『キリトさん!!』
交換したばかりの電話番号からの怒りの電話。つんざくような声に和人はスピーカーを耳から少し離した。電話の主はSAO時代の知人、
「ワリーワリー。ちょっとトラブルがあってさ。」
それは嘘ではない。本来はスプリガンの領地にログインして、隣の領地のウンディーネとしてログインしている筈のディアベルと合流するはずだった。しかし理由はよく分からないが、全く違うシルフ領の側の森にログインしてしまったのだからALO初心者のキリトにはどうしようもなかった。
「でもさ、セツナの情報は手に入れたぞ。」
約束をすっぽかしたのもすぐに連絡を入れようとしなかったのも悪いとは思ったが、遊んでばかりいたわけではない。和人のその言葉に電話口の向こうで弘貴が息を飲むのが聞こえた。
普通に生活してればリア充イケメンのこいつとコミュ障の自分とでは絶対に交わることはなかっただろう。二人に共通することと言えばセツナバカなところだけだ。二人とも
『…やっぱりセツナはALOにいるんだな?』
やや震える弘貴の声。和人は見えないと分かっていても頷いた。
「間違いないと思う。特徴から行動からまるでアイツだ。あんなやつが他にもいてたまるか。」
それに偽者ならリーファの言ったような強さはないだろう。
「それでさ、知り合ったシルフの女の子が言うにはセツナはゲームクリアを目指してるそうなんだ。」
『女の子…ね。』
「なんだよ。」
『いや、モテるな…と。』
「茶化すなよ。」
何が言いたいのか分からないが、和人としてはあんたには言われたくない! と言ったところだ。SAO時代にファンクラブまであったやつに。あのレベルまで行くと逆に無頓着になるのかと思うほどだ。選びたい放題。選り取り見取り。それでもディアベルはセツナを選んだ。自分が選ばれることはなくとも。簡単に手に入るのはつまらないとか? 同じ人間に惹かれてる身としてはなんとも言い難いが。
『すまない。助かるよ、実際。こんなに早く情報が手に入るなんて流石だな。』
「もっと崇め奉ってもいいんだぞ?」
『調子に乗るな。』
あんなにも騎士然としていたのに現実でのこいつはややそっけない。それともあれはセツナ仕様だったのか。
「…セツナは世界樹を目指している。俺の位置からじゃ正直あんたと合流するのは難しい。だから央都アルンで落ち合おう。」
『――――…。』
シルフとウンディーネ領の間にはサラマンダー…好戦的な種族。おまけにマップを確認すると山を1つ越えなければならない。大きなタイムロスに繋がると、そう提案した和人だったが弘貴からはすぐには答えは返ってこなかった。
『…アスナくんの画像も確か世界樹だったな。』
「あぁ。」
それはALOにダイブしたもう1つの理由であり、セツナもそこいるのではと思わせたもの。小さなため息と共に弘貴の答えは返ってきた。
『分かった。最強プレイヤーを二人も助けに行くって変な感じだけどな。』
「違いない。」
リーファとの約束の時間は3時。一先ずあの世界を攻略することに集中できそうだ。ディアベルとてSAO
じゃぁ向こう側で。そう言ってどちらともなく電話をきった。
ー最強プレイヤーか…
間違いなくその一角を担うのはセツナでありまたはアスナ、そしてキリトになるのだろう。そう思われていた人物はゲームマスターであったのだから。
彼は…彼は本当に消えたのだろうか。
命は軽々しく扱うべきではない。確かに彼はそう言った。それでもセツナは生きているかもしれないと言うことが彼もまた…と思わせる。その答えはまだ知らなくても良い。セツナの無事を確かめてからで。
キリトをスイルベーンに案内し、ALOのこととグランドクエストのこと、そして知っている限りのセツナのことを話した。…セツナのことでリーファが知っていることは本当に極僅かだったが。そして結局勢いのままキリトを世界樹に連れていくと言ったのは昨日のこと。
少しのワクワク、喜び。そしてライヴに行く前のような高揚。直葉がログインをするのにこんな感情をもったのは初めてのことだった。ゲームを始めて1年。こんなにも新しい気持ちになれるとはMMOは奥が深いと実感する。このゲームを始めたときは少しの憎しみと不安が勝っていた。それも兄が戻ってきたことで全ては払拭された気がする。
帰って来た血の繋がらない兄に抱いている、認めたくない想いに似た感情が湧き出てることには気づかぬふりをして、直葉はいつもの通りキーワードを口にする。
「リンク・スタート!」
その言葉を口にすれば自分は中学三年生の桐ヶ谷直葉からシルフの剣士リーファに姿を変える。ちっぽけな悩みなど気にせずに空を飛ぶことと美しい世界に集中することができる。電子の光に包まれ、目を開けば世界は一変する。
街全体が淡い緑に包まれるシルフの街。昨日ログアウトしたその場所に舞い戻る。目的地はキリトに案内した宿の下の酒場だ。アルン、央都に案内するならそれなりの備えも必要と少し多目にアイテムを買い込みながら酒場に向かう。いつも出入りしている場所なのにやや緊張して扉を開いた。彼はもうログインしているだろうか。
扉を開ききるとその先には
少年と青年の間のアバターの彼はリーファの姿に気が付くとすぐに立ち上がり、人懐っこい笑顔を浮かべた。
「よぉ。」
「…早いわね。」
「いや、今ログインしたばかりさ。」
どこか恋人のようなやりとりをしていることに気恥ずかしさを覚えるも当の少年の方は飄々としている。それもそのはず。彼にはセツナと言う推定恋人がいるのだから。
「取り敢えず、ソレ、どうにかしたら?」
さっさと思考を切り替えてしまおうと提案したのはキリトの装備。いくら
なんならお金貸すよ、とリーファは付け加えたがキリトは自分のウィンドウを開きユルドを確認すると、1人目を見張った。
「いや…大丈夫だ。」
どこか歯切れが悪くそう言った彼だったけれど、お金があるなら尚更。さっさと用事をしに酒場は後にした。
緑色をメインカラーにするシルフの街では黒は目立つ。セツナを連れて歩いた時よりも振り返る人が多い。白髪は緑の光に照らされれば緑に光ったし、青系の装いは類似色相になり得るため馴染むこともできた。しかし黒はそうもいかない。何にも混じることのないその色は強烈に存在を主張する。
当の本人はアンチクリミナルコードが自分だけ有効ではないのにも関わらず、飄々と、楽しむように街を闊歩する。隣に自分がいなければどうなるか分かったもんじゃないのに…。リーファは小さく息をついた。
街のショップにはシルフが装備しないようなものも置いてある。つまりはゲームとしてはこう言うことも折り込み済。本来有ってもおかしくはないと言うことである。こんな風に感じるのは1年と言う時間が自分をそう染め上げてしまったからだろう。他者を受け入れない閉鎖的な島国のように。
勿論、NPCの店員は当然のように客を選びはしないが、少年は些か困らせているようだ。ロングソードを振っては首も振り、もっと重いのと注文をつける。リーファが知る限り値段もヘビーになっていっているけれどお財布は大丈夫なのだろうか。
「ねぇ…キリトくん…。」
手にしたのは彼の背丈程もあろうかと言う黒い大剣。重さもさることながら、値段も中々張る。本当に大丈夫なのかと声をかけるも、彼は軽々と振り回すとようやく納得したように代金を払った。
「なんか言った?」
背中にそれを吊ると刃先が地面を擦るかと言うサイズ感。似合っていないわけではないのだが、子供がお父さんの物を借りているようでリーファは思わず吹き出した。
「ホントにそんなの振れるのぉ?」
「む。問題ない。」
リーファのからかうような声にキリトは少し眉を顰めたが、ある程度満足の主武器を手にし、気分はそう悪く無いようだった。続いての防具品の購入はある程度古参プレイヤーのリーファだって憚るような大人買いっぷり。誂えられた黒基調の装備品たちはスイルベーン最高級のものたちだ。しかし武器は重量級の物を選択しながら、防具はスピード重視。ちぐはぐな印象をうけるれけどそちらが彼の体格を考えれば本来の選択だ。その証拠に出会ったときの彼のスピードはリーファを凌駕するものだった。…轟音のおまけがついていたので確かな筋力パラメータに裏打ちされたものなのかもしれないが。
「ホントに変な人…。」
「それは褒め言葉として受け取っておくよ。」
ニカッと自信を覗かせる笑みを浮かべるのだから、きっといつ何時もそういうスタイルなのかもしれない。なんか知り合って間もないけれど彼なら何でもありだと思えてしまうのだから不思議だ。
次の目的地へと方向転換をして、リーファはこっそりと笑みをこぼした。
「そう言えば、減速と着陸の練習はする?」
