緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

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投稿が遅れてしまい申し訳ありません。最近執筆時間を割くことができず進行が遅れがちになりそうなので、勝手ながら以前のように週1で投稿するのは難しくなると思います。


ジオ品川騒乱 3

 

 

「…………」

 

 中国人風の男は、雅に気さくに声を掛けた。が、雅は口を閉ざしたまま沈黙を貫いている。

 

 

「雅……あいつらはお前の知り合いなのか……?」

「昔の仕事仲間」

 

 最小限の言葉数で、雅は俺の質問に答えてくれた。

 

 確か、自分は中国で育ったと雅は言っていて、時雨沢組の用心棒をやっていた。なら、この3人も中国の傭兵集団の者なのだろうか。

 

 

「『仕事仲間』、ですか。悲しいですねえ。我々は同じ境遇の家族みたいなものじゃないですか」

「私はあなた達を家族だなんて思ったことは一度もない。私の家族は……姉さんだけ」

 

 辛辣な台詞とともに、雅はコンバットナイフと――――鈍い銀色の光を放つ自動式拳銃『ベレッタM8045 クーガーF』を抜き、身体の正面を開く我流の一剣一銃(ガンエッジ)の構えを取った。

 

 雅のあの拳銃を見るのは、実に1年ぶりだ。去年の7月、俺と相対した雅が本気で俺を殺しに来た時の獲物、それがあのクーガーだった。

 青木と対峙した時も、河上と櫻井を相手にした時も出さなかった『相手を殺すための獲物』を、雅は今、使おうとしているのだ。

 

 

「雅、武偵法9条を忘れたか!?」

「…………」

 

 俺は怒気を含ませた声で雅に問う。が、雅は口を開こうとしない。

 

 

「無駄だぜ。久我雅は自分の手で人を殺したことがない。姉の形見のその拳銃で殺してきたんだ」

「……どういう意味だ」

「その拳銃に死んだ姉を重ねてるのさ。つまり、コイツは姉に殺してもらってるつもりなんだよ」

「そんな理屈がまかり通ると思ってんのか」

アイツ(久我雅)の中では通ってるんじゃねえの」

 

 少女は失笑を交えながら俺にそう言い返してきた。

 

 ――ふと、銭形の言葉が脳裏を過る。

 雅は俺達の仲間だ。だが、それが偽りである可能性は? 彼らと敵対しているという根拠は? 久我雅という人間の何を俺は知っている? そもそも、俺は何を持って雅を信頼に値する者だと考えていた?

 

 雅は武偵高に転校してきた日、俺に言った。『私はあなたの傍で、あなたの力になる』、と。その言葉には一切の嘘偽りもなかったと、断言できる。

 

 

(十分だろ、それだけあれば――――!)

 

 俺はP2000のトリガーガードに掛けていた指を引金に掛け、発砲の準備段階にあることを示した。が、目の前の3人はそれに全く臆することはない。

 『銃に慣れている』というよりも、『死を恐れない』という感じだ。

 

 

「雅さん、それはつまり……我々と敵対するという意味ですか」

「答える必要はない」

「なるほど、それは残念です。――ナターリヤ、先へ行って下さい」

「りょーかい」

 

 軽い返事をして、金髪の女が動き出した。奥の部屋に行くつもりだ。

 

 それを阻止しようと雅が飛び出したのとほぼ同時に、中国人の女が稲妻の如く距離を詰め、折りたたみ式の刃物――――フレームロックナイフと呼ばれる、携行性に優れた小型のナイフを逆手に持ち、逆袈裟の容量で振り上げた。

 雅の防弾制服と顔の皮膚を薄く切ると、女は反対の手にもフレームロックナイフを開き密着状態のまま雅の腹部へ刺突を繰り出す。

 

 が、雅はそれを超人的な反射神経で後ろに跳んで避け、クーガーの引金を2回引いた。

 射出された弾丸は狙いが甘かったせいか命中はしなかったが、しかし、中国人の女は自身のすぐ隣を通った弾丸にすら恐怖を感じていないようだった。

 

 

(ヤバいな、これは……)

 

 その中国人の女を凌ぐ実力を持っているであろう男が、一瞬遅れて動き出した。

 それに対し、俺はP2000を撃って迎え撃とうとする。が、それを当然のように避けながら、男は俺に肉薄してきた。

 

 

(こいつら、弾丸を『避ける物』としか認識してない質だな)

 

 なぜそんな事が解るのかというと、俺や雅がその口だからだ。

 

 

 男は俺との間合いを詰め、拳による鋭い打撃を放ってきた。型は古い拳法のそれに近いが、太極拳の動きに近いと感じた。

 1撃目を躱した直後、即座に2撃目が放たれた。避けられないと判断した俺はガードで受け止めようとしたが――――

 

 

 

「ぐっ……!?」

 

 ドンッ、と重い衝撃が腕から肘、上腕から肩を伝って身体へ流れてきた。

 左上半身が一時的に言うことを聞かなくなったと悟った俺は、0距離でP2000を男に向けて発砲したが、それすら予期していたように、男は俺のP2000の銃身を蹴り上げながら後ろに跳び退いた。

 

 

「これであなたの武器はなくなりましたね」

「……最初から時間稼ぎが目的か」

「それはお互い様でしょう。私とあなたが本気でぶつかり合えばお互いにタダじゃ済まない。それが分かっているからこそ、あなたは加勢が来てくれるまでの時間を稼いでいる」

 

 男は見透かしたようにそう言った。

 

 

