白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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アスナ視点になります。







24:59層*育まれる想い②

初めは、なんていけ好かないやつだとまで思ったのに…なんでこんなことになっちゃったんだろう。

 

 

1層の頃、私の命を救ってくれた二人のプレイヤー。

 

一人は小さな体で大きな槍を駈る少女。

 

そしてもう一人は黒ずくめ少年。

 

 少女はまだこの世界について何も知らなかった私、この世界から逃げ出すことしか考えていなかった私に戦うことを教えてくれた。

 少年はこの世界で生きると言うこと、たとえそれが作られたものだとしても、ここにも本物があると言うことを教えてくれた。

 

 初めは驚いた。散り逝こうとしていた私がおぼろ気ながら見たのは鮮やかな銀閃。それが放たれたのが目の前のモンスターではなく後ろから突如として現れた同じプレイヤーだったこと。しかもそのプレイヤーはどうやら女の子であるということに。

 情報屋の少女と共に私と同じように《隠しログアウトスポット》と言うデマ情報に躍らされたプレイヤーを助けに来たのだと言う。私が無駄にした2週間の間も彼女は戦い続けそれが出来るほどには修練を積んでいたのだ。無骨な黒の柄の槍だったが今でもその槍技は忘れない。見えないような速度で敵を真っ直ぐに貫く。大胆で豪快、それでいて流麗。不思議な思いを抱きながらも、自分もそうなりたい、現実世界で戦っていたようにこの世界でも戦うのだ、戦えるのだと思わせてくれた。同じ年の頃の少女にできて私に出来ないわけがないのだと。

 私にとってはいつだってヒーローで憧れ。でも放っておけない妹のような面も持ち合わせている彼女。彼女がいなければこの世界から疾うに消えていたと思うし、実際そうだっただろう。それぐらいに絶対な人。

 

 黒ずくめの少年はそんな彼女の相棒。

 

 私が彼と知り合ったのは1層で《コボルド》に囲まれ、自分はやりきったのだと死を覚悟した時だった。

 彼女の突きが忘れられず自分もまず極めることを選んだ細剣突きスキルの《リニアー》。それ1つで、あの時彼女が一蹴した《コボルド》を倒せるぐらいには強くなっていたが、今思うとめちゃくちゃな行為。迷宮区の安全地帯をねぐらに、ろくな睡眠も食事もとらず戦い続けていた。ついに集中力が切れ、彼に助けられることとなったのだ。

 消えてなくなりたかった。やりきったからもういいと、そう思った私に、世界の楽しみ方を教えてくれた。

…あのクリーム、味わいは例え電子信号だとしても、"美味しい"の感情は本物だと思いたい。

 そして、59層でこの世界の気候をも楽しませてくれた。彼らにとってのアタリマエだったのかもしれないけど、私にとっては攻略が全てに戻っていた時。改めて気付かされた、今はここに生きているんだと言うことを。

 

 

 そんな恩人二人はいつでも私の目標であり、この世界の希望だった。二人がずっと一緒にいることを望んだのはいつのことだったか。

 過去に願ったことが今は苦しい。

 

 セツナにはいつだって笑っていて欲しい。無茶ばっかりする彼女の少しでも助けになりたい。その気持ちに嘘はない。…それには彼が、キリトくんが背中合わせでいることが必要だってことも十分に分かってる。

 

 

 だけど今は、私がその隣に立ちたいだなんて。

 

 

 彼女の想いは分からなくとも彼の気持ちは分かっているつもりだ。それでも…リズ言われたように押さえきれない程いつの間にか。

 

 

「はぁぁぁぁ…。」

 ため息をつかずになんてやってられない。そんな気分だった。

「おやおや、こんなところで《閃光》様が油を売ってるとは珍しいね。」

 誰にも会いたくない、そんな気分だったのにそういう時に限って誰かに会うもんだ。往来でのんきに考え事をしている私も悪いのだけど。

「ディアベルさん…どうも。」

「今日はマッピングは良いのかい?」

 どこか掴み所のないこの男。求心力には感心しっぱなしだけど、個人的に仲良くなれるかと言えばそれはまた別の話。

「私だって四六時中迷宮区にいる訳じゃないわよ。」

 誰が呼び出したか攻略の鬼…今から振り返ってみればまさにその通りなのだけど、そんなイメージがつくぐらいに邁進し続けたことは少し反省すべきかもしれない。実際ハイペースの攻略でレベリングが、間に合わず50層では大きな被害を出してしまった。…誰もが同じペースで出来る訳じゃない。あの二人が、うちの団長がどちらかと言えば異常。もちろん目の前にいるこの男も。

「それは失礼。随分と視線を集めているから気になってね。」

 自分が注目を集める人間なのはもうよく知ったところだが、私とこの男ディアベルのコンビと言う物珍しさもあるんじゃないか。

「御忠告どうも。」

 腰を下ろしていた花壇から立ち上がり、男の元を離れようとした。

 …そう言えばこの人。

 臆面もなくセツナへの好意を公言する。そしてキリトくんの敵対心をよく煽っている…。どこか通過儀礼のような、すでに挨拶と化しているよく見る光景。でも、冗談めかしていても彼の気持ちが本物と言うことは瞳で分かる。セツナ本人はどう思っているのか知らないけど。

 

「あ、ねぇ!」

 

