白銀の証―ソードアート・オンライン―   作:楢橋 光希

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GGO編
プロローグ*赤い目


 

 

 

 

 

キンッ………キンキンッ…………

 

細かく重なる大小の金属音。

 

そして

 

ザシュッ…ザシュッ………

 

絶え間なく響く斬擊音。

 

 

 

 

暗い洞窟の中、それは確かにあったことだった。

 

ポタッ…ポタポタッ……

 

水滴が落ちる音が響き渡るほどの静寂は突如無くなった。

 

連隊を組んでいたプレイヤーたちに頭上から襲いかかるプレイヤーたち。

 

一気に水の音は別の物へと変質する。

 

バシャッバシャッと蹴り飛ばされ、飛沫を上げる。

 

沢山のプレイヤーが入り乱れ、無数の赤いエフェクトが光る。

 

叫び声と呻き声が洞窟内を谺する。

 

 

 

 

その中、私も槍を振るっていた。

 

ただ、無心で。

 

心を閉ざせ。

 

そうでなければ壊れてしまう。

 

いつもより武器が重く感じる。

 

反面、いつもより切れ味が良いようにも思える。

 

緑の柄の残像が妙に鮮明に見える。

 

 

何人かの敵が、加えた攻撃でポリゴンの欠片に形を変えた。

 

キラキラと散るポリゴン片は皮肉なまでに美しく、尚更事の凄惨さを表しているようだった。

 

 

 

『セツナ!!』

 

 

 

名前を呼んだのは誰の声?

 

 

どうしてそんな悲痛な声で名前を呼ぶの?

 

 

 

そして…

 

 

 

『黒の剣士、舞神、いつか必ず殺してやる。』

 

 

 

呪いのように吐かれた言葉は誰のものだったか。

 

 

 

『舞神を掻っ捌いた血の海に貴様を沈めてやる。』

 

 

 

怨恨を纏った呪文のような。

 

 

 

光る赤い目が刺すような視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜2時。雪菜は飛び起きた。

 呼吸は荒く、身体中から汗が吹き出し、目尻からは涙がこぼれ落ちていた。

 

「はぁっ……はぁっ…………、すぅ………はぁっ……。」

 

 大きく息を吸い込み、どうにか呼吸を整えた。

 

「夢……?」

 

 そんな状態なのにどんな夢だったのか全く思い出せない。とてつもなく怖く、忘れてはいけない記憶の筈なのに……。しかし思い出そうとすれば強い頭痛が襲ってくる。まるで、封じ込められた記憶のように。思い出すことを拒んでいるかのように。

 時計を確認し、額の汗を拭って再びベッドに横たわる。今日はもう寝付けないかもしれないと思いながら雪菜は瞳を閉じた。

 

カチッカチッカチッ………

 

 時計の音が静かに響く。

 規則的なそれを数えていると、乱れた呼吸は段々と落ち着きを取り戻していった。眠れないまでも休養はとれそうだ。

 

しかし…

 

 脳裏に映るのは赤く光る目。

 

 夢の内容は分からないのにそれだけが強く焼き付いていた。自分の瞳ではなく、明らかに他人の。強く、禍々しい光。こちらを真っ直ぐに見ている。

 

「…………っ!」

 

 目を閉じることすら出来ない。

 

 

 その日、早く陽が昇ることをただただ願った。

 

 

 

 

 

 




これで後戻りはできない…。
GGO編にして一番プロローグらしいプロローグ。

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