白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

9 / 104
9:11層*月夜に鳴く黒猫と白猫②

 

 

 

 第24層ボス攻略会議。今回の指揮は第1層以来ディアベルがとっていた。彼が元ベータテスターだと言うのは攻略組にとっては衆知の事実ではあったが、そんなことも気にならない程に彼の人望は厚い。…もっとも卑怯なビーターとして名を馳せたのはキリトとセツナぐらいであり、ただの元ベータテスターである彼については、そう敬遠されることもなかったようだが。

 

 メンバーを見渡し、ディアベルは違和感を覚えた。そしてセツナの元に足を運ぶ。

「君の相棒どうしたの。」

 攻略組で、ある意味最も有名な一人と言って良いだろう、キリトの存在がそこにはなかった。ビーターとして有名なだけでなく一番のダメージディーラーでもある。

「知りません。最近この層にいないみたいだし。」

 そっけなく答えるセツナにディアベルは頭を抱える。

「キリトさんのいないボス戦なんて初めてじゃないか! 本当に君たち喧嘩してるのか!? あの時冗談なんて言ってる場合じゃなかった。」

 我関せずと最低限のことしか言わないセツナにますます悩まされることとなったが、それはキバオウがバッサリと切り捨てた。

「ビーターの一人や二人おれへんでもかまへんやないか! あいつがおれへんかて、そこの有名人がなんとかしてくれるやろ。」

 《アインクラッド解放軍》という巨大ギルドの一画を担う存在になってもこの男のビーター…主にキリト嫌いは直らないようだった。自身も揶揄されてはいるものの、まだわだかまりを残したままのセツナもそれにのっかり、

「そこの男もそう言ってるし、今回は良いんじゃない?」

と切り捨てた。いつもなら反撃を受けているはずと一瞬面食らっていたキバオウだったが、ま そういうことや、と直ぐに進行を促した。

 ディアベルはとんだ貧乏くじを引いたなと思い、顔をひきつらせた。二人との親交の厚いアスナやエギル、そしてクラインに視線を送るも皆首を横に振り苦笑いするばかりだった。お手上げ状態なのはみんな一緒なのだろう。まさか痴話喧嘩に攻略が乱されることになるとは、と集まった人間の多くは思っていたが口に出してセツナまで失ってしまってはにっちもさっちもいかなくなることは明らかで、諦めて状況を受けるしかなかった。何しろ何もなくとも、たまに仕方なく協力してるだけで何もない、と言い張る彼女だ。痴話喧嘩なんて言ったらどんな反発が来るか想像もつかない。

「じゃぁ、定刻だし会議を始めさせてもらいます。」

 考えてきたプランはリセットだな、とディアベルは腹を括った。

 

 

 

 その数日後、無事25層への扉は開きいつものようにアルゴの新聞が町を舞った。

【4分の1の世界へ】

 そんな見出しから始まる新聞を見て随分と取り残されてしまったのではないか、キリトはそんな不安に苛まれることになった。不安から低層へと拠点を移した今でも高層へ出向いてのレベリングを止めることはなかった。

 出会った時から彼らよりレベルは20以上も高く、それを言い出せずに嘘をついたままでいた。彼らのレベルの底上げをしていつか一緒に前線に辿り着ければとも思うが中々そうもいかない。もちろんそれはギルドリーダーのケイタの望みでもあるのだが。前線にいなくともトップレベルをキープしていないと不安でしょうがない。もうある種の病気のようだ。夜な夜なギルドが拠点にしている宿を抜け出し、レベル上げに勤しむ毎日だ。自分がいなくてもボス戦はクリアできる。そんな事実も面白くなく、居場所を確保したにも関わらず逆に迷子になってしまったようなそんな気分にもなった。そして…今回の新聞の写真。LAをとったのはどちらか。並んでいたのはセツナとディアベルで、普段から相棒―少なくともキリトはそう思っていた―にちょっかいをかけていた人間との写真が拍車をかけていた。セツナは特にいじっていないが髪の青く染められたディアベルと並ぶと正にゲームの世界のキャラクターのようで、自分とは遠い世界の人のように思えた。実際今、自分自身もその世界の中にいるわけなのだが自分といるよりも数倍自然な絵面なのではないかと。

「何見てるんだ?」

 急に話しかけられ思わず飛び上がった。そんな驚かなくても、と言いながらケイタが新聞を手に取る。

「あぁまた一つ層が開いたのか。凄いな。」

 素直な感想に調子を合わせる。

「…そうだな。」

 内心いかに面白くなかろうがここでボロを出すわけにはいかない。ここでの俺はあくまでも中層プレイヤーで攻略組のこと何て知らないことになっている。

「こんな女の子も最前線にいるのか。」

 ケイタが驚くのも当然で、ボス戦の写真が出回ることは珍しい。いつもは扉のレリーフや新しく開かれた層の町並みが記事と一緒に掲載されることが多かった。この間のようなフィールドボスならともかく迷宮区の奥のボス部屋までわざわざ取材に来る命知らずな情報屋はそうはいない。

「…その子この間のフィールドボスにも載ってたよ。」

 当然に知り合いとは知られない方が良いと思い調子を合わせ、すごいな、と言っておく。

「なぁ、キリト。攻略組と僕らとでは何が違うんだろう。」

 ケイタの純粋な疑問に俺は一つの答えは持っていた。俺自身が攻略組として生きていくために成してきたこと。

「うーん…情報力、じゃないかな。あいつらはどこの狩り場が良いとかどうすれば良い武器が手に入るとか情報を独占してるからな。」

 その為に色んなところを駆け回り、アルゴを始めとした情報屋に情報を買い、または売り…自分を強化することに努めてきた。しかしその答えはどうやらケイタのお気には召さなかったようだ。

