名前も容姿も成績も。
しかし、勇者召喚されたその日、平凡から違うものへと変わりかけた話
あと一発作品です。
誇るわけではない、いやむしろ劣等感を感じているのだけど、僕こと木島太郎は平凡である。
一時期はどうにか浮いたファッションやら持ち物やらで目立とうともしてみたが効果は薄く、今じゃ平凡という全体を半分で割った平均値にいることに納得すら覚えている。
例えば容姿、当然中の中。告白される事はないが差別されるほどでもない。
例えば成績、中の中。偏差値は50〜55の間をブラブラと。
例えば交友関係、10人。全員と最近会ってない。たまに集まって何処か行くくらいの関係性。
平凡。そう口に出してみるとやはりと言うべきか、どこか劣等感というか、マイナスの感情が辺りに渦巻くのを感じる。
それはきっと平凡が悪いからではなく、詰まらないからだろう。在り来たりで、どこにでもあって、そして中身は過ごし慣れた味。だけれども全てが偏差値50程度の僕にはなるほど、まさに相応しい称号だと自覚できる。出来てしまう。
だからこそ僕という人間は平凡なのだろう。
平凡が僕という個体を作り上げているのではなく僕自身が平凡を作り上げているの。
だから今日も1日が無事に終わると思っていた。
「あー五時限かったりかったー!」
そう言って背伸びする前の男子生徒。名前はなんと言ったか、確か鈴木だったろうか?
「なあ木島、次の教科なんだっけ?」
突然後ろに振り向いて僕へと話しかける鈴木。凡その鏡である僕は動じることなくそれに応える。
「現代文じゃなかったっけ?」
「そうか、…かったる」
そう言いながら首元の剣の形をしたネックレスを弄る鈴木。…そう言えば彼は昨日までそんなアクセサリーを付けていただろうか?
「ねえ、そのネックレス」
「ああ、気付いちまったか」
いや別に特に気にしたわけではないのだが。ただその話題に触れて欲しそうな身振り手振りをしていたからそれに応じただけであって。
そんな事を心では思いつつも外面には出さず話を続ける。
「…実はこれはな、あいつとの、姫さんとの契りなんだ。約束の証拠と言うべきかな?」
へへっと照れながら笑う鈴木。…彼はこんな電波的な中二病を伴った残念な人物だったろうか?どちにしろマトモに相手する方が面倒そうだ。
「ほら海斗!変なこと言わない!」
「うおっ!何も殴んなくても良いだろうが!」
突然、あまりに突然だが彼を殴ったのは女子生徒だった。確か、浜名とかいう苗字だったはずだ。
「…って浜名、君も今までブレスレット何かしてた?」
そう、彼女はそういうおちゃらけたというか、そこまで自己主張の強いアクセサリーは付けない主義だったはずなのだ。それなのに付けているということはそれ相応の事情があるのだろうか?
「…まあ、これは未練と言うか……今の無し!こんなことで元カレのプレゼントの自慢とか恥ずかしいから!」
「お前元カレ居たのかよ⁉︎」
その点には鈴木に同意である。身持ちが硬そうな彼女に付き合っていた男性がいたとは驚きでもある。
「居たわよ!というかまた付き合う予定なの!」
「どういう関係だよ⁉︎意味分かんねぇよ⁉︎」
…まあ、考えるだけ無駄だろう。
そう思い、僕は自分で作り出した状況をほっぽり投げて頭を腕の中に埋め、意識を闇の中へ誘った。
そうして放課後、僕は下校をしていた。まあ至極当然ではあるが。
人気の無い道を進み、路地をクネクネと曲がる。道幅の狭い住宅街の奥地に入ると、もはや人の気配すら感じられなくなる。まだ夕方だというのにだ。…まあこれも日常の一端ではあるのだが、あまり慣れたものではない。
そうやって進んでいると突然真下に何か、魔法陣のような紋章が浮かび上がり出した。
「…これは⁉︎」
まあ、そんな情けない声も上げたのだが、実際は殆ど驚いている暇もなく僕はどこか知らない場所へと体を運ばれていた。
そうして次に目を開くと玉座の前だった。何でも勇者として魔王を討伐して欲しいらしい。
いわゆるアレだ、召喚魔法だ。経験するのは初めてだし、経験するとも思わなかった。
そこでふと一つの疑問に思い当たる。
ーーー僕は、こんな異世界召喚のテンプレに出会ってしまった僕は本当に平凡なのか?、という事実だ。
取り敢えず人助けになると思い二つ返事で僕は王様の頼みを了承し、付けられた仲間3人と聖女である王女とともに次々と魔王の住処の候補らしきところを襲撃した。こう言ってみるとなんか犯罪っぽいが、別に悪いことではない。多分。魔王だからセーフだろう、一般論的に。
