白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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44:22層*安らぎの空間

 

 

「静かなプレイヤーホームのオススメなら22層だナ。」

 御祝儀代わりダ。タダにしておくヨ。そんな言葉と共に情報をくれたのは、二人にとって一番親しい情報屋のアルゴだった。…74層攻略時の新聞ではどれだけ稼いだのだろうか。

 

 

 50層の喧騒から離れ、22層に降り立つと、静かな湖畔の近くにログハウスが立ち並んでいた。

 

「うわぁー…!」

 

 22層は迷宮区以外はモンスターの出ないフロアだ。最前線の時はさっさと攻略され、さして印象に残らなかった。しかしこうして見てみると…。

 そんな風に歓声を漏らしたセツナにキリトも安心した。昨日どうして一緒にいてやらなかったのかと後悔したのはキリトも同じで、もしあと少しでも遅ければ彼女の心に大きく傷を残し、自分が許せなかったことだろう。あんな状況でもセツナはキリトを思いやり、向かった《血盟騎士団》ギルドでは毅然とした態度をとって見せた。プライドか、意地か。いずれにしても彼女のそういう強さには勝てないと思った。でも、だからこそ自分が守りたいとも、強く思った。どんなに強くても女の子なのだ。隣でずっと笑っていられるように。

「ここにするか。」

 湖の畔で水と戯れるセツナを見てキリトは即決した。アルゴに値段は張るがナと言われエギルの店でアイテムは整理済みだ。

「うん!!」

 セツナの方からも元気な返事が帰ってきた。

 折角ならとより景観と環境の良い一番の奥地に向かう。アルゴの情報通り中々の価格なので売れているのはそう多くなかった。環境が良いからか一番奥のプレイヤーホームは一番の価格を示していた。

「うわー…良い値段するね。」

 そうやって苦笑いするも、セツナはまず半分を払い、その残りをキリトが支払い鍵を受け取った。

 

 避暑地にあるようなログハウス。中も暖かい雰囲気を醸し出す丸太の作り。まだ家具はなく、閑散としていて、これから揃えなければならないが木の良い匂いが香り、それだけで戦いの場から離れられたように思えた。

  テラスに出ると空が近く、目の前には湖、遠くには山脈が臨める。自然に囲まれた絶景の位置だった。

「すっごい良い眺め…。」

「…アルゴに感謝、だな。」

 柵に乗り出しそうな勢いで景色を眺めるセツナを後ろからそっと手を重ね、引き留める。

「ふふ、そんなことしなくても落ちないよ。」

「どうだか。」

 小さく笑い、頭1つ分小さいセツナはキリトを見上げる。

「不思議だね。」

「なにが?」

「ずっと、この世界に生きているつもりだったけど、今世界に受け入れられた気がする。」

 そう言ってセツナは遠くを見据えた。自分達はこの世界に生きていることを受け入れながらも、ずっと攻略組として前を向いてきた。攻略すること、強くなること、前線から遅れないこと。それがプライドであり日々の行動指針であった。それを取り払うことで世界はまるで違うもののように見えた。

「…なんとなく言いたいこと分かる気がするよ。」

「そりゃそうだキリトは私と行動一緒だもん。」

「バカ言うな。俺はセツナほどめちゃくちゃじゃない。」

「言うほどめちゃくちゃじゃないよー。」

 そう言って笑いあったのは何ヶ月ぶりか、もしくは初めてか。穏やかな空間に全てが新鮮に写った。

 それでもそこはセツナはセツナで、勢いよく伸びをすると余韻も色気もへったくれもないといった様子でくるりと室内に向かって歩き出した。

「さてと、折角家を買っても住めなきゃしょうがない! もう一頑張りしますか。」

 アスナに言わせればこれがプラグマチックってやつか、とキリトはため息をついた。

 

 

 

 

 二人の引っ越しには昨日盛大にお祝いをしてくれたサチとケイタも駆け付けてくれた。生産職スキルを多数持つサチの協力は中でも心強く、カーテンからベッドカバーから好みの通りに設えてくれた。

「持つべきものはサチだわー。」

 セツナはベッドにごろごろしながら横で枕カバーを作るサチを楽しそうに眺める。

「もともとこう言うの好きだったからね。コーディネート手伝わせてくれて嬉しいよ。」

 黒猫団ギルド本部も所々かわいいテイストが散らばるのはサチの趣味だ。可愛くて、華美でなく安らげる空間。

「やっぱ戦闘スキル以外も取っておけば良かったかなー。」

 アルゲードのホームの惨状は寂しいことになっている。暮らしの快適さの欠片もなくそこは機能性重視だ。言うなれば必要最低限。誰が見ても女の子の部屋だとは思わないだろう。

「これからちょっとだけお休みするんでしょ? だったら少しかじれば良いじゃない。」

 手を動かしながら笑うサチはお母さんのようだ。セツナは増えたまま放置していたスキルスロットを何で埋めるか巡らせた。

「うーん…生活ならやっぱ料理? でも湖あるから釣りとかも楽しそう…。」

「スキルスロット幾つあるの?」

「12個かな。」

「12個!?」

「あ、サチと言えどレベルは内緒だけどね。」

 自分のスキルスロットの数を思い浮かべサチは唖然とする。強い強いと思ってはいたがやはりちょっと別次元であることを実感した。

「ケイタたちが攻略組になれないわけだわ…。」

「攻略組になる必要ないよ。中層で強いぐらいで十分だよー。」

 楽しそうにスキルを眺めるセツナにサチは小さく息をもらした。セツナの言うように《月夜の黒猫団》は中層では十分に強い。ただ攻略組にはあと一歩足りないのだ。こんなにのらりくらりとしたセツナが攻略組でも最強の一画を担っているのに、何故ケイタたちが追い付けないのかはサチにはどうしても分からなかった。