「そういうアンタは、あの金髪が明を仕留めるのを待つ算段か」

「任務以外での無駄な殺生はしない主義なのでね。――しかし、我々も決して一枚岩というわけじゃありません」

 

 フッと微小を浮かべ、男はさらに言葉を続けた。

 

 

「私の仲間に、地上にいるあなた方の仲間に恨みを持つ人間がいましてね。恐らく、そろそろ対峙している頃でしょう」

「……銭形のことか」

「あなたが待っているのは恐らくその銭形さんでしょう。ですが、彼は来ませんよ」

「それはどうかな?」

「随分信用しているんですね」

「そんなんじゃねえよ」

「…………?」

 

 男は「わからない」とでも言いたげに、訝しげな表情をさせながら首を傾けた。

 まあ、分からないだろう。当の俺ですら、なぜそう思うのかも分からない。

 

 

 ただ、俺にはあいつが誰かに負けるという光景を連想できない、それだけだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ナターリヤ・ヴォロトニコフが連二たちを追って隠し通路を抜け、地下鉄の上に広がる薄暗い空間を走っていた、その時だった。

 上から奇襲を仕掛けてくる気配を感じ取り、ナターリヤは即座にマシェットを抜刀すると同時に振り上げ、頭上からの攻撃を迎え討った!

 

 金属同士が擦れ合う甲高い音が響き渡り、頭上から奇襲を仕掛けてきた相手はナターリヤのマシェットに打ち上げられた反動を利用して、宙返りを披露しながら間合いを取り向かい合う。

 

 奇襲を仕掛けた人物の正体は、Blitzの鷹見伊織であった。

 

 

「ヒョッヒョッヒョ……今の動き、雅とそっくりじゃないの。どういうカラクリ?」

「…………」

 

 ナターリヤが不気味な笑みを浮かべているのに対し、鷹見の表情は真剣そのものだ。ナイフを左手に、右手にP230JPを携えた、一剣一銃(ガンエッジ)の構えである。

 

 

「答える気はなしか……ヒョヒョ。まあ、どうでもいいか」

「あなたは何者? なぜ城戸くんを狙うの?」

「ヒョヒョヒョ、愚問だな。私たちは任務を遂行しているだけだ。それはお前たち武偵も同じだろう?」

「……そう。残念だけど、それを聞いた以上、私はあなたをここで倒さなきゃいけなくなった」

 

 キッ、と鷹見の視線が鋭くなった。その彼女の雰囲気が僅かに変化したのを感じ取り、ナターリヤは「ヒョ?」と首を傾げた。

 

 

「かかっておいで。すぐにその薄ら笑い、できなくしてあげるから」

「ヒョッヒョッヒョ……面白いじゃないの……!」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ――10分ほど前のこと。

 

 あまりの茶番に付き合っていられないと感じた銭形は、1人で誰にも言わずにひっそりと外に出ていた。あれだけの面子を揃えていれば、邪魔する者を全て排除して目標である城戸を逮捕することは容易に出来ると考えていたからだ。

 

 下らない。常に単身であらゆる状況(シチュエーション)の超高難度任務を成功させてきた彼にはそう感じた。

 それは圧倒的なまでの自信によるエリート意識によるものであったが、同時にこの程度ならば響哉たちだけでも何とかできるという信頼の証でもあった。

 

 

 しかし、外に出たはいいがずっとこの場にいるわけにもいかない。適当な時間になったら地下に戻らなければならないのは当然だった。

 いつ頃あそこへ戻ろうか、そう彼が考え始めた、ちょうどその時。

 

 

「――――!」

 

 突如、銭形のいた場所に道路標識が飛来してきたのだ!

 

 引きぬかれた道路標識は空を切り、路上駐車されていた車のサイドガラスを貫通し止まった。銭形はそれが投げられた方向を睨みつける。

 

 

「ほう、今のを躱すか。流石だ」

「……誰だ、貴様は」

「この俺のことを忘れたか?」

 

 屈強な体付きをした大男――――リカルドを一瞥し、銭形は懐から先祖代々伝わる十手を抜いた。

 

 

「有象無象の顔と名など逐一覚えているとでも?」

「ならば殺す前に思い出させてやろう。俺は【北欧の死神】、リカルド・ダールマン! 銭形、お前を殺す男の名だ――――ッ!」

 

 

 雄叫びを上げながらリカルドは銭形に肉薄し、その丸太のように太い腕を銭形に向けて振り下ろした。

 

 が――――

 

 

 銭形は目にも留まらぬ速さで十手を振るい、リカルドの振り下ろしてきた右腕を弾き上げた。鈍い音を立てたその手骨は、粉々に粉砕されていて原型を崩してしまっている。

 

 

「――――!?」

 

 リカルドがそのことを悟り、悲鳴を上げる直前に、銭形は捻った身体に力を込め、全身の筋力を集約させ渾身の左拳を突き出した!

 銭形の手がリカルドの身体にめり込むと、彼の巨体は盛大に吹っ飛びガードレールに衝突し、それにもたれ掛かるようにしてリカルドは脱力する。

 

 

「悪いが……『死神』の相手は片手に余るようになって以来、覚えるのをやめている」

 

 冷徹な視線でリカルドを一瞥しながらそう呟いた銭形は、右手に持った十手を懐に収め、突然右後方を振り返り、その先にある高いビルの屋上を睨み上げた。

 

 

狙撃手(スナイパー)か。――いいだろう。退屈凌ぎに、少し遊んでやるぞ」

 

 攻撃的な笑みを浮かばせながら、銭形はビルの方向へ歩を進め始めた。

 

 

 

 

 

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