やらかしおにぎり回
同族から。
仲間だった者達から。
果てには肉親にすら。
ある男が現れたことで全てが変わってしまった―――否、ねじ曲げられた悪魔の少女の未来は地獄そのものになる筈であった。
自由をも奪い取られ、自身の意思も無視され、仲間だった者達に蔑まれ、厳しくも確かな血の絆があった筈の肉親達から無能と断ぜられ……。
このままでは自分すらも壊されると、それでも足掻こうとした赤髪の悪魔の少女が逃れた果てに出会ったのは。
自分よりも荒んだ目をした少年だった。
好きでも無ければ、寧ろ嫌悪すら抱いていた悪魔の男に見つかり、力付くで連れ戻されかけた自分の前に現れしその少年は、後に復讐の為に培ってきた力で自分を捕らえようとしていた悪魔達を蹴散らし、助けてくれた。
お金も無く、ただの悪魔でしかない自分に食べ物を割き、雨露だけはなんとか凌げる洞穴に匿ってくれた。
少女は何故助けてくれたのかと少年に訊ねれば、少年は『キミが昔の自分と同じ目にあってるのを見てしまったから』と前置きしながら、少し緊張した面持ちで言ったのだ。
『アホの戯言だと思ってくれて全然良いんだけど……。
キミに惚れたからだと思う―――って今のは無し! 聞かなかったことにしてくれ! いきなりワケわからん薄気味悪い人間男に言われたら嫌だもんな! なははは!』
自分に一目惚れしたから。
そう恥ずかしげに打ち明けた時の表情は今でも悪魔の少女にとっての宝物……。
「キミの行動を暫く見張っていた。
確かにキミは俺達に敵意は無いらしい」
「よ、よかった。
それなら―――」
「今の時点ではキミを殺す気はない。
けどこれだけは覚えておけ、キミとアリシアが俺に何を思ってるのかはこの際気にしない事にする上で言わせて貰おう。
…………そういうのは迷惑だ、やめてくれ」
弱くて、どうしようもなかった自分を傷だらけになりながらも守ってくれた――悪魔の少女が心底愛した人間。
自分の気持ちが、人間としても間違えているのは解っている。
道理に反しているのことであることも頭では解ってはいる。
しかしそれでも――
『昔を思い出すな』
『ええ、久し振りに暴れましょうか?』
『おう……!』
今まで出会った誰よりも美しく、そして強い赤髪のあの
「温室育ちのボンボン王子だった頃よりは、少しは根性が据わったらしいな。
が、それじゃあまだまだだ」
「くっ……! まだだ! まだ終わってない!」
だからこそ、焦がれた彼女の向く視線の先に君臨する男を越えなければならないのだ。
「最近のエドウィンはアドルフ団長の本気を引き出せくらい強くなってる筈なんだけどなぁ……」
「そんなエドを以てしても彼の強さにはまだ届かないとは……」
イッセーとリアス――そして私という存在しない筈の者との関わりがあるせいか、この世界は原作ゲームよりもインフレ度が激しい。
主人公のアリシアは既にカンスト状態。
メインキャラの三人組も対ラスボス適正レベルを大幅に越えている。
私としても想定外も想定外ではあるものの、ある意味では好都合ではある。
何故ならアリシアや彼等との切磋琢磨をする事で99が限界値では無いということやその先の領域に進める可能性がある事を知ることが出来たのだから。
「99であるユミエラとアリシアですらあの二人とはまともな戦いにはならないのか?」
「ええ、そこは殿下達と変わりませんわ。
更に言えば私はまだ戦うという土俵にすら上がれていません」
「それはつまり、ユミエラもあのお二人はただの99ではないと考えていると?」
「はい。恐らく99という限界値の先に到達していると見て間違いないです」
「99の先なんて馬鹿馬鹿しい――と言いたいが、そう考えると辻褄も合う」
「99の先か……。
二人はともかく、オレ達は99に到達すらしていない事を考えると先は長そうだな……」
ある朝の食堂。
