ゼロの使い魔異伝 ゼロの未来忍者   作:tonebon

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第03話 「きずな」

 

 心はどこにあるのだろうか。

 記憶はどこに刻まれるのであろうか。

 愛はどこに生まれるのであろうか。

 肉体なのか、それとも魂なのか。

 

 

 

 永遠かと思われた暗闇に光が生じた。

 顔を白く塗った異様な風体の男が見下ろしている。

 その眼は人間、いや、生物全てを見下した狂気の色に染められていた。

「ようこそガンダールヴの少年よ。

 我が名は雷鳴。雷鳴法師よ。

 我らの此度の進軍、それはお主の肉を手に入れるため。

 くくくっ…お主の武勇、我らが殿の肉にまっことふさわしい。

 残った魂は…ぞんぶんに役立ててやろうぞ」

 

 

 男――雷鳴法師の異様な力を纏った手のひらが視界にのった直後、再び世界は暗闇に落ちた。

 

 

 次に光が生じた時、世界は異様に明るかった。白い世界だった。

 白い世界の中で、雷鳴法師が蟹の脚のような触覚が無数に生えた背中を見せている。

「雷鳴様。この者、目覚めたようですぞ」

 雷鳴法師のそばに控えていた機械忍者が機械音声で言った。

「おお、そうか。目覚めたか」

 雷鳴法師が振り返ると、その白い顔が視界を埋めるように近づいてきた。

「ん~? 少し光量の調整がおかしいか?」

 二本指を立てた手が視界を埋めた時、電撃に似た衝撃が走り、再び世界は暗闇に落ちた。

 

 

 

 三度目の光は弱く、薄暗い──暗い世界が見えた。

 日本風の屋敷の中のような光景。

 黒塗りの木造に見える柱と床が、光を吸収し、世界を暗黒に塗り込めていた。

 眼の前の大きな柱に気がつく。

 一人の少年が柱に塗りこまれていた。全裸だった。

 両脚をそろえ、両腕を肩の高さで上げられ、まるで十字の聖者のようだった。

 首は力が抜けたようにうなだれており、黒髪で隠され、顔は見えない。

 この少年は誰だろう。

 しかし、見覚えがある。

 とても懐かしく、そして、とても重要なものに思えた。

「見えるかシラヌイ。あれこそ殿の肉になる物よ。

 戦で欠損した部分や傷は修復したが…なかなか素晴らしい肉体であろう?

 誇らしいか? そうだろう?

 シラヌイよ。お主の輝かしい功績だからのう」

 いつのまにか雷鳴法師が柱の少年の横に立っていた。

 気力をまとう赤い篭手の指が少年の肉体をやさしく、そして怪しく撫で回す。

「はっ。このシラヌイ。殿の為にお役に立てること、至高の幸せにございます」

 自然に、自動的に返答した。

 至高の幸せ。

 しかし、どこかでその返答を否定する物がある。

 

 

 

 目の前を瞬時に影が疾走った。

 それは通常の人間の動体視力では捉えられない程の高速移動をする玉であった。

 宙を浮遊する玉は不規則な動きで部屋中を高速で跳ね回っている。

 しかし、視界に浮かぶ「標的」の文字がその移動する玉を逃さず追尾、捕捉する。

「よしよし。ではこれではどうじゃな?」

 雷鳴法師の声と共に、多数の玉が出現した。

 部屋を埋めて跳ね回る多数の高速移動体は、嵐に降り注ぎ地に叩きつけられる無数の雨筋にも見えた。

 しかし、視界に浮かぶ100の「標的」の文字は多数の玉を個別に追跡している。

「よし。シラヌイ、斬れ」

 雷鳴法師の声を合図に、玉が一斉に向かってきた。

 小さい玉ではあるが、高速で移動する100もの数を全て受けたらどうなるのか。

 通常の人間では一瞬で無残な屍を晒すしかあるまい。

 しかし、視界を埋める無数の「標的」の文字は玉を追尾している。捕捉している。

 100の高速移動体の弾道が見える。

 さらに、「標的」の文字の下に個別の玉が飛来する順番をも記していた。

 後は、到達の順番に処置していけばよい。

 背中の刀を抜く…いままでになんども繰り返してきたように感じる動作。

 魂に刻まれてきた動作。

 そして、比べ物にならない程に神速な動作で、刀の柄は右手に握られている。

 抜刀完了。

「壱、弐、参…」

 黒い影が旋風のように動くたびに一線の斬光が生まれる。

 斬光は無数の煌めきを描いた。

 稲光のように。

 部屋が静寂に戻った時、刀を抜き放った状態のまま微動だにしない黒い影がいた。

 身を屈め、膝を曲げた、見事な残心であった。

 

 

 黒い手甲に脚甲、黒い忍者服。細身ではあるが、逞しさを感じる身体。

 しかし、その黒い身体は機械なのである。

 首から上は黒い鎧兜のようになっていた。

 黒く、なめらかな頭部はやや後ろに伸び、額には黒い鳥…黒鷺の紋章がつけられている。

 目に当たる部分に赤く光る筋──センサーが横に走っており、バイザーのような遮光板が

上下に稼働し、その赤いラインのセンサーを保護しつつ、太さを調節して感度を調節する。

 今はバイザーが降り、赤いラインが閉じられていた。

 それはまるで眼を閉じているかのようであった。

 

 

 数瞬の沈黙。

 駆動音がしてバイザーが上がり、赤いラインが全開に見開かれ、黒い影は顔を上げた。

 刀を背中の鞘に納め、静かに立ち上がる。

「見事じゃシラヌイよ。80か」

 黒い影――シラヌイの背中に数個の玉が食い込んでいた。

 まるで呼吸をするかのように肩が上下し、シラヌイはうなだれた。

 機械忍者――キニンは気力、気合をエネルギーとして動作する。

 キニンは気合を練るために呼吸に似た動作を行うのだ。

 呼吸を行い、気合を練られれば、キニンは半永久的に動作する事も可能なのであった。

 

 

「不覚にございます」

 シラヌイは座して答えた。

「よいよい。目覚めたばかりにしては素晴らしい性能よ。

 くく、100全部を落としては、ショウキの立場がないわ。

 さすが、ガンダールヴだった男よの」

 シラヌイのバイザーが半分降りた。赤いラインのセンサーが半分になる。

「ガンダー、ルヴ、にございますか?」

 闇の中から雷鳴法師の姿が現れた。

 顎に指をあて、その白い顔をシラヌイの眼前に近づける。

「気になるか? 気になるじゃろう?」

 その顔は邪悪な笑顔に歪んでいた。

 シラヌイの視界に「ガンダールヴ」の文字が表示され、「疑問」「不安」の文字が記される。

 そして、「郷愁」の文字。

「は。そのガンダールヴという言葉を聞くと…この胸の中が…うずくのです」

 雷鳴法師が顎に指をあてたまま、シラヌイを見下ろした。

 その表情には不満の意志と…好奇心が見て取れた。

「魂に記憶が残っているのか…? 興味深いのう…」

 雷鳴法師は直立し、背を向けた。

「まあよい。シラヌイよ。殿の復活の日が近い。生贄が必要じゃ。

 その桃色の暖かい柔肌を殿に捧げる生贄がな。

 その役目、お主にまかせよう。

 傷を癒した後、下忍を従えてハルケギニアへ行くのだ」

 シラヌイはより深く座し、頭を床につけた。

「はっ。このシラヌイ、光栄にございます。して、生贄とは? 標的の名は?」

 その時、シラヌイの視界の右隅に四角い領域が生じた。

 そこに少女の顔が映る。

 桃色の長い髪に、すこしつり目だが大きな鳶色の眼。白い肌に整った鼻筋。薄く美しい唇。

 表情は憮然としている。

 しかし、その少女の姿を認識したシラヌイには──その少女がこの世で一番美しく思えた。

「名はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

 トリステイン王国のラ・ヴァリエール家の三女じゃ。

 王位継承を持つ要人にして、虚無の担い手の一人。油断するでないぞ」

 雷鳴法師はシラヌイに背を向けている。その背中がかすかに動く。

 笑っているのだ。

「…は。このシラヌイ…生命にかえましても…」

 シラヌイは黒い影と化し、一瞬でその場から姿を消した。

 

 黒い床を音もなく疾走するシラヌイ。

 視界に映る少女の画像。

 少女の画像には「標的」と表示された文字が添えられている。

 生贄にするため、捕縛すべき標的。

 その少女の画像が一瞬、歪む。ノイズが奔る。

 そして「疑問」「不安」の文字が記された後、「懐」「悲」「愛」の文字が記される。

 

 そして、「標的」と記された文字が「保護」になるのに、時間はそうかからなかった。

 

 

 

 

 ルイズは夜空に浮かぶ双月を見つめていた。

 泣き疲れ、腫れた大きな目の下には、涙の跡と濃いクマができている。

 桃色の長い髪はボサボサに乱れ、その小柄な身体には公爵家三女のオーラは失われていた。

「サイト…」

 

 

 エルフの首都「アディール」での戦闘から3ヶ月が過ぎていた。

 

 

 愛する使い魔――サイトが倒した動かぬキニンの骸で満たされた戦場で、刀を見つけた。

 夕日に光る、美しい刃の日本刀。

 その日本刀に宿っていたのは、死んだはずのデルフリンガーであった。

 そのデルフリンガーからルイズは聞いたのだ。

 サイトはみんなを、自分を守るために無数のクロサギ軍に独りで立ち向かった事を。

 そして──サイトの姿はキニンに囲まれた後、見えなくなったという。

 

 

 ルイズは魔法学院の制服のブラウスの上からサイトのパーカーを着て、その上から黒い

マントを羽織っていた。

 その背にデルフリンガーが宿る日本刀――十字剣を背負っている。

「嬢ちゃん、身体が冷えるぜ。部屋に戻ったほうがいいよ」

「うん…。デルフ」

「なに?」

「サイト、生きてるよね」

「…わかんね」

「…そう」

 

 

 サイトとの間にあった絆。虚無の担い手とその使い魔の絆。

 あれほど感じられた絆が…今は感じられない。

 この感覚は、そう、アルビオンでサイトが独りで七万の軍勢に立ち向かった時にも感じた。

 でも、あの時、サイトは生きていた。

 メイジは召喚した使い魔が生命を失うまで、別の使い魔を召喚できない。

 使い魔召喚の魔法を唱えてみた。

 サイトが生きているのなら、ゲートは開かない。

 ゲートは開いた。

 そう、アルビオンでサイトが七万と戦った時と同じ。

 でも、あの時、サイトは生きていた。

 生きていたのだ。

「そうよ。死ぬわけない。死ぬわけがないわ」

 ルイズは頭上のふたつの月を見た。

「わたしたち、あの月に誓ったもん」

 ガリア王宮の噴水の中で。二人で生まれたままの姿で抱き合った月下の夜。

 あれほど求めていた愛するサイトの肌のぬくもりを、やっと全身で確かめられた夜。

「死ぬ時は…一緒って、誓ったんだもん」

 ルイズの鳶色の瞳に涙が溢れてきた。

 この3ヶ月、その瞳が涙で濡れない日は無かった。

 それでも、涙は溢れ出る。悲しみの涙は枯れないのだった。

「誓ったんだもん」

 

 

 ルイズは城のバルコニーに立っていた。

 ガリア王国とエルフの勢力圏内の境目に立つ、アーハンブラ城のバルコニーに。

 アーハンブラ城は、ハルケギニア貴族とエルフの戦いの舞台になった場所である。

 戦場の城のバルコニーだけに、頑強な城壁で囲まれている。

 そして、この古戦場の城はタバサとその母親が拉致され、ジョゼフの命令で守護役と

なったエルフのビダーシャルと戦った場所でもある。

 そのエルフとの戦いでも、ルイズはサイトと協力して戦ったのだ。

 

 

 ルイズは身の丈より高い城壁の石の上に両腕を上げた。

「お、おい、嬢ちゃん?」

 ルイズは城壁の石によじ登ろうとしていた。

 黒いプリーツスカートから伸びた、黒いサイハイソックスの細い脚の膝をうまく石にひっかけ、無言で登る。

 ルイズは城壁の上に立った。

 城壁に吹きつける風は思いのほか強く、ルイズの桃色の髪とマントがバタバタとなびく。

 城壁の下は数十メイルの高さで、底は暗くて見えない。

 ルイズは城壁の底を眺めながら、ぽつりと言った。

「ここから落ちたら、死ぬかな?」

「おい、よせ! 相棒は、サイトはどこかで生きてるよ!」

「ま、まって、ミス・ヴァリエール!」

 その時、黒髪のメイドが駆け寄ってきた。

 城壁の上に立つルイズの足首をがっしりつかむ。

「…シエスタ。あの時もあんたに止められたわね」

 アルビオンの七万を止めたサイトが死んだと思い、悲観したルイズは魔法学院から身を投じた事がある。

 それを止めたのがシエスタであった。

「そうです! 今度も止めますよ! バカ! ミス・ヴァリエールのバカバカ!」

「うん。あんたはわたしが挫けそうな時、いつも助けてくれたわね」

「助けますよ! 3人で天国へ行くって、約束したじゃないですか!

 サイトさんは絶対に生きてます! 死んじゃいけません!」

 ルイズは足首を必死につかむシエスタを見て、微笑んだ。

「そうね。サイトは生きてる。きっと、そう。

 シエスタ。だから、わたし、死なないわよ。だから、離して」

「ほんとですか!?」

「ほんとよ」

 シエスタは月光の下のルイズの笑顔を見た。疲れた笑顔であったが、死に行く者の笑顔ではなかった。

「約束ですよ」

「うん」

「約束の約束ですよ?」

「うん」

 シエスタはルイズの両足首から手を離した。

 瞬間、ルイズは城壁から身を投げた。

「な! ミス!」

 城壁の外に消えたルイズの姿を追って、シエスタも城壁の上に這い登る。

 黒のロングスカートの脚を大胆に開いてよじ登る姿だが、そんなことにかまってはいられなかった。

「はしたないわよ。シエスタ」

 ルイズの声が聞こえた。

 城壁の上に半分登りかけたシエスタの目の前にルイズの顔があった。

 続けて、青い竜と、青い髪にメガネをかけた少女が城壁の向こうから登ってきた。

 タバサとその使い魔の韻竜シルフィードだった。

 ルイズはそのシルフィードの背に乗っていたのだ。

「じょ、冗談きついですよ! おふたりとも!!」

「ごめんシエスタ。来たのよ。奴らが」

 その言葉を聞いたシエスタの顔に緊張が走る。

「奴ら…キニンですか!」

「ルイズ、奴らは速い」

 タバサの声にルイズはうなずく。

「戦ってくるわ。サイトの仇…いえ、サイトの為に」

 シルフィードが一瞬、垂直に落ち、そのまま空を切って旋回した。

 夜空を青い竜が行く。

「神様。どの神様でもいいです。ミス・ヴァリエールとミス・タバサ、シルフィードさん。

 そして…サイトさんを守ってください…」

 城壁にしがみついた状態で、シエスタは両手を組んで祈った。

 

 

 

 エルフの領域との境に広がる大森林。

 針葉樹が広がる森のため、樹の根元には枝がない。

 月の光が森の地面を照らし、見通しはよい状況だった。

 その森の地面を一つの黒い影が走る。

 その後を6つの黒い影が追っていた。

 先頭の影が止まる。

 黒い忍者服に背中の刀。

 黒い兜のような頭部に横一線に光る赤いセンサーをバイザーが覆う。

 一つ、呼吸音。肩が上下する。

 シラヌイの身体を青い火花がまとう。気合の力を補充したのだ。

 黒い機械の指を強く握ると、瞬時に背の刀を抜いた。

 流れるように振り向いたシラヌイを光をまとった手裏剣が襲う。

 6体の黒い影――キニンが全て手をシラヌイに向けていた。

 嵐のように降り注ぐ手裏剣。

 駆動音がして、バイザーが上がり、赤いセンサーが全開になる。

 シラヌイの視界は無数の手裏剣の内、命中するものだけを瞬時に絞っていた。

 必要最低限の手裏剣だけを斬り払う。

 6体のキニン――下忍は、手裏剣での攻撃は効果なしとみるや、背の刀を抜いた。

 抜刀戦になる。

「シラヌイ、なぜヌケタ!?」

「シラヌイ、なぜウラギル!?」

 機械音声を上げ、下忍がシラヌイを瞬時に包囲する。

 その動きは人間が反応できる速度ではなかった。

「俺が戦ったキニンどもは手加減してたんだなあ…」

 シラヌイは機械音声で人間臭く言う。

 そして、左手の甲を見るような仕草をした。

「…ガンダールヴのルーンは消えてるか…そりゃそうだな」

 

 

 一斉に斬りかかる下忍の一人に突進し、シラヌイはすり抜けざまに胴を斬り裂く。

 近くの下忍が振り下ろす斬線を寸前でかわし、返す刀でその腕を斬り上げる。

 その下忍の胴に一瞬身を隠し、拳を胴に打ちつけながら、その向こうの下忍へ体で投げる。

 飛ばされた下忍を受けてよろめく別の下忍の隙をつき、シラヌイは袈裟斬りに斬り伏せた。

 3体の下忍を斬り伏せたシラヌイの動きは止まらない。

 残りの3体の下忍は抜刀したまま疾走してくる。

 シラヌイはその場で後方に飛び退き、間合いを計った後、身を低くして疾った。

 黒い一閃。

 弧を描く斬光が下段から斬り上げ、そのまま止まらずに頭上から真っ向に落ちる。

 その斬光の流れは2体の下忍を斬り伏せた。

 しかし、その流れの終わりに生じた背後の隙をつき、最後の下忍の一閃が走る。

 シラヌイは背中を切り裂かれる感覚を覚えながら前方の樹へ跳ぶ。

 樹を足場に三角に跳んだシラヌイの刀は最後の下忍の首を斬り落とした。

 

 

 動かぬ6体の下忍の中央で、シラヌイはゆっくりと刀を背の鞘に収めた。

 そして、バイザーが降り、赤いセンサーが隠れる。

 深い呼吸にあわせ、ゆっくりと肩が上下する。

 シラヌイの視界に背中の損傷の情報が表示された。

 危険度少。軽傷。

 この程度の傷であれば、呼吸法による気合の高まりを利用した修復が可能である。

 しかし、戦闘による気合の消耗が激しい。

 どこかで眠る必要があった。

「…機械の身体でも、不便だな。まるで人間みたいだ…」

 ふらついた足取りで、その場から離れようとした時だった。

 

 

「まちなさい!」

 月の光がさす森の中に、よく通る声が響いた。

 シラヌイのバイザーが上がり、赤いセンサーが全開になる。

 それは目を見開いているかのようだった。

「ここから先にキニンを通すわけにはいかないわ!」

 少女の声。

 シラヌイに心臓があれば、激しく鼓動していたであろう。

 樹木の後ろから月光の中に歩みでた少女。

 桃色の長い髪が月光をキラキラと反射し、それは天女のような美しさであった。

 ルイズである。

 杖を構えるその腕はサイトのパーカーの袖。

 黒いマントの背中には長い日本刀を背負っている。

 言うまでもなく、デルフリンガーが宿った日本刀である。

「油断するな、嬢ちゃん。キニンを一太刀で6体だぜ。只者じゃねえ」

「わかってる。キニンがキニンを殺す…あんたが近頃噂のシラヌイね」

 少女の頬はこけ、眼の下にはクマができていた。

 しかし、その鳶色の大きな瞳には込められている。

 キニンへの恨み。愛する人を奪われた憎しみ。

「この一ヶ月、この森の先でキニンが殺しあっていると聞くわ。

 一体の黒いキニン、シラヌイ。そいつがキニンを殺しまわっていると」

 駆動音がして、シラヌイのバイザーが降りた。

 それは目を閉じたかのようであった。

 両腕を力なく下げ、小さい呼吸にあわせ、肩がかすかに上下する。

「なぜキニンを殺すの? なんでキニンがキニンを殺すの?

 …そんな事はどうでもいいわ。キニンは敵よ!」

 ルイズが呪文を詠唱する。

 爆発(エクスプロージョン)。

 シラヌイにはそれがわかった。

 しかし、それをかわす気にはならなかった。

 シラヌイの目の前に小さい光の爆発が生じ、爆風と閃光が走る。

 シラヌイは黒い人形のように吹き飛ばされ、樹の一本に叩きつけられた。

「…!? なんでかわさないの!」

 ゆっくりと立ち上がったシラヌイは肩を落としながら、ルイズに背を向けた。

 背中を見せて、ちらりと振り向いた、その顔。

 ルイズはその後ろ姿にある人物を重ねた。

 シラヌイは跳躍のために、身を低くした。

「待って!」

 そのシラヌイの目前に、瞬時にルイズが出現する。

 瞬間移動の魔法であった。

 ルイズは背を伸ばし、両の手でシラヌイの顔をつかんだ。

 黒い鉄兜。額のクロサギの紋章。目の部分に横に走る赤いセンサー。

 じっ…と見つめてくるルイズの視線から逃れるように、シラヌイは顔をそむけた。

「あんた、わたしの背中のカタナを取りなさい」

 ルイズが背負う日本刀。デルフリンガーが宿るサイトの愛刀。

「お嬢ちゃん、どうしたってんだ? 大丈夫か?」

「黙りなさいデルフ。あんた、武器の仕組みがわかるんでしょ?」

 ルイズのその言葉を聞き、シラヌイはその真意に気がついた。

 でも、まさか。今の俺は機械の身体で。俺だった要素など、なにもないのに。

 シラヌイはルイズの腕を優しく振り払おうとした。

「動かないで!」

 ルイズの怒声と共に、細い脚がシラヌイの股間を襲う。

 鉄が響く音がした。

「痛ーーーっ!」

 ルイズが痛む脚のすねを抱えてしゃがんだ。

「だ、だいじょうぶか?」

 シラヌイはうろたえながら、ルイズに左手を伸ばした。

 ルイズはその左手をつかむ。

「確信した。あんた、サイトでしょ!」

 

 

 

 

 

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