白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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46:22層*不思議な少女

 

 

 

 2つのベッドのうちの1つに少女を寝かせ、ようやく一息ついた。

 3層の森に横たわっていた少女。年齢は8歳ぐらいだろうか? もしかしたらもっと、幼いかもしれない。セツナの出会ったこの世界(アインクラッド)での最年少はシリカだ。冒険をするならシリカがギリギリな年齢じゃないかと思えるが少女は《圏外》に倒れていた。誰か保護者のような存在がいるのか…。

「なんでこんな子が…。」

「まぁレーティングなんてものは自己責任でいくらでも誤魔化しはきくけどな。」

「だとしてもこの2年間…可哀想。」

 セツナやキリトはベータ時代の経験を活かし、すぐに攻略することを始めたがあのアスナでさえ初めは《はじまりの町》に籠っていたと言う。おそらくはシリカも…。でなければセンス十分な彼女は攻略組にいてもおかしくはない。そう、同じぐらいの年代の彼女たちでさえ、脅え、この世界を呪った。もっと幼いこの少女はこの2年間何を思っただろう。

「しかし…カーソルがないのはどう言うことだ。」

 気になるのは彼女の年齢もそうだが、カーソルがないこと。NPCなら出現場所が決められているため強引に移動させるなんてことは出来ないが、移動することができたと言うことはまずプレイヤーと考えるのが自然だろう。

「バグ…? でもGMにコールしてもどうせ回答はないだろうしね。」

 最初の日、この世界に閉じ込められたときにlogoutボタンがないことに対して散々GMにコールしたが当然に回答はなかった。GMがいないのか干渉する気はないと言うことだろう。

 するとキリトは思い付いたように口を開いた。

「もしかして…。」

「何?」

「おばけ?」

 真顔で人差し指を立てそう言った彼にセツナは青ざめる。

「ば…バカなこと言わないでよ!!」

「いやー分かんないよ。この世界で亡くなった子の幽霊かも。」

「幽霊に足も実態もないわよ!」

 ふるふると体を震わせあからさまに怖がるセツナに珍しいこともあるもんだとキリトは面白くなった。モンスターにはあんなに勇猛果敢に挑んでいく癖に意外な弱点を見つけたもんだ。以前むしエリアだった時は嫌悪感を顕にしていたが、やはりホラー系も苦手だったのかと今更ながらに思う。

「ははっ、そんなんでよく65層と66層攻略できたな。」

「いやーっ!! あの層の話はしないで!」

 キリトがからかうように言うと、セツナは耳を塞いで派手に悲鳴をあげた。

「お、おい…あんまり大きい声出すとこの子が…。」

「…っキリトが悪いんじゃない。」

 口許を抑え、声も控えめにするがセツナの気持ちは収まらないようで目を潤ませ頬を赤くしている。そんな彼女をまだまだからかいたい気持ちを抑えながらキリトは顔の前で手を合わせる。今は少女が優先だ。

「分かった、ゴメンて。お詫びに飯おごるから。」

「…お財布一緒でしょ。」

「そうでした。」

 

 

 二人交代で様子を見るもその日少女が目を覚ますことはなく、その声を聞いたのは翌日になってからのことだった。

 翌朝、様子を見ながらベッドサイドで寝てしまったセツナはアラームに叩き起こされると体に倦怠感を覚えた。どこで寝たとしても大した差はないはずなのにやはりベッドで寝るのと床で寝るのとでは眠りの室が違うように思える。パキパキと体が鳴りそうな勢いでストレッチをするとようやく体が動くように感じた。

 目の前の少女はベッドですやすやと寝ていた。昨日に比べて幾分顔色も良いように見えた。もう1つのベッドではキリトが布団も被らずに寝ている。キリトも最後まで様子を見ていたのだろう。だとしてもベッドと言わずともソファーぐらいには移動させてくれてもと思うのは贅沢なんだろうか。彼の筋力パラメータなら自分の一人や一人ぐらい余裕に違いないのに。

 しかしきれいな顔をしている、と少女を見て思う。綺麗に切り揃えられたロングの黒髪。それでいて白い肌。どこもかしこも真っ白な自分とは違いコントラストがより肌の白さを表してるように思える。長い少女の髪を持ち上げるとパラパラとすぐに手からこぼれ落ちる。

「こんな髪、欲しかったなぁ。」

 ノーブルな雰囲気さえ持つ黒い髪。アスナの栗色もキレイだが、オリエンタルな雰囲気を醸し出すブルネットが何より羨ましい。

「俺はセツナのこれも好きだけどな。」

「え!?」

 独り言のつもりだったのに気付けば後ろからキリトにのし掛かられ、髪を弄られていた。驚いて視線をもう1つのベッドに運ぶがそこに当然キリトの姿はなかった。

「おはよ。」

「…おはよう。」

 なんとなく気恥ずかしくセツナは視線を少女に戻した。

「…普通に声かけてよ。」

「セツナのからかい方をここ数日でようやく習得したからな。」

「…刺されたいの?」

 じとりと睨み付けると両手を挙げて降参、と離れるキリトにため息を着く。なんだか誰かさんを彷彿とさせて、こう言うところちょっと居心地が悪いようなくすぐったいような妙な気分になる。以前には絶対に無かったことでなれるのには時間がかかりそうだ。自分ばっかり意識しているのか、意識しているからキリトもそういう態度になるのかセツナの経験値では分かりようもない。

 

「ん…。」

 

 セツナとキリトがそんなやり取りをする中、初めて少女が動いた。昨日から身動ぎらしい動きひとつたりとも確認できなかった。

 肩を動かし首を竦めると、眉間にややシワがよる。射し込んでくる日の光が眩しいのか恐る恐るといった感じでゆっくりとその目は開かれた。

 

「あ…。」

 

 榛色の瞳が天井を見つめる。大きく開かれたそれはまだ焦点が合わないようだ。驚かせないようにセツナは出来る限りの優しい声を出した。

 

「おはよう。」

 

 するとやはりゆっくりと少女は首をこちらの方に回す。その様子をキリトも心配そうに見守っている。

 

「…おはよう…ございます。」

 

 視線が合い、初めて出た言葉は思いの外しっかりとした口調だった。不安そうな表情を浮かべ左右を見回す。

「…ここは、どこなんでしょう。」

 外見の割りに言葉遣いもしっかりしているように感じる。それでも噛み砕くようにゆっくりとセツナは言葉を発する。

「22層にあるプレイヤーホームよ。3層に倒れてたあなたを放っておけなくて。」

「22層…? …3層…?」

 すると少女は首をかしげ、眉を八の字に曲げた。そんな少女を見かねてキリトも口を開く。

「ここはソードアート・オンラインってゲームの中だよ。」

「そーどあーと…おんらいん…。」

 彼女の中に思い当たる単語は無かったのだろう。布団を握りしめそのまま俯いてしまった。この世界が分からない。ここにいるのに…。それはつまり。

「ねぇ、お名前は?」

「私は……。」

 セツナの質問に答えようとするがそこで止まってしまった。

「…分かりません。」

 記憶を無くしてる。そう思い至るに難くはなく、それほどに辛い思いをして来たのかと胸が痛んだ。

「…右手の、人差し指と中指を立てて縦に振ってみて。」

 そう言ってセツナが手本を示して見せると、少女もそれに倣う。開くのはもちろんステータスウィンドウ。そこにはプレイヤーネームが表示されているはずだ。

「MHCP001-YUI…?」

 しかしキリトによって読み上げられたそれは、二人の期待するのもではなかった。その表情を読み取ってか少女の顔もますます曇っていく。

「YUI…ユイちゃんで良いのかな? 私はセツナだよ。」

「セツナ…。」

 セツナが精一杯の笑顔を作ってそう言うと、こくりと頷き少女はセツナの名前を口の中で転がした。

「ユイ、俺はキリトだ。」

「キリト…。」

 そしてキリトのそれも確かめるように口にする。

「ねぇユイちゃん。誰か、一緒に過ごしてた人はいないの?」

 ユイはその目をじっと見開いて握りしめた手を見つめる。そしてややあってふるふると強く首を横に振った。

「私、何かを探して…。」

 これ以上彼女に何か尋ねても返ってくることはなく、疲れさせるだけだとセツナは取り敢えず朝食にしよう、とベッドサイドから立ち上がった。

 

 

「どう思う?」

 キッチンに立ち、簡単なセッティングをすれば後は少し待てば料理は出来上がる。ダイニングテーブルに腰を下ろし先に紅茶をすする。

「…普通に考えて、保護者はいただろうけど…。」

「けど?」

「バグが多すぎる。」

 キリトの言うことが理解できずにセツナは首をかしげる。すると右手を縦に振り、キリトは自分のステータスウィンドウを開いた。

「俺たちはウィンドウを開くと、まずステータス画面になって、そこからアイテムやスキルに移行していくけどユイにはステータス画面しかなかったんだ。」

 キリトのその言葉に息を飲む。それはつまり…

「戦闘が出来ない…。」

「それどころかアイテムの格納も装備も出来ないな。」

 この世界で暮らすには致命的な欠陥である。

「そんな…。そんなのFNC(フルダイブ不適格)どころの騒ぎじゃないじゃない!」

「だから当然に保護者はいただろうし、記憶がない今…ユイが嫌がらなければ俺たちが保護すべきだと思う。」

 それには当然セツナも賛成で強く頷く。

「うん。あんな小さな子放っておけない。でも…同時に本当の保護者も探してあげないとね。」

「ご飯を食べたらアルゴたちに聞いてみよう。」

 皆から離れてのんびり過ごすつもりが大部アテが外れた。もちろん自分達が通りかからなければユイがどうなっていたかは想像もしたくない。それは恐らくユイにとっては至極良かったはずなのだ。そう納得し、そろそろ出来る朝食に合わせてセツナはユイを寝室へと呼びに向かった。

 

 

 アルゴにメッセージを送ると指定されたのは49層の街だった。オランダのような街並みがかわいい層ではあるが、セツナとしては抜けたばかりのギルドホームのある層のため、75層のうちピンポイントで選ばなくても、と言うのが本音だった。

 49層に降りるとユイは小さく歓声をあげる。

「わぁ…!」

「ユイちゃんここ初めて?」

 自分には見慣れた景色だったがそうではないらしいユイには新鮮に映ったようで何度も頷いた。

「すごい! すごーい!!」

 その姿は先程の受け答えとは違って年相応のようで見ていて嬉しくなる。それはキリトも同じだったようでユイを抱き上げ肩に乗せた。

「きゃぁ!」

 するとユイは小さく嬉しそうに声をあげた。

「この方がいい眺めだろ。」

「うん!!」

 にっこり笑うユイを二人で眺めていると後ろからあの独特な口調が響いてきた。

「なんか幸せナ家庭ヲ見ているようだナ。」

 なんでこの人は普通に会話を始められないのだろうか。圧倒的に後ろから話しかけられることが多いのは気のせいだろうか。

「わざわざ呼び立ててすまなかったな。」

 アルゴのからかい文句に気にした風もなくキリトは話を進める。それにやや不満そうな表情を見せるも彼女としてはビジネスだ。いつもの人を食ったような笑みに変わる。

「あんな高い家買った後なのニ金はあるのカ? 報酬が貰えるなら構わないサ。」

「うちのセツナさん金持ちなんで。」

 あのプレイヤーホームを紹介してきたのは自分の癖に随分だ。

「ン? ほう、そういうコトカ。」

 そしてキッチリと情報収集には余念はなく二人の左薬指をしっかりチェックしている。そんなアルゴのことは当然セツナもよく知っており、にっこりと微笑んだ。

「黙って情報流したら分かってるわよね。」

 口止めはしっかりとしておく。するとアルゴは分かっているヨ、と諸手をあげた。

「しかしサスガのオレっちモ、その子のコトは分からないんだナ。1層ニ子供が集まってル教会がアルようだガ…。」

 アルゴにして珍しく曖昧な情報だった。どんな短時間だろうと正確でかなりの量の情報をもってくるというのに。

「1層…か。」

 セツナとキリトは頷き再び1層へと向かうことにした。言われてみれば戦闘能力の全くない少女を連れてなら《はじまりの町》を拠点にするのが自然なような気もする。

「アルゴありがと。」

「ユイ、折角だけど別の場所に行くぞ。」

「はーい。」

 バタバタと転移門広場に戻り行き先をコールする。昨日も降り立った1層へ。今度辿るのは二人の思い出ではなくユイの記憶の欠片ではあるが。

「レッツゴー!」

 ユイの楽しそうな声に二人も昨日と同じ笑顔になった。

 

 




お待たせしました(?)
しかしこんな中途半端な感じで。
うちのユイは幼児退行してないのでパパ、ママはありません。
セツナがママキャラじゃないので…むしろ一番子供…
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