昨日彼をここに連れてきた時、NPCのプライベートピクシーが耐えられない程のスピードで飛んできた。それについてくるもんだからついつい彼が随意飛行を始めたばかりだと言うことは忘れてしまい、着陸を教えないままスイルベーン中央の塔に激突させてしまった。アルンまで向かうなら飛行の技術は当然不可欠になる。反省を踏まえてそう尋ねるも彼は苦笑いで答えた。
「いや、今度は安全運転で行くことにするよ。」
「りょーかい!」
キリトにそう言われてリーファはなんだか少し勝った気になった。誰よりも速く飛べると言うことは意識はしていなかったがリーファの矜持だったようだ。自分についてこれるプレイヤーがいると言うのも嬉しかったが、それよりも唯一と言うのは思っていたよりも嬉しかった。
気分よく、昨日彼が激突した塔の中へ入ろうとすると正面から進路を塞ぐ影が現れた。
「っ…ちょっ出入口で立ち止まらないでよ! 危ないわね!」
マナー違反だと睨み付けてやろうとするとそれは見知った顔でリーファの方が怯むこととなる。
「シグルド…。」
一応パーティメンバーの彼。その表情はそれにも拘らず友好的なものではなく、どこな威圧するようなものだった。
「こんにちは。」
そんな雰囲気には気付かない振りをしようと出来る限り自然に挨拶をするが先方の表情は全くもって緩まない。
「…この間はプーカと思えば今度はスプリガンか。他種族に構ってる暇があればこちらのクエストに協力をしてもらいたいもんだな。」
彼の側には他のパーティメンバー二人が控えている。リーファと一緒に加入したレコンの姿も探したがそれは見付からない。
リーファは元来縛られるのが好きではない。パーティに加入する時も参加するのは都合のつくときだけ、抜けたいときはいつでも抜けられると言う条件をつけたがどうやらそれを履行する気はなさそうだ。
気付かれない程度に小さくため息をつくと精一杯ひきつらないように笑顔を作る。
「ちょっとアルンまで出掛けることになってね。暫くパーティはお休みさせてもらうわ。」
「なっ! お前、パーティを抜ける気か!? もう俺のパーティメンバーとして名前が通っているんだぞ!」
返ってきた彼の答えをきいてやはりな…と思う。約束を守るつもりはない。それにいつかレコンに言われたことが頭をよぎる。かわいい女性プレイヤーは
「…仲間はアイテムじゃないぜ。」
リーファが答えあぐねていると、後ろから冷ややかな声が響いた。それに目の前の男の視線も移る。
「なん…だと…?」
シグルドに鋭い視線に声の主はピクリとも怯まない。それどころが更に言葉を付け加えてみせた。
「仲間はあんたの大切なレアアイテムとは違うと言ったんだ。アイテムストレージにロックしておくことは出来ないぜ。」
その言葉にシグルドの方はピクピクと血管を浮き立たせあからさまに怒りの表情をみせた。
「屑漁りのスプリガン風情がよく言ってくれる!」
そしてジャキッと派手な音を立てて自慢の剣を抜ききるとキリトに向かって突き出す。キリトの方はその切っ先に視線を移したものの臆することはなくピクリとも動かない。それどころか表情を作らないまま再びシグルドへと視線を戻す始末。
シルフ領ではスプリガンのキリトは攻撃は出来ない。しかし逆は可能。彼の態度とは真逆にリーファの心中は穏やかではない。最悪の結末にならぬようどうにかしなければ…と思うもそれは彼の側近によって止められることとなる。なにかを耳打ちしたかと思えばシグルドの剣はすぐにあるべき場所へ戻された。
「まぁいい。外では精々逃げ回ることだ、
チンッ
小さく金属の音を立てて、シグルドはマントを翻してその場を去っていった。勝手に難癖を付けさっさと去っていった彼にキリトは呆気にとられたようだったがリーファとしては安心した。これで気持ちよくスイルベーンを出られる。むしろ出る決心が強くついた。
「あれ…良かったのか?」
恐る恐る聞き返す彼にリーファは笑顔を返した。
「勿論。お陰で物見遊山じゃなくアルンに行く決心がついたわ。」
リーファの晴れやかな表情にキリトも安心しそのまま彼女に従うことにした。
新しい世界に行くのに余計な荷物は要らない。リーファは少しスッキリした気分で、塔の中へと進んだ。
1ヶ月1話…だと…
待っていてくれた方ありがとうございます、そしてスミマセン。
仕事だ私用だなんだと中々書けず…
おまけにクオリティも右肩下がり…
しかし①と付けた責任として②は早く書きます!
…多分。
週1ペースには戻したいです。
キリトとディアベルのやり取り書くのが一番好きです。