【完結】IS――その拳は天を掴む【投稿中】   作:久保田

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篠ノ之箒1

「セシリア・オルコット……なんと見事な立ち振る舞いよ !」

 

ゲートから悠々と現れるセシリアを見て、観客席に座る篠 ノ之箒は叫んだ。

 

「え、いつものセシリアさんと違うの?篠ノ之さん」

 

その箒の横に座るのは、織斑一夏の後ろの席の少女だ。 すでにもう色々とぐちゃぐちゃで始まる前からトイレに行 きたい。

 

「うむ、動いても体幹が全くブレていない。それがどうい う事かわかるか?」

 

「うーん……わかんないかな?篠ノ之さんは知ってるの!? 」

 

「箒でいい。……体幹がブレぬという事は飛行時に余計な 力が掛からず、スピードと安定性が増す。一夏の圧勝かと 思ったが、これは案外、セシリアが一矢報いるかもしれん ぞ……」

 

箒の目に映るセシリアの表情は何の感情も宿してはいない ように思える。 だが、それが己の眼が節穴だっただけだと箒は自分の不明 を恥じた。

 

セシリアの向かいのゲートがゆっくりと開く。 まるで観客を、セシリアを焦らすかのようにゆっくりと。 だが、それは極限まで集中する事により、一秒が万秒まで 引き延ばされただけに過ぎない。

 

奴が来た。

 

ごくり、と横に座る少女が唾を飲み込む音が箒の耳に聞こ えるほどの静寂が観客席を包む。 百を超える少女達がおしゃべり一つしない異常事態。 彼女達は理解しているのだ。 これから現れるは天に愛された漢。 最強という名を冠するに相応しき王が現れるのを。

 

その姿はまさに文字通りの天衣無縫。 はちきれんばかりの筋肉を覆い隠すは、ただのIS学園の 制服。 両の腕が破れているのは、筋肉の膨張を押さえ込めなかっ たからではない。両の腕の筋肉があまりに美しく、これを 隠すのが忍びないと制服が思い、自ら破れてみせたのだろ う。

 

「制服ながら、なんと天晴れな心意気よ!」

 

「箒さん、何を言ってるの!?……で、でも一夏様はどうし て制服のままで!? 専用機もらったはずですよね!」

 

少女の疑問は至極当然だろう。 生身で弾丸に当たれば、その身が砕けるのは人の理 ことわり 。 どう筋肉を鍛え抜こうとも、どこまで突き抜けたとしても 、ただのタンパク質の塊。弾丸が砕けぬ道理は無い。 だが、それは、

 

「あくまで人の理よ。一夏は天だ。天を弾丸で砕けぬわ」

 

そう言うと箒は完爾と笑った。 生身でISの前に出た幼なじみが、ISに勝てぬ理由がな いとばかりに笑ったのだ。 それを理解しているのは箒だけではない。 織斑一夏に相対するセシリアも、それを理解した。

 

――セシリア・オルコットではISを纏おうとも織斑一夏 には勝てぬ事を。

 

「だが見事なり、セシリア・オルコット。勝てぬと理解し ながら、なおも笑ってみせるか!」

 

勝てぬから、破れかぶれで突撃する。 これは簡単な事だ。ただ命を投げ捨てればいいだけの話。 覚悟の一つでも決めれば己の命など捨てられるのが武人の 心得だ。

 

だが、勝てぬと悟りながらも、まるで咲き誇る華のように 笑ってみせたセシリアは同性の箒から見ても美しく感じら れた。 先程まで表情を失ったかのように見えた彼女は黒の色だっ たのだろう。 数々の感情という名の色を混ぜてしまえば黒になる。だが 、そこから浮かび上がる色があった。 それは桜花の心意気。

 

アリーナステージの直径は僅か二〇〇メートル。 セシリアが纏うISブルーティアーズの持つ六七口径特集 レーザーライフル『スターライトMrⅢ』が発射から目標 到達までの予測時間〇・四秒。 織斑一夏がセシリア・オルコットへと直線で疾走し、捉え るまでに一秒と箒は見た。

 

「これは如何に一夏と言えども苦戦は免れまい……!」

 

「どうして箒さんは当たり前のようにISに乗ってるセシ リアさんが負けるって思ってるのかな!?」

 

当たり前の話ではあるが、ISには飛行能力がある。 空を自由に舞うセシリアが地を這う織斑一夏を一方的に撃 てる事を意味するのか?

 

「否、一夏ほどの使い手がたかだか空を飛ぶ程度で止めら れるはずがあるまい」

 

「どうも話が微妙に通じてない気がするよ……」

 

そんな箒と名はないがキャラだけは立ち始めている少女の 思惑を余所に主役達二人の気は高まりを見せていた。


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