強烈な破壊音と共にそれはオルクスの迷宮の天井を突き破りながら降ってきたという認識が、白髪の南雲ハジメとその仲間である魔人族の女一人に蹂躙されていた天之河光輝以下クラスメート達の最初だった。
この絶望的な状況にまだ何かが来てしまったのかと誰しもが最初は思った事であろう。
しかし強烈で派手な破壊音共に文字通り降ってきた何複数の人影の内の約二名程の姿を目にしてその瞬間、それが誰であるかをクラスメート達はすぐに理解したのだ。
「か、香織と雫……」
そう、この異世界に召喚されてしまってから最初の訓練の際に『行方不明』となってしまったクラスメートであることを。
「………」
ちなみにその中にはちゃんと黒髪の南雲ハジメも居るのだが、元々カースト的には最下位を独走していたのもあってなのか、誰の視界に入らなかったのはご愛敬と言うべきなのか……。
「う、嘘……」
「予想外だったわね……」
「白い髪のハジメが居る……」
もっとも、彼等も同じようにクラスメート達の事はまるで視界に入ってはおらず、自分達を――否ハジメを挑発した相手のその姿に釘付けにされているのでおあいこというものなのかもしれない。
「相変わらずうざってぇと思ってたが、ナリまで真似て来るとは、お前は俺のファンですかコノヤロー?」
「その言い方……ふふ、間違いなくオレの知る赤龍帝で間違いないようだ。
久しぶりだな――ある意味で会いたくて仕方なかったぞ……!!」
何故なら目の前に居る白龍皇かと思われる存在は、髪の色こそ違うものの、あまりにもハジメにそっくりであったのだから……。
かつてのヴァーリ・ルシファーであることを想像していただけに、その予想を斜め上という形のカウンターを先ずはくらってしまった気分であるイッセーこと黒髪の南雲ハジメは、待ちわびていたであろう白髪の南雲ハジメ――と、その傍らからこちらを観察するように見ている赤髪で褐色肌の女を見据えるつつ……左腕に纏う相棒が声を出す。
『ナリには驚かされたが、中身は間違いなく奴等で間違いない。
……おい、そうなんだろう白いのよ?』
どうやら見た目こそ今の自分にそっくりではあるものの、その中身は正真正銘のヴァーリ・ルシファーと白い龍ことバニシング・ドラゴンで間違いないらしく、ドライグが白髪のハジメ――に宿る宿敵に声を掛ける。
するとその声に呼応するように白髪のハジメの背から白銀の龍の翼が現れる。
『ふ、久しいな赤いの。
貴様に会うために、地獄の底から這い戻ったぞ』
『……………。チッ、しつこい奴め』
どこか弾んだ声である白い龍ことアルビオン・グウィバーにドライグはうざそうに舌打ちをする。
「そういう事だ赤龍帝――いや、兵藤イッセー――この世界の南雲ハジメ」
「この世界だぁ?」
「そうさ。今のオレの姿を見れば、いくら鈍いお前でもわかるだろう? オレはヴァーリであり、別世界の南雲ハジメとして生まれ変わった存在だ」
「べ、別世界ですって?」
「もう何でもアリな気がしてならないよ……」
白髪のハジメが自らの正体を語る事で、何故黒髪のハジメと酷似しているのかを知ることになったが、そのあまりにも荒唐無稽な話に、香織や雫達はリアクションに絶妙に困ってしまう。
「ほう、そこに居る天之河達の言っていたが、兵藤イッセーは八重樫と白崎と共に行動をしているのか。
いや、よく見れば吸血鬼や竜人族や海人族も居るのか……」
『…………』
「頭数は向こうが多いようだね……」
そんな彼女達を懐かしむような目で見る白髪のハジメだが、逆に香織達からしたら先程から当たり前の顔でそばに居る赤髪で褐色肌の魔人族らしき女性が気になってしまうわけで。
「アタシはハジメ――いや、ややこしいからヴァーリと呼ぶけど、このヴァーリの相棒のそこら辺に居るだけのただの魔人族のカトレアさ」
その視線に気づいたカトレアが自らを『そこら辺の』と強調させながら名を名乗るのだが、放たれる気配はとてもではないが『ただのそこら辺に居るだけな魔人族』とは思えない程に底が見えない。
「ハジメ君、この魔人族―――かなり強い」
「ああ……らしいね」
「底が見えん。
あのヴァーリなる男の相棒を名乗るだけのものを感じるぞ」
