見た目には分かりにくい。後は鎧も着てなければ装備はマントだけ。かと思えば私の全然知らないレアアイテムも持ってる。…敏捷力が1上がると言うワインを飲ませてもらったけど美味しかった。今までに出会ったことのない種類のプレイヤーだった。…私のことを知らなかったのはちょっと悔しかったけど。

 《竜使いシリカ》と言えば自分で言うのもなんだが中層ではちょっと有名なプレイヤーの筈だった。《フェザーリドラ》と言う珍しいモンスターを連れたこれまた珍しいビーストテイマー。そして絶対数の少ない女性プレイヤー。幼い自分の自尊心を満たすには十分すぎる知名度を誇っていたと思っていた。だからキリトさんに自己紹介したとき、噂の? みたいな反応をしてくれるかと思ったのに全くそんなことはなく、普通に俺はキリト、よろしく、何て言うもんだから恥ずかしくなってしまった。キリトさんは何でもよく知ってる。だから世間知らずとかではなくて私たち中層プレイヤーとはちょっと活動拠点が違う人ぐらいに思っていた。

 

 キリトさんとの冒険は凄くワクワクした。いつもと違うダンジョンにいつもより強いモンスター。新しい装備。何もかもが新鮮で、飽きることはない。優しいキリトさんにサポートしてもらってレベルも1上がり大満足な旅だった。それがピナを救うための冒険だって一瞬忘れてしまうぐらい。キリトさんは私のこと妹さんに似てるって言ったけど、相棒にも似てるって言った。100%妹なら女の子として見てもらえることはないけど、そうじゃないならともしかしたら…なんてヨコシマな気持ちを抱けるぐらいには余裕を持った攻略だった。それも全てキリトさんのお陰なんだけど。

 妹さんと相棒さんのことを聞いたら、妹さんのことは切なそうに、相棒さんのことは楽しそうにそれにちょっぴりくすぐったそうに話してくれた。相棒さんはプレイヤーだから会えるよ、なんて言われて、どんな人なのか凄く気になった。きっとキリトさんと同じでいい人には違いないんだろうけど。

 《プネウマの花》を手に入れるのはあっという間で、すぐ帰り道になってしまった。もうちょっと一緒に冒険できれば…ううん、ずっと一緒にパーティ組んで欲しいと思ったぐらい。離れるのが寂しかった。そしたらロザリアさんが現れて、オレンジギルドだなんて言うからもうそこからはワケわかんなくなっちゃった。沢山の男の人に囲まれて…すっごく怖くて。でもそれでもキリトさんはびくともしないし、それに攻略組だなんて言うからビックリもして。一番ビックリしたのはロザリアさんの後ろに急に現れた紺のケープの人。突然現れて全然分からなかった。1つ分かったのは、その人がキリトさんの相棒さんだってこと。キリトさんは全く驚いてなくて、安心すらしてたように見えたから。

 あっという間にロザリアさんたちがコリドーの中に消えて、相棒さんは混乱している私に声をかけてくれたけど、その声と顕にされた顔に、申し訳ないけどがっかりしちゃったの。キリトさんがあんな風に話してた相棒さんが、女の人だったなんて。

 

 私とは全然違う女の人。背は私より頭一つ分ぐらい高くて、キリトさんよりは拳一つ分ぐらい低い。堂々とした佇まいに感じる威圧感。でも、私に話しかけてくれたときは凄く優しかった。…だから余計に悲しい。こんな素敵な人が一緒にいるんなら私なんて相手にもならない。そしてキリトさんとのやり取りは少女に戻って本当に可愛らしい。キリトさんと同じで不思議な人だと感じた。…それが、ニュースに疎い私ですら知っている《舞神》さんだと知った時、キリトさんが私のことを知らなかったのも当然だなと思った。だって、本物の有名人がずっとすぐそばにいるんだもの。

「ねぇ、ピナ。私の気持ちはどうすればいいかな。」

 この世界で初めて芽生えた恋心。折角の気持ちなのにすぐに玉砕してしまって行き場がない。ピナの返事も心なしか困ったようだった。

キュゥゥゥン…

「また、会いたいな…。」

 叶わないと思いこぼした願いがすぐに叶うとはその時は思っても見なかった。

 

 

「シリカちゃん!」

翌朝の転移門広場。パーティメンバーを探さなきゃと訪れた場所にいた。

「せ、セツナさん! キリトさんもどうして!」

 大声で叫んだ私に周囲がざわざわと騒ぎ出す。

 

セツナ?舞神の?