そうして道中でも助けて助けられて支え合い、仲間とたくさんの絆を深めた。
何か邪龍とか中二全開のネーミングの癖メチャクチャ強いドラゴンともやりあって、仲間と一緒に死ぬかと思う経験もした。だが勝った。僕らはこれでも勇者パーティー、邪龍に負ける程度では魔王に勝てるはずもないのだ。
そうして平凡の意味を忘れ、逃避しながらも僕たちは遂に見つけた魔王と交戦をした。王女が背後でバクアップをしている中、仲間の一人は弓矢で援護、僕含む三人の前衛で魔王と刃を交え合った。
魔王は剣を振るいながらも巧みに隙をついては魔法を使い、僕のパーティーを苦しめた。そして、遂には全範囲壊滅魔法を唱えられ、僕らのパーティーメンバー全員が行動不能になった。
それには僕自身に理由があると思う。何も考えなしに、下心も浮わついた憧れも、本当に何も考えずこんな依頼を引き受けたからこのような惨事を結果的に引き起こしたのだと。
しかし、僕のパーティーメンバー全員は未だ這い蹲る僕に泣けなしのヒールを掛けてこようとする。実際は自分自身だってそれぞれ精一杯で、本当は自分に掛けたい気持ちがあるのにそれを抑えてだ。ーーーなぜだ、僕は平凡、何をやっても凡人に以上の結果は出せず、成長する見込みも凡人の範囲内でしか見込めない所謂不良品。そんな価値の無い僕をなぜ助けようとするんだ。
そう思って彼らの目を見ると僕に期待していた。そう、魔王を倒す事を僕に一任すると言っているのだ。
そして僕はここで気付いたんだ。僕には掛け替えのない仲間が居て、そこにたくさんの溢れるような思い出が紡がれている。確かに苦しくて、悲しいこともあったけどそれは全部僕だけの思い出。
僕だけの、唯一の特徴。
僕にしかない、仲間との冒険譚。
そう考えるとストンと胸のわだかまり消え落ちていった。同時に力が湧き出してくる。何処からかは分からない、だがこれは僕に力を貸してくれると言っているのだ。
そうして立ち上がった僕は魔王と一進一退の攻防を演じた。切って切られ、焼いて焼かれの繰り返し。
そんな泥沼の戦いも、初めに魔王が膝をつく事で勝敗が決した。
勝った。
勝ったのだ。
喜び冷めぬままその後王都に戻り仲間と祝杯を上げ、仲間との最後の別れをする。特に恋仲となる相手は居なかったが、親友は四人も作れた。
更に王から借りた聖剣はもう役目を終えたとして僕に授けられた。これには流石にビックリした。
だが現代日本で、こんな物騒なもんを持ち歩いていたら速攻で職質アンド銃刀法違反容疑浮上だ。それは御免被る。
そう王に伝えると、これは何でも指輪の形に変形できるらしいという事が分かった。剣なのに。なんか最先端を行ってるな、と思ったのは秘密である。
そうして僕はこの国に別れを告げ、現代日本に舞い戻った。太陽が傾き、オレンジに輝いていることから、あの飛ばれた時間と同じらしい。
そうして僕は家へ帰った。靴を見ると既に妹と母、珍しく父も早く帰ってきたらしい。
リビングに入るとそれを見た妹が僕にこう言った
「おかえりお兄ちゃん!あれ、その指輪ってもしかして聖剣?ようやく勇者童貞卒業した?」
…え?
「そうなの太郎?じゃあお祝いね、赤飯でも炊いてあげましょう!」
…いやちょっ
「そうか、やっと太郎も日本国の一員として認められたか」
…訳が分からない。
そう思ってふとテレビを見ると、タイムリーなことに勇者に関しての話題がトピックとして放送されていた。
『えー、にしても西田さん、最近は力を持った聖剣の持ち主がなかなか現れませんねー』
『それも仕方ないでしょう、どうにも最近の若いもんは銃だ魔法だと言って物騒なもんが好きな傾向にあるようですからな。異世界の各国側としても危険度の少ない聖剣を与えたいのでしょう』
『そう言えば異世界と言っても国民一人一人が行く国や世界は別なんですよね?』
『ええ、どういう訳かそうですね。日本国民全員が人生に一度は召喚されるわけですから、その後のルートも多岐に渡っています。魔王討伐という一番メジャーな分野から覇王討伐、またひとつの世界を破壊することを依頼された方をおるようですしな』
『それは大変ですね…。それでは次はお天気予報です。気象予報勇者の泉さーん!』
拝啓、亡くなった祖父へ。
僕はやはりこの世界では平凡らしいです。
ちなみに作者は平凡です。
2月13日 誤字脱字修正