 意識するよりも先に体が動くなんて。

 彼の肩を叩いたところで、引き返せないことに気がつく。

「…なにかな?」

 ゆっくりと笑顔を作るディアベル。見透かされている気がする。なんと言っていいか分からず、

「ちょ、ちょっとそこでお茶でもどうかしら。」

そう言うより他なくて、彼に珍しいお誘いだね、と言われてしまった。

 

 

 

 

 近くのカフェの奥まった場所。あまり聞かれたくない話をするのにはあまり混雑していないNPCレストランが最適だ。

「さて、俺に何の用だろう。」

 優雅に目の前でコーヒーらしき物体を口にするディアベル。悔しいけど絵になるくらいにはカッコいい。好みかどうかは置いてといて、ギルドの女の子が騒ぐのも分かるしファンクラブが存在するのも認める。

「セツナのことなんだけど…。」

 声をかけたは良いもののどう話していいか分からない。もとよりこの男にこんな話をするのは間違っているのではないかとすら思えてきた。

「セツナ、またなんかあったの?」

 彼のこの反応は彼女がすぐに余計なことに首を突っ込むからで、おまけに無茶苦茶なことをするからだろう。

「う、ううん。そうじゃなくて…。」

 普段攻略以外の話をしない人と私は何をやっているんだろう。

「君がそんな風に言い淀むなんて珍しいね。」

 そう言いながらも気にした様子はなく、ゆっくりと発言を待ってくれている。大人で、女の子の扱いもなれてて、なんでよりもよってセツナなんだろう。確かに容姿は良いし、プレイヤーとしては最強クラス。でも頑固で突拍子もなくて、意地っ張り。ますます不思議だ。

「なんであなたはセツナなの?」

 そう思うとツルッと言葉が出た。

 ディアベルは目を丸くするとぷっと吹き出してから、はははと声を出して大きく笑った。

「なんだ、珍しいと思ったらそういう話?」

「悪かったわね。」

「いや、君もなかなか苦労してるみたいだしね。」

 そう言われてギクリとする。そんなに人に分かりやすく出ているのだろうか。

「いいよ。俺の気持ちはアインクラッド中の人が知るところだし、お答えしようじゃないか。」

 さすがにそれは言いすぎじゃないかと思ったけどそれは飲み込んでおく。気持ちよく話してくれるにこしたことはない。

「どうも。」

とりあえずはお礼をいっておく。

「アスナくんも知る通り、まぁあんな子だけどね。男からするとそんなところも可愛いんだよね。」

 あんな子、というのは無茶苦茶なところだろうか。女子校育ちの私には男の子の心理はよく分からない。

「そんなもんなの?」

 何となく腑に落ちない。男の可愛いと女の可愛いは違うと言うのはよく言うもののあの無鉄砲がそう映るとはなかなか奥が深い。

「まぁ、彼女の場合は一番の魅力はギャップだけどね。あの容姿であの性格って言うのがいいね。」

 本当に真面目に答えてくれているのか若干怪しさを感じる。

「キリトさんもそうだろう?」

 なんて言われてああやっぱり見透かされてると思う。

「キリトくんは…」

 そう、やっぱりどこか無茶苦茶で、ボーイッシュな女の子にも見えるくらいの容姿なのに頼りになって、何も考えていなさそうなのにしっかりと自分の世界を持っている。

「そうかもね。」

 そう答えるとディアベルはニヤニヤと笑みを浮かべた。

「全アインクラッドの男が泣くぞ。アスナ様親衛隊が黙っちゃいないな。キリトさんご愁傷さま!」

「なっ!!」

 そう言われ自分の話に擦り変わったことに気付く。

「私は…!」

 慌てて訂正しようとするも、開きなおった方が楽だぜ? とさらりと言われる。

「まぁ分かるけどね。アスナくんもセツナのことは好きみたいだし、キリトさんの様子を見るとな。」

 まさに思っていることを述べられ逃げ場がなくなる。自分だって似たような状況の癖にどうしてそう達観していられるのか。年下のキリトくんをさん付けで呼ぶだなんていかにディアベルが彼のことを敬っているかが分かる。

「あなたは…辛くないの?」

 それは純粋なる疑問。

 その質問には少しの間をおいて返事が来た。

「辛い…そうは思ったことはないかな。俺にとって元々二人は憧れでね。その一人への感情が少し形を変えただけ…セツナが幸せに生きていてくれるならそれで良いんだよ。」

 思っていたよりも、随分と深く、そして強い愛情だった。それはどこか家族愛にも近く、欲とは縁がなく美しいものに思えた。

「俺だって手に入れたいと言う欲求がなかったわけじゃないけどね。そう言うのはもう通りすぎたよ。」

 どこか自嘲するように笑う彼。その境地に辿りつくまで、どれ程の時間がかかったのだろう。

「…私もそうなれるかな。」

 ただそんな風になれたらこんな辛い想い、無くなってしまうのに。そう思ったがどこまで本気なのか、

「アスナくんは戦うべきだよ。そしたら俺にもチャンスが出来るしね。」

そう爽やかに言われた。リズといいこの男といい…

「戦って…良いのかしら。」

「むしろそうしなければ後悔するよ。」

 この人は戦ったのだろうか。そう言った顔が悲しげに見えた。

 

 

 

 

 

 




いつも○層は大体関連する層にしてたのですが今回はおそらく最前線と思われるところで。
時期としては圏内事件直後です。
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