白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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27:間層*淡い想いの行方

 

 

 

 最近面白い見世物ができた。当人たちにとったらたまったもんじゃないのかもしれないけど。

 カンカンといつものように鎚を鳴らして、そのうちの一人の依頼品を作る。きっかけはその依頼人だ。

 いつも懇意にしている依頼人セツナに、ある日頼まれたのは見たこともない形状の武器だった。こういう武器を作ると言う設定はできるものの、本当に出来上がるか疑問なぐらいだ。そしてその時は重くて破壊力のある武器を好む彼女の武器を作れそうな鋼材は持ち合わせていなかった。すると情報には疎いはずの彼女が金属の情報を持ってくるではないか。ただ、彼女にはそれを手に入れることはできなかったようだ。もしかしたらマスタースミスの同行条件なんて言うから申し出たがそれは断られた。だからその話はそこで終わりだと思った。

 

 思いを馳せながらリズベットはまた一回鎚を打ちならした。このペースだと中々の業物が出来上がりそうだ。

 

 しかし話はそこから。見たことの無い、あまり強そうでないプレイヤーが現れて、私の一番の自信作をポリゴン片に変えてくれた。なんて失礼で変なやつだと思って売り言葉に買い言葉。その男とセツナの情報の金属を取りに行くことになった。私の剣をへし折ったその剣を叩き折るようなやつを、作ってやる。それは鍛冶職のプライドにかけて。

 

 でもまさかそれが、セツナの相棒の《黒の剣士》で…アスナの想い人だなんて思っても見なかったんだ。

 やたらと強いから攻略組かなと言うことはすぐに感じたけれど、柔和な雰囲気や落ち着いた佇まいに似合わない幼い顔立ちは話に聞くような《黒の剣士》のイメージとはかけ離れていたし、こんなめちゃくちゃな人、セツナの他には見たことがなかった。

 この世界に生きている人。この世界を本物に彩っている人。

 幼い頃一緒に遊んでくれた近所のお兄ちゃんみたいな気安さと安心、そして憧れがあった。危うく自分もこのどろどろとした関係に巻き込まれるところだった。

 

 

カンッ

 

 

 最後の一振りを加えると、青く目映い光を放ち、金属が形を変えていく。250か300は叩いたように思った。濃紺の柄に青光する白銀の刃先の武器が現れた。セツナはこれで満足をしてくれるだろうか。

 

【依頼のもの、出来たよ。】

 

 セツナにそれだけのメッセージを飛ばした。

 

 

 キリトへの淡い想いをぶつけたその剣も、良い出来だった。金属の色をそのままにクリスタルのような輝きを見せる剣。ダークリパルサー。

 私がこの世界に生きているその証に思えた。

 この剣を打ち終えた後、芽生えかけてた想いを伝えようと思ったけれど、闖入者にそれは阻まれて…きっとそれで良かった。アスナのキリトに対する態度からすぐに彼がアスナの想い人であることは分かったし、と言うことはつまりキリトには別の想い人がいると言うことで…それは彼女なんだろう。

 アスナの相手だから頼りがいは…なくはないし、強いのは間違いない。変だけどなんだかんだ優しいし、あの女顔もイケメンととれなくもない。当たらずとも遠からずの人ではあったみたいだ。

 …まさか攻略組きっての有名人《黒の剣士》があんな優男だとは思わなかったけど。《神聖剣》ヒースクリフみたいに分かりやすい感じだと思っていた。オーラも何もあったもんじゃない。

 

 

 バタンと言うのが早いか、カウベルがカランカランと音をたてるのが早いか、店の扉が勢いよく開かれた。

 こんなことをする人、一人しか思い当たらない。

「セツナ、早かったね。」

 頬を紅潮させて、肩が上下している。メッセージの後すぐに飛んできたんだろう。正確な数字は知らないけど、こんなにのらりくらりとやっていてよくもハイレベルをキープ出来るなと感心する。真面目なアスナが勝てないと言うのがなんとなく腑に落ちない。

「ありがとう! リズ!」

 やることと容姿がいちいちそぐわない。こんな神秘的な人間がいるのかって姿の癖に豪快で、がさつで…って人のこと言えないけど、本当にめちゃくちゃ。

「これで良い?」

 私にはどんな風に使うか想像もつかないその武器はセツナの注文通り重たく調整されている。マスターメイサーでもあり、筋力値をそこそこあげている私でもかなりの重さのそれ。

