緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

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アドシアード 4

 

 

「……なんで、お前がここにいるんだ…………!」

 エレベーターに乗っていた『彼女』は、クスッと笑って俺を見ていた。

 

「そんなコワイ顔しないで。そこの……志波さん、だった? コレ、あなたの銃でしょ」

 そう言って、『彼女』は志波にM24を渡した。

 

「あ、これ、私の銃です。ありがとうございます!」

 志波はM24を受け取り、体の前で両手で抱え込んで礼を言った。大切な銃だというのが目に見えて分かる。ぎゅぅぅっという音が聞こえそうなくらい力を込めているから。

 

「早く行きなさい。外にバイクがあるから、それで行けば今からでもまだ間に合うわ」

 『彼女』はそう言ってエレベーターから出て、志波を半ば強引にエレベーターの中に入れた。

 

「あの! あなたと響哉君は…………!?」

「……俺達は、後から行く。先に行っててくれ。応援には、駆けつける」

 

 エレベーターの扉が閉まり、火薬庫には俺と『彼女』だけが残った。

 

 

「3年ぶりね、響哉」

 『彼女』のよく透き通る高い声が、非常灯に照らされた地下倉庫に響く。

 

「……3年経っても、外見も、雰囲気も変わっても…………俺には解るぞ――――

 

 

 

――(リン)――!」

 

 

 『彼女』……燐は笑みを浮かべ、俺と対峙した。

 

 

「燐、どうしてだ? どうしてお前が死んだことになってるんだ!? 生きているなら、何で……ッ!」

「その方が都合が良かったからよ。私はあの日、教授(プロフェシオン)に出会ったことで自らの使命を知った。そのために全てを捨ててこうしてここに存在しているのよ」

 

 燐がそう言った瞬間、俺の背筋に強烈な寒気が走った。俺の記憶の中の彼女とはまるで違う、極寒の威圧感がその片鱗を浮かばせたのだ。

 

 

「……なぜだ、燐。何がお前をそこまで変えた!?」

「変わったんじゃなくて、成長したのよ。辛い、辛い、現実を知って……」

「……それを『成長』と言うのかどうか、俺には分からねえ。一体どうしちまったんだ、燐! 2年前のあの日、お前に何があった!?」

 

 燐は、終始笑顔のままだった。非常灯の赤い光に照らされて、その整った顔立ちが逆に俺の恐怖心を煽り立ててくる。

 

 

 

「響哉は知らないだけ。だから、教えてあげる。2年前、何があったのかを」

 

 燐は、おもむろに語り始めた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、志波は地下から脱出し、車両科(ロジ)の倉庫に出ようとしていた。

 そこには、2人の見知らぬ女性がバイクの横に立っていた。

 

 女性にしては短めの髪を後ろで結った長身の女性は、柔らかそうな物腰で薄い笑みを浮べている。

 もう1人の長髪で小柄な少女は、黒い外套を身に纏い身体を足まで隠していた。

 

「ああ、君が志波ヰ子さんだね。話は聞いているから、これに乗るといい」

 背の高い女性はそう言って横にあったバイク――サイドカーの取り付けられた『ヤマハ・YZF-R1』――を指差した。

 

「は、はい!」

 サイドカーには小柄な少女が座ったので、志波は長身の女性の後ろに座り、貸してもらったヘルメットを被る。

 

 バイクは猛スピードで学園島を駆け抜け、ものの数分で第3備品倉庫から狙撃科棟まで疾走した。人の通りが多い場所を極力避け、あまり使われない裏道から狙撃科棟まで回り込んでいることから、学園島の地理をよく把握しているし、その手のことに詳しくない志波でも、彼女の運転技術がかなりのレベルなのはすぐに理解できた。

 

 

 無事に狙撃科棟に到着した志波は、彼女達にむかって深々と頭を下げる。

 

