「何者って…。」
答えられずに思わず顔を強張らせた。
例えば…自分はSAOの世界で攻略組として前線を突っ走っていたが、HPを全損させて現実世界でも死んでしまうところ何故かこのALOの世界に迷い込んでしまいました。なんて言って信じてもらえるのだろうか。この世界では間違いなく初心者。ただ仮想世界での生き方には慣れており、データも何故か引き継ぎ…と言うのが初心者らしからぬ所以だ。彼女は何を知っているのか、それとも感付いたのか。
「ぷっ…にゃははははははっ!」
口をつぐんだセツナにアリシャは豪快に笑う。
「ナニナニ? 結構ミステリアスな存在な訳? ボクはただその強さの秘密を教えて欲しいナと思っただけだヨ。」
そして、そのミステリアスな部分も聞いても良いなら教えてほしいけどネ! と続けた。
「強さの秘密…。」
思っていたことと全く違うことに体から力が抜けるのを感じる。それならばリーファにした説明でどうやら片付きそうだ。本当の事情は人にはあまり話さない方が良いように思える。そうでなければとっくにGMにコールしてる。…何より自分自身が全容を理解していないのだ。説明できない部分すらある。
「…元テスターなの。普段は別のゲームやってたんだけど誰かにソフト入れ替えられたみたいで。」
アリシャはこれで納得してくれるだろうか。
「ふーん…。事実半分、嘘半分ってトコ…かな。」
目をくりくりとよく動かしニヤリと笑った。見透かされている。確かにテスターなのはSAOで入れ替えられた…と言うのは嘘だ。大体あってるが真実ではない。曖昧な笑顔を浮かべることしか出来ない。
「ま、そういうことにしておくよ。武装からしても店売りだしね。」
にゃははと笑い飛ばし多くを詮索しない彼女は不思議だ。掴み所のなさがどこかアルゴに似ているように思う。髭のペイントをしていただけあって、きっと彼女も猫耳が似合うだろう。そんなアリシャにセツナもいつもの調子を取り戻す。
「間違いなく初心者よ。」
肩を竦めてそう言うとアリシャは大きく頷いた。
「それは疑いようもないね! ただ、ゲーム慣れはしているねー。滞空制限も知らないのに随意飛行…それに魔法を斬るなんて無茶苦茶、初めてみたヨ。」
「そう! それ、滞空制限? 聞いてもいい?」
「ALOは飛べる。それは有名な話、だけどそれには制限があるんだよ。」
知りたかった回答だが、セツナは目をパチパチとしばたたかせる。アリシャはそのまま続けた。
「飛べるのは日の光か月の光の下でのみ。それも時間と高度に制限がある。」
「それが滞空制限?」
「そう。一回のフライトで飛べるのはせいぜい10分程度だね。」
「…ふーん。なんかソーラー電池で動いてるみたいね。」
「ソーラー電池か! そりゃーいいね!」
それで落ちたのかと納得しながら、素直に感想を述べるとカラカラとアリシャはまた笑った。表情がくるくる変わる。自分とは大違いだ。
「まぁそんなうまい話無いわよね。山のダンジョンが無意味になっちゃうもの。」
「その通りだねー。だけどそのうまい話があるんだな!」
問題は解決。落下は自分の無知であったと安心しながらうんうんと頷いていると、思わぬ追撃をくらった。
「って…えぇっ!!」
「おぉ! いい反応だねー。」
「いや、だって…。」
飛べる喜び。ただ滞空制限と言うその不自由さがゲームバランスを保っている。それがなくなってしまえばいくつかのダンジョンは意味を為さなくなってしまう。それは…。ただ、リーファが言っていたことがあった。
「グランドクエスト…。」
「ん? 知ってた? そう、グランドクエスト。世界樹を登り妖精王オベイロンに謁見すると翅は翼に変わると言われている。」
飛ぶことが目玉だろうこのゲームには相応しいグランドクエストだ。飛ぶ喜びを与えておきながら能力を制限する。それを解除する方法があるならば。それを手にしようと思わない人などいるだろうか。ただSAOのように分かりやすいゲームクリアではないため、この世界から抜けると言うセツナにとって重要なことに繋がるかは疑問が残った。それでも他に手掛かりなどない。SAOの地下のようにコンソールが隠されているならば別だが、どちらにしてもユイのような存在がいなくては使うことはできない。結局それがたった1つの手掛かりなのだ。
「…世界樹の上には何があるのかしら。」
「さてね。オープンして1年も経つのに未だにクリアできないんだ。誰も知らないヨ。」
「…それは奇妙ね。」
「キミもそう思う?」
セツナは強く頷いた。ALOが1年も前から稼働していると言うことにも驚いたが1年もゲームがクリアされないと言うことに違和感を抱く。…勿論、SAOのクリアには2年かかっているが。
「ただのクエスト見落しや条件の未履行なら良いけど。」
「そうだネ。だからボクも動くことにしたんだ。」
その言葉にセツナは思わず身を乗り出した。
「! それ、私も協力させてもらえないかしら!」
1年もクリアされていないものを1人でクリアするなど半ば無謀だ。誰かに乗っかってしまえるならばそれが一番いい。するとアリシャはニヤリと笑った。
「その為にキミに声をかけたんだ。…勿論、莫大なお金もかかるからねー。時間はかかるケド。」
アリシャはここの、ケットシーの領主だと言った。ならばその実力も恐らくトップクラスなのだろう。それについて時間がかかるならば致し方ない。セツナは真っ直ぐにアリシャの目を見ると再び強く頷いた。
「構わないわ。…私はゲームをクリアしなきゃいけないの。」
ピンと張った声が空間に響き渡った。
フリーリアを背にセツナは再び歩き出した。目的を果たすために。それは当然さっきまで話をしていた彼女との共通ミッション。アリシャが自分に声をかけたのは、グランドクエストの達成条件にあったと言う。翼が与えられる…アルフと言う高位の種族に生まれ変われるらしいのは一番初めに謁見した種族だけだと言う。しかし、もし他種族間の協力が必要ならば…それは達成不可能になるだろう。そのため領地に縛られていない、種族にこだわりのないプレイヤーで腕のたつ者を探していたようだ。セツナとしても滞空制限とやらがなくなるのは魅力的だが、最優先はゲームクリアであったためそれはのんだ。それにあまりにもあっけらかんと明け透けに言うものだから毒気も抜かれた。ただ、まだ準備には時間がかかると言う。その間セツナのすることは先に央都アルンに向かい情報収集と言うことに落ち着いた。
そしてまた、プーカ領を目指してから、アルンへ向かうことにしたわけだ。フレンドリストに1人の名前。
「…リーファとフレになるの忘れたな。」
情報は大切だ。そのためには知り合いも。ソロプレイヤーとして長く生きていてもそれは痛感するばかりだった。仮想現実では随分とスムーズに知り合いを作れるようになったと言うのにどこか抜けている。
「ま、いいか。」
なんとなく、なんの確証もなくまた会える気がし、ウィンドウを閉じる。背に開く翅が輝きを持っていることを確認した。
「どこまで飛べるかなー…。」
プーカ領はここより北北東に位置する。自分本来の領地。そこではようやくアンチクリミナルコードが有効になる。
まだ見ぬ領地に思いを馳せセツナは地を蹴り飛ばした。
今回短いのですがきりがいいのでここで。
更新が滞ってるのはドラクエのせいではありません…念のため。
むしろ封すら開けてない…