緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

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強襲任務 2

 

 

 深夜の都内某所、5月にしては暖かい風が吹く中、俺は車両科1年にしてキンジの友達の武藤剛気が運転するバンにキンジ、レキと乗り込み、目的地である指定暴力団経営の風俗店へ向かっていた。

 店に直接出向く俺とキンジは、防弾ベストに面あて(フェイスガード)、フィンガーレスグローブと警察の機動隊が着ているような『C装備』姿で、各々の拳銃の薬室にスライドを引いて銃弾を装填する。ジャキッと小気味のいい金属音がして、俺は大きく息を漏らす。

 

 

「……それにしても、たかが風俗店の摘発に、随分重装備ですね」

 

 運転しながら、武藤が助手席に座る俺に話しかけてきた。

 

 後ろの座席には武藤と同じクラスのキンジとレキが座っているのだが、初めての任務で緊張しているキンジと元から口数の極端に少ないレキとでは、中々話しかけ難かったのだろう。

 

 

「簡単な話だ。今から行く所が、ただの風俗店じゃねえんだよ」

「……?」

「『三郷会』っていう、関東では最大規模の指定暴力団がやってるのさ。昔から一部の構成員が拳銃持ち歩いてたとかいう話があるが、今じゃ拳銃どころか突撃銃(アサルトライフル)短機関銃(サブマシンガン)まで仕入れて派手にやってやがるのさ」

「うへぇ……マジすか、それ」

 

 前を向いたまま、武藤が露骨に嫌そうな顔をする。まあ確かに、そんな関東でも1、2を争うようなヤバい連中に間接的にだが関わるのは誰だって嫌だろう。

 

 

「でも、だからって狙撃手(スナイパー)がいるのは変じゃないっスか? 風俗店って、基本的に窓がないか何かで塞いでるもんでしょ? 撃てるんスか?」

「店の方を狙撃したりしねえよ。狙撃してもらうのは3階の事務所の方だ。それと1人、かなり危ない用心棒がいるそうだから、その相手をするのにレキみたいな狙撃手が欲しかったってわけだ」

「へー。事前調査や対策は完璧なんスね」

「まあな。事前にできた準備を怠れば命に関わるのが俺達だ」

 

 尤も、怠らずとも死ぬ時は死んでしまうのだが……。

 

 銃の点検はしてきた。C装備にも問題はない。予備弾倉(スペアマガジン)も持てるだけ持ってきた。武藤の運転も安定していて酔うこともなく、このまま行けば予定時間ジャストに目的地に到着する。今のところ、全てが順調過ぎるほどに進んでいる。

 

 ある1つを除いて、今のところ目立った不安要素はない。強いて言うなら、キンジが緊張し過ぎでヘマをやらかす事くらいか。

 

 

(ああ、本番でそれしそうだな。キンジのやつ)

 

 まあ今回は出撃というものに慣れさせるのが第一の目的のため、キンジは最悪何もしなくてもいい。気が急いて飛び出して行き、とんでもないミスを犯して今後の任務で萎縮してしまわないようにさせるのが難しい所ではあるが。

 

 

「あ、先輩。指定の場所に着いたっスよ」

「ご苦労だった、武藤。このままレキを次の場所に送ってやってくれ」

「了解っス」

 

 軽い感じで左手を額の高さまで上げ、俺とキンジが車から降りドアを閉めると武藤はすぐ車を発進させレキを狙撃地点まで送りに行った。

 まだ高校生になって1ヶ月だというのに、武藤の運転は外から見ると熟練者のそれのように安定していた。流石はAランク。車の運転などお手のものか。俺も来年になったら武藤に運転教えてもらおう。

 

「キンジ、準備はいいか?」

「は、はい」

「よし、行くぞ」

 

 近道するため大通りから外灯の光も届かないような細い路地へと歩き、これから出入り(・・・)に行く風俗店へと向かう。

 時間も時間なので人の通りも少ないため、俺達は誰に見られることもなく通り沿いにあるその店のある雑居ビルまで辿り着くことができた。

 

