【トリップ】それでも、私は生きている   作:月乃夜桜

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更新が遅くなりました。

仕事がしんどいっす……

今回は街で目覚める所~になります。


まだまだ長い道のりですがお付き合いいただければと思います。


42戦目

・・・

 

気が付くと、飛鳥は黒い空間にいた。声の主が来るまでの、あの黒い空間だ。そして気づいた。これは、ただの夢じゃない。夢だとわかっていても、条件を満たさなければ目覚めることのできない空間だと。

 

(あぁ、またか。今度は、何?)

 

飛鳥は、呟いた。すると、飛鳥の目の前に、もう1人の飛鳥が現れる。この飛鳥は、何者だろうか。いや、今現れたという事は今回の目覚める条件にきっと関わっているのだろう。

 

(もう1人のうち……アスカ・ツキシロ?)

 

―そうだよ。もう1人のアンタ。もうそろそろ、思い出してもいいんじゃない?

 

(………初めての、記憶?)

 

―そう!いつまでたっても思い出そうとしないから。だから、思い出させてあげる!

 

(頼んでないんやけど)

 

―クスクス……その強気、記憶が戻った後でも、続くかなぁ?

 

なんて、もう1人の飛鳥は嗤う。そして言い終えると同時に、頭が割れそうな程の激痛が走る。これまでの痛みとは比べ物にならない。痛い。痛い痛い痛い痛い!!!!

 

(ぃっ……!!)

 

飛鳥は、その場に崩れ落ちた。流石に意識を保っていられるほどの痛みではなかった。自分の目の前に倒れている飛鳥を見て、もう1人の飛鳥は、傍に座って、語り掛けるように話し出した。

 

―あんたは、気づくかな。うちも、あんたの一部だってこと。ねぇ、あんたは強くなったんでしょ?ならさ、こんな所でリタイアなんて、しないんでしょ?だって、あんたは諦めは悪いんだから。それに、知ってるんでしょ。ユーリ達が、あんたのことを受け入れるなんて。ねぇ?必死に戦ってる姿は皆知ってるんだから。先を話すことはもちろんできないやろ。でも、自分の気持ちを吐露するくらい、赦せよ。

 

苦痛に歪む、倒れている飛鳥を撫でる。そして、空なんてこの空間にはないのに、上を見上げた。

 

・・・

 

ユーリは、ふと、意識が戻って目覚める。すると、そこは宿屋らしき部屋の中で、自分たちはベッドに寝かされていた。体を起こしてみるとまだ若干重いが、動く分には問題ないだろう。外に出てみると、既に目覚めていたパティ、エステル、ジュディスが居た。彼女らも大丈夫のようだ。気を失う前に見た魔物の事を聞いてみたが、誰も見ていないようだった。そして、恐らく。

 

あの、聞こえた声は飛鳥だろう。「世界に異物と認識されている自分には、どこにいても、居場所がない」と、そう言っていた。どうして、そのようなことを言ったのかまではわからない。だが、確実に飛鳥は、何かを抱えているし、その何かを話してはくれない。それに飛鳥は。

 

色々と状況を整理する必要があるようだ。ユーリがココがどこかを訪ねるとレイヴンが調べに行っているとのことで、ほどなくして帰ってきた。そして、ラピードも一緒だ。ラピードはユーリを見つけるなり飛びついてじゃれついてきた。

 

レイヴンの話によるとココがヨームゲンらしい。どうやら1000年たった今でも存在していたらしい。とにかく、澄明の刻晶(キュアノシエル)を届ける街で間違いはないようなので、箱を見せて聞き込みを行う。ユーリは飛鳥がまだ起きないことに気にはなったが、まだ寝かせておこうという事になり、先に澄明の刻晶(キュアノシエル)について調べていると。ユイファンという女性がロンチーという恋人が持っていた箱だという。そして、その箱のカギも持っていた。

 

開けてみると、灰色のしずく型をした結晶が出てきた。割と大きく、エステルの手よりも随分と大きい。どうやらこの結晶が賢人(さかびと)様が言う、結界を作る材料だという。その賢人(さかびと)様はクリティア族の者らしい。話を聞きがてら澄明の刻晶(キュアノシエル)を届けることになった。

 

・・・

 

澄明の刻晶(キュアノシエル)を届ける前に飛鳥の様子を見に行こうという事で宿屋に戻ったユーリ達。すると、飛鳥は起きていた。だが。様子がおかしい。目は伏せられ、起きた状態から、微動だにしない。そこでユーリは思い出した。飛鳥は横になって寝ると、寝付けない、という事に。

 

「お、アスカ!目ぇ覚めたのか。大丈夫か?」

 

ひとまず、声をかけてみる。すると、飛鳥はユーリ達の方を見た。だが、その目に光はなかった。もしかして、まだ、夢うつつなのだろうか。

 

「アスカ!大丈夫です?まだ、顔色が良くないです……もう少し、休みますか?」

 

エステルの言葉に少し、反応した。そして、すぐ俯いた。だが、次に顔を上げた時、飛鳥は目に光が戻っていた。

 

「ん、ううん。大丈夫。まだ、戻るわけないって高をくくってた、“一番最初”の記憶が戻って、少し混乱してた。でもね、大丈夫。今ならもう“受け入れられる”から」

 

そう言った飛鳥の顔はどこか、寂しそうで。どこか、独りで。

 

「全部、思い出したよ。うちはやっぱり“何もできない出来損ない”だって再認識した。どんなに鍛えたって、経験を積んだって、ダメなんだって。だって、元がダメなんだもん。運動嫌いで、勉強嫌いの引きこもり。だから、そんな奴がどんなに鍛えようが、経験を積もうが、ダメだって。ユーリ達とは、違うから」

 

「おい、何言って――「だから」――?」

 

「もう、いいんだ。うちは。だから、だからこそ、全力で使命を果たすよ。もう傷つくのは慣れてる。うちが傷つくだけで済むならそれでいい。大丈夫、『守る』から。“ここ(テルカ・リュミレース)”じゃ、うちは〝アスカ・ツキシロ〟だから。だから、“あっち(現実世界)”の〝うち(月城飛鳥)〟は要らない。それに、きっともう、“あっち(現実世界)”には帰れないし、仮に帰れたとしても、〝うち(アスカ・ツキシロ)〟は、帰らないから」

 

途中でユーリの言葉を遮ってまで言った飛鳥は、今までとどこか違った。言われた言葉もよくわからないことだらけだ。でも、飛鳥が、記憶をすべて取り戻し、何かを決めたことはわかる。

 

「あんた、何言ってんのよ。意味わかんない」

 

「まだ、話せないけどさ。いずれ、話せると思うから。だから、その時に、わかるよ、今うちが言った言葉の意味。ま、そしたらきっと皆、怒ると思うけどね。――クス、こんなわけわかんない話してごめんね。もう、大丈夫やから、行こ!」

 

そう言った飛鳥は、どこか、大人で。どこか、儚げで。でも、芯は強く、強くある。受け入れられるということは、昔の自分を、という意味だろうか。

 

「無茶すんなよ。お前、ただでさえ、最近無茶しっぱなしなんだからな。あぁ、あと!」

 

急にビシッと指差しをされ、驚く飛鳥。もしかして、ユーリのほっとけない病のスイッチが完璧に入っちゃったか、なんて。

 

「お前に、居場所はちゃんとあるって思い知らせてやるからな!それでも、自分に居場所がないだとかなんだと抜かすんなら、作ってやるから覚悟しとけよ!!」

 

「それ、は――」

 

あぁ、やっぱ敵わないなぁ、なんて。

 

 

その時、飛鳥はへにゃっと笑って言った。

 

「楽しみに、してる」

 

と。

 

・・・

 

その後、飛鳥にも事情を話し、全員で揃って賢人(さかびと)様の家に向かった。そしていざ家の中に入ってみると。家の中にいたのはデュークだった。だが、此処にいるという事は賢人(さかびと)というのは彼の事だろう。ユーリはデュークに澄明の刻晶(キュアノシエル)を渡した。

 

そこで、リタが問いかける。どうやって魔核(コア)でないものを使って魔導器(ブラスティア)を作るのだ、と。そして。この澄明の刻晶(キュアノシエル)聖核(アパティア)というエアルの塊で魔核(コア)のように術式が組まれていないだけだという。

 

その言葉を聞き、飛鳥はピンときた。どうりで見たことがある形で大きさだなぁ、と思ったはずである。聖核(アパティア)だったのだ。そのことを思い出したところで、デュークとばっちり目が合った。やめてほしい。

 

デュークは、聖核(アパティア)を自身の剣でエアルに還してしまった。自分にも、必要がないモノだと。どうにも、賢人(さかびと)はとうに死んでいるとのこと。だが、だからと言って壊すことはない、とユーリは言うが、ここは悠久の平穏が約束された土地なのだそう。

 

そして。フェローの名を出すと、デュークは知っているようで、エステルが自分はフェローに忌まわしき毒だと言われたのだ、と。すると、デュークは教えてくれた。

 

「この世界には始祖の隷長(エンテレケイア)が忌み嫌う力の使い手がいる」

 

「それが、わたし……?」

 

「その力の使い手を満月の子という」

 

「……満月の子って伝承の……もしかして……始祖の隷長(エンテレケイア)っていうのはフェローのこと、ですか……?」

 

「その通りだ」

 

「どうして始祖の隷長(エンテレケイア)はわたしを……満月の子を嫌うのです?始祖の隷長(エンテレケイア)が忌み嫌う満月の子の力って何のことですか?」

 

「真意は始祖の隷長(エンテレケイア)本人の心の内。始祖の隷長(エンテレケイア)に直接聞くしか、それを知る方法はない」

 

ということはやはりフェローに直接会って聞かなくてはいけないようだ。しかし、デュークはフェローに会っても消されるだけだからやめろ、という。だがそれだけでやめれない。

 

「……アスカと言ったか。貴様の目的は達したのか」

 

「まぁね。フェロー曰く、世界の調和を崩し者らしいけどね。まぁ、あの黒い魔物この世界に呼んだんだからそういわれてもおかしくはないわな」

 

「「「!」」」

 

「ほう」

 

「だってうちは、“ここ(テルカ・リュミレース)”の住人じゃない。“あっち(現実世界)”の住人やもん。こればっかりは、覆らない」

 

「………己が咎をわかっているのか」

 

「当たり前でしょ。放っておいたら世界を滅ぼしかねない魔物をこの世界に呼んでるんだ。うちいがいの攻撃が効くなら話はまた別だけどね。残念なことに、うち以外の攻撃が効かないときた。でも、うちは他の人と変わらないはずや。まぁエネルギー変換能力があるけど、それを除けばただの小娘や」

 

なんて言った飛鳥はやれやれ、と言ったような感じだ。どうして自分が原因だと言えるのか。それに、ここの住人だとかあっちの住人だとか、何を指しているのかがさっぱりだ。

 

「咎って……アスカちゃんが?なんだってんのよ」

 

「だから言ってるでしょ。使命を果たすべく、ここ(テルカ・リュミレース)に来たのはいいけど、世界の修正力だかなんだか知らないけど、うちを消すためだけにあの黒い魔物がここ(テルカ・リュミレース)に召喚されてるってこと。うち以外、狙わないならまだいい。攻撃が効くならまだいい。でも、違うやろ。狙いはうちであっても、うちの近くにいれば、アイツらは襲ってくるし、うちの攻撃以外、効かないし」

 

「だから、なんだっていうのよ」

 

「これだけ言ってもわかんない?あの黒い魔物は、うちを消すためだけに世界の修正力とやらが、送り込んだ奴ってこと。つまりね、うちが居なくなればあの黒い魔物も消えるってこと。まぁ、使命を果たさなきゃなんないから、消されるわけにはいかないんだけど」

 

さらりとそんなことを言う飛鳥はどこか落ち着いていて。自らを咎人を称する理由は判明した。だが、それでも飛鳥は何一つ悪いことはしていないではないか。ただ、いるだけではないか。

 

「貴様……」

 

「あぁ、そうさ。うちは、生きてるだけで罪人だ。生きてるだけで、罪だ。だからうちは咎人だ」

 

そんなバカな。なんだっていうのだ。ただ飛鳥は必死に生きてきただけじゃないか。なのに、生きているだけで罪だ?ふざけるにもほどがあるだろう。何故。どうして。

 

「クスクス、あぁーあ。まだ言う気なんてなかったのになぁ……まぁ、そういうわけで」

 

「その使命って何なのよ」

 

「言わないよ。誰が言うかよ。大丈夫、すぐに果たせるもんちゃうし」

 

飛鳥は、どこかおかしい。でも、これが本来の彼女なのだろう。すべての記憶が戻ったのだから。だが、どこか違和感。それに、どうして、今ここでこの話をしたのだろう。デュークが居たからではないだろうし。

 

「大丈夫、その時がきたらわかる。――ね?」

 

飛鳥は、言い聞かせるように言う。デュークも、何も言わないところを見ると、飛鳥のいう咎はそれで間違いなさそうだ。しかし、飛鳥は何を背負っているというのだ。まだ教えてはくれないだろう。

 

飛鳥はこんな風に話したとしても、核心は話さない。いつきいても、はぐらかされる。いつも、いつも。抱えているくせに、何も話そうとしない。

 

―さぁ、どうする?ま、決まってるけどね。未来を知ってることは話さない。これだけは何があったとしても。だって、未来が変わっちゃったら大変だし。

 

飛鳥は、もう一度考える。自分の立ち位置を。どうするのが最善か。




というわけで、少し暴露しちゃいました(笑)

まぁ、飛鳥さんも随分精神的にきちゃってますので仕方ないね!

一番最初の記憶諸々全部戻りましたよ、ええ。

もう1人の飛鳥さんは、フツーに自分の心のそこで考えてた色々が形になったってだけのもの。

まぁ精神世界とも呼べる夢の世界でなら会えるかな的な存在。決して二重人格ではない。


次回はユーリとレイヴンがお話する所~になります。

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