龍の頂点に二つは無い。
龍は一匹でいい。
それが戦うことでしか己を表現する術しか持たなