白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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16話*不都合な事実

 

 

 

 

 

 現実の時間は深夜を過ぎ早朝に入ろうと言う頃。最寄りの村で宿に入り、それぞれ部屋に分かれた。自室に入る前にキリトはセツナを呼び止めた。

 

「なぁ、セツナ。」

「なに?」

 

 キリトにはセツナと出会ってから1つだけ気になっていたことがあった。

 

「logoutボタン…ないのか?」

 

 自分には当たり前だがあったそのボタン。この世界に来てからも彼女には存在しないのかどうか

 セツナは曖昧な笑顔を作ると()()でステータスウィンドウを開いて見せた。キリトはそれで全てを悟る。ウィンドウを開くのが右手だったのはSAOにいた頃のことだ。ここ、ALOでは自分は()()でウィンドウを開く。彼女はまだあの世界に捕らわれている。その証以外のなにものでもない。

 

「この通り。だから、世界樹を目指す以外に他はないの。」

 

 後悔しかなかった。

 自分は左手を振り、ボタンさえ押せば現実世界に帰れる。彼女はここに留まるしかないと言うのに。

 

「…ゴメン。」

「なんで謝るの? 私、キリトがここまで来てくれて本当に嬉しい。またこうして会えて。だから気にしないで。」

 

 その表情に曇りはない。自分が現実世界でリハビリをしながら還りを待ち望んでいるときも、彼女は戦っていたのだろう。たった1人、確かな道筋もないのに自分の運命を切り開くために。

 

「…俺は…。」

 

 キリトが何も言葉をかけられずにいると胸元のポケットがもぞもぞと動き、ライトマゼンダの固まりが飛び出した。

 

「お姉ちゃん!!」

 

 それはユイだった。連れてきたのは良かったが人前にだすのは好ましくないと思ったため隠れてもらっていたら恐らく寝てしまっていたのかもしれない。

 

「え…。」

 

 セツナはその小さな妖精の姿、顔を見て目を丸くする。無理もないそれは予想もしなかったものだろう。ロングのブルネット。切り揃えられた前髪。愛らしい姿の大きさは変わってはいたがそれはセツナが茅場に望んだものだった。

 

「…もしかして…ユイちゃん?」

「はいっ…!」

 

 あの世界の終わりに自分の代わりに生かして欲しいと願ったあの世界で生まれた命。その約束は果たされていた。1ヶ月、一人で進んできたことは無駄ではなかったのかもしれない。

 

「また…会えるなんて思ってなかった。」

「私も…お手伝いしますからね!」

 

 セツナの目じりからは自然と涙がこぼれ落ちた。

 

「ありがとう…奇跡は…奇跡は起こるんだね。」

 

 ユイはキリトを助けるためにあの時力を使った。それは結果としてセツナを死に至らしめることとなった。それはユイの中にも根付く。それでもこうして再会を喜んでくれる彼女にユイも改めて決意する。必ず方法を見付け出すと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっとダイブし続けるわけにはいかない。折角再会した彼女とずっといたい気持ちはあるものの、SAOのことで家族には随分と迷惑をかけてしまった。またナーヴギアを被っている姿など見せたら発狂するだろう。リーファがログアウトしてから程なくキリトは和人に戻った。そのまま短い睡眠に陥るも射し込んできた朝日に目を覚ます。

 

「8時…か。」

 

 一晩中ゲームに明け暮れることは珍しいことではなかった。今回は少し睡眠時間がとれただけましな方だ。少し早いとは思いつつも、寝ぼけ眼を擦りながら和人は携帯を手に取った。通話履歴の一番上がこいつなのは不思議な気分だが…和人はそのまま通話ボタンを押す。

 

『もしもし?』

 

 数コール鳴って聞こえてくるのは声だけでイケメンだと分かるような声。少しだけ眠そうなのは彼も同じ事をしていたからかもしれない。そう、弘貴(ディアベル)への電話だ。

 