「でも、ケイタたちはなりたいんだよ。」

「うーん…難しいことは分からないけど、なりたいじゃダメなんだと思うよ。よし、これでオッケー!」

 その間にもセツナはスキルをセットし終えたようで満足げな表情(かお)をした。

「やっぱ取り敢えず料理! サチ、教えてね。」

 なりたいじゃダメ、か。口の中だけでそう呟きサチはあと少しの行程の枕カバーを完成させることにした。

 

 

 引っ越しは夕方までかかり、四人でご飯を食べに行こうとセツナが誘うも、ケイタとサチはやんわりと断った。

「折角住みやすく調えたんだから二人でゆっくりしなよ。」

「そうだよー、力作なんだから!」

 そう言われキリトを見上げるとキリトも薄く笑った。

「じゃぁ、絶対また来てね!」

 名残惜しそうに言うセツナにいつでも会えるのにと二人は笑いながら去っていった。

 二人の姿が見えなくなるまで見送ると、キリトは新しいホームの扉をゆっくりと開けた。

「それではどうぞ、お嬢様。」

 軽く腰を折り左手で中を示す姿が茜色に染まっている。日が落ちるのが随分早くなったなと感じた。

 勧められるがままに中に入ると、初めに入った時とは見違えるような空間になっていた。木の暖かさは変わらずに、家に合わせた家具が並ぶ。かわいいレースのカーテンがかけられた窓からは夕日が指していた。

 その中、中央のローテーブルに置かれた小箱が目を引いた。

 

「これは?」

 

 セツナの記憶によると、二人を見送りに出る前には無かったものだ。

「…開けてみな。」

 言われるがままにゆっくりとその箱を開くとそこには二つのシルバーリングが収まっていた。

「これ…。」

 中央にゴールドのラインが引かれているだけのシンプルなデザインのそれが何を意味するものなのか、さすがに分からないセツナではなかった。

「…何度もすれ違ったし、セツナには助けられてばっかりだけど…昨日も言ったけど、俺の命はセツナを守るために使う。だから…。」

 その答えを聞くためにセツナはしっかりと途切れ途切れに言葉を紡ぐキリトを見た。

 

「だから、結婚しよう。」

 

 最後の言葉だけはしっかりと目を合わせその想いが本物のことを悟る。涙が溢れそうになるのをこらえてセツナは口を開いた。

「…私、アスナやディアベルのことがあって、ずっとキリトのこと考えてた。」

 ずっと分からず、一度は離れることも選んだ。アスナの強い想いやディアベルに寄せられる想いとはなにか違っているように思っていた。

「この世界に来るまでも、キリトとは色んな場所で会ったけど…こんな気持ちになったことはなかった。」

 ただ最後に残ったのはキリトの隣にいたくて何より大事だと言う想い。

 

「ずっと、一緒にいたい。この世界が終わっても。」

 

 それがセツナの答えだった。システム的にはパーティを組む気軽さと変わらないものだが、そこに内包される想いは大きなものがあった。

 以前、圏内事件を追っていた時は自分にこんな日が来るとは思わず、システムの解釈だけをし、よく軽々しく結婚すると言えたもんだと今なら思う。

 ゆっくりと笑顔を作りながらも目尻から涙をこぼすセツナの頬を指で拭い、キリトはそのまま唇を寄せた。一瞬見張られた真っ赤な瞳もゆっくりと伏せられる。そして優しく抱き寄せると、肩に顔を埋めて口を開いた。

「絶対に俺が元の世界に還す。それで、本当のセツナにも絶対に会いに行くから。」

「それ、私のセリフ。」

 どこまでも強気なセツナにキリトはやっぱり敵わないなと笑った。そして、その華奢な指に指輪を嵌めた。それにならい、セツナもキリトの左薬指に嵌める。

 揃いの指輪があることは、それだけで少し心が落ち着かないようなそれでいて、妙な安心があるような気持ちになった。セツナは指輪の嵌まった左手を顔の正面まであげると緩む口許を抑えられなかった。すると目の前にポップするウィンドウ。

 

―marry kiritoから結婚を申請されています

 

 あまりにも無骨で、なんの飾り気もない表示が逆に自分たちに合っているように思えた。迷わず左の丸ボタンを押す。

「よろしくね。」

 すると緊張してたのだろう、ようやくキリトの体から力が抜けた。

 

 そう言えば、以前結婚の話題になった時に出たのがステータスの話だった。フレンド、パーティ、ギルド、3つの関係に比べて大きく異なる変化。真剣に話していた筈なのに意外と忘れてしまうもので、承諾したはいいものの、どんな変化が起こるかきちんと理解はしていなかった。

「そう言えば、どう変わるんだっけ?」

「…確か、アイテムストレージの共有化、金銭の共有化…あとは…。」

 

「あーーー!!!」

 

 思い出しながら指折り変化を上げるキリトのかいなくセツナは真っ先に一番の変化を見た。

 

「なんだよ。」

「キリトの…レベル…。」

 

 パートナーステータスの可視化。つまりは全ての共有。今の今まで柔らかく微笑んでいた筈なのにそれをみてセツナは一気に青ざめた。

「98!?」

 ちなみに自分のレベルは96になったところだった。ふるふると体を震わせる。

「そりゃぁ頑張りましたから。」

 ふふんと誇らしげに言うキリトにセツナが迷宮区に飛び出しそうになり、それを止めるのも一苦労。

 

 結婚してもそこはセツナはセツナだった。

 

 




戦闘シーンより砂糖まみれの方が苦手ってどういうこと…。
次こそはと毎回思うのですが。
セツナがデレないのがいけない。
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