緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

11 / 96
カルテット 1

「かるてっと?」

 訝しげな表情で、俺はうどんを啜りながら時任の言ったことを反芻した。

 

 

 時間は昼休み。場所は学生食堂だ。テーブルの向かい側にはSSRの時任ジュリアがピロシキを食っている。

 

「そう。1年は全員参加の、4対4の実践テストだ。聞いてないのか?」

「うん、まったく」

 きっとHRの時に寝ていたから聞き逃したのだろう。いつものことだ。

 

「……大物というか、何と言うか…………」

 時任は頭を軽く押さえながら何やらボソッと呟いた。

 

「つーか、時任。お前はどうして俺と一緒に飯を食っているんだ。この前まで男に近寄るのも嫌がってただろうが」

「それは……心境の変化だ! お前には関係ない」

 ピロシキを口に運びながら、時任は強い口調で俺に言い放った。

 

「……あ、あと、私のことは苗字じゃなくて名前で…………」

「は? 何だって?」

「い、いや! 何でもない……」

 時任はプイッとそっぽを向いて指を弄りだした。

 

 何やらボソボソと呟いていて聞こえなかったので聞き返しただけなのだが、何か変なことをしただろうか。

 

 

「変なヤツだな。……そういや時任は誰と組むんだ?」

 箸を置き、俺は改まったように時任に話を振った。

 

 すると彼女は黙ったまま俺を指差してきた。ああ、コイツの頭の中では俺がチームに入ることが前提だったのか。龍達と組もうとしてたのになぁ、残念だ。

 

 

「で? あとの2人は誰なんだ」

「まだ決めていない」

「……はぁ!?」

 思わずそんな間抜けな声が漏れた。そんな俺を気にもせず、時任は平然とピロシキを口に運んでいる。

 

 

 だが、俺は思い出した。コイツが、ボッチだということを。

 

 

 時任は自身の持つ超能力、『脳波計』と性格のせいで、他人から避けられるようになってしまった。なのでこの様に、体育の授業でストレッチする時に『2人組を作れ』と教師から言われて1人余ってしまうようなヤツになってしまったのだ。

 

 

「……1人だけ心当たりがいる。まだ捕まってなければいいんだがなぁ」

 

 

 

 

 

 俺達は学食を出て1年A組教室に足を運んだ。そこでは弁当持参組が和気藹々と手作りの弁当を食べながら、友達同士で雑談したりしている。

 

 その中で、教室の真ん中辺りの席で何やらせっせと書類にサインを書き込んでいる女子生徒の姿があった。

 彼女の名前は志波ヰ子。狙撃科の優等生で、俺のクラスメイトだ。

 

 

「志波ー。カルテットのチーム、もう組んだか?」

「あ、響哉君。カルテットって――綴先生が言ってた実践テストのだよね。まだ決めてないよ」

「なら、俺達と組まないか? まだ2人で、数が揃わなくて困ってたんだ」

「うん、いいよ。もう1人は時任さんね。短い間だけど、よろしくね」

「こちらこそ、よろしく頼む」

 

 志波と時任が握手を交わし――――って、確かコイツの超能力は……!

 

 

「……志波さん。その書類を教務科に提出しに行くのなら西階段じゃなく東階段を通りなさい。西階段は清掃中で、今は通れないから」

「あ、ありがとう」

 礼を言う志波だが、その顔は引き攣っている。まあ、いきなりこんなことを言われたらこうなるのも当然か。

 しかし俺にはこの超能力は効かないらしい。もともとコイツは男子の頭の中なんて視たくもないそうなんだが、先日保健室で俺が無理やり視せようとした時には、俺が何を考えているのか分からなかったらしい。

 

 一般校区でぶつかった時には視られていたのに、不思議な事もあるものだ。

 

 

 

「ところで響哉、彼女と仲が良かったのか?」

「お前、コイツの席知らないのか? 俺の右隣だぞ」

「そう言えばそうだな」

 武偵高のクラスの席は、何ヶ月かに1回のくじ引きによって決まる。よって、出席番号順なら左の前の方になる俺の席は若干ど真ん中の右後ろ寄りの微妙な所にいる。

 

 その微妙な俺の席の右隣にいるのが、何を隠そうこの志波なのだ。

 

 ちなみに初めて話したきっかけは、志波の落とした消しゴムを偶然起きていた俺が拾ってやったことという古い漫画じみた事だというのだから、事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。

 

 

「さて、残りは1人だが……」

 ちらっと周囲を見ると、目を合わせたヤツがぷいっと視線を逸らしやがる。もう決まってるヤツもいるんだろうが、大体は時任と同じ班になりたくないからだろうなぁ。

 

 同じ班なら接触の機会も増えるだろうし、誰だって頭の中を覗かれるのは嫌だろう。

 

 

「……すまない、2人とも。私のせいで」

 

「気にすんな。根気よく声を掛けていけば――」

 

「――ちょっと待ってもらおうかッ!」

 

 落ち込んだ時任を慰めていたら、教室の扉が勢いよく開けられ、1人の男子が教室に入ってきた。

 

 

 

「誰だお前?」

「僕はD組の山吹進一郎。尋問科だ。あと、人に名を尋ねるときは自分も名乗るべきだとは思わないのかい?」

 眼鏡を中指でクイッとさせながら、その男子……山吹は俺達に名乗った。

 

「……強襲科の朱葉響哉だ」

「時任ジュリア」

「志波ヰ子です」

「君達、どうやら人手が足りなくて困っているようだね。たまたま廊下を通りかかった僕がこれまたたまたま耳にしてしまったよ」

 

(そんな事は訊いていないんだが……)

 内心溜息をつきつつ、山吹の妙に長い話に耳を傾ける。コイツと話していると、聞いているだけで疲れてしまいそうに思えてくる。

 

「良ければこの僕が君達の力になってあげようではないか」

「つまり、俺達の班に入れてくれってことか?」

「端的に言うならその通りだ。君はそんな事を一々確認しなければいけないほど頭の回転が遅いのかい?」

「…………」

 

(な、殴りてぇ……このメガネ野郎……ッ!)

 

 だが、俺達の班がメンバー不足なのは事実。もしかしたら誰も入ってくれないかもしれない。もしそうなれば教務科から何かしらの難癖をつけられて単位を落とされかねない。

 

 

 かなり癪だが、コイツを入れておいた方が色々と都合がよさそうだ。

 

「志波はどう思う?」

「わ、私は別に構わないよ。ちょっと個性的だけど」

 志波。お前、心広過ぎるだろ。仏様か何かかよ。

 

「時任は?」

「……男子なのはこの際我慢だ」

「俺も男子なんだが……」

 

 とにかく、2人ともギリギリだがお許しが出たわけだ。山吹を追い返す理由もあるにはあるが無いことにしよう。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。