『よぉ、早いな。』

『…あんたに起こされなければまだ寝ていたかったさ。』

 

 どうやら申し訳ないことに彼は和人の電話で起きたようだ。声色から眉間にシワがよっているのが易く想像できた。

 

『まぁまぁ、じゃぁ目の覚める話をしようか。』

『手短に頼む。』

 

 今にでも再び眠りに落ちそうなあくび混じりの声。

 

『まぁ、そう言うなって。セツナと再会したんだよ。』

 

 電話口の奥で息を飲むのが聞こえる。それまで漂わせていた不機嫌なオーラは一気に消える。

 

『…本当か!?』

『目、覚めただろ。』

『あぁ。嘘じゃないんだな。』

『さすがにこの嘘だけはつかないな。』

『…キリトさんばっかり納得がいかないがな。』

『結び付きの強さを侮るなよ。』

 

 声色だけで彼が何を思っているか和人には分かる。同じ気持ちを抱いている者同士だ。彼女のことに関してだけは共通するものがある。

 見付けはしたもののログアウトの方法が分からないことは添えておく。

 

『そうか…じゃぁ後はログアウトさせる方法を考えるだけか。』

『あぁ。セツナに確認したがlogoutボタンは無いそうだ。』

『…そうか。』

 

 それが最大の問題であった。再会を喜びはした。但しどの様にすれば元の世界に還れるのか、その方法が分からない。クリアを目指してはいるが、SAOのクリアの概念とは大きく異なる。それが正しい答えかどうかは全くもって自信がない。

 通話中にも拘らず、沈黙が支配する。

 こうして弘貴に伝えたのには解決策を一緒に考えて欲しかったからと言うこともある。勿論ただ単に情報をくれた彼にきちんとフィードバックをするのは当然だと言う思いもあるが。

 八方塞がりの中、和人はもう1人報告をすべき人を思い浮かべる。彼女に報告することが正しいかは分からないけれど、セツナ自身はそれを望んでいる気がした。自分ばかりと弘貴が言うのであれば彼も一緒に連れていこう。

 

『なぁ、お前もセツナに会いに行かないか?』

 

 それは現実世界(こ   こ)でのこと。

 

 

 

 

 弘貴と約束をして直葉に病院に出掛けることを告げると、直葉からは予想もしない答えが返ってきた。

 

「キリトさん…その方は…?」

 

 待ち合わせ場所で弘貴が驚くのも無理はない。直葉は何を思ったか、私も行って良い? と尋ねてきたのだった。なぜ突然妹がそんなことを言い出したのか和人には想像も出来なかったが、断る理由もないし、直葉には"目覚めていない大切な人"と雪菜のことは伝えていたため連れてきたのだった。

 

「おにいちゃん?」

 

 隣で直葉が紹介しろと促してくるのに慌てて和人は姿勢を正す。

 

「あぁ、悪いディアベル。こいつは俺の妹で直葉って言うんだ。スグ、この人は…風間弘貴さん。俺が向こうでお世話になった人だよ。」

「初めまして、桐ケ谷直葉です。お兄ちゃんにこんなカッコいい知り合いがいるなんて思いませんでした。」

「風間です。」

 

 直葉と言う第三者がいるため和人は咄嗟に本名を呼んだ。なんだか失礼なことを言われているが今に始まったことではない。

 

「キリ…和人さん。」

 

 弘貴もなれない様子で和人の名前を呼ぶ。ずっとこの場にいたらボロが出てしまいそうだ。

 

「あぁ、じゃぁ病室に行こうか。」

 

 病院ではお静かに。中に入ってしまえば余計な会話はしなくて済む。和人は勝手知った受付で入館手続きをさっさと進めた。

 広くよく掃除の行き届いた廊下を歩きながら和人は口を開いた。小声でも人がいなくよく響く。

 

「初めに断っておくが…多分雪菜の母親がいると思う。弘貴は多分驚くだろうな。」

「なぜ?」

「…雪菜とそっくりだから。」

「なるほど…。」

 