 この雑居ビルは3階建で、1階では飲食店を経営している。2階が深夜のみ営業している風俗店で、3階が関係者以外立入禁止となっている。

 そのビルの横の、大人2人が何とか通れるかどうかという狭い路地に、薄っすらと光る看板が立てかけてある。近くまで寄らないと文字は読めなかったが、その立看には少し崩した文字体で『堕天使』と書かれていた。

 

 

「いろんな意味で落ちるとこまで落ちちまった奴らの溜まり場って感じだな」

「どっちの意味ですか、スタッフか利用者の」

「両方に決まってんだろ」

 

 ガン! と立看を蹴り飛ばし、俺達は2階に上がり扉の前でアイコンタクトを済ませた後わざとらしく大きな音を立てながら扉を開け、突入した。

 

 

「な、なんだアンタ達は!?」

「武偵だ。風営法違反等の容疑て捜査令状が降りている。事と次第によれば、ここにいる全員の身柄を一時的に拘束する」

「ガキが、調子乗ってんじゃねぇっ!」

 

 中に入ってすぐの所にあったカウンターの下から、受付の男が自動式拳銃――恐らく中国のトカレフコピーを取り出し、その銃口を俺に向けようとした。

 

 

「手間かけさせんじゃねえ三下ァッ!」

 

 第六感でそれを予見していた俺は即座に男の持つトカレフコピーを掌で下から押し上げるようにしてスライドを男の顔面にぶつけ、男を仰け反らせた。そのはずみで引金を引いてしまったのか、銃声があまり広くない店内に響き渡り、射出された銃弾が天上に減り込む。

 

 俺はカウンターに片足を乗り上げ、P2000の握把で男の首を殴って気絶させた。

 

 奥の方で銃声を聞きつけた客と風俗嬢が慌て始める声が聞こえてくる。面倒な流れになってしまったことに溜息を吐きながら、キンジとともに店の奥へと進もうとした時だった。

 

 

 若い風俗嬢の1人がさっきの銃声で錯乱し、奥の部屋から急に飛び出してきたのだ。

 俺は咄嗟にそれを避けるが、後ろにいたキンジは避けられず盛大に嬢とぶつかり、押し倒される形になってしまった。

 

 目のやり場に困るような派手で露出度の高い服装は、背中が殆ど見えている状態で、さっきの一瞬で見た限り前の方もかなり露出していたはずだ。おまけに襟の部分が少し開けて露出度がさらに上がっている。

 そんな格好の嬢のそれなりに大きめの胸が、際どい所まで顕になってしまっていた。

 

 

「ひゃ、ひゃああ!?」

 

 今置かれている自分の状況――もとい、体位を理解したのだろう。か細い声で悲鳴を上げながら彼女は腰を引かせて後退った。そして漸く、上に乗り掛かっていた嬢がいなくなったためキンジがゆっくりと立ち上がる。だが、その雰囲気はさっきまでの彼のものではなくなっていた。

 

 

 ヒステリア・サヴァン・シンドローム……通称HSS。キンジはヒステリアモードと呼称しているそれは、性的興奮状態に陥ると人格が変わり、身体能力が通常の約30倍に増強される脅威の特殊能力。その状態になったキンジの実力は、条件次第では俺を遥かに凌ぐ。

 これはつまり、今回の任務でかなり大きな不安要素だった『キンジのミス』が完全になくなったということだった。

 

 

「お前、女に免疫なさ過ぎだろ」

「何言ってるんですか。逆に、失礼ってもんですよ。あそこまでされてならないっていうのは」

 

 気取ったように倒置法を駆使しながらそう言うキンジは、今だに腰が引けている嬢に歩み寄り、片膝をついて視線を合わせた。

 

 丁度その時、カウンターにあった固定電話に内線で電話がかかってくる。上の事務所から下の状況を確認するために電話を入れてきたのだろう。

 

 

「ごめんね、これも仕事なんだ。悪いけど少しここで大人しくしていてくれるかい?」

「え……は、えぇっと……」

「キンジ、急ぐぞ。この階にはもう連中はいない」

「了解。いいかい、絶対に外に出ちゃダメだ。そこのカウンターの中でじっと隠れてるんだよ」

「は、はい……」

 

 戸惑いつつも何とか頷いた嬢は震える足並みでカウンターの中に入り、姿勢を低くして隠れたのを確認してから、俺とキンジは扉を蹴破って店の外に出た。

 

 暴力団の連中はまだ外に出てきていない。さっきの内線電話から考えて、どうやらまだ上の階の連中は状況を把握できていないようだ。

 

 

「キンジ、お前は屋上からターザンで窓から閃光手榴弾(スタングレネード)を投げ入れて強襲しろ。俺も同時に正面から突入する。レキは狙撃で組員の持ってる武器を破壊してくれ」

「わかりました」

『はい』

 

 俺達は作戦を確認した後、音を立てないように階段を駆け上がりそれぞれの持場に付いた。インカムから、キンジとレキの声が耳に入ってくる。

 

 

『準備完了しました』

『いつでも構いません』

「よし。3秒後に降下、5秒後に突撃だ」

『了解』

『わかりました』

 

 扉の前で屈み、拳銃を構えながらキンジが閃光手榴弾を投げ入れるのをじっと待つ。

 

 4秒後、部屋の中でガラスの割れた音が響く。そして次の瞬間、室内から眩い閃光が窓の外に漏れ出した。

 それと同時に、俺はドアを蹴破って突入。ワンテンポ遅れてキンジが窓ガラスを突き破って強襲した。

 

 閃光手榴弾の光で目を潰された暴力団の組員は抵抗する余裕もなく、俺とキンジに接近を許してしまう。

 数は7人。まず、レキが狙撃で中にいた組員が持っていた拳銃と短機関銃(サブマシンガン)を弾き飛ばす。その後、キンジは即座に奥にいた3人を後ろから仕留め、俺は正面から残りの4人を掌底と回し蹴り、肘打ちからの掛け蹴りでダウンさせた。

 

 予定通り、一瞬でこの場を制圧したと思った、その時――――

 

 

「くっそおおおお!」

 

 机の影に隠れていた男が、イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ社(IMI社)製の短機関銃、『UZI』を構え、その引金に指を掛けていた。

 

 UZIの……というより、短機関銃の命中精度は決して高いとはいえない。だが、元々射手の腕があまり良くなく、かつこの距離では拳銃弾を高レートでバラ撒くUZIは驚異的な武器だった。

 

 

 俺は咄嗟に床を蹴って、UZIを持つ男に肉薄する。それとほぼ同時に、男の手からUZIが弾き飛んだ。

 レキによる狙撃。咄嗟の状況で、且つ狙撃し難い部屋の隅でも、それは正確に男の持つ短機関銃の銃身を捉えていた。

 

 そして俺は男の懐に飛び込み、無防備になった男の顎に渾身の掌底を炸裂させた!

 

 

 ゴッ、と鈍い音がして、男の体が仰け反りながら少し浮いて、俺はすかさず男の顔を鷲掴みして彼の背後にあったロッカーに殴りつけた。

 大きな音がしてロッカーが壊れ、男は白目を剥いて沈黙。少々力加減を誤ってしまっただろうか。

 

 

「制圧、完了……」

 

 大きく息を吐きながら、俺はそう言って周りを見渡す。だがその時、俺はあることに気付いた。

 

 

(奴が……いない……ッ!)

 

 すぐに予め頭に叩きこんでおいた見取り図を思い出し、この事務所の2階にはここと、その隣に倉庫となっているはずの2つの部屋があることを思い出す。

 

 即座にその倉庫へと繋がるドアのある方を振り向いた瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――壁添にあったはずのロッカーをふっ飛ばし、建物の壁をぶち破りながら2メートル近い大男が現れたのだ。

 その手には人を切断できそうなほど巨大なワイヤーカッターが握られていて、肩には突撃銃(アサルトライフル)の『AK-47』が下げられている。

 

 

「な……ッ!?」

 

 俺は倒れてきたロッカーを避けようとしたが、左肩を持っていかれ床に倒れてしまう。

 そして、目の前の大男がワイヤーカッターの刃を開き、その凶刃を俺の首へと向ける。

 

 とんでもない奴だという話は聞いていたが、ここまでイカれた野郎だとは思っても見なかった。

 

 

 『血に飢えた怪物』、岡田十蔵――!

 

 

 

 

 

 

 

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