女は男より強い。 それがこの世界のルールだ。 現在、存在する467個のISコアは女による世界征服を成 し遂げた。 その中でイギリス代表候補生セシリア・オルコットはどこ の場所にいるのだろうか? 専用機持ちとはいえ所詮は一介の学生。第一線で活躍する 連中には勝てはしまい。 学生を教える教師には? 世界最強の座を射止めた織斑千冬には?
たった独り、男の看板を背負う織斑一夏には?
セシリア・オルコットは勝ち目がない。 ただのセシリア・オルコットでは勝てるはずがない。
だが、今日ここにいるセシリア・オルコットは違う。 一味も二味も違うセシリア・オルコットが織斑一夏に無惨 にも為す術無く敗北するというのか?
「そんなはずはありませんわ」
その身に纏うはブルーティアーズ。 天空ではなく、それは海の青。 海は時には人を優しく包む母なる存在。 時には荒れ狂い全てを飲み込む。
未だ開かぬゲートを前にセシリアは目を閉じる。 猛り狂う波濤の如き心を静め、己のテンションをコントロ ールする。
その心境はすでにZENで言う所のSATORIの境地へ と達していた。 SATORIを開いた者に捉えられぬ獲物無し。 古のSAMURAIが皆、ZENを学んだのはこういう理 由だったのか。そうセシリアは思った。 ならば今日のセシリア・オルコットは一人にして一軍。 たった一人で巨大な敵に立ち向かうというのに――その心 に高ぶりあれど、恐れなし。
「…………………………」
セシリアがすっと手を上げ、虚空を掴んだ。 ここに山田真耶か、織斑千冬クラスの者がいれば、その目 を驚愕に見開く事だろう。 人体を動かすのに力のロスが生じ、十の力が必要な所に十 一、十二の力を使ってしまう。 だが今のセシリアは十の力が必要な所に十をぴたりと持っ て来た。 つまり、それは動作の最適化。 銃で狙いを付けるという動作にしても余計な周り道をしな ければ、より早くなるのは幼子でも理解出来る事だろう。
そして、SATORIを開いたセシリアは殺気すら消して みせたのだ。 ただ虚空を掴んだだけど思われた手を開いてみれば、その 中から一匹の羽虫が慌てたように飛んで行く。 目から入った情報を脳に伝え、身体の筋肉に命令を下すの に0.2秒もの時間がかかる。 これは訓練ではどうにもならぬ人体の限界である。 しかし、剣豪が振り下ろす刃を避けるには0.2秒は長す ぎる。 一流と呼ばれる境地に至る者は必ず殺気を見る事により、 0.2秒の壁を超えるのだ。
だが見事、殺気を殺されれば、相手は一体どう対応すれば よいと言うのだ。 セシリア・オルコットの弾丸は決して外れぬ必中の魔弾と 化す。 もはや、セシリア・オルコットは人にして人に非ず。SA TORIを開いたHOTOKEへと生まれ変わった。 だが、敢えてHOTOKEへと至る道を捨て、SYURA として織斑一夏を射抜くのみ。 たった七日でセシリアの一念は武芸者の極みへと辿り着い てみせた。
神箭セシリア・オルコット。 それが今の彼女に相応しき名だ。
神箭セシリア・オルコットは目を開いた。 その透き通った青き瞳はうんともすんとも言わぬゲートを 見据える。
『ゲート解放まであと二・〇五七一八四二二秒』
ブルーティアーズが間の外れた報告をセシリアへと寄越す 。
「今だけは…………わたくしだけを見てくれますわよね」
セシリアの胸が一つ、大きく高鳴った。 その甘い感覚を勿体無いと思いながら、切り捨てた。
――何故ならそこに『敵』がいるのだから。