「わぁ……。」

 手渡すと彼女の口から小さな歓声が漏れた。それだけで作り手としては満足するものがある。華奢な外見でセツナはそれを軽々と振り回した。

「うん! こんなにしっくり来る武器リンキングガーディアン以来!」

 嬉しそうにくるくると武器を旋回させるセツナ。

「良かった。」

 クリスタライトインゴットと私の相性はかなり良かったのかもしれない。想いがこもりやすい。

 

 新しいおもちゃを買ってもらった子供みたいなセツナ。初めて会ったときより随分と感情の振り幅が出たなと思う。アスナが言うにはキリトの方向は彼女に向いているってことだけど女目線でみるとそれは分からなかった。

 アスナは同性から見ても美人で、頼れて、それでいて女の子らしさも残す。特に最近は恋する女の子マジックなのだろうか、より輪をかけて可愛らしい。

 一方セツナは確かに可愛いんだけど、乱雑で、言うなれば子供で、女の子らしさなんて皆無。…たまに素で甘えるしぐさの破壊力は計り知れないけれど。

 どう考えてもアスナの圧勝! と思うけれどそうではないらしい。相手を知らなかったから戦いなよと言ってしまったけれど、確かにキリトとセツナの間には不思議な結び付きがあるように思えて、そこに割り込むのは至難の技。それでも戦うと決めたアスナの気持ちはそれほどに深かったんだろう。

 

 当のセツナはどうなんだろう。二人の様子からして付き合ってはいないみたいだけど。もしかしたら他にそう言う人がいるのかもしれない。女性が圧倒的に少ないこの世界で、私とて交際を申し込まれたことがある。有名人で、抜群の容姿を持つ彼女がそう言う経験が無いことはないだろう。

「ねぇ。」

 目の前で新しい武器に頬擦りでもしそうな勢いの彼女に声をかけた。

「ん?」

 大切そうに武器を握りしめ、首をかしげる。そんな仕草が決まるのが憎たらしい。

「セツナは好きな人いるの?」

 その問いにはすぐに答えは帰ってこなかった。

「…アスナに、言われた。キリトが好きだって。」

 セツナに伝えたことは意外にも思ったが直截さがアスナらしいとも思えた。

「そう言うことが考えられるってことはみんな余裕が出てきたんだと思う。生きるか死ぬかとか、早くクリアすとか、それだけじゃなくて…この世界に慣れてきてる。」

 ゆっくりと言葉を探すセツナに言葉を挟むことは控える。

「私は…どうなんだろう。アスナにそう言われて、私の隣からキリトがいなくなることは考えられないと思ったけど、それはアスナの感情と同じなのかな。」

 セツナの答えはまだそこにはなく。

「この容姿だからなかなか人と触れあえないこともあったからよく分からない。」

 そう言って困ったように笑った。

「そっか…。」

 それはセツナから見た初めての一面だったかもしれない。いつもセツナはどこか戦闘バカで、なにも考えてないような気ままさと自由さを持ち合わせているように思っていたけど、それじゃ攻略組も有名人も、二つ名ホルダーも務まらないってことなのかもしれない。

「まぁ、私は二人とも大好きだからね! 話を聞くことぐらいしか出来ないけど、困ったらこのリズベットおねーさんのトコに来なさい!」

 そう言うとありがと、と小さく笑顔を見せた。

 

 

 

 カランカランと扉から出ていくセツナを見送りながら、まだ、消せるうちで良かったと思う。やっぱり私には二人と戦うことなんて出来ない。そしたら苦しいだけだ。

 戦うと決めたアスナ。アスナの想いをぶつけられたセツナ。二人の支えにはなりたいと思った。

 生産職として、攻略組のサポートは当然のこと。それが武具だけでなく二人のメンタルも加わった。それだけのこと。

 

「さて、他の依頼品こなしちゃわないとね。」

 

 むりやり先にキリトとセツナの武器を作ったせいでスケジュールは遅れぎみだ。それだけだなく出掛けてた影響もある。腕捲りをし、気合いを入れて金属を炉へと放り込んだ。

 

 

 

 




心の温度編ここで完結です。
恋愛要素増量したつもりです。
セツナの新しい武器の名前が浮かばず暫く考えます。
エリュシデータは、解明者らしいですね。

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