「さっきの人のお知り合いの方ですよね? ありがとうございます! これで競技に出場できます!!」

「お礼なんていいから。さ、早くしないと時間に間に合わないよ」

「あ、そうですね。このお礼はいつか必ず返します!」

「いいよ、気にしないで。じゃあね」

 2人はそう言って、そのままバイクに乗ったまま志波の前から去って行った。

 

 ――本来なら、志波は疑うべきだった。なぜ部外者であるこの2人がここまで武偵高の地理を正確に把握しているのか。なぜ地下倉庫などという危険な場所に足を踏み入れることができたのかということに。

 だが、一度は諦めていた競技に出場できるという嬉しさが、彼女の思考を鈍らせていた。

 

 

 

 

「ユウ、さっきから一言も喋らなかったけど、具合でも悪いの?」

「……別に。アヤメがずっと喋りっぱなしだったから話しかけるタイミングを失くしただけ。それに…………話の邪魔をしたくなかった。アヤメは何かやってないとすぐに人を殺し始めるから」

「なんだ、わかってるじゃないか」

 アヤメと呼ばれた女は、ユウと呼んだ少女にニコッと笑いかけた。

 

「やれやれ…………顔はイイのに中身がコレじゃあ、いい相手なんて見つからないわけだ」

「本当にマセてるなぁ、ユウは。ユウの方こそ、その身体でお嫁に行けるの?」

 

 アヤメがニヤけながらそう言うと、ユウは、サイドカーに座ったまま鋭い眼光でアヤメを睨みつけた。

 そして、ユウはその外套の中から鈍く光る黒い塊を覗かせる。

 

 その塊は、巨大な腕の形状した機械だった。ユウの小さな体には不釣り合いな巨大な機械腕(マシンアーム)からは、膨大な熱量が放出されているらしく、瞬間的に熱された空気により陽炎が発生している。

 

「ごめんごめん。ほら、燐さんが待ってくれてるよ」

 アヤメはブレーキを掛けスピードを落とし、格納庫から現れた燐の前にバイクを止める。

 

 

「あらあら…………あんまり騒がないようにって言っておいたのに。仕方ないわね」

「これは、アヤメがからかうからで……」

「おいユウ! やったのはお前だろ! …………燐さん、もういいんですか? 3年ぶりに合う幼馴染なんでしょう?」

「ええ。でも、今の彼にはちょっと刺激が強すぎちゃったみたい」

 それに――と、燐は続ける。

 

 

「またすぐに、会えそうだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日夜、台場のクラブ・エステーラでA組による打上げが行われた。

 

「惜しかったな、志波さん。もうちょっとでメダルだったのに」

 喧し過ぎる店内で、時任ジュリアと志波ヰ子は並んでジュースを飲んでいた。

 

 響哉の同居人である戒が、一発芸で女子にドン引きされているが、この2人はそんな事を全く気にせずにいた。

 

 ちなみに志波の監禁事件の犯人は、頭を冷やし自分のしたことを後悔したそうでアドシアード終了直後に教務科に自首してきたそうだ。それでも、何らかの大きなペナルティは回避できないだろう。

 

 

 

「それにしても、あの人たちは誰だったんだろう。響哉君の知り合いだったみたいだけど……」

「ああ、例の3人か。お前の狙撃銃を探し出してバイクまで用意してくれたなんて、何か裏があると疑ってしまうくらい良い人だな」

「それは良い人に対する形容として適切なのかな? ……そういえば響哉君、応援には来てくれたみたいだけど、演奏の時はいなかったよね?」

「そうだな。まったく、私のチアの姿をそんなに見たくなかったのか?」

「それは違うと思うよ…………」

 

 ジュリアはコップに入ったジュースを一気飲みしてはぁと息をついた。

 

 

(響哉、戻ってきてからずっと上の空だったし……何かあったのか…………?)

 

 クラスメイト達が騒ぐ中、ジュリアは1人、響哉の異変に勘付いていた。

 

 

 

 

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