ルイズの召喚魔法により、ハルケギニアに虚無の使い魔として召喚された日本の高校生、平賀才人。
ルイズと才人は、数々の困難を乗り越え、ついにはド・オルニエールの領地をもらうほどとなった。
月夜の晩、ド・オルニエールの屋敷は元素の兄弟による襲撃を受ける。
エルフはその戦闘の直後に介入し、才人を、そしてティファニアを拉致し、エルフの国
「ネフテス」に二人を連れ去ったのだ。
虚無の担い手・虚無の使い魔…すなわち、”4つの4”を揃わせないために。
才人とティファニアはエルフの”心を奪う薬”を飲まされる運命にあった。
その二人の運命を覆し、窮地を救ったのが、エルフの少女「ルクシャナ」だった。
ハルケギニアを研究する学者であり、好奇心旺盛なルクシャナは才人とティファニアを
「竜の巣」にかくまってくれたのだ。
その場所で、才人は地球製の武器や、小型哨戒艇、そして原子力潜水艦―核兵器を発見する。
「竜の巣」へ逃げる途中、日本刀に宿る形でデルフリンガーも復活した。
「海母」という水韻竜とも出会う事ができた。
そこへエルフ水軍が艦隊をもって襲撃してきたのだ。
才人はティファニアとルクシャナを逃がすため、小型哨戒艇を駆り、囮になるのだった。
ルイズと才人は、ここで本来とは異なる運命をたどりはじめる。
「まったく、なんでこんな事になっちまったんだろうな!」
ウォータージェットとスクリューの2軸の推進力をえて小型哨戒艇が波を切り裂く。
砲撃音。そして、右舷ギリギリに水柱が立つ。
「うおっとお!」
才人はガンダールヴの能力により、この小型哨戒艇の操縦法を理解していた。
思い切り操舵輪を回し、船を急転回させ、敵艦の前を波しぶきを上げながら通過する。
巨大な鯨のような巨体を持つ竜の上に砲塔と艦橋を載せたエルフの戦艦「鯨竜艦」。
それが四隻も陣形を組んで追跡してくるのだ。
抜けるような青空と南国を思わせる強い日差し。
コバルトブルーの大海原。
本当ならリゾート気分で日光浴でもしたいところだった。
ルイズに召喚されてからの苦労を癒す──神様からのプレゼントだったらよかった。
しかし、今の才人は空気を切って飛んでくる砲弾のプレゼントを捌くのに必死なのだ。
USネイビーの小型哨戒艇を操り、波を切り裂いて左右に回避する。
「遅せえ、遅せえ! 地球の軍船の機動力をなめんな耳長ども!」
才人はスロットルを全開にして操縦席に立った。
肩にロケットランチャーをかまえ、足で操舵輪を操作する。
「破壊の杖を思い出すね! さっきのRPG7はたいして効き目がなかったけど、
こいつはどうだ!」
シュポンと栓抜きのような音がして、白煙を引きながらロケット弾が敵艦に吸い込まれる。
竜鯨艦の艦橋の根元が、轟音と共に爆炎を吹いた。
「ひゅう! 死傷者…でちまったかな?」
「そりゃ、運が無いやつは死ぬよ、相棒! 戦いってな、そういうもんだ! 知ってるだろ?」
爆炎と煙の中から竜鯨艦の艦影が見えたとき、更に激しい砲撃が飛んできた。
主砲だけでなく、多数ある小口径の砲を含めた一斉射撃だった。
「うわっ、しぶてえ! ダライアスのグレートシングかよ!」
着弾による巨大な水柱が扇状に立つ。
小型艇を急転回させて回避した才人に海水が滝のようにかかる。
「相棒、グレートなんたらってなに!?」
背中の日本刀に宿るデルフリンガーの問いに、首を振って黒髪から水を切りながら才人は答えた。
「ごめん。俺の世界のゲームの話よ。でも、このままじゃジリ貧だな!」
「もう竜の巣のハーフの嬢ちゃん達は逃げられたんかね?」
竜の巣の洞窟にテファとルクシャナを残し、単騎哨戒艇を駆って飛び出した才人だった。
もちろん、囮になるため。
