緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

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強襲任務

 

 

 

 蒸し暑い、8月の終わりの午前4時頃……俺はカナとともに、横浜の沿岸沿いにある人気のない倉庫街に訪れていた。

 

 少し伸びてきた髪を撫でる真夜中の海風は生暖かく、潮の香りが鼻を劈(つんざ)く。遠くからは車のクラクションの音や、船舶の警笛か何かの音が鼓膜を振動させる。

 

 

「本当にここで合ってるんですか?」

 蒸し暑くて脱いでいたB装備の防弾ジャケットを肩に担がせながら、俺はカナに尋ねた。カナは引き締まった顔付きで「もう少し待っていなさい」と答え、長い栗色の髪を海風に靡かせている。

 

 

 俺達は今、指定暴力団の銃器密輸を現行犯逮捕しようと、わざわざ横浜まで来て張り込みをしている。

 流れてくるのはAK47や中国のトカレフコピーがその多くを占めるが、大陸に近い九州地方などはイスラエルで製造された軽機関銃(サブマシンガン)や対戦車ロケット砲、果ては重機関銃まで密輸されているのだから、今の日本はアメリカほどではないにしろ立派な銃社会である。

 

 

 まったく、最近のヤクザどもは地球侵略に来た宇宙人と戦争でもしているんじゃないかと疑うような装備をしているのだからタチが悪い。密輸を食い止める方も用心しなくてはいけなくなる。

 

 

 

「隠れて、響哉」

 

 突然、カナが俺を押して倉庫の影に身を隠させる。

 俺は一瞬驚くが、すぐに標的が現れたのだと悟り、P2000を胸のホルスターから抜いた。

 

 

「大型トラックに乗用車4台。……数は15くらいか」

「まだよ。向こうから受取人が来たわ」

 

 カナの言う通り、さっきの一行とは反対側からワゴン車が3台やってきて、その中から黒服の男達がさらに20人ほど降りてきた。

 

 

 受け取り側と思われる男がアタッシュケースを持って受け渡し側の中国人風の男にその中身を見せる。中身はここからでは見えないが、麻薬か現金のどちらかであることは間違いない。

 

 受け渡し側がジュラルミンケースを受け取る前に、受け取り側が何かを要求しているように伺えた。どうやら、トラックの中身を確認したいようだ。

 

 

「…………ッ!」

 気が急いて、口が乾き、握把を握る俺の手に力が篭る。

 

 そんないつ引金を引いてしまってもおかしくない俺の手に、カナはそっと手を当ててこちらを振り返った。

 

 

 

「落ち着いて、響哉。焦る必要は、どこにもない」

 

 

「…………」

 

 そのたった一言で、俺の手からは自然と力が抜けていった。気持ちが安らぎ、精神に余裕が生まれた。しかし、緊張感は張り巡らせたまま。そんな理想とも言える精神状態に、カナは一瞬で俺を導いてくれた。

 

 

 これが、多くの経験により一流を超えた、『超一流』の武偵が成せる業だと言うのか。

 

 

「私が合図を出すから、響哉は右側(受け渡し側)を制圧して」

「了解。背中は任せたぜ、カナ」

「言うようになったわね。1年が」

 

 カナはニッと口元を歪ませて、また取引の様子を振り返った。その背はあまりにも大きく、そして頼もしかった。

 

 

「5秒後、行くわよ」

 カナの言葉に俺は頷き、P2000の引金に指を掛ける。

 

 

 

 

 ジェラルミンケースを持った男が、手下の黒服にトラックの荷台を確認するように指示を出した。駆け足でトラックの後ろに向かった男が、扉のロックに手を伸ばす。

 

 

 強襲まであと、2秒……俺は空いていた左手を、腰に隠していた小太刀の柄に伸ばした。

 

 

 1秒――沿岸沿いの倉庫街に突風が吹き込み始める。

 

 

 

 

「行くわよ!」

 

 

 カナは燻銀(マットシルバー)のコルトSAAで、まずトラックの近くにあった黒い乗用車を銃撃した。

 

 『不可視の銃弾』の6連発により放たれた銃弾は全て車に命中し、夜の静寂を嘲笑うかのような爆音を轟かせるとともに、中規模な爆発と炎を立ち上らせた。

 周囲にいた幹部と思われる者と、その取り巻き達は爆発の衝撃である者はコンクリートの地面に身体を打ち、またある者は暗い海へと落っこちてしまった。

 

