さて、明日から新学期。ネギ先生が3—Aの担任として勤務する記念するべき日だ。
ネギ先生はまだまだ幼い所もあるが、聡明で、素直で、人の気持ちを理解してあげようとする心の持ち主だ。立派にやって行って下さると信じている。
俺もここの学生としてしっかりやって行かないといけないな。そのためには。
「まずは忘れ物が無い様にしないとな」
これは基本中の基本。ここがしっかりしないとまず学生としてマズい。
後は身成。爪はしっかりと切る。制服はしわが残らない様にしっかりとアイロンがけを行っておく。明日の朝には髪の毛をしっかりと整えておかねば。
靴はワックスを掛けておく。毎日は行わなくていいが、一週間に一回掛ける程程が俺の考えるベストだ。
あとは・・・もしもの時のための万能ポーチ。忘れちゃあいけない。これがないと非常事態に対応できない。・・・桜崎とかエヴァンジェリンみたいな。
「・・・よし、チェック完了。持ち物よし、靴良し、爪良し、制服良し、後は生徒手帳をブレザーの内ポケットに入れて・・・オッケー!!」
これで万全。万が一寝坊しても朝飯をかき込めば髪の毛以外は万全の体勢で出られる。安心。
毎日の日課をこなし、さて後は風呂に入って寝るだけだ。
しかし、風呂に入ろうとしたその瞬間。
—いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!?—
闇夜を切り裂く、女の子の悲鳴。この近くか!?
急ぎ窓から身を乗り出し、相棒を呼び出す。
「リフター!!」
呼びつけた5秒後、凄まじい勢いで上空からリフターがすっ飛んで来る。
・・・毎回呼びつけておいて難なのだが、これについて学校からのお呼出が一切ない。いくら学園長に。
『なんとかしてくんね!?』
『オッケー』
みたいな感じで頼んでみたにしても対応が完璧すぎやしないか?
まあいい、それはともかく。
「リフター!蓋開けろ!!バックベアードを積む!!」
《了解。シャッター開放》
プシュっ!!
ポーチからバックベアードを引きずり出し、カメラがリフターの前方を向く様にリフターが開けたシャッターの奥の丸いくぼみにはめ込む。
《レーダーユニット『バックベアード』を搭載、リンクします》
ブゥン・・・
シャッターが閉まり、バックベアードがリフターとリンクすると、リフターのレーダーが起動する。
バックベアードは、元々リフターの索敵ユニットとして作った物を、改造して個別に運用できる様にしたもの。これが本来の姿と言える。
「リフター!!悲鳴のした方向とそこまでの距離、特定できるか!?」
《可能です。検索開始・・・・・・特定完了。レーダーへ表示。目的地まで飛びますか?》
「頼む!!」
《了解》
レーダーに指し示された一つの点に向け、リフターが加速する。
十秒もしないうちに、リフターはレーダーの表示した場所、桜通りにたどり着いた。
《目標の真上です》
「そのまま待機!!周囲の警戒頼む!!」
《了解》
リフターから飛び降り、目的の場所、一本の桜の前に降り立つ。桜に人がもたれかかっている。
「リフター、生命反応の確認頼む」
《了解。確認開始・・・》
「さて・・・」
暗がりで顔がよく見えないが、女の子らしい。
風呂桶を持っている。風呂上がりを襲われたらしいな。
一応顔を確認するために、相手に近づく。
くくられた朱色の髪が見える。活発そうな顔を・・・って!?
「さ、佐々木じゃあねえか!?なんてこった・・・」
倒れていたのは俺のクラスメイトで、新体操の得意な女の子、佐々木だった。
「・・・・・・落ち着け、とりあえず現状確認だ」
周りを確認し、何か落ちていないか、何か異常がないかをを確認・・・も、特に怪しい物も場所もなし。
「下手人はなかなかに頭が切れるらしいな。ここまでしっかり証拠を消すとは・・・何か、何かないか・・・・・・」
《マスター、近辺に正体不明のエネルギーを確認》
何っ!?正体不明のエネルギー!?・・・・何だろそれ。
つーか、リフターにすら登録されてないエネルギーって何?んなもんあるのか。ん?いや待て・・・ネギ先生の様な魔法使いがいる事を考えると、まさかその正体不明のエネルギーってのは、魔力か!?
「リフター!!バックベアードに記録されてるネギ先生のエネルギーの波長とと周辺のエネルギーの波長を照合!!」
《了解。照合開始・・・完了。個人的な差異と思われる部分を除いた波長パターンが一致》
やっぱり・・・・・・!!
すると、今回の一件は魔法使い、それに準じた何者かの仕業ってことか?
・・・ネギ先生に報告するべきか?それにしても今からだとネギ先生が混乱するな。報告するにしても、明日が良さそうだ。
・・・いやな予感がするぜ。今回の相手はどうにもやばい気がする。・・・ん?
「・・・何だ、この首筋の跡?」
佐々木の首を見てみると、何か細い針の様な物を突き刺した跡が見える。それも二つ。なかなかに深い。
「蚊か?いや、こんな風にはならんな」
なら、なんだこれは?動物が噛み付いたにしては跡が綺麗すぎる。
何かの証拠になるかもしれんし、とりあえずケータイで撮影。
さて、とりあえず佐々木をどこか安静にできる所・・・保健室でいいか。保健室前まで届けねば。
「マスター・・・・」
「ふん。相場是玖徒め、勘付いたか。やはりぼーやと共にわが前に立つのは奴のようだな」
「楽しそうですね、マスター。やはり相場さんとの対決が楽しみなのですか?」
「・・・ふはははははははは!!分かるか茶々丸!!あいつは面白い。一見飄々としていてそのくせ熱い芯を持つ曲者だ。奴とやり合うのは退屈しないだろう」
「左様で」
「ああ。ぼーや共々、しっかりともてなさねばな。ふふふ・・・・」
「おはよー御座いまーす!!」
走って行くネギ先生が目に入る、新学期の輝く朝。走る学生達は皆一様に晴れやかな表情だ。どうやら昨日の出来事については余り知らない奴が多いらしい。
・・・昨日の出来事について、少し考えてみるか。
まず魔法使いならなぜまき絵を襲ったか。何も取られた様な物がない状況からして、物取りの線は消える。
なら、乱暴が目的か?それもないだろう。服は一切乱れていなかった。それにあんな場所で襲うなどリスクが高すぎる。
しからば、何が目的か・・・・・・それが見えない。
そして、あの首の跡。
首筋に残されたあれが一番気になる。最も訳の分からない留意点だ。
なぜ首筋?二つ穴があいていた理由は?なぜ血が出ていない?まるで吸われた様に・・・・・・・・・?
「なんだ?何か今頭によぎったような・・・・」
なんだ、何が引っ掛かった?
血?違う、これじゃない。
二つの穴?違う、これでもない。
首筋?違う、俺は変態じゃあない。
「是玖賭さーん?おはよー御座います。遅刻しちゃいますよ?」
なんだ、なにが・・・・・
「是玖賭さーん!?」
「ぬふぉっ!?」
ぬう、ぼ〜っとしていたッ!!ネギ先生の声に気づかないとは。
「あ、あぁ。ネギ先生御早う御座います。御用で?」
「御用で?じゃないですよ!遅刻しちゃいますよ?」
「へっ!?・・・・・OH!?もうこんな時間か!!」
いかんいかん、考え事も程々にしないとな。日常生活に支障が出かねない。
さて、急ぐとするか・・・しかし、何に引っ掛かったんだろうな。本当。
「三年!!」
「A組!!」
「「「「「「ネギせんせー!!」」」」」」
相も変わらず元気なもんだ。このクラス。3年になってもテンションは変わらず、か。まあ、それは良い事だけど。
((馬鹿ばっかりだ)です)
・・・まあ、後ろの二人が恐らく思っているであろうが、元気すぎるのもまああれだ・・・・・・うん。
と、ともかくHRが終わったらネギ先生に声をかけて昨日の事について報告しなければ。俺はこういう事についてのプロじゃないしな。やはりそっちの方に明るいネギ先生に報告するのが当然だろう。
「改めまして、3年A組担任になりました。ネギ・スプリングフィールドです。これから来年の3月までの一年間、よろしくお願いします」
「「「はーい!!」」」
「「「よろしくー!!」」」
うむうむ、ネギ先生も堂々とされて。風格も出てきたかねぇ・・・まあ、それは置いといて。
チラリ、と横を見遣る。俺の席から三列横の席、そこに座っている金髪幼女。
(エヴァンジェリン・マクダエル・・・何を考えている?)
先程からネギ先生に目を向けている・・・というより注視している、という方が正しい位見つめている、あのお嬢さん。
この前の夜から、こいつと絡繰は危険人物として認識中だ。マクダエルはまだ実力が把握できていないし、絡繰は恐らくまだ本気ではなかったのだろうと推測する。
何でかといえば・・・まああれだ。あっさりしすぎている、という事が有る。武装もマジ、飛ぶ速さもかなりの物。だが・・・明らかに殺気が足りていなかったと感じていた。だからこそ勝てたのだが・・・しかしあれだけ闘える人があんなにあっさり負けるとも思えん。
恐らくは手加減をしていたと思われるのだが・・・まあそれは置いておこう。
だから今回の件と平行してこの二人にも警戒を払わねばならない。
ネギ先生のサポート役を自称している身、こういった事もせねばならないだろう。
さて、今俺は着替えをしているのだが・・・まあ、この後の身体測定の為である。それぞれ、他の女子は教室で、俺は特設の更衣室で。
しかし、ネギ先生に用件を伝え損ねてしまった。後で言えば良いのだろうが、やっぱり情報は新鮮な方が良いだろう。出来るだけ早く伝える必要が有る。
身体測定が始まる直前に用件だけ伝えて・・・いや、そういえば佐々木の事を忘れていた。
そろそろ佐々木の一件がネギ先生に伝わってもおかしくない、伝えるならそこか。っと、着替えも終わったし行くか。
更衣室の扉を開け、教室に向かうと、ネギ先生が和泉から何か話を聞いていた。恐らくは佐々木の一件か。
話を聞き終わると、ネギ先生は保健室の方向に向け走り出した。佐々木の様子を見に行くのだろう。
俺も向かわないと。
「まき絵さんは心配有りません。唯の貧血かと。それとアスナさん、僕、今日帰りが遅くなりますので晩ご飯要りませんから」
おっ、めっけ。
今の台詞から察するに、どうやら佐々木の様子から魔力の事は分かったみたいだな・・・まあ、もう一つについては気づいているかどうかは分からない。
一応聞いてみるか。
「(ネギ先生)」
「(是玖徒さん)」
「(体の魔力について、気づきましたか)」
「(・・・どうしてその事を!?)」
「(ここではマズい、話は離れつつ歩きながら)」
「(わかりました)」
「それで、何故」
「昨日の夜悲鳴が聞こえたんで、すっ飛んで行ったら佐々木が倒れていたんですよ。それで保健室に運んだんです」
「はい」
「それで、運ぶ前に付近の調査をしたんですが、魔力の反応が有りましてね。それでです」
「魔力の調査も出来るなんて・・・本当に凄いですね」
「まあ、伊達に科学やってないんで。それでですね、その後佐々木の事も少し調べたんですよ」
「えっ!?」
「何で顔赤くするんですか・・・何にもしてません、観察しただけです」
まあそれもあんまり良くないけど・・・証拠を見つける為だ。仕方ないだろう。
実況見聞という奴だ。決してセクハラではないのだ。
「そうしたら、首筋に針でも刺したみたいな細い傷跡が、並んで二つありましてね」
「二つの傷」
「えぇ。それの正体がさっぱり分からなくて・・・朝も考え通しでしたよ」
「ああ。だから朝ぼーっと」
「はい」
あれはもの凄い恥ずかしかった。注意力に難ありだよ本当。
「それにしても、二つの傷。それって・・・」
「なにか心当たりでも?」
「ええ。相場さんもおとぎ話とかで聞いた事が有るんじゃないでしょうか」
「?」
「血を吸う怪物、夜の支配者、不死者の王様。吸血鬼ですよ」
「吸血鬼、か・・・」
吸血鬼。
力が強い、空を飛べる、蝙蝠やオオカミに変身する、心臓に杭を打たれなければ死なない、血を生物から吸って生きる。等々人間離れしたおとぎ話の悪役として有名な化け物
反面、流水を渡れない、十字架やニンニクが苦手、太陽に触れれば灰になる、と弱点も多い。
しかし、それを抜きにしても吸血鬼は強い。おとぎ話じゃ必ずと言っていい程何らかのボスの役割が与えられる。
しかし、吸血鬼は恐れられていない。それは何故か、吸血鬼は存在しないからだ。いや、存在しないと認識されているから、と言う方が正しいか。
「魔法使いがいるんだ、そりゃ吸血鬼もいるわな・・・」
ネギ先生は、佐々木の傷から見て、今回の事件はほぼ間違いなく吸血鬼によるものだろうと断定した。
話を聞く限り魔法使い達の間でもやはり吸血鬼は有名らしいし、恐れられているようだ。特に、真祖と呼ばれる種類の奴は。
真祖、とは。何なのか。
俺は様々な本を読んできて、真祖についてのイメージもある程度知ってる。
すなわち、始まりの吸血鬼。
人から初めて血を吸ったもの。それ故に最も力は純粋で、強い。と言った様な事が様々な文献に書かれていた。
しかし、今回の犯行は真祖ではないとネギ先生は判断した。
真祖なら学園に入った時点で何らかの対処がされるらしい。まあそりゃそうだ。
魔法使いの間ですら伝説として恐れられている怪物だ。そんな事になったら確実に戦力が派遣されるだろう。それこそ腕利きが。
それが無いと言う事は・・・恐らくは唯の吸血鬼だろう、と言うのがネギ先生の見解だ。
しかし、唯の吸血鬼だからと言ってどうでもいい訳ではない。対処はしないとマズい事態になる。
ネギ先生はこの一件を一人で解決するつもりらしい。まあ自分のクラスの生徒がやられたのだから、そう思っても仕方ない・・・が。
「どうにも不安だ・・・ネギ先生、逸らなければ良いが」
ああやってやる気を出すのは良いが、そのせいで、焦ってポカやった奴なんてそれこそ腐る程見てきた。それこそ俺もそうだ。
・・・やっぱり、俺も見に行ってみよう。さっきは来ない様に念を押されていたが、やっぱり従う訳にはいかん。ネギ先生を探し出し、加勢しよう。
「・・・よし、この前作った試作品を試してみるか」
ポーチの中に色々放り込んで、準備完了。
「リフター!!登録してあるネギ先生の反応を検索!!そこまで飛ぶぞ!!」
《了解》
「反応が有ったのは、この辺りか」
どうやら移動しているらしく、正確な位置までは特定できなかった。
しかし、この近くに居るはず。
「『
っと、噂をすれば!!
「リフター、この場で停止」
《了解》
どうやら建物の屋根の上で、見つけた犯人と思しき奴と戦闘していたらしい。発見したらしい容疑者のの姿も見える。って!!
「おいマジか・・・よりにもよってエヴァンジェリンの野郎かよ」
ネギ先生と共に屋根の上に立っていたのは、この前俺を襲撃した金髪少女、エヴァンジェリンだった。こいつ吸血鬼だったのか!!でも・・・
「納得はできるな。この前の少女とは思えねえ迫力と年寄り染みた喋り方。吸血鬼だから年喰ってやがったって事か」
年齢と違って喰えねえ野郎だ。しかし、何故か下着姿。
よく見ればネギ先生のパーカーの片袖も不自然に破れている。
エヴァの方、恐らくはネギ先生の魔法。直撃したのだろう。ネギ先生の方はエヴァの奴の仕業だろうが、直撃はしていない。つまり。
「ネギ先生と野郎が打ち合って、ネギ先生が打ち勝ったのか・・・流石だぜ」
お見事と言うしか無い。
しかし、あの野郎こんなにあっさり尻尾を掴ませてくれるとは・・・もうちょい狡猾かと思ってたが。絡繰も居ない。勘ぐり過ぎだったか?
ネギ先生への心配は杞憂に終わったか・・・まあ良かった。
後は頃合いを見て・・・ん?
「屋根の上・・・誰か、居る?」
結構高い身長、妙な耳飾り、どっかで・・・
《マスター、敵性反応、絡繰茶々丸の反応を確認》
「ッ!!」
しまった!!最初からここまでネギ先生をおびき出すつもりだったのか!?
あの野郎!!
「させるか・・・リフター!!飛べっ!!」
《了解》
ギュゥン!!
マズいっ、もう絡繰が近づいてる。
間に合うかっ!?