白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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お久し振りです。
今回繋ぎの話になりますが…
お待ちいただきありがとうございます。


18話*1つの回答①

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実(リアル)ではお昼頃…かぁ。」

 

 キリトと再会した。その事実は嬉しかったが、生きる世界が違うように感じて少しの寂しさもあった。自分はログアウト出来ないと言うことが、まるで自分がゲームの中だけの存在かのように思えてならない。ユイと言うAIを前にし、自分は北原雪菜と言う記憶を埋め込まれたセツナと言うNPCなのではないかと。自分で考え動くAIのユイは、細かな仕草までがプログラムで出来たものとは思えないほど精巧に出来ており、キリト曰く、ボトムアップ型人工知能の完成形だと言う。

 ただ、キリトは言った。現実の私に会ったと。北原雪菜は存在する。それが今の心の支えだ。現実の自分が生きているならば、いつか還れると。一度は諦めた生が手に入るなら、一度は死を突き付けられたからこその願い。自分の中に"生きたい"と言う確かなものがある。皮肉にもSAOに囚われなければ、そしてこうして何かのイレギュラーで命を繋がなければ芽生えなかった思いだった。

 

「おねえちゃん?」

 

 キリトのプライベートピクシーと言う位置付けになっているらしいが、ユイはキリトがログアウトしていない今も傍にいる。

 

「なんでもないよ。私も…還りたいなって…思ってたとこ。」

「…私も可能な限りお手伝いします…! 以前みたいに多くの権限はありませんけど…。」

 

 ALOに来てからはずっと一人で行動していた。SAOにいた頃もそのつもりだったが、いつもキリトやディアベル…アスナと気付けば仲間がいた。それを知った今、誰かが傍にいることは心強かった。

 

「ありがとう。」

 

 あの時代わりに生きて欲しいと願った彼女が傍にいる。 奇跡みたいな話だ。

 

「…でも、よくユイちゃんまでここに。」

ALO(ここ)のサーバーはSAOサーバーのコピーみたいなんです。お兄ちゃんのナーヴギアのローカルメモリを通じて私も入ることが出来たんです。」

「…なるほどね。」

 

 それは、セツナが持っていた複数の疑問の答えだった。本来、別のゲームになど迷い込むはずはないのだ。どういうわけかは知らないが、実際迷い込み活動できているのは、ここがコピーサーバーで、互換性があったからに他ならない。そしてALOと言うゲーム下においても尚、自分の一部はSAOとして稼働していることも。でなければ右手でウィンドウが開くはずはない。

 

「運が良かったのか悪かったのか…。」

「…良かったんですよ。でないとお姉ちゃんは…。」

「うん。分かってるよ。」

 

 ユイが口にするのを躊躇った先は自分が一番分かっていた。それでも思ってしまう。たまたま混線したと言う簡単な話なら良いが。するとユイは思い出したように口を開いた。

 

「そう言えばお兄ちゃんが言ってました。ALOに来たのはお姉ちゃんの噂があったからだけじゃないって。」

「…どう言うこと?」

「私はよく知りませんが…アスナさんと言う方がいるかもしれない…と。」

「アスナが!?」

 

 それは予想もしないことだった。自分の他にもまだ囚われている人間がいる。それが示すことは何か。何かに殴られたような衝撃。チカチカと警鐘が鳴り響く感覚。

 

「ただの…ただの混線や事故じゃないってこと…?」

「お姉ちゃん…?」

「ユイちゃん、キリトはアスナについて他に何か言ってた?」

「…アスナさんに似た方の画像が…と。これですね。」

 

 そう言ってユイは耳を澄ませるようなポーズをとると、目の前にウィンドウを開いた。それに映されたものをみてセツナは息を飲んだ。

 

「…アスナ……!」

 

 決して解像度は高くはない。それでもそうとしか思えなかった。栗色の髪に凛とした横顔。見間違える訳がない。セツナが食い入るように覗き込むと、ユイは更に言葉を続けた。

 

「…どうやらこの世界の世界樹で撮られたものみたいです。」

「……世界樹。」

 