 

 

 

 ――武偵弾(DAL)――。

 

 それは、1発1発が多種多様な機能を秘めた、強化弾。銃弾職人(バレティスタ)にしか作れないゆえに、1発数百万もする超一流の武偵しか手に入れられない必殺兵器(リーサルウェポン)だ。

 

 さっきクルーザーに撃ち込んだ弾丸は、間違い無くこの武偵弾だ。それも、炸裂弾。

 

 初めて生で見たが、なんて威力だ……。人に当てたら間違いなく死ぬ、武偵には行き過ぎた攻撃兵器だ。だからこそ、超一流の武偵にしか使えない代物なのだが。

 

 

 カナは混乱する黒服達の中に颯爽と駆け出し、次々と拳銃や短機関銃(サブマシンガン)を弾き飛ばしていく。この速さで、正確に銃身だけを狙い撃ちしているのだ。当たり前だが、俺にはこんな一瞬でこんな芸当はできない。

 

 

(それでも、やれることはある!)

 

 カナの方に注意が向いていた黒服の腕を掴み、関節を極めて肩を脱臼させる。そのすぐ後にP2000で周りの黒服達の肩や腕を撃ち、近いヤツらは肘鉄や蹴り、小太刀による峰打で薙ぎ倒していく。

 

 

「っぐぅ……!」

 峰打で側頭部を攻撃した黒服が呻き声を出し、倒れずにその場で踏み止まった。勢いが刀身に乗り切らなかったのだ。

 

 その右手には、54式拳銃(中国のトカレフコピー)が握られていて、銃口が俺の身体を捉えている。この至近距離だ、何もしなければ外す方が難しい。

 

 

 

「クソッ……!」

 

 俺は悪態をつきながら、身体を捻りつつP2000の握把で目の前の黒服の頭部を殴り飛ばした。

 それとほぼ同時に54式拳銃から1発の銃弾が発射されるが、弾は防弾ジャケットを掠めるだけで何とか直撃は避ける事ができた。

 

 

 ……が、俺の視界に飛び込んできたのは、俺のちょうど真正面で拳銃を構える黒服の姿だった。

 

 第六感が警告してくる。ヤツの狙いは俺の眉間で、その腕前は相当なものだと。もしかしたら、元警官か武偵などの職に就いていた者かもしれない。

 

 今のタイミングでは、回避は非常に難しい……いや、不可能だった。既に身体を捻って体勢を崩した状態では、次弾を躱すことはできない。

 

 

(万事休すか……ッ!)

 

 一瞬、死を覚悟しようとしたその時――――俺はP2000を持ったまま、右手を54式拳銃の射線上に斜めになるよう構えた。

 

 

 そして54式拳銃から放たれた銃弾は、真っ直ぐに俺の右手の甲……FLG(フィンガーレスグローブ)の、超硬合金で防御された部分で跳弾し、手の甲に弾かれて斜めに逸れた。

 

 

(俺は今、銃弾を弾いて斜線を曲げたのか……?)

 

 意識はしていなかった。しかし、身体は一寸の狂いもない的確な動きをしていた。

 

 

 最速かつ最適な動きを『直感的』に――――条件反射と呼ぶにはあまりにも正確な反射を、俺は今さっき実現したのだ。

 

 

 しかし、跳弾の衝撃で右手は少し痺れていて、感覚が鈍くなっている。こればかりはしょうがないか。

 

 

 

 

 俺はそのままP2000を前に向け、俺を撃った黒服の54式拳銃を狙い撃ちして手から弾き飛ばした。

 

 

 

「バカな……!?」

 

 この世ならざるものを見ているかのように目を点にする黒服に、俺は油断なくP2000の銃口を向けた。

 

 

 背後では、カナが既に向こうの暴力団を全員制圧していて、この黒服が最後の1人になっていた。

 

 

「投降しろ。もう終わりだ」

 

「っく……」

 

 

 最後の黒服は両手を上げ、降伏の意思を俺とカナに示した。

 

 

 

 

「これにて一件落着、か――」

 

 

 カナの先祖である遠山金四郎氏の決め台詞を口ずさみながら、俺は両手の武器を戻し、水平線から昇り始めた朝日を眺め安堵の息を吐いたのだった。

 

 

 

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