一瞬でカトレアを強者であることを看破する香織達にイッセーこと黒髪のハジメも頷きつつかつての宿敵に声をかける。
「それで? わざわざ他所の世界から来てまで俺とやり合いたいらしいが、ここでやるってのか?」
「オレ達の戦いに場所は関係ないだろう? 当然だ……どれだけこの瞬間を待ちわびていたことか」
「……。そこまで行くと俺とは別ベクトルの変態だな」
今すぐにでも戦いたいと宣う白髪のハジメに、ハジメはヴァーリで間違いないなと呆れてしまう。
もっとも、ここまで来てしまったからには一発殴り倒してから有り金を奪ってやる蛮族的な思考と化していたハジメ的にはまさに『上等』だったりするわけで……。
「良いぜ、もう一度張り倒して持ち金全部頂いてやるよ?」
精神を現役に戻したハジメは赤龍帝として応えれば、白龍皇としてのハジメは歓喜の表情と共に臨戦態勢に入る。
「それでこそだ……!」
互いが互いを喰い合っていると錯覚させる程の強烈な圧力が迷宮全土――否世界全土を震えさせる中、二天龍を宿す者同士の闘争は今まさに始まりそうになるのであったのだが……。
「ま、待て!!」
やはりというか、そんな状況に待ったをかける者の出現により、出鼻を挫かれるのはご愛敬だ。
「あ?」
「なんだこの世界の天之河? 正直キミ達にはもう用は無いのだが……」
髪の色以外はまさに双子としか思えぬ容姿であるハジメ×2の視線が天之河光輝達に注がれる。
軽く気が立っているせいか、放たれる圧力が尋常ではなく、その圧力だけで意識が飛びそうになっている訳だが、光輝は特に当然のような顔でハジメの傍で然り気無くカトレアと一戦交えかけていた香織と雫が気になるらしい。
「い、色々と話が錯綜し過ぎてわからないことばかりだ。
だ、だがそこに居る二人は香織と雫なんだろう…?」
『………』
そう、彼等が気になるのは二人の南雲ハジメだの見知らぬ少女達よりも何よりも香織と雫が生きていた事であった。
「あー……」
「そうよ、久しぶりね皆……」
そんな光輝達とは真逆に香織と雫の二人はと言えば、途中から光輝達の事を完全に忘れていたらしく、イマイチな態度ではあるものの一応笑ってごまかす事にした。
するとそれまで絶望一辺倒だった光輝の表情に光が灯る。
「そ、そうか! よ、良かった! 二人が無事に生きていてくれて……!」
「あーうん……」
「心配かけてごめんなさいというか……」
そもそも香織と雫は自分から死んだ事にしようと迷宮の大穴ち降りていったハジメを追い、なんならそのまま死んだことにしてしまおうとしていたので光輝達に対してまあまあな罪悪感はある。
「た、頼む! 確か香織は治癒師だったな? 俺達を助けてくれ、そして雫は剣士だったな? 俺達と一緒に奴等を倒す為に戦ってくれ!」
「ああ、二人が戻ってくればなんとかなるかもしれない!」
やいのやいのと余程彼等的には香織と雫の存在が大きかったのか、二人が戻って来るだけで勝てる気でいるような盛り上がりを見せているのだが、香織と雫は勿論聞き逃してはいない。
「さっきから二人がとか言ってる訳だけど、ハジメ君の事を忘れてるんだね?」
「それとも意識しないようにしているだけかしら?」
そう言いながら、白髪のハジメと互いに目配せしながら戦闘体勢を解いて見ていた黒髪のハジメについて言及すると、光輝達はあからさまに視線を逸らした。
「そ! そんな事はない。
た、ただオレ達としてはそっちの南雲がオレ達の知る南雲なのかどうかもわからなくて……」
「そ、そうだぜ。
もしかしたらそっちの白髪の南雲――っぽい奴と同じで南雲っぽい誰かかもしれないと……」
無意識に視界に入れなかったせいか、誰も彼も辿々しく言い訳を並べているクラスメート達に香織と雫ははぁとため息だ。
「私と香織が一緒に居るのだから、間違いなく彼はハジメ君よ」
「幽霊でもなんでもない、正真正銘のハジメくんだからね」
そう言いながら、何気なく左右から挟み込むように黒髪のハジメの腕に凭れる香織と雫に、光輝や男子のクラスメートの殆どがギョッとしたような顔をする。
「な、何をしてるんだ二人して……?」
