白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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ALO編
プロローグ*森の中


 

「ん…。」

 

 気が付けばそこは深い森の中だった。

 右手を縦に振るとウィンドウが開く。ここがゲームの中であることを悟る。しかし所々文字化けしていて読めない。まともに分かるのは数字ぐらいか。

 

「どうしたもんかな…。」

 

 こんな景色は見たことがない。どうしてこんなところに迷い込んだのか。そして一番不思議だったのが、手には槍はなく細い剣が腰に佩かれていたことだった。

 

 一先ず状況を探ろうと歩き回る。周囲にはモンスターの気配はなかった。ただ、人の気配もなく情報を集めることも出来ない。

 

キィンッ…

 

 遠くで微かに金属のぶつかる音が聞こえた。

 その方向に向かって目を凝らすとそこには人の姿が見えた…それが、人であるならば。

 背中には透明な翅を生やし、宙に浮いている。姿形は人で、手には長剣を携えている少女。緑がかった金髪を1つに結い上げている。そんな少女を赤い鎧を纏った屈強な男たちが追いかける。

 

 これはどういう状況か。

 

 空を飛ぶ人形(ひとがた)の種族などは今まで見たことはなかった。SAOの世界に人の形をしたモンスターは多数いる。エルフ族や広くはコボルド族もそうだろう。今度はまさか妖精(フェアリー)なのか。だとすれば、ここは何層なのか。

 しかし、さらによく見てみるとその空を飛ぶものたちには緑色のカーソルが見えた。

 

「全員…プレイヤー!?」

 

 緑色のカーソル。自分の記憶が確かならばそれは間違いなくプレイヤーを示すもので…よくよく考えてみれば自分はあの時HPを全損させて死んだはずだった。死後の世界だとするならば不可解なカーソルやウィンドウ。ただ納得させるには美しい景色。夢でも見ているのだろうか。それならば…

 

「夢なら…私も飛べるかな。」

 

 背中に意識を集中させるとピィィンと鈴の音のような音をたてて翅が展開されたのを感じた。

 

 飛ぶ

 

 その事だけに強く意識を集中させる。

 鳥のように羽ばたく。翼を動かす。

 少しずつ微弱に動く翅に一気に地を蹴り上げた。

 

「わっ…わわわっ…!」

 

 翅の推進力と自身のパラメータが手伝い、宙高く舞い上がった。それは2年間ゲームの世界に生きてきても体験したことの無いことだった。勢いよく飛び上がってからは翅をひらめかせる度に浮遊力が働き、ふわりふわりと体を空に留めた。風を全身に感じる。

 文字通り天にも昇る気持ち。しかし、実際のところそんな悠長なことを言っている場合ではなかった。飛び上がった場所は先程見上げた場所。つまりは少女が男たちに追い掛けられている場所。…戦場だ。

 

 闖入者の登場に少女も男たちもポカンとしてこちらの方を見ている。これは非常にマズイ。最悪の状況は全員がこちらに向かってくること。それは避けたい。ただ男たちと一緒になって少女をいたぶるのは違う。ならば、決まっている。

 

「女の子に寄って集ってちょっとカッコ悪いんじゃないの?」

 

 女の子の味方にこちらからなってしまえ。そうすれば最悪の状態は避けられる。なんとか体を女の子の盾になるようにスライドさせた。

 呆気にとられていた男たちは暴言に完全に頭に血を上らせ、臨戦態勢に切り替わる。

 

「お前初心者(ニュービー)の癖に何言ってんだ?」

「そんな貧弱な装備でどうにかなんのかよ。」

 

 そう言われて腰の剣を抜くと確かに貧弱だ。今まで手にしていたどの槍よりも軽い。それでも負ける気がしないのはただの錯覚だろうか。背には慌てた少女の声もかかった。

 

「ちょっと! 気持ちはありがたいけど危ないわよ!」

 

 先ほどは逃げて回っていた彼女だが、仕方なしにといった様子で剣を抜いていた。その構えは様になっているし、当然に自分の剣よりも立派な代物だった。それだけで彼女が中々のプレイヤーだと悟る。

 そんな彼女に本来助けは要らなかったのかもしれない。だけれどカッコつけはもう標準装備になってしまっている。

 

「ねぇ、倒しちゃって良いのよね?」

 

 そう彼女に尋ねると、戸惑ったように少女は答えた。

 

「そ、そりゃぁ出来るなら…あちらはそのつもりだろうし。」

 

 PKなんてもう今更だ。それにここがどこか分からないし、夢かもしれない。だったら尚更関係ない。

 

「剣は得意じゃないんだけどな…じゃ、遠慮なく。」

 

 どっかの誰かのように軽く左右にそれを振り、一気に翅に力を込めた。敵は3人。簡単なもんだ。思うように飛行制御が出来ないことを差し引いても、人のことを誰だと思っているんだ。…そんなこと、夢の住人かもしれない人に思っても仕方の無いことなのだけれど。

 大きく振りかぶり、一気に振り下ろす。重力と飛行スピードも乗り、その衝撃は計り知れない。いつもの見慣れたエフェクトとは違う様子で1人のHPは一気に消えた。ボンッと音をたててその場には赤い大きな火の玉のようなものが残る。

 続けて今度は軽く旋回をし、サイドから切りつける。片手剣を使ったのは過去数えるほどだが、嫌と言うほどその戦闘スタイルは隣で見てきている。イメージがものを言う。再現するのはそう難しくはなかった。()のソードスキルと自分の動きを融合させるイメージだ。

 

「せぁっ!」

 

 一気に振り抜くと、軽くまた1人いなくなる。

 こうも簡単に行くとは本当に夢かもしれない。最後の1人も勢いそのままに切り払った。

 チンッと小さい音をたてて剣はその居場所に帰る。振り返れば少女は口をあんぐりと開けていた。しかし次の瞬間には自分に向かって剣を突きつけていた。

 

「…で、私はどうすれば良いのかしら?」

 

 動けば切る、と言った様相だがこちらとしては少女と戦うつもりはなかった。両手を上げて戦闘の意思はないことを示す。

 

「待って。あなたと戦うつもりはないの。」

「…ナニソレ。」

「うーん…彼等と戦ったのも本意ではないって言うか。」

 

 ただ自分は自分で招いたピンチを少女を利用して切り抜けただけでもある。しどろもどろに答えると少女はようやく笑顔を見せ、ぶっと吹き出した。

 

「ぷっ…あはっ…あははっ! さっきまでと随分様子が違うんだね。とにかく、助けてくれてありがと。私はリーファ。」

 

 そう言って剣を納め右手を差し出した彼女に自分も倣う。

 

「私はセツナ。」

 

 手を握った感触に、なぜとは分からないが夢ではないことを感覚的に悟る。ただ、ここは自分の知っているSAOの世界ではないように思えた。目の前にいる彼女、リーファは答えを持っているだろうか。それを願い、しっかりと手を握り返した。

 

 




終わる終わる詐欺でスミマセン
ハッピーエンドを今度こそ!
と言うわけで…生暖かく見守ってください。

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