白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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エピローグ*笑って話せる未来に

 

 

 

 

 

 

 

「キリト! セツナ! SAOクリアおめでとう!!」

 

 パンッパンパンッと火薬の音と共に無数の紙吹雪に紙テープ。《Daicy cafe》、エギルの経営する喫茶店。扉を開くと、三人は沢山のクラッカーに手厚く迎えられた。誰が用意したのか同じ文言のくす玉も割られ実に盛大に。多くの元SAOプレイヤーが一同に介しており、見知った懐かしい顔が皆こちらを見ていた。

 

 雪菜も和人もキョトンとする。そして一緒に来た直葉も。鳩が豆鉄砲を喰らったような顔の三人を明日奈と里香が背中を押して中央まで招き入れた。

 

「ほらほら早く入ってー!」

「あんたたち今日の主役なんだから!」

 

 中に入るとサチやケイタの《月夜の黒猫団》の面々に加えて、シンカーとユリエールの《ALF》のメンバー。そして勿論ディアベルをはじめとした《竜騎士の翼》の姿も見える。弘貴(ディアベル)は雪菜と目が合うとヒラヒラと片手を振った。

 

「今日はオフ会だって…。」

「内緒で準備するの大変だったのよー!」

 

 SAO攻略記念パーティーのオフ会。そもそも企画したのはキリトとセツナだったはずだが、いつの間にか乗っ取られていたようだ。会いたかったが連絡を取っていなかった面々も見え、セツナはそれだけで嬉しくなった。服装こそ変わってはいるものの、懐かしく本当に嬉しかった。

 

「二次会の予定まで変わっていないでしょうね。」

 

 もみくちゃにされた後ようやくバーカウンターに座るとセツナはエギルに尋ねた。後方ではシリカとリーファが仲良く話しているのが見えた。エギルはサッと飲み物を出す間にセツナの隣はキリトとディアベルに埋められていた。

 

「二次会は11時にイグドラシルシティ。そればっかりは俺たちだけではどうしようもねぇな。」

 

 豪快に笑うエギルにそれもそうねとセツナは笑った。二次会とは言いながら、そちらの方がメインみたいなものなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二次会会場はコチラ。ALOの中だ。

 セツナは少し緊張しながら彼を待った。今日はALOのアップデートにて新生アインクラッドが誕生する日。そして…セツナにとっても新たな()()()だった。満月の光に照らされて、翅を緩く動かしながら慣性飛行する。ふわふわと浮かぶのがとても気持ちいい。

 現実世界に帰ることを願った。それが叶った今、ここもまた自分の本来の世界のように錯覚する。それほどに2年と言う月日は濃厚で、短くなかった。それに…茅場が言っていたことが当てはまるのかは分からないが、まるで母の胎内にいるかのように暖かく、落ち着く気がする。バーチャル世界への適応者。それがどのような意味を持っているのかセツナにはまだ理解しきれていなかったが、そう言うところなのかもしれない。

 ()()を操作しステータスウィンドウを確認すると、約束の時間まで後1分と言うところだった。キリトはなんと言うだろうか。徐々に緊張が高まる。…自分らしくもない。セツナは大きく深呼吸をした。優しく照らしてくれる月が少し隠してくれそうで、それがありがたかった。

 

「セツ……ナ………?」

「あ、キリト。コンバンワ。」

 

 どこか探るようにかけられたキリトの言葉。セツナはゆっくり振り返った。何故彼がそんな風に声をかけたのか、セツナには分かっていた。

 

「…まさか……光のせいだけじゃないよな。」

「……ん。」

 

 夜空を彩る月の光は目映く、鮮やかで柔らかい黄金色。それに照らされて、セツナの髪も黄金色に輝くがそれは光を反射してだけのことではなかった。

 

「変かな?」

「──…いや、……だけど……。」

「…だけど?」

「何て言うか…違和感と言うか……いや、決して似合ってないわけじゃない…ただ…。」

「何よ。」

「寂しい…そう、寂しいが正しいかもしれない。」

 

 髪型や装いが変わったわけではない。変わったのはセツナのトレードマークとも言うべきもの。

 

「もう、役目は終わったかなって。」

 

 セツナは遠く月を臨んだ。

 白銀の髪と深紅の瞳。アバターが自由に設定できるゲームで常に使ってきた現実と違わぬ容姿。勿論、SAOも例外ではなかった。

 あの世界で生き、学んだことは現実世界でもイキテいる。

 自分は茅場と同じなのかもしれない。あの世界を望み、憧れ、祝福した。もしかしたら多くの人にとっては憎しみの対象なのかもしれない。ただ、彼にそう言われた時、セツナは微塵もそんな感情は浮かんで来なかった。初めこそ戸惑い、苦しんだものの、今では全て必要だったことのように思えた。

 

「いいのよ。もう、この世界では《()()》でいなくても。」

「セツナ……。」

「そう、私は《セツナ》。」

 

 いつだってどこかに《雪菜》の居場所を探していた。それは《セツナ》として生きていく中でようやく見つけた。

 セツナは月の色の髪と深い海の瞳でゆっくりキリトを見た。

 

「キリトだって、皆のようにSAOのアバターを使わなかったのはそう言うことでしょ?」

「─――あぁ。」

「同じよ。」

 

 セツナがそう言って笑うとキリトは少し困ったように笑った。

 

「そう言われたら仕方ないんだけど…伝説のプレイヤーがいなくなるのかぁ…。」

「良いじゃない。伝説は伝説のままで。」

 

 穏やかに微笑むセツナの後ろには大きい影が姿を現していた。それを知ってかセツナの笑顔は不敵なものに変わっていく。

 

「――─こっちの伝説は姿を現してくれたけどね。」

 

 浮遊城アインクラッド。茅場晶彦の遺したもう1つのもの。その姿はあの日─――ゲームをクリアした日――─と同じく煌々と光り、その重厚な姿を湛えている。

 

「今度こそ100層までクリアしなきゃね。」

「一緒にな。」

「えーどうしよっかなぁ。」

「セツナ!!」

「ウソウソ。大好きだよ、キリト。君に会えて本当に良かった。」

 

 それだけ言うとセツナは翅を広げて飛び立った。

 憧れのその城に。

 

 舞い散る鱗粉がキラキラと輝く。

 

 キリトはそれに導かれるように翅を開いた。

 

 今度こそ、《セツナ》と共にこの世界を生きるために。

 

 

 

 

 

 

 




ラスト、駆け足になりましたがようやく完結出来ました。
後書きは改めて書きたいと思います。
セツナの色はプーカのデフォルトカラーのイメージです。

SAO編は完結まで一気に突っ走りましたがALOは紆余曲折を経てようやく…。
ここまでお付き合い下さいましてありがとうございました。
消化不良の部分もあるので番外編にて補足できたらと思います。
…特にキリセツ派の皆様には申し訳ないぐらいイチャイチャする詐欺が…滝汗
あとがき含め後ほんのちょびっとだけお付き合いいただければ幸いです。
後書きは多分SAO編と同じく活動報告になるかと思います。

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