 彼女と違って髪色も瞳の色も暗く濃い茶色であることは口にはしなかった。弘貴ならセツナからあの姿がそのままの姿であることは聞いているであろうが、実際に目にするのはまた違う。

 弘貴が頷くのを待ってから病室のスライドドアを軽くノックすると涼やかな声がどうぞ、と中に促す。

 

「こんにちは、深雪さん。…今日は1人じゃないんですけど。」

「桐ヶ谷君いらっしゃい。大歓迎よ。あの子にちゃんと友だちがいてくれたことが嬉しいわ。」

 

 背後でイケメンが息を飲むのが聴こえる。それほどに顔の作りが似ている。失礼ながらゲームに例えれば1Pと2Pの関係。つまりは色違いのように見える。目の前では深雪さん、セツナの母親もはっとした顔をしている。イケメンは得だ。それに気付き、弘貴はペコりと頭を下げた。

 

「風間弘貴と言います。」

「雪菜の母です。わざわざどうもありがとう。そう…年上のお友だちもいたのね。」

 

 そして年齢を聞いたことはないが年の頃は6個か7個離れている筈だ。確かに普通に生活をしていて年上の友人が出来るのは中々ないだろう。それに…いつかセツナはSAOの世界で初めて人との付き合い方を覚えたと言っていた。彼女の母親にすれば娘に友人がいる。その事実だけで嬉しいのかもしれない。

 奥へ奥へと促され、直葉もおずおずと頭を下げた。彼女の母親がいるのは直葉にしては予想外だったのかもしれない。

 何度来ても動かない彼女に慣れることはない。弘貴(ディアベル)は彼女を前にして何を思うだろうか。

 

「ディアベル…セツナだよ。」

 

 和人が紹介すれば弘貴はその場に縫い止められたようになった。真っ白な髪。透き通るような肌。そして今は見ることのできない赤い瞳が隠れている瞼を縁取るのはやはり白い睫毛。あの世界にいたセツナと違うところは髪の長さぐらいだろう。目覚めた頃の自分もそうであったがこの2年で伸びた分だ。

 動けずにいる弘貴の更に後ろから悲鳴のような声が響いた。

 

「うそっ!」

「直葉?」

 

 狼狽える妹に和人も戸惑う。直葉の顔色は真っ青に染まる。

 

「セツ…ナ…?…え…お兄ちゃん…キリトくん…?」

 

 そしてその口から出てきた名前に驚くことになる。和人は自分のプレイヤー名がキリトで雪菜のプレイヤー名がセツナであることは明かしたことはなかった。大切な人が、雪菜が眠ったままであると言うことしか。

 

「なんでスグがその名前…。」

 

 自分としては疑問を口にしただけだった。しかし直葉は傷付いたような悲しみで溢れた目をする。それは直葉の言葉に対する肯定だ。

 

「…私、先に帰るね。」

 

 直葉は今にもこぼれ落ちそうな涙をこらえ、そのまま病室を後にした。

 

「キリトさん…?」

「桐ヶ谷くん?」

 

 急な妹の行動に和人は訳がわからなくなる。そんな二人を案じて弘貴も雪菜の母親も気遣わしげに視線を送る。

 

「いや、なんかスミマセン。妹とは家に帰って話します。」

 

 ディアベルを雪菜に会わせること。雪菜の母親にセツナの意識が戻る可能性の話。その二つが目的で直葉を連れてきたのは和人としてはおまけの筈だった。しかし何から話すべきなのか、何を話すべきなのか皆目検討もつかず、折角病室にいながらも気は漫ろだった。

 

 

 

 

 

 




さて、書きたかったエピソードと前回書きましたが、それは次回に持ち越しになりそうです。今回はフリで終わり。
原作より時期が早いですね。
時系列が色々変わるのは当然仕様です。
そしてディアベルさんお久し振り。
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