白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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7:間層*あの頃とこれから

 

 クローズド・ベータ・テスト。

 

 2ヶ月間のその体験は夢のようだった。

 

 初めてその世界に下り立った時、陽を思いきり浴びながら走り回った時、この世界こそが私にとっては本物なんだと感じた。

 当然のように優先的に付与された購入権には飛び付いたし、誰よりも長く潜り倒そうと思った。それがこんな形になるとは思っても見なかったが。

 そこで出会ったキリトは不思議な存在だった。いつ潜ってもそこにいたからだ。他のMMOでもたまにパーティを組んではいたが、ここほど顔を合わすことはなかった。ここでは特に約束するでもなく、テストの二ヶ月間ほぼ毎日顔を会わせていた。それから自然に行動を共にするようになり、ボス戦時には共謀して、よくLAを狙いに行ったこともあった。

 …それが仇となり元ベータテスターの間でキリトとセツナと言う名前は売れてしまっていたようだった…特に私は容姿も変わっていないことが災いした、と言うのはディアベルに聞いた話。

 彼の知り合いの元テスターは多くが亡くなったと言っていた。そして残りは彼と同じく名を変えて分からないとも。

 

 

 

 二層の草原へ足を踏み入れると少し強い風が髪を揺らした。

 随分長い間戦っていたようで、迷宮区に登り始めたのが大体9時だったと記憶しているが空は夕日に染まっていた。

 前を歩くキリトの背中に哀愁が漂って見える。

 

「ゴメン…。」

 

 キリトの口からそんな言葉が漏れた。

 ボス戦のあと、私たちは散々罵声を浴びせられた。それを一人で背負おうとしていたものが友人ならば、助けるか一緒に背負うのが当然なのではないか。

「私が選んだことだよ。」

 2ヶ月間あんなに一緒に戦ってきたのに、この1ヶ月間はそうしなかった。その懺悔の意味もある。

「だけど俺は、君ならアスナと攻略組を率いて行けると思ったんだ。」

 だから薄汚れた道をわざわざ行く必要はなかったと。

 アスナは強くなる。誰よりも早く美しい剣士として直に有名になるだろう。そしてあの頭の良さも、攻略の導となるに違いない。それを隣で見ていたくないと言えば嘘になる。

「でも、私はキリトの横にいることを選んだ。キリトこそ攻略の鍵になる、だから何があっても死なせない。」

 

 

 夕日が私の髪をオレンジ色に染め上げた。

 せめてこんな色だったら現実世界にも馴染めたかな。そんなことを思う。

 

 

「二人とも勝手なことしないでよ。」

 

 

 振り返るとアスナとディアベルがそこにはいた。

「ゴメン。」

 彼女には色んな意味で謝らなければならない。

「別に、何にも気にしてないわ。それよりエギルさんとキバオウから伝言!」

 プイッと顔を背け拗ねたように言う彼女。なんだか可愛らしくて頬が緩んだ。

「エギルはともかくキバオウからも?」

 キリトの訝しげな表情も尤もなことだろう。彼はアンチ元ベータテスター改めビーターの最たる人物だと思えたが。

「『二層のボス攻略も一緒にやろう。』」

 理解してくれる人間がいると言うのは嬉しいことだった。そしてアスナは二、三度咳払いをすると生真面目な顔をしてみょうちくりんなイントネーションまで真似して伝言を伝えてくれた。

「『ワイはやっぱり自分らのことは認められん! 今日は助けてもろたがワイはワイのやり方でクリアを目指す。』」

 彼らしい素直でない言葉のように思えた。

「そっか、ありがとう。」

 お礼を言うとアスナは照れ臭そうに私じゃないもんと言った。

「それで、アンタは?」

 キリトは後ろに控えていた青髪の青年に声をかける。

「俺は…覚えていないが、確かに以前アンタとパーティを組んだことがある。そうだな。」

 ディアベルは頷いた。

「もちろん、セツナさんも一緒にね。キリトさん、今日は本当に助かったよ。自分にもやれると思ってたが俺には荷が重かったようだ。」

 彼は目を伏してそう言った。そんなことはない。戦闘スキルに関して言えばソロプレイヤーとして鍛えてきた私たちの方が純粋にレベルだって高いだろう。実際のところ私のレベルは14。キリトもその辺りと推測しているが、今回のレイドメンバーの平均レベルは10そこそこではないだろうか。彼の真価はそんなところではなく、あのリーダシップにこそあった。あそこで定石外のことさえしなければ、何事もなかった可能性だってある。恐らく今後のことを考え、リーダーとして自分を強化したかったと言う強すぎる責任感が招いた結果なのだろうが。

「そんなことない。あなたにはあなたにしかできないことがある。だからあなたはこっち側に来ちゃいけない。」

 それが心からの言葉だった。

「いや、今回のことでリンドに不信感を抱かれてね。俺も暫くはソロプレイヤーかな。」

 自虐的にそう笑った。彼ならまたすぐにいいパーティメンバーを見付けられるだろう。そして戻ってきてほしい。

「君が一緒にいてくれると助かるんだけど。」

 などとこっち側に来るなと言ったのに訳の分からないことを言うもんだから取り敢えず売却済みですと返すとようやく彼も軽やかに笑った。

「フラれちゃったな。」

 そしてキリトを意味深にみてウィンクを飛ばす。キザな男だ。

 そんな私たちをみてアスナは意を決したように言った。

「私、あなたたちに色んなことを教わったわ。いつか、必ず追い付いて見せる。」

 あの時帰りたいと言った少女はもうどこにもいなかった。凛とした眼差しに瞳を奪われる。

「また、ね。キリトくん、ディアベルさん。…セツナ。」

 そういうと彼女はコートを翻し階段を下っていった。

 

 

 これから私たちの最初の仕事は二層と一層を繋げること。

 

「ソロプレイヤーの二人の極意を教わってもいいかな。」

「お前! 着いてくるつもりか!」

 ディアベルのそんな言葉にキリトが顔をひきつらせた。

「俺がいたら都合が悪いかい?」

 不敵に笑う彼にキリトはパクパクと池の鯉のようになった。

「都合が悪いも何も私たちパーティ組む訳じゃないからね。」

 さらりと言うとそうなの!? と言う顔でキリトは今度はこちらを見た。隣にいる、死なせないとパーティを組むは同義ではない。

 そんな私たちのやり取りをみてディアベルは声を上げて笑った。

「これは俺の付き入る隙も十分にありそうだな。」

 

 うるさく言い合う男二人を置いて一人第二層主街区である《ウルバス》に向かった。

 

 キリトにはあぁ言ったが基本的には一緒に行動するつもりではある。一人で背負おうとした彼にちょっとぐらいの罰を与えてもバチは当たらないだろう。

 

 今日は生き残った。

 残り99層の果てない道のりは私たちにとって風当たりは厳しいものとなりそうだった。

 

 




ここでようやく第一層一区切り。
ディアベルを主人公と絡ませると彼の年齢如何によっては犯罪になるのが悩みどころです。
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