 自分の解放―――ゲームクリアのために世界樹を目指してきたセツナだったが、目的は二つになりそうだ。その画像はまるで鳥籠のようで、何か作為的なものを感じる。ただ…誰が、何のために。そんなことを出来る人物は茅場晶彦しか浮かばないが、彼はそんなことをするだろうか。SAOの世界を限りなく愛し、あの世界で消えることを望んだ彼が。倒されるなら…彼のあのセリフに嘘はなかったように思う。そしていくら自分のギルドの副団長だったとは言え、アスナを捕らえる理由はあるか。…彼ではない。それだけは感じる。ならば尚更誰が…。

 

「…おねえちゃん?」

 

 ユイに恐る恐るといった感じに声をかけられ、自分がいかに難しそうな顔をしていたかを知る。

 

「ゴメン…。ちょっと…気になって。」

「アスナさんのことですか?」

「うん…そうだね。アスナも…アスナも助けなきゃ。」

 

 なんとか作った笑顔。元々カウンセリングプログラムの彼女の瞳にはどんな風に映ってるんだろう。

 

「…キリト、今日は何時ぐらいにINするかな。」

 

 話題を反らそうと今は現実に帰っている相棒を思い浮かべれば隣の部屋でガタっと音がした気がした。まさかと思い部屋の外へ出るとそこにはなんだかアバターですら顔色の悪いキリトがいた。

 

「なんと言うタイミングで…。」

 

 思っていたよりも随分と早いログイン。セツナにとっては良いタイミングでもあったが、当人の表情は優れない。

 

「キリト?」

 

 彼はセツナが部屋から出てきたことには気が付いていなかったようで、声をかけるとすぐのその表情を変えた。…それは更に芳しくないものへと。

 

「セツナ…。」

 

 彼のそんな表情を見たのはいつだろう。

 泣き出しそうな、消え入りそうな、そんな佇まい。確か、以前袂を別つことになった時にそんな表情をみたように思う。そう、セツナがギルド《竜騎士の翼》への加入を決めた時。昨日ログアウトする時は名残惜しみながらも安堵の表情を浮かべていたのに。だからこの半日にも満たない時間で現実で何かがあったと言うことだ。

 

「何が…あったの?」

 

 恐る恐る疑問を口にすれば、キリトはゆっくりと視線を下に移した。

 

「俺…。」

「言いにくいことなら言わなくても良いけど。」

「いや…そうじゃないんだ。ただ、どうして良いか分からない。」

 

 言葉の歯切れは悪く、視線は下がったまま。セツナとユイは顔を見合わせた。

 

「…妹が…ALOプレイヤーだったんだ…。」

 

 ぽつり。か細く落ちたその言葉にセツナは耳を疑った。

 

 

「…え?」

 

 

「妹がALOのプレイヤーで、俺のこともセツナのことも知ってたんだ。」

 

 聞き返せば、今度ははっきりと口にされたそれにセツナは首をかしげる。確かに身内に意図せず知られることは嫌なものがある。だがそんなに暗い表情をするようなことでもないのではと思う。

 

「…それは私も知ってるプレイヤーってことよね?」

 

 しかしキリトのただならぬ様子にそれ以外の理由を探る。

 

「…多分、リーファだと思うんだ。」

 

 リーファと言えばセツナがALOで初めて出会った人物。あの気持ちの良い少女なら尚更心配はないように思える。セツナには全く話が見えなかった。

 

「多分って言うのは?」

「…今日、ディアベルとお前に会いに行ったんだ。」

「…うん。」

「そしたら何故か妹が…着いて来て…。」

「…私を知っていた?」

 

 途切れ途切れに話すキリトに答えを促せばそれは頷くことで答えられた。

 しつこいようであるが、セツナはSAOから迷い込んでいるため、ALOでは珍しく現実の姿とアバターが完全一致する。…お金をかければ弄ることは出来るにしても、莫大な金額がかかるため、そんなプレイヤーそうはいない。病院に着いてくる程仲が良い妹にSAOの話を全くしていないと言うことはないだろう。…セツナの話も当然。それならば、キリトの妹が、病院の人物がセツナであることに気付くのも無理はないように思える。

 

「…リーファだとすれば、私はそう問題ではないと思うけど。」

 

 それはセツナの素直な感想だった。ただ、キリトの表情は優れない。

 

「…妹って言っても実際の関係は従妹なんだ。…アイツ和人()のことが好きだって言うんだぜ。」

 

 ゆっくりとその言葉を吐き出すとキリトは自嘲気味に笑った。そこまで聞いてようやく話が見え始めた。

 

「…キリト。」

 

 不思議とSAO時代もモテる男だった。色恋に疎いセツナはずっと気が付いていなかったが、自分の中にそういう感情を見つけて、どれ程の人がキリトのことを想っていたか思い知った。アスナに始まりシリカもリズも…もしかしたらサチだってそうかもしれない。短い時間でも人を惹き付けるキリト。それが四六時中一緒なら…。

 

「でも、妹さん、病室に来るってことは私のことは…。」

「知っていたさ。…ただアイツも俺も運が悪かったのはALOの中で出会ってしまった。」

 

 それを聞いてキリトの表情の理由を知る。相変わらず色恋に疎いのは変わらない。

 

「キリトを好きになっちゃった…のね…。」

 

 つまりは二重に失恋したと言う事実。それについてはキリトは何も言わなかった。沈黙が暗に肯定する。好きな人が姿を変えて現れた。それに惹かれるのは無理もない。

 

「人の心とは難しいものですね。」

 

 言葉を詰まらせる二人に、ユイもぽつりと言葉を落とした。

 本当に難しい。チクりと傷む胸にセツナも再度自分の想いを問う。多くの人に想いを向けられるキリト。そのキリトの気持ちは自分に向いている。なんだかそれは責任のあることのように思えた。自分がキリトと共にいられるのは多くの人の気持ちの犠牲の上にある。大袈裟かもしれないがそんな気がした。ただ…それでもセツナが介入すべき問題ではない。誰が悪いわけでもない。自分に出来ることは想いとキリトを大切にすることだけだ。

 

「…現実(リアル)では取り合ってもらえなかったからここで待つって伝えたんだ。」

「そっか。」

「だけど、それだけだ。どうすれば良いか分からない。」

 

 キリトのそんな言葉を聞き、ここでようやくキリトが浮かべている表情の真意が見えた。

 

「どうすれば…かぁ。」

 

 それは恐らくキリトの妹もそうなのでは、と言うことが窺える。兄妹として過ごさねばならないから本来は秘め続けてた想い。でもショックのあまり気持ちを整理しきれずぶちまけてしまった感情。落ち着いてからでは深い溝になってしまいそうだ。

 

「…キリトだって大切に想ってるのにね。」

 

 思い悩むのはそれだけ妹が大切だからだ。想いのベクトルが違うだけでそこは変わらない。

 

「…それを伝えれば良いんじゃないですか?」

 

 やんわりとかけられたユイの言葉。セツナもそれしかないのではないかと思う。ただし…伝える、その行為自体が重くのし掛かる。人との付き合いに壁一枚挟んで来たキリトにとって、決して得意なことではなかった。セツナとの距離を近付けるにも苦労した彼だ。きっと窮地さえなければ想いを告げることもなかったかもしれない。その事実は十分に承知しているようで、キリトは俯く。

 

「…話す他に想いを通わせる方法…か。」

 

 セツナは天井を仰いだ。同じく対話は得意ではないセツナ。こじれた仲を元に戻すにはどうしたら良いだろう。自分の少ない経験を必死に思い返した。すると正に、キリトとこじれたことがあったことを思い出す。

 

「キリト…!」

「ん?」

「私たち、どうやって仲直りした?」

 

 セツナの問いかけにキリトはハッとした。

 

「…それしか…なさそうだな。」

 

 妹がログインしてくれるかどうかは分からない。もし、してくれるなら解決方法は1つに思えた。後はひたすらに彼女を待つ。それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




と言うわけで…続きます。
リハビリも兼ねてだらだら展開でスミマセン。
ようやくアスナさんの影も出せました。
最新刊では二人の…キリトとアスナの絆を見せ付けられましたが、ここでは当然セツナです。
さぁ更新ペース取り戻すぞ!
活動報告にちょっくら事情をば。
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