もう二度と感じる事なんて無いと思っていたからこそ、皮肉なことにその気配の元は昨日の事のようにイッセーとしての記憶が脳裏にフラッシュバックしてしまう。
何故ならその者とは過去に何度も喧嘩をしたから。
二天龍の宿命と共に――何よりこいつにだけは喧嘩で負けたくないという意地を張り続けたから。
迷子の海人族の少女を送り届けるその道中、突如として感じ取れてしまった懐かしき気配はハジメとドライグの過去の記憶を大いに刺激するのだ。
「な、なにこの感覚……?」
「遠くから凄まじい力を感じるわ……」
ミュウを送り届ける道中、それまでのほほんとしていた空気であったハジメ一行等が察知してしまった今までの誰よりも強大な気配に、全員が足を止めた。
世界を――否、星そのものを震撼させるほどの強大なパワーは、成長をした……………いや、成長をしたからこそ香織達は遠くから感じる大きな力を正確にキャッチできてしまったのだ。
「こいつは……」
「バカな……」
それはハジメとイッセーの姿に変化していたドライグも同様であり、更に云えば二人にとってこの気配は嫌でも知っている気配そのものであった。
「旦那様とハジメに近い気配がする……」
ティオもまたドライグの傍に居座るからこそ感じ取れた気配がハジメとドライグに酷似している事を理解した様子だ。
「なぁドライグ」
誰しもが遠く離れた場所から此方へと届いた強大な気配に足を止める中、ハジメがドライグの名を呼ぶ。
「ああ、わかっている。
この気に食わん気配は忘れもしない………白いのとその宿主の気配だ」
呼び声に応えながら、感じ取れた気配が何であるかを口にしたドライグにハジメも舌打ちをしながらもうなずく。
「だよな? けど一体どうなっているんだ? 何故居ない筈の奴等の気配が……」
「それはオレにもわからん。
だが確実に言える事は、今白いのとその宿主に近い気配をしている誰かは、オレ達を『挑発』しているということだけだ」
存在しない筈の気配が何故この世界に居るのかはドライグにもわからない。
しかし今ドライグが言った通り、本物にせよただのそっくりさんだったにせよ、あの気配の主は間違いなく自分達を挑発している。
「挑発か。
無意味にこっちまで届くだけのパワーを無駄に垂れ流してるという意味ではそうなるよな……」
まるで『自分はここに居るから来てみろ』とでも言わんばかりに、無意味にパワーを垂れ流しているのだ。
「方角からしてハイリヒ王国辺りで間違いないわ」
「どうするのハジメ君? ………この気配が本物だったとしたら、正直光輝君達が危険……」
「だろうな」
二人の言うとおり、この気配が本物であるとするなら、目的がなんであれ、ハイリヒ王国に居るであろう他のクラスメート達はどれだけ束となろうと事の勝ち目なぞありえない。
「正直、クラスメートさん達がどうなろうとどうだって良い。
だけど……確かめなければならない。
もしこの気配が俺とドライグの予想した通りならば、まず間違いなくあの国は一瞬で世界の地図から消え失せる」
『…………』
「それほどの者なのか? 一体誰なのじゃ?」
「白い龍とその宿主かもしれん。
オレとイッセーのまさに対の存在だった」
「な、なんじゃと……?」
傲慢なまでに己以外の竜を見下す傾向のあるドライグが苦虫を噛んだかのような顔をしながらも、自身と同等の力を持った存在だと認めるような発言にティオや香織達は驚くと同時に、ここで漸く二人が検討をつけているだろう人物にたどり着く。
「もしかして、ハジメ君がイッセー君だった頃の記憶にあった白龍皇……?」
「「………」」
魂を継承した時にハジメの『過去』を観た事で、ハジメが『何者』であるかをある程度知っているからこその香織の問いにハジメとドライグはハイリヒ王国――否、オルクスの迷宮がある方角の空を睨みながらうなずいて見せる。
「それが本当だとしたら、どうして白龍皇がこの世界に?」
「わからない。
わからないからこそ――どうすべきなのか微妙に迷うんだよ」
「迷う? 何にじゃ?」
「わざとらしく自分達の存在を主張するかのように力を垂れ流しているということか、奴等はオレ達の存在を認識していふことになる。
その挑発に乗ってやるのは吝かではないが、そうなると自動的に死んだ事にしていた今までが無意味になるだろう?」
どうあってもこの世界の人間共の為に働くつもりなんて無いからこそわざわざ死んだ事にして雲隠れまでしたし、一時期生存がバレてしまった時だって記憶をシェイクして痕跡を抹消してきたのに、ここで懐かしい気配に釣られてやるのは自分の生存を知らせるような事である。
それ故に今現在も此方を挑発するかのように白龍皇の力を垂れ流しにして挑発してくる奴等に乗るかどうか迷う。
「それなら確かめてみるべきよ。
ここで敢えて無視をしても、その内向こうから襲い掛かってくるかもしれないでしょう?
それに、光輝達に生存がバレてもまた記憶をシェイクしてしまえば……」
「うん」
「そもそも私はその連中と会ったことは無いけど、ハジメがコソコソしなければならない様な連中とは思えない」
「…………」
何気にクラスメート達だった人達への対応の意見が酷い雫や、同意するように頷く香織の言うとおりではあるし、ユエの意見も今更ながら確かにと思ってしまわなくもない。
「ドライグは……どうしたい?」
「オレか? オレはそうだな……奴等がオレ達の知る奴等かどうかを確かめておいて損は無いとは思う。
ニート生活を目指しているお前の邪魔をしていしまう形にはなるがな」
「……………」
ドライグのその言葉と共に香織達もハジメを見る中、ハジメは静かに目を閉じる。
(俺を、親すら拒否した俺のどうにもならない
イッセーであった頃の思い出。
どうしようもない自分に手を差し伸べてくれたリアス達。
(そんな俺が今の俺――南雲ハジメに生まれ変わってしまった事で何もかもが嫌になった。
嫌になって、腑抜けて、もう二度と誰かの為に生きたいなんて思わなくなって……)
そんな大切な人達を喪い、全てを壊し尽くしても尚残り続けた虚しさを抱えたままの南雲ハジメとしての人生。
(そんな俺の何が気になったのか、ウザいくらい香織と雫に絡まれて……)
そんな腑抜けな自分にそれでも構ってきた変な香織と雫。
(それは
異世界で出会った様々な種族の者達。
(そして今、アイツ等が俺達を呼んで居る……か)
イッセーとしての過去を思い返しながら目を開ければ、目の前に居るのはハジメとして出会った変人達。
「ニートになるってのも、案外難しいよなホント」
自嘲気味に苦笑いを浮かべるハジメの目に映るはイッセーとしての
思い返せば、彼女達もまたリアス達とそう変わらない好ましい変人達なのだ。
「上等だその挑発に乗ってやるよヴァーリ。
ぶちのめして迷惑料をふんだくってやるぜ……!」
だからこそ、ちょっとだけ彼女達の前で括弧――ではなく格好を付けたくなったハジメの精神は消え続けていた精神に再び火を灯すのだ。
「やるぞドライグ赤龍帝の復活だ……!」
大切な人達の為だけに人である事を辞め続けたあの頃の情熱を。
イッセーからハジメとなった時から、ドライグは内心敵の存在しない世界では自分の存在が枷となるのではないかと思っていた。
それは異世界に召喚され、ハジメが錬成という力を新たに会得した事で更に懸念するようになった訳で……。
まともな敵すら居ない以上、ハジメは自分を使うことはもうしないのではないかという不安がほんの少しだけ残っていたドライグにとってすれば、かつての宿敵に酷似した強い気配はまさに僥倖だった。
何故なら今のハジメの目はかつてのギラギラとしていたイッセーの頃の目と同じなのだから。
「全速力でオルクスの迷宮へと向かうぞ。
悪いなミュウ、ちょっとばかり寄り道をさせてくれるか?」
「あ………ぅ、うん……」
精神を一時的にとはいえ『現役』に戻した自覚が今はまだ無いハジメだが、ハジメを知る者達には――それこそ昨日今日会ったばかりのミュウですら、ハジメが本気と書いてガチとなっていることを察してしまう。
「ふむ、良い顔付きじゃな? 旦那様が惜しんでいたのもわかるぞ?」
「そうか? あんまり変わらないと思うけど……」
そんなハジメのガチさを初めて見ることになるティオは、姉のような――いや、母親のような心境を抱いていると、傍に居たドライグが拳を突き出す。
「オレを使わん――なんて意地の悪いことは言わせんぞイッセー?」
久方振りの『闘争』に――なにより赤龍帝として共に戦える相手の出現に少々高揚をした様子で拳を突き出すドライグに対し、ハジメもそれに応えるかのように拳を突き出す。
「当たり前だろ。
俺達の想像通りの相手であったにせよ、違うにせよ、遊んでられる相手じゃないことぐらいわかってるし、錬金だ
その言葉に対する応えにドライグは満足そうな笑みを溢していると、ハジメの方から突きだされたドライグの拳に己の拳を合わせれば、イッセーの姿であるドライグの身体が淡い輝きを放ちながら透けていく。
その神秘さをも――されど力強さを感じさせる赤い光を放ちながらハジメの身体を覆う様に溶け込めば――
『ふっ、やはりオレはお前の神器としてこうしている方が性に合う』
ハジメの左腕を覆う赤き龍帝の証へと戻るのである。
「……………」
文字通り久方の赤龍帝の籠手が己の左腕に纏われたハジメは感覚を確かめる為に籠手に覆われた自身の左手を見つめる。
「………………………………………………」
感覚にズレはない。
それを確かめたハジメは香織達に見守られるような形で白龍皇の気配がする方角を見上げると―――
「フッ……まずは返してやるよヴァーリ」
『Boost!』
十数万体の魔物の軍勢を殲滅させた時ですら解放することのなかったパワーを全身から解き放った。
「きゃっ!?」
「くっ!」
「こ、これは……!」
その赤き龍帝から放たれる剛のパワーを前に、香織達はそれまでのハジメは本当に気が抜けていたのだと改めて驚愕する。
「ふ……ふふ……なんという力の奔流じゃ。
これが本気の旦那様とハジメというわけか……!」
「すごい……ハジメお兄ちゃん」
誰しもが腑抜けて無いその姿に驚きながらも見つめる中、全身から暴風のような赤い闘気を放つハジメが振り向く。
「今から喧嘩――するかはまだわからないけど、取り敢えず向こうにカチコミみたいな事はするわけだが、お前達はどうする? ここで待ってるか?」
『…………』
この問いに香織達の答えはひとつだ。
「勿論、私はハジメくんについていく」
「正直アナタからすれば足手まといにしかならないかもしれない。
けれど、この先の――アナタの立つその
「ハジメの邪魔になるモノの片付けくらいの手伝いはできる」
「愚問じゃ。
妾は地獄に落ちようとも旦那様と義息子と共におる事を決めたのじゃ」
「ミュウはお兄ちゃんからずっと離れない……。
だから一緒に行く……!」
腑抜けようが。ギラつこうが。ハジメであろうが。イッセーであろうが。
少女達の決意は固く、そして頑固だ。
『ふん、バカな小娘共め……』
「まったくだ……が、そういうバカさは嫌いじゃないな」
『ああ』
そんな少女達に対して久しぶりに心のそこからの笑みを溢したハジメ。
「じゃあ行くか……!!」
そして彼等は共に戦場へと飛翔するのであった。
ただの魔人族のカトレアにしてみれば、ハジメでもありヴァーリという半人半魔はまさに『半端者』だ。
しかしその半端者が故の強さを知ったからこそ今の自分がある……。
「! ハジメ……!」
「オレも感じた。
くくくく……! やはり存在していたか赤龍帝――いや、兵藤イッセー!」
だからこそカトレアはただの半端者の魔人族のカトレアとして生きる事を決めた。
人としても魔としても疎まれながらも己の道をひたすら突き進み続けるその強さに惹かれて。
「オレはここだぞ兵藤イッセー……。来い!!」
その『身勝手』さに何度も振り回されてきた事もあった。
だけどそのお陰で自分は魔人族としての殻を突き破れた。
「ふっ、アタシが見えなくなるってのはちょいと気にくわないが、ハジメ――いやヴァーリのあんな顔を見るのは久しぶりだからね。
今回だけは許してあげることにするよ―――」
殻を突き破ったからこそ……。
「そういうことだから坊や達と遊ぶのはここまでにするさ。
ご苦労さん、そして感謝くらいはしてやるよ―――――――……―アタシ等の暇潰しに付き合ってくれてさ?」
たどり着けたのだから。
「ぐ……ごほっ! う……ぅぅ……!」
「こ、光輝……!」
文字通り片手間に向かってくる勇者組を相手に『遊んでいた』カトレアは、最早誰もが立つことも出来ない少年少女達を見下ろす。
「ま、まだ……まだだ……!」
そんな中、天之河光輝はその目を白銀に輝かせながら立ち上がろうとするが、カトレアは呆れたような目をする。
「ろくに動けもしないのだから大人しく寝てれば良いのに、難儀な坊っちゃんだね。
私がまだ『ただの魔人族だった頃』の時もそうだったけど……」
「ダァァァッ!」
カトレアの言葉を一蹴するかのように咆哮をあげながら剣を振り回す光輝。
しかしその刃は文字の通りカトレアの人差し指一本で事もなく防がれてしまう。
「ま、昔のアタシなら結構ヤバかっただろうけど……」
「ぐはっ!?」
「紛い物の白銀にやられるほどアタシは甘くないんだよ坊っちゃん?」
そしてそのまま光輝の額を人差し指使って弾く――つまりデコピンをすれば呆気なく光輝の身体は地へと何度も叩きつけられながら吹き飛ばされてしまう。
「残念だけど、アタシはもうとっくに魔人族の殻を壊してるんだ。
今更勇者だ神だなんてどうだって良いのさ」
その戦闘力の差に他のクラスメート達の表情は絶望一色だ。
「ほらほらそこ、ぼさっとしてないで早いとこそこの坊っちゃんを回復させてやりなっての。
気分的に手加減してはやったから死にはしないだろうけどね」
『………』
加えてこの女魔人族は自分達に回復の猶予さえ与えてくる上で尚余裕を見せている。
「く、クソォ……!」
「む……来たね。
それにしてもヴァーリの他にこんな力を持った奴が本当に存在してるなんてね……。
それに奴だけじゃなく他にも強い力を何個か感じるし……」
そんな中、最早興味の欠片も無いとばかりに満身創痍状態の光輝達から視線を迷宮の天井へと向けたカトレアが、突然真剣な表情となるその意味を、まだ光輝達は知らない。
――Say hello to my little friend!!(俺の友達に挨拶しやがれ!!)――
謎の大声と共に迷宮の天井が豪快に破壊されるその瞬間までは……。
補足
どこぞのスカーフェイスのラストの台詞叫びながら天井をぶち破って落下する赤龍帝と美少女達。
割りとノリノリなのは目を逸らしておけ。
その2
ハジメ(ヴァーリ)に散々振り回されてきたせいか、大概の事には動じず、またその戦闘力も彼の相棒を名乗れるだけの領域に到達してます。