「しかし、相棒。ハーフの嬢ちゃんにひでぇ事言ったね」
「しかたないだろ…テファをこんな危険な目にあわせられるか!」
両舷に水柱が立ち、傾れ込んできた大量の海水と大波を小型哨戒艇が切り裂いて宙を飛ぶ。
着水後、続けて唸りを上げて飛来した主砲弾を左に舵を切って交わす。
「うひゃ! 近かった! アブねえ! テファには後で謝るよ! 謝るのは慣れてる!」
そうさ、ルイズにいっぱい謝った、俺。
ハルケギニアに召喚されたばかりの時は高慢ちきなルイズ様の横暴で。
負けて悔しいような気もしたが、まあ、飯は食いたいし、ルイズは可愛かったから。
その後は…俺が悪かったんだな。
今ならボルボックスじゃなく、モグラでもなく、犬でもないよ、俺。たぶん。
とにかく俺ほど謝ったガンダールヴはいないよ、たぶん。
才人がそんな事を思った時、ふと、気配を感じた。
海戦の場から東方の水平線に大きな塔が見える。
エルフの国「ネステフ」の首都「アディール」にそびえる塔「カスバ」である。
その塔の方から感じた気配は…懐かしい、愛しい、ルイズの気配。
「ルイズ!?」
次の瞬間、塔のすぐ横の空間に巨大な光の珠が発生した。
「あ、あれはルイズの「爆発」だ!」
間違いない。あの光の珠は、タルブの村の上空でアルビオン艦隊を消滅させた光だ。
「ルイズだ! ルイズが来てくれたのか!」
ルイズが来てくれた! エルフにさらわれた自分を助けに来てくれた!
才人は南国の快晴のような、喜びの笑顔をつくった。
「え!?」
しかし、その笑顔は南国のスコールのように曇った。
カスバの塔の更に向こう。
薄く山々のつらなりが見える遠方の空が、突然真っ黒に染まったのである。
暗黒の入道雲が、またたくまに天頂まで空を覆い、稲光が走る。
暗黒。それは文字通り、光を遮る漆黒の邪悪な気配だった。
瞬間、小型哨戒艇をかすめ、雷光が走った。
「な、なんだ!」
そして轟音。才人が振り向いた先で、エルフの鯨竜艦が船体半ばで折れ、轟沈していた。
ま、まさかあのしぶとい艦が一瞬で?
空に異様な音が響く。
才人の頭上に黒い影が接近して来た。
それは屋根。
「や、屋根が飛んでる…」
日本の木造家屋の瓦屋根。それが二つ組み合わさったような物体が空を飛んでいた。
瓦屋根の接続部分が天井の無い甲板のようになっており、その前面に「気門」と書いてある。
その和風の奇っ怪な飛行物体が機体の底を見せつつ上空を通過した時、一つの影が舞い降りた。
小型哨戒艇の後部に音もなく着地したそれは。
「き、機械の忍者?」
忍者を思わせる黒装束。しかし、細い身体の手足の先は機械的な手甲と履物。
黒い細布でぐるぐる巻きにした頭部の布の隙間からのぞくスコープ。
機械的な駆動音。
一目でわかった。
これは人間では無い。
ハルケギニアで見てきたどんな物とも異なる、異質な存在。
「なにもんだ、てめ」
才人の叫びはそこで止められた。止めなければならなかった。
機械の忍者が手を前方に向けた時、一閃の光が走ったのである。
才人は反射的に背の刀を抜き、光を切り払った。
きいんと音がした後、光は船の床に突き刺さった。
それは黒光りする鋼と薄い刃の光を放つ十字手裏剣だった。
いくつもの戦いを経験した才人の身体は反射的に動いていた。
機械の忍者の懐へ。
下から切り上げる刀の先には敵影はなく、黒い影は頭上を跳んでいた。
しかし、ガンダールヴの動体視力がそれを追尾する。
斬り上げる刀はそこで止まらず、振り向きざま、黒い影の着地点を横に薙ぎ払う。
鉄と鉄がぶつかり合う音。
刀をもつ両腕がしびれる。
才人は直感した。
こいつは手加減できる相手ではない。倒さないといけない敵。
なんでこんなところに出てきやがる!
才人の怒りは心の震えとなり、左手の甲のルーンからあふれた光が刀をまとう。
「このやろ!」
才人は刀を振り切った。
『ウギイッ』
機械音が響き、黒い影が斬線を支点に一回転する。
才人の斬撃は機械の忍者の片脚を切断していた。
機械の忍者が着地に失敗してふらついた時、瞬時に距離を詰めた才人の蹴りが飛ぶ。
水柱をたてて、機械忍者は海へ落下した。
才人は小型哨戒艇の上に残された機械忍者の片脚を見た。
「ほんとに機械かよ…」
切断面には精巧な機械が明滅し、うごめいていた。
才人は肩で息をつきながら、竜の巣の方角を見る。
エルフの艦隊が空に浮かぶ瓦屋根からの電光を受け、爆発炎上していた。
その爆炎の中を飛び交う黒い影がいくつか見えた。
さっきの機械忍者だ!
テファやルクシャナはどうなったなのか。無事に逃げられたのだろうか。
心配になった才人は小型哨戒艇の進路を竜の巣へと向けようとした。
その時。
”安心しろ、蛮人。ルクシャナ達は保護した”
突然、頭の中に声がした。
「念話だね、相棒」
続けて海面を切って海竜が浮上してきた。
竜の巣で原子力潜水艦を発見した時に戦った海竜だった。
そして海竜に引かれ、繭のような円筒状の船が海面に現れた。
呆然とする才人の前で、船体側面のハッチが開く。
そこから現れたのはエルフのアリィーだった。
気難しそうな雰囲気をもつ、端正な顔立ちのエルフで、ルクシャナの婚約者である。
「てめえ、テファはどうした!」
「安心しろ、ルクシャナと一緒に保護した」
アリィーの後ろで、美しく長い金髪を揺らしながら、優しい顔立ちの少女がおどおどと覗いている。
「テファ! 無事だったんだ。よかった!」
「ご、ごめんね、才人。あ、足手まといで…」
才人は泣きそうになっているティファニアの顔を見て焦った。
「ご、ごめん。ち、ちがうんだ。テファを危険な目にあわせたくなかったんだ!」
そこへ別の金髪が美しいエルフの少女が顔を出した。
つりあがった切れ長の目に、無造作に切りそろえられた長い金髪。
好奇心が身体からあふれでているようなエルフの少女、ルクシャナであった。
「あんたち、急いでよ! 「キモン」がこっちへ来るわよ!」
「キモン!?」
才人は突然出た聞きなれない言葉を聞きかえした。
「急げ蛮人。こっちへ乗り移れ。その船では「キモン」にいつかやられる」
空から異様な飛行音が聞こえてきた。
振り返った才人の視線――爆発の炎と黒煙がたつ上空で、瓦屋根がゆっくり方向転換し、
こちらへ進路を変えようとしていた。
よく見ると、2つ瓦屋根を接続する船体の前面に「気門」と書いてあった。
それは、才人がハルケギニアに来て、シエスタの故郷で見た時以来の、久々に見た漢字だった。
「あ、あれ? あれが「キモン」ってやつ?」
「いいから速くしろ!」
アリィーに急かされ、小型哨戒艇に載せてきた武器を持てるだけかかえ、才人は円筒形の船に飛び乗った。
船内はみかけより広く、中には数人のエルフがいた。
「急速潜行! 急げ!」
瞬時にハッチが閉じ、がくんと船体が沈んだ。
少しのち、頭上から爆発音がした。
小型哨戒艇が「キモン」に破壊されたようだ。
船体が哨戒艇爆破の影響で振動する。
「ふう…やつらは海中には手出しできないから、ひとまず安心だ」
「って、おい! お前らエルフにさらわれてから、わけわかんない事ばっかりじゃねえか!
説明しろ! あれ、なに? 機械忍者がいたぞ! 「キモン」ってなに!?」
アリィーの胸ぐらをつかみ、一気にまくし立てる才人は船内を見やった。
そして、床にうずくまるテファを見て目を止める。
テファは右足に包帯を巻いていた。
「ど、どうしたんだテファ! その傷は!?」
そこまで言った後、才人はルクシャナも左腕に怪我をしている事に気がついた。
「ど、どうしたんだ? 竜の巣でなにがあったんだよ!」
「落ち着け。お前が囮になって戦っている時に、別働隊が洞窟に入ったんだ」
才人は血の気が引いていくのを感じた。
やつら、別働隊を組んでたのか! 俺の囮は無駄だったのか!
「だ、だれだ? テファ達にこんな怪我させたのは?」
そこで、縄で縛られているエルフの少女が船室のすみっこにいる事に気がついた。
顔立ちはテファと瓜二つ、美しい金髪もそのままだが、顔立ちは険しく――胸がぺたんこだった。
縄で拘束されてはいるが、この少女も怪我をしているようで、荒い息をして気を失っている。
「こ、こいつか!」
「う、うん…サイト。その子、わたしの…母の一族みたいなの」
ティファニアが悲しそうに言った。
「テファのお母さんの一族…? じゃあ、テファの親戚がテファに怪我させたってのか?」
その問いにはアリィーが答えた。
「ああ、その少女が別働隊を指揮していたみたいだな。
間違いなく水軍の「鉄血団結党」の一員だな」
「鉄血なんたらってなによ!?」
「我々も一枚岩じゃないんだよ。お前ら”悪魔”を殺してしまえと唱える過激な派閥さ」
「な、なんだって…」
「”悪魔”は殺したら次の”悪魔”が生まれる。
「鉄血団結党」は”悪魔”が生まれ変わるのなら、
生まれ変わるたびに殺せばいいという思想を持っていてな。
お前ら野蛮人を皆殺しにしようとも思っているようだな」
才人は青ざめた。
エルフは虚無の担い手とその使い魔を殺せないと思っていたからだ。
「その少女が別働隊を指揮して、ルクシャナ達を攻撃したんだ。
で、そこにキニン達が襲撃してきた」
キニン。
才人はその言葉に反応した。
「そ、そうだ。キニン。キニンって、あの機械忍者やキモンの奴らの事?」
「ああ。ここ最近、東方からやって来るようになった奴らでな。
今まではあのキモンがたまに飛んできて小規模な戦闘になるだけだったのだが」
「と、東方?」
「ああ、東方からだ。奴らは「クロサギ軍」と呼ばれている」
そこで、突然、脳裏に言葉が響いてきた。
”アリィー、聞こえるか?”
才人はその声に聞き覚えがあった。
タバサを助けた時に戦ったエルフの戦士の声。ビダーシャルだ。
「伯父さま!」
「遠隔念話を使うなんて…緊急事態ですか!?」
アリィーの焦った反応を見て、才人は様子を見る事にした。
”ああ。クロサギ軍の奇襲を受けてな。制空権は奴らの物となった”
「なっ…ネフテスは…カスバは大丈夫なのですか?」
”予定通り、蛮人の国へ逃げ延びろ。それから、蛮人の戦士よ”
蛮人の戦士。
ビダーシャルは才人をそう呼ぶ。
「な、なによ?」
”残念だが…君の仲間がカスバに突入してきている。
今はキニンの襲撃にあい、共に戦っているところだ”
才人は、先ほどの海上戦闘で感じたルイズの気配を思い出した。
やっぱり。
やっぱり、ルイズが。
ルイズ達が来てくれたんだ。
ルイズ達が俺を助けに来てくれたんだ! このエルフの首都に!
「それを早く言え、バカエルフ! アリィー、この船の進路をカスバに向けろ!」