 

まさか、こんなとこにいるわけないだろ。

 

あ、シリカちゃんじゃん。

 

「まずい、ちょっと移動しよう。」

キリトさんの誘導が手慣れてて胸がチクりと痛んだ。

 

「ゴメンな、シリカ。急に会いに来て迷惑かけちゃって。」

「い、いえそんな!私もお二人に会いたいなと思ってたとこでしたから。」

 キリトさんに連れられて入ったカフェでもチラチラと視線を集める。建物に入るとセツナさんが頭を覆ってたケープを外したからだ。アイテムで髪の色を変えられると言ってもメジャーなのは金や茶で白は珍しい。

「で、でも折角前線に戻れたのに今日はどうしたんですか?」

「もともと私たちそんな熱心なプレイヤーじゃないのよね。」

そんなセツナさんの台詞に開いた口が塞がらない。

「え…。」

 あれからさすがの私も黒の剣士さんと舞神さんのことは調べたのに予想もしないことだった。お二人は元ベータテスターで、攻略組の中でもトップレベルのプレイヤー。セツナさんは単独でフィールドボスを撃破したこともある実力者で、キリトさんのHPのレッドゾーンは誰も見たことがない。そんなに強い二人なのに熱心じゃないなんてどう言うことなのか私には全く分からない。

「俺たちギルドに入ってなくて基本的にフリーだからな。毎日迷宮区にこもってる訳じゃないんだ。」

「どっかの《閃光》サマにはたまに怒られちゃうんだけどね。」

 《閃光》その名前も知ってる。最強と噂の《血盟騎士団》の副団長でスゴい美人さんらしい。攻略組の二人なだけあって知り合いでも不思議じゃない。

「そうなんですか。」

もうなんか驚きの感情すら出てこない。

「それよりもね、今日はシリカちゃんにお願いがあってきたんだ!」

「私にですか?」

 ずいっと机を乗り出すセツナさんをキリトさんが諌める。なんかそんなやり取りにすら油断したら涙が出そうだ。

「…お二人はいつからお付き合いされてるんですか?」

 気が付けばそんな言葉が口をついて出ていた。

「やっ、やだなぁシリカちゃんまでそんなこと言わないでよ! 付き合ってない! 付き合ってないから!」

 セツナさんの顔は真っ赤に染まり、そんなセツナさんをキリトさんは諦めたように見つめる。なんだか二人の関係性がそれで分かった気がした。セツナさんはきっと、その感情に気付いていないか理解していない。キリトさんはそれが分かってて気付かない振りをしている。そう思うと二人が凄く近い存在に感じた。…特にセツナさんの方が。

 セツナさんはこほんと咳払いをすると話を戻した。

「今日来たのはね、シリカちゃんとフレンド登録したくて! あとピナに会いにね。」

 名前を呼ばれ方でピナがクルルと鳴いた。

「それ、だけ…ですか。」

「うん! ダメかな?」

 首をかしげるセツナさん先日の凛々しさなんてどこにもなかった。

「セツナがシリカシリカ煩くてさ。シリカさえ嫌じゃなきゃ頼むよ。」

「ぷっ…あはははは。」

 なんか二人を見ていたらもどかしすぎて自分の気持ちなんてもうどこかにいってしまいそうだった。

「是非、お友だちになってください!」

 私の…お兄ちゃんとお姉ちゃんの行方を見守りたい。この世界での初めての恋は別の形に変えてしまおう。ねぇ、ピナ。私たちを助けてくれた二人のことだもん。割って入る度胸もないし、二人で見守るのがいいよね。

暫くはチクりと刺さった棘が抜けないけどそれもすぐに抜け落ちると信じて。

 

 

 




タイトルにあまり意味はないです。
そして話自体にも…
前話をシリカ視点で書くかセツナ視点で書くか迷ったので自分の気持ちの補完です。
シリカは優しくて賢い子だと思ってます。

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