「そりゃぁ…そう言うのもあるだろうけどさ、僕は意思力だと思うんだ。仲間もそれだけじゃなく全プレイヤーを守ろうって気持ち。守るべきものがある時、人は強くなれるって言うだろ。だから彼らはボスにも立ち向かっていけるんだ。その気持ちは僕も負けてはいないつもりだから、いつかは守る側になれると良いなって思うんだけど…。」

 実際そんな大層な気持ちは俺自身は持ち合わせていなかったし、前線のやつらの多くは遅れたくない、トッププレイヤーでありたい、と言うのが純粋なモチベーションだ。もしかしたらディアベル辺りはケイタの理想通りなのかもしれないが。でも守りたいって気持ちが強くする、それは俺にも分かる気がした。対等でいたかったんじゃない。俺は守る側になりたかった。その思いを今はここで、このギルドで埋めているのだろう。俺が本当に守りたいはずの彼女は今も前線で戦い続けているのだ。誰に守られることもなく。

「そう…なりたいな。」

 それは俺の本当の願いだろう。

 

 

 

 

 

 25層へのアクティベートが済むと、多くの人が待ち構えていたかのように町へ雪崩れ込んでくる。いつもならこんな光景をキリトと見ていたはずなのに今回は一人だ。他の皆はドロップアイテムのダイスロール。ギルドに所属したアスナも勿論例外ではない。

「今回はしんどかったなー…。」

「オツカレサマ。」

 溢した一人言に反応があり、反射的に仰け反った。

「…アルゴ!」

 驚く私をよそに、いつも通りのマイペースで彼女は右手を挙げた。

「よォ、セッちゃん!今回は良い写真が撮れたから号外の売り上げが良いんだヨ!」

 そう言ってやはりいつものようににゃははと笑った。そしてサービスだヨ、とその号外に掲載された写真をくれた。それは私とディアベルがLAに向かった瞬間のもので、そこには違和感が残った。

「よく、こんなもの撮ってたわね。」

「おねーさんの《隠蔽(ハイディング)》スキル、なめちゃいけないよ。」

「その高さはよく知ってるわよ。」

 違和感の正体はもちろんこの写真の撮影方法なんかではない。彼女の《隠蔽(ハイディング)》は私の《看破(リピール)》で見切れたことは一度もないのだから。

「んフフー。何がお気に召さないかナ。巷では評判だヨ。セッちゃんのファンにもオニーサンのファンにも売れル売れル。」

 含み笑いが憎たらしい。分かってて言ってそうなのがなんとも言いがたい。違和感の正体は隣にいる人間だ。大抵の場合ボス戦でもコンビを組んでるのはキリトなのだ。今回に限りソロプレイヤーのみそっかすはディアベルのギルドメンバーに混ぜてもらったのだ。…やたらと歓迎していただき、そのままギルドに加入しろと色んな方向から勧誘を受けたがそれはいつも通りお断りした。

「アーちゃんに聞いたゾ。本当に喧嘩してるみたいだとナ。」

 そんな情報をもっていながら売買されている形跡がないのは私が日頃から口止め料を支払ってるからか、彼女が私を友人として心配してくれてるからか。聞いても両方だヨ、と答えが返って来て真意が見えないのは分かっているので敢えて聞くことはしない。

「…喧嘩じゃないもん。」

 喧嘩とは違う気がする。じゃぁ何かと聞かれてもそれはそれで困るのだが。

「口には出さなかったがナ、みんな戸惑ってたゾ。」

 聞くことはしないが明らかに諭すような台詞だった。分かっている。生死をかけたこのゲームでは本来なら乱れは許されないことなど。だからその分ダメージディーラーとしての責務は120%の力をもって臨み、果たしたつもりだ。

「…ごめんなさい。」

 しかし他に言葉が見つからず口をついて出たのは謝罪の言葉。

「…その分いつもよりセッちゃんが無理していたのもみんな分かってると思うがナ。その分心配も増えたと思うゾ。」

 アルゴの言葉は実に的確で、アスナなどボスを倒し、【congratulation】の表示が出た途端に大量のポーションを抱え《リニアー》を繰り出すスピードと同スピードで飛んできた。

「まァ、さっさと仲直りしちまうんダナ。長引くと尾を引くゾ。」

 何も答えられずにいるとアルゴは手をヒラヒラとさせ雑踏の中へと消えていった。

 そしてその言葉は呪いのように、今後も私たちを苦しめることとなった。

 

 

 

 

 

 25層のフィールドボス攻略にも、そしてフロアボス攻略にも黒の剣士の姿はなかった。そのことに触れる者はいない。今までだってボス攻略に参加したりそうでなかったりした者はいた。それがただ黒の剣士になっただけ、そう解釈するしかなかった。今回の攻略を率いるはキバオウ有する《アインクラッド解放軍》。彼らにとっては目の上のたんこぶみたいな存在だろうから都合が良かっただろう。24層も25層のフィールドボスも無事に何事もなく乗りきった。彼がいなくとも大丈夫だと、そう攻略組(みんな)も思おうとしていた。

 しかしそううまくはいかないのが現実で、25層のボス攻略は今までにない大きな被害を出すこととなってしまった。

 

後悔先に立たず

 

 それに直面したセツナにも、それを後で知ったキリトにも大きな傷跡を残すと言う被害も含めて。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。