「そ、そうだぞ? そんなに南雲にひっつく意味なんてないんじゃあ……」
「意味なら少なくとも私たちにはあるわよ」
「うん。
何時も私たちはこんな感じだしねー?」
そう言いながら絶妙に戸惑っているハジメの腕に甘えるようにひっつく香織と雫に光輝達はグサリと刺さったものを感じてしまう。
「おい、こんな状況でひっつくなよ」
「だってあの人達がハジメ君を……」
「良いよ別に何を思われようが。
元々そうだったしな」
しかも寧ろハジメの方はそんな二人を割りと雑に扱っているような言動をしており、その時点で二人がハジメに対して何をどう思っているのかを理解させられてしまう。
「相変わらず女と仲良くなる奴だなお前は……。
そしてオレとは別の意味でだが彼等との仲はあまりよくないらしい」
「別の意味って事はお前もそうだったのかよ」
「まあな。
オレの場合は白崎や八重樫ともお前のような関わりは皆無だった」
「で、そこの褐色肌のねーちゃんと居るってか?」
「オレの領域に到達出来たからな。貴重な仲間さ……」
そう言ってふふんと胸を張るカトレアを見やる黒髪のハジメは確かにこの世界の生物には持ち得ないモノを持っていると気配で理解していると……。
「南雲ォ!!」
一体どうしたのか、それまで名前すら呼んでなかった天之河光輝が激昂した様子で黒髪のハジメに詰め寄ってきたのだ。
「なんだよ? 今忙しいんだけどな?」
折角久し振りに本気で殴り合うつもりだったのに、妙にグダグダな状況になってしまっているせいで微妙に萎えていたハジメは、勝手にキレてくる光輝にめんどくさそうに返事をする。
「香織と雫になにをした!!」
そんなハジメに怯むこともなく光輝は、光輝等側からすれば明らかにおかしい香織と雫の態度に対して何故かハジメが理由だと決めつけてくるように詰め寄ってきた。
「なにってなんだよ?」
当然意味がわからないハジメはこう返答する他がない。
しかしそんな惚けたように見える態度が余計光輝を刺激したらしく、胸ぐらを掴みはじめる。
「惚けるな! 香織と雫におかしな事をしなければお前にあんな真似はするわけがない! なにをした!」
「あんな真似? ………………ああ、頼んでもないのに一々引っ付き虫みたいにしてくるアレの事か? 知らんよ、二人が勝手にやってくるんだから」
「嘘をつくな!」
「ついてねーよ。
ああ、そうか……キミ等は知らんのか? この二人って元の世界からうぜーくらい絡んできたんだぞ?」
まるで此方がそう仕向けさせなかのような言い方をしてくる光輝に、ハジメは元の世界からこんなんだったと言うも、やはり信じては貰えないのだが、そのハジメの言葉を肯定するように香織と雫は頷く。
「本当よ。
元の世界ではハジメ君は目立つのが嫌だったのもあったから、香織と私は三人だけになれる時以外はそう振る舞ってただけ」
「でも
「ば、バカな!」
「そ、そうだぞ! 目を覚ませよ! きっと南雲の野郎が二人に気づかれないように洗脳めいたなにかをしたに決まってる!」
香織と雫の言葉すら受け入れられないのか、とうとうハジメが二人を洗脳したに決まってると、元の世界ではしょっちゅう反撃する気もなかったハジメをいじめていた檜山が言い出したせいで、それまで黙って聞いていたユエ、ティオが声低めに圧を放つ。
「さっきから黙って聞いていたら勝手な事ばかり……」
「そんなにこの現実を認めたくないのかは知らぬが、あまり調子に乗った言動は吐くのはやめて貰おうか?」
『!?』
そう言いながらどちらも種族としての壁を越えた圧を放てば、一瞬で光輝達の威勢を消し飛ばす。
「ほう……?」
「あの吸血鬼と竜人族……中々やるじゃないか」
その圧の質に、それまで静観していた白髪のヴァーリとカトレアが興味深そうな反応を示す中、ティオが爆弾を投下するようた発言をしてしまう。
「洗脳などと馬鹿馬鹿しい。
将来の妾の息子がそんな小賢しい真似をするわけがなかろうに……」
『………は?』
ハジメに向けてはっきりと息子だと言い切るティオのせいでヴァーリやカトレア――そしてアルビオンですら固まった。
『息子……だと? おいどういう意味だ小娘?』
ハジメ――否イッセーを息子と呼ぶティオに初めてアルビオンが声を掛けると、ティオは妙に堂々とした様子だ。
「初めましてじゃな、貴殿の事は妾の旦那様から聞いておった。
妾は竜人族のティオ・クラルスじゃ」
『旦那様……? 誰のこと――』
「誰のことだなんて決まっておろう。
ドライグ様の事じゃよ」
『………………………………はぁ!?』
永い年月を殺しあってきた宿敵の嫁だと言う小娘の竜に、アルビオンも流石に驚いてしまうし、なんならヴァーリもちょっとびっくりだ。
「驚いたな……。
竜人族の事はオレ達の世界でも居たが、あまり関わらなかったからな……」
『赤いのお前……そういう趣味だったのか?』
『ば、バカを言うな! コイツが勝手に自称しているだけだ!』
当然ドライグは引いた様子のアルビオンに対して即座に否定をするのだが、ティオから放たれる圧力の質がただの竜人族を逸脱しているせいもあって説得力に欠けていた。
『だがこの小娘の質はあきらかにこの世界の竜の限界を越えているぞ。
それはお前が自分好みに仕込んだとしか……』
『じ、自分から越えたいと言うからオレなりに鍛えただけだ!』
「嘘ではないぞ。
妾はすっかり旦那様色に染め上げられてしまっていて、もはや旦那様無しでは生きられない身体にされてしまったからのぅ……」
『……。引くぞ赤いの……』
『違う!!!』
クネクネしながら際どいことばかり言うせいで寧ろドライグに変態というレッテルが貼られてしまう展開には、宿主のイッセーもちょっと同情してしまう。
『兵藤イッセーに宿ったせいですっかり貴様もそっち方面に進んでしまったのか。
宿敵として恥ずかしさすら感じるぞ?』
『だ、黙れェ!! オレ達に負け越した奴が偉そうに語るな!』
こうしてティオのせいで余計締まらない展開へとなるのだった。
終わり
グダグダとはなったものの、やはり宿敵同士の闘争はこの世界を見下ろす神すらをも恐怖させるものであった。
「お前を倒し、二天龍の二つ名を超越し、オレ達は『真なる龍皇』になる」
「俺達はそんな肩書きなんて興味は無い。
だが―――龍は一匹で良い」
「ああ……お前の言う通りだ」
世界を超え、時を超越した本当の戦い。
「付き合ってやるさ。
このしょうもねぇ喧嘩になァ!!!」
互いに龍を宿す者同士の大喧嘩は誰にも止められない。
「赤龍帝ェェェェ!!」
「白龍皇ォォォォッ!!」
天へと到達した二つの龍がどちらかを地に叩き落さんとする戦いの火蓋は切られる。
そして……。
「さぁてと、ウチのヴァーリがあんた達の所の男と戦ってる間、ただ見てるってのもつまらないだろう? 来な……アンタ達もアタシと同じで『後継者』なのは分かってる」
『………』
女同士の戦いもまた同時に始まるのだ。
「う、嘘だろ、あ、アイツ等……」
「か、香織達もあんな……」
そんな戦争としか思えぬ規模の戦いを見ていることしか出来ない者達は知るのだ。
彼等は何者においても縛ることの出来ぬ存在であることを……。
しかも……。
「待った待った待ったぁ!! 後一人誰か忘れちゃいませんかってんだ!!」
「むっ!? 誰だい……!?」
「え、そ、園部さん?」
「な、なんでというか……どうしたのその格好?」
こってこてな魔法少女衣装(戦闘服)に白い猫耳と尻尾を装備したナイチチ同盟に強制加入させられしもう一人の後継者の登場により事態はよりカオスへとなるのだ。
「南雲ォ! ほら! こっちを見なさいっての!!」
「ちょ、ちょっと園部さん」
「お、落ち着いてよ? 今ハジメくんは戦ってる最中というか、覚えてるの?」
「生憎私に住み着いた人たちのお陰でなにもかもね……! なにをしてくれたのかも全部覚えてるわ!
ほら南雲! こっちを見ろ!」
「? おい、さっきからお前に向かって叫んでるのが居るけど知り合いか?」
「あ? ………って、なんだアイツ? なんつー格好して――――っ!?」
「どうした?」
「な、なんだあの女? あの女の格好とか以前に何故か寒気が……」
『あ、こっちを見ましたね先輩』
『やっと私達に気づいたみたいね……ふふふ』
終了
補足
オルクスの迷宮は更地になるかもしれません……(南無)