最近は毎日アリシアと一緒に食べているのだが、ここ最近はその席にエドウィン、ウィリアム、オズワルドの三人が同席するようになった。
『………』
ハッキリ言って死ぬほど目立ってしまうのだが、彼等もまた良いトレーニング相手になってくれることを考えれば、こうした意見交換も結構有意義だったりもするわけで、あまり気にしない事にしている。
とはいえ、一部の生徒――特に女子生徒は王子達から親しげに話をしているアリシアとユミエラに対して面白くないと思う訳で。
「この中では一番あの二人の近くに居た時間が長かったアリシアがその壁を乗り越えられている可能性があると私は考えています」
「確かにそうかもしれないな。
ユミエラとアリシアは同じ99であるが、手合わせの際はややアリシアが圧倒する場面がある」
「私なんかで越えられた事を思えばユミエラちゃんもすぐに越えられると思いますよ? まあ、お三方はもう少し時間が掛かりそうですけどねー?」
「そりゃあまだ99じゃないしなオレ達は……」
「キミ達が入学式の時に目立ちに目立ったせいで、僕達の影もすっかり薄いしね……」
すっかりサークル仲間的な関係となった五人の壁越え候補達のトークはこうして割りと弾むのである。
「しかしなんだ……。エドも大概だがユミエラとアリシアはあの人にそうなんだよな?」
「ええ、なんなら自分の想いは既に伝えましたわ」
「……。か、顔に似合わず結構やるんだな……」
「押して押して、轢き殺す勢いで押さなければ話しにもなりまそんから。
もっとも、イッセーさんからは心底迷惑そうな顔をというより、ハッキリと『死ぬほど迷惑だ』って言われましたけど」
「……。その言い方だと諦めるつもりはないのだろう?」
「当然です。
私もアリシアも今後数億回フラれても諦めませんわ」
一見すれば仲良さげに見えるやり取りを、物陰からリアルにハンカチを噛みながら睨んでいるとある女子生徒の視線に気付かずに……。
俺達の生きた世界が、あの女にとってら漫画やアニメの中での世界で、俺はその物語の主人公だった―――と聞かされた時は衝撃も受けたものの納得も出来た。
何故あの腐れ野郎(最早名前すら口に出したくもない転生者)が異様に俺やリアスちゃんの事を知っていたのかにも辻褄が合う。
バカみたいに多数の女と寝るというのも奴の目的のひとつだった――いや、目的そのものだったのだろう。
しかし未だにわからない。
「ふぅ、昔とった杵柄のお陰である程度は使用人のお仕事に対応できるわ」
何故あのヤローは俺はともかくとして、リアスちゃんをああも嫌っていたのか……。
容姿が好みじゃなかったのか? いや、奴が手を出した女共よりも美人さんなんだぞ?
「? どうしたのイッセー?」
「何時見ても、どんな格好でもキミは綺麗だなって思ってただけさ」
「きゅ、急にどうしたのよ?」
「ちょっと昔を思い出してな。
何であの野郎はキミを裏切ったカス雌共には猫かぶり猫被りしてた癖に、キミにだけはあんな真似をしやがったんだろうなぁ……ってね」
「私が目障りだったんじゃないの? 眷属だった彼女達を手に入れる為とか……」
「それならキミごと取り込めば良かったと思うんだよ。
俺からすれば、あんなゴミ共と比べるまでもなくリアスちゃんは可愛いのにさ……」
「それは個人個人の好みだからとしか思えないわね……。
それと私の性格が嫌いだとか……」
アリシアが眠る寮の部屋を二人で清掃しながら、俺は地味な使用人服を着ていてもその可愛さが天元突破しているリアスちゃんに、散々辛酸を舐めさせられたクサレ野郎の行動の不可解さを思い返していた事を話す。
「あの時の私は世界をあまりにも知らなすぎた我が儘小娘だったわ。
お高く止まってると思われても仕方ないわ……」
リアスちゃんは自分の性格に問題があったのだろうと、過去を振り返りながら苦笑いをするが、そうは思えないし、今更になって考えても答えも出るわけもない。
「ゲスい言い方をしてしまうけど、あのゴミ野郎がリアスちゃんを露骨に貶めてくれたお陰で俺は出会えたんだよな……」
「私の価値が純血という点だけだと言われ、フェニックスの三男に宛がわれそうになって逃げ出したのが始まりだったわ。
あの時、イッセーが助けてくれなかったら今の私はなかったわ……」
そうだ、直接の出会いはリアスちゃんがどこぞの悪魔貴族のボンボンの嫁になるのが嫌で冥界から人間界へと逃げ出した所だった。
実を言うとあのクサレ野郎を殺すために密かに動向を伺ってた俺は、その時からリアスちゃんの事は知ってたし、奴のせいでリアスちゃんが悪魔としての居場所を失っていく事も知っては居た。
けれど当時の俺は誰かを助ける余裕なんてなかったし、頭の中は両親を殺したあの野郎に復讐する事しかなかった。
もっとも、どんどんと居場所を失い、リアスちゃんに助けられた癖にあのクサレ野郎の一言であっさりと掌を返した眷属だったカス女共達からの言葉で絶望するその姿を見ていく内に気になり……。
結局は同族にすらも傷つけられていく姿を見た事で俺は彼女を助ける為にその姿を晒した。
確かに打算はあった。
同じ痛みと傷を持つ者同士ならば、奴への復讐に協力してくれるだろうと思っていた。
「最初はあのクサレ野郎に復讐する為の仲間になって貰えるかもしれないって思ってたんだけどな……」
「でもイッセーは私を見捨てたりはしなかったわ。
甘ったれで、足を引っ張ってばかりだった私を傷だらけになりながらも守ってくれた」
そりゃあ好きになったからな。
復讐だけだった俺でも、誰かを好きになれるということを教えてくれたのはキミだったんだ。
「私が捕まってグレモリーの家に閉じ込められてしまった時も、イッセーはたった一人で私を連れ戻そうと冥界に乗り込んでくれた……」
「あの時点で俺はリアスちゃんが大好きで仕方なくなってたからな……。
後先なんて全く考えず、ただキミを連れ戻す事しか頭になかったぜ」
だから俺はリアスちゃんだけを愛せないし、愛したくもない。
ファンだかなんだか知らないし、あの女の言う原作の俺がハーレム願望のある男だったとしてもだ。
だから俺は理解が出来ない。理解したくもない。
(アリシアの依頼があるから今こうしているが、契約が切れたらそれまでだ。
正直この世界がゲームの世界だろうがなんだろうが、それこそ滅びようとも関係ねぇ……)
俺にとっての世界はリアスちゃんと――俺達を見守ってくれる相棒のドラゴンなんだから。
「リアスさん、イッセーさん! 突然ですけど学園長からお二人を呼んできて欲しいと言われたので一緒に着て来て貰えませんか!?」
「「?」」
授業を終えた私は、今日も元気よくトレーニングをして貰おうと、アリシア――そして同行する気満々の男子三人と共に教室を出ようとしたのだが、担任教師が私とアリシアに『学園長がお呼びです』と言うので学園長を訪ねてみると、待っていたのはお爺さん学園長ではなく、本日付で新しく学園長になったと名乗る若めの男性だった。
名前はロナルドという―――ちょっと胡散臭さを感じる笑みを浮かべた男は、まず私とアリシアに『イッセーとリアスをここに連れてきて欲しい』と頭を下げてきたので、警戒はしつつも二人を呼びに行った。
そして現在、使用人の服を着たイッセーとリアスと共に私とアリシアはソファに腰掛けてロナルドなる新しい学園長と向かい合っている。
「こうして顔を合わせるのは初めてになりますかな? 私は陛下の命を受けてこの度学園長に就任させて頂いたので、お二人にはそのご挨拶を……」
「………」
「私たちは一介の使用人。
ですのでそのようなご挨拶は不要ですよ?」
凄まじく腰の低い言動をする学園長に、リアスさんがにこやかに返す。
「そう思われるのはアナタ達だけであって、我々にとってアナタ方はこの国の危機を救った英雄だ。
堅苦しいのかもしれないが、これは我々のケジメのひとつだと思ってくれると幸いだ……」
当然と言えば当然だが、二人の戦力を考えれば下手に出るのも仕方ないのかもしれないと思うが言われてる本人達はどこかむずムズ痒そうにしている。
「それで、用というのは?」
そんな理由で居心地が悪そうにイッセーが用件を聞くと、ロナルド学園長はお茶を一口飲んでから話を始める。
「今年の新入生は過去に類を見ない高レベル者が多い。
アリシアさんとユミエラさんは99で、エドウィン殿下、ウィリアム君、オズワルド君の三人も90に届くレベルだ」
『………』
改めて思うと確かにインフレしまくってる感は否めない。
「ユミエラさんを除けば、その理由はアナタ達にあることは理解している。
だからこそ、ここからはアナタ達への『依頼』となるのだが――」
「「………!?」」
そんな事をぼんやりと考えていた私とアリシアは、直後に学園長が口にした依頼内容に目を見開くのだった。
イッセーとリアスとアリシアとユミエラが学園長からの依頼の話を終えて学園敷地の外れにある森へと赴くと、エドウィン、ウィリアム、オズワルドの三人が既に自主練習をしながら待っていた。
「お待ちしてましたリアスさん!」
その姿を――というかリアスの姿を捉えたその瞬間、持っていた模擬剣をそこら辺に投げ捨てたエドウィンが、飼い主を発見してはしゃぐ犬のようにリアスの眼下まで走ると、仮にも国の王子なのにリアスに膝つく。
「で、殿下? 私のような庶民にそのような真似は……」
まだ幼い頃のエドウィンとは一度だけ会った事があるリアスは、当然膝までついてくるエドウィンにやめてくれと言うが本人に止める気配がない。
「…………」
そんなエドウィンに向かって左右の指をバキバキ鳴らしながら、殺る気満々オーラを出すイッセーにエドウィンの幼馴染みであるウィリアムとオズワルドがペコペコと頭を下げまくる。
「そ、それで学園長にはなんと?」
ウィリアムとオズワルドに加えてアリシアとユミエラもバチキレた狂犬顔をしているイッセーを『どうどう』と落ち着かせる最中ウィリアムから出てきたその質問に、イッセーは一旦落ち着き、足元に転がっていた石ころを拾い、そのままエドウィンの後頭部目掛けて殺人的な速度で投げつける。
「その事で少し話すことがあるから、今すぐあのボンクラ王子を連れてこい」
石が砕ける勢いで後頭部に直撃した事で白目を剥き、泡を口から吹きながら気絶をするエドウィンを顎で指すイッセーは、どこからどう見ても不敬極まる行動だ。
「ただちに」
「まったく、エドにも困ったものだよ……」
しかしこの場に居る全員は『エドウィンの方が悪い』と思っているせいか、寧ろイッセーに言われるがままに気絶しているエドウィンの頬をひっぱたいて起こすのであった。
「きゅ、急に頭の後ろに強烈な痛みと衝撃があったのだが、一体何が……」
「自業自得だ」
「頼むから反省と自制をしてくれ……」
そして後頭部にギャグ漫画のような巨大コブを作りながら意識を取り戻した後全員を集め、漸く本題に入る。
「簡単に言えば、高レベル者を対象にした特別クラスの新設をするらしい」
「高レベル者だって?」
「厳密に言えばレベル80を越えている者を対象とした精鋭クラスですね」
「そのクラスになった人達をイッセーくんとリアスお姉ちゃんが教師として教えるんですって」
「「「!?」」」
新たに新設される意欲者を対象とした精鋭クラスの教鞭を取る事になったと聞いた三人の男子は目を見開く。
「オレ達は一応80を越えているからその対象に入れるって事ですよね?」
「そうなる。
というより、お前らとアリシアとそこの女――」
「ユミエラ」
「そこの黒髪の女――」
「ユミエラですって」
「……。そこの表情筋死に気味能天気女―――」
「ユミエラですってば……! もしくは賎しいメス豚と呼んでください!」
「「「…………」」」
実は未だにユミエラをあまり名前で呼んだことが無いイッセーは普段ユミエラを『おい』だの『キミ』としか呼ばない。
当然ユミエラはそれを不満に思うので、ぐいぐいと名前で呼べと押すのだが、うっかりイッセーにのみ発動するマゾ気質までぶちまけるせいで、一時期魔王の生まれ変わり疑惑が浮上していたユミエラへのイメージが絶妙に崩れた気がするエドウィン達。
「名前で呼んであげたら?」
「………………。ユミエラさんの5人は自動的にそのクラスになるから―――」
「………………」
「……。なんだよ?」
「い、いえ……! ひ、久しぶりに名前を呼んで頂けたせいか、下腹部が大変な事になっただけで、大した事じゃあないです……」
「……………………」
「な、なんだかエドに似てるなユミエラは……」
「もう少し物静かなイメージだったのだが……」
「な、なにを言う! 私はあんなに下品じゃないぞ!?」
「それはどうですかねー?」
なんなら実質嫁、もしくは旦那が居るのをわかってるくせに押し込もうとするその行動力がエドウィンと被ったとウィリアムとオズワルドは思うのだった。
「大袈裟な話に聞こえるかもしれないが、やることは普段やってることと何ら変わらない。
どうせ適正に達してるのはお前らくらいだしな……」
「リアスさんに近寄ることを嫌がるのに、エドにもちゃんと教える気なんですね?」
「それ相応の報酬は貰うつもりだからな。
……まあ、腹は立つがあの小僧の見る目は正直わからんでもないんだよ―――ムカつくけどな」
「ゆ、夢にまで見たリアス先生のご教授……! 不肖エドウィン! 死んでも貴女について行きます!!」
「そこまで張り切らなくても良いのですよ? やることは普段のトレーニングと変わりませんし……」
こうして、実質学園側では手に負えない問題児(レベル的な意味)達の教師役となったイッセーとリアス。
「あ、アリシア・エンライトにユミエラ・ドルクネス………! そしてあの女もエドウィン様の近くに……きー!!」
そんな彼等を物陰でリアルにハンカチを噛みながら覗いている女子生徒が居たりするのだが、あまりにも貧弱過ぎて気配で気付かれることはなかった。
終わり
こうして新設した精鋭クラスの担任と副担任となったイッセーとリアスだが、やることは普段と変わらない――筈だった。
「お願いしますわ! どうか私を精鋭クラスに入れてくれるようにお話をしてくださいまし!!」
「「………」」
最低でもレベル80を越えなければ精鋭組には入れない。
それを知ってか知らずか、とある過激派の貴族の娘である女子生徒が、ユミエラとアリシアにお茶会をほぼ強引に誘ってから懇願する。
「――と、言うことがありまして」
「レベルの問題で無理ですと何回説明しても全く聞いてくれなくて……」
どう言っても入れなさいの一点張りであるので、仕方なくイッセーとリアスに話を通すユミエラとアリシア。
「エレノーラ・ヒルローズ?」
「公爵家の一人娘だな。学年も同じだ」
「は? エドお前、確か何回か彼女と踊ったりしたことがあなかったか?」
「………? はて、そうだったか? 私の記憶は赤一色でな。
他の女の事なぞ記憶にもない」
その話を共に聞いていたウィリアムとオズワルドはそのエレノーラなる女子生徒のことを知っているようだが、悲しいかなエドウィンは彼女の事を一切記憶していなかったらしい。
「あのー、エレノーラさんのお話を聞いていた限り、エドウィン王子のお側に近づきたいから精鋭組に入れろと言ってたのですが……」
「そうなのか? しかし覚えてないものは覚えてない。
私が見える先は常にリアス先生だけなのだ」
「………。そういう所だけはイッセーくんみたいだねエドウィン王子様は?」
「俺がこんな小僧と似てるわけないだろ。
で、その小娘のレベルは?」
「精々5くらいだと思います」
「話にならないじゃねーか」
「私たちもそう説明したのですが、やはり入れてくれの一点張りで……」
「はぁ……」
しょうがないので直接断ろうと動くイッセー先生。
「―――と、いう理由でキミを入れるわけにはいかないんだ。
おわかりか?」
「嫌ですわ! 私もエドウィン様とご一緒にお勉強したいのですわ!! あのアリシア・エンライトだのユミエラ・ドルクネスだの、リアス・グレモリーだのといったどこの馬の骨ともわからない女が良くてヒルローズである私が駄目なのは納得できませんわ!!」
「……………………………」
「貴方の事は大体聞いております! お金ですか!? お金を払えば――――」
けれど、見た目通り我が鬼のように強すぎる貴族娘は全く聞いてはくれず、終いには金銭を駆使して裏口入学のような真似を提示し始めた辺りで、元々リアス以外に対しては短気通り越してただの狂犬だったりするイッセーは、目の前に置いてあったテーブルを蹴り上げて粉々に粉砕してしまう。
「今すぐ『わかりましたわ』と首を縦に振らないと―――コロスゾ?」
「ひっ!?」
ただでさえ最近は、エドウィンがリアスに突撃しまくるせいでイライラしていたせいもあって、半分八つ当たりのようにエレノーラに殺意をぶつけてしまうイッセー。
その瞬間、それまでチワワのようにギャンギャン喚いていたエレノーラの顔色は死人のように白く染まり、その表情も目も――人生で一度たりともこれまで感じたことのなかった明確なる『死』に対して子供のように怯えた。
「俺は、お前みたいな一山いくらにもならない貴族の小娘一匹に時間割いてやるほど暇じゃないんだよ」
「……………………」
公爵家の一人娘として生まれたエレノーラからすれば生まれてことから崇められる事はあれど、見下された事はなかった。
だが目の前の男はなんだ? 公爵家の一人娘だからどうしたと云わんばかりに、自分を庶民と同列に扱うかのような――それこそそこら辺の石ころでも見ているような目で見下ろしている。
「自分の地位をちらつかせりゃあ今まで思い通りに出来てたのかもしれないが、覚えておくんだ小娘。
そんな小賢しい肩書きとは無関係の所に――――」
『強者は存在する』
震えるエレノーラにそう冷たく吐き捨てたイッセーは、一応テーブルを破壊してしまったので弁償できるだけの宝石類の入った小袋をエレノーラの足下に投げ落とすと、さっさと部屋を出ていく。
これによりエレノーラ・ヒルローズは生まれて初めて徹底的な恐怖と挫折を知ることになるのだった。
そしてエレノーラはそれ以降心を折ったままの人生を歩むことに―――――
「ユミエラさん! アリシアさん! そしてリアス先生! お願いがあります、私をレベル80以上に鍛えてくださいまし!!」
「「「へ?」」」
―――にはならず、寧ろこの屈辱を晴らさんとばかりに燃えたぎっていた。
「え、えーと、イッセーくんに言われて諦めたのでは?」
「諦める? ふ、何をバカな? あんな野蛮人に言われた程度で心を折るほどこのエレノーラ・ヒルローズは軟弱ではありません! しかし今のままの私ではアナタ達に近けるだけの力量はない。
だからこそですわ」
「そこまでしてエドウィン殿下に……」
「それもあります。
しかしそれ以上にあの野蛮人の鼻をあかす事が先決ですわ。
あんな男に見下されたこの屈辱は絶対に! ぜーーーーーーっっっったいにっっっ!!! 倍返しですわ!!」
「「おぉ……」」
「困ったわ、私こういう子結構好きなのよねぇ……?」
あまりにも燃える言葉にちょっとだけそのメンタルの強さに感心してしまうユミエラとアリシアとリアスは、ちょっとした興味本位でイッセーには内緒でこっそり『地獄のメニュー』をエレノーラに課した。
当初は鬼畜過ぎるトレーニングにギャン泣きしまくりだったものの、持ち前の我の強さと凄まじい執念もあってギャン泣きはするけど一言も辞めたいとは言わずに食らいついた。
エレノーラの取り巻きの女子が引いて次々と逃げ去っても構わず前進し、取り巻きの告げ口のせいで実家からお叱りの手紙が鬼のように送られても構わず前進し続けた結果……。
「い、一ヶ月で83……だと……?」
エレノーラのレベルは前人未踏の速度でエドウィン達と同等の域まで到達したのである。
これには記憶から消していたエドウィンもびっくり仰天だ。
「ふふふ、ご覧の通りアナタの仰っていた適正レベルに到達してみせました。
これで文句はありませんね?」
「………………」
「や、思ってたより根性すごくて……」
「思ってたより教えるのが楽しくて……」
「スポンジのように覚えが良くて……」
手足から見える壮絶鬼畜トレーニングの証となる生傷がちらほら見えるエレノーラがドヤァと胸を張る。
「………。まあ、適正は適正だもんな」
自分から言ってしまった以上は呑む他なく、約束通りエレノーラを精鋭組に入ることを許可したイッセー。
それを聞いた瞬間子供のように跳び跳ねながら、アリシアとユミエラとリアスに飛び付いて喜ぶ。
「やりましたわ! これも三人のおかげです!」
「よかったですね!」
「これからよろしくおねがいします」
「ここからが本番よ?」
そんな調子で新たなインフレ突入者が増えた訳だが……。
「さてと……これでやっとアナタに倍返しができそうですわ」
「………あ?」
「あの時の数々の侮辱の言葉――私は一瞬たりとも忘れたりはしませんでしたわ!」
「あ、そう……それで?」
「それで? 決まってますわ! ここから更に強くなり、アナタの棲ました野蛮顔に一発喰らわせてやりますわ! そして『参りましたエレノーラ様』と膝付かせてやりますわ!! おーっほっほっほっ!!」
「………………………………」
「お、落ち着け先生!」
「い、言うだけならタダですから! ねっ!?」
「膝をつかせ、私に謝罪をさせた暁には――――
――――――――――まず私の足を舐めさせます。そしてその背中に乗って馬のように歩かせてやります」
「……………」
『え……』
「ふふふ? こんな小娘に好き勝手言わせて腹が立ちますか? ええ、立つでしょうね? ならあのとき時のように人を人とも思わない冷酷な目で見下ろすのでしょう? そしてあの時とは違って脅しではなく私を力ずくで黙らせるのでしょう? ええ、やれるものならやってご覧なさい? 私はもうただの小娘ではないのでそう簡単には屈しませんもの。
狂暴な犬のように私に噛みついて組伏せられたとしても、発情した犬のように衣服を引き裂かれても、女としての尊厳の全てをズタズタにするような事をされても私はぜっっったいに屈しませんわ! さぁ、試してご覧なさい!!!!!」
「………………………………………………おい」
「し、知らない知らない! 知らないって!? 私達はただレベルを上げる為のトレーニングを教えてただけだもん!」
「ほ、本当よ? 確かに倍返しするって意気込んではいたけど……」
「…………………………」
「…………おい、ユミエラだけなんで目ェ逸らす?」
「ち、違いますよ!? わ、私のせいじゃないです! た、確かにイッセーさんに敵意剥き出しなのをちょっとだけ矯正した方が良いかなと思って、多少イッセーさんの事を話したりはしたけど……」
「………」
「あいた!? ふ、ふふ……野蛮な男の分際でこの私を遠慮無しに手をあげる……。
で、ですがこんな程度で心を折る私ではありません! ……くふふふ♪」
「……。頭いたくなってきた」
嘘です
補足
対象を80レベル以上とした精鋭クラス。
発足理由は、その手綱を握れるのがこの二人しかいない為。
その2
どこかの火の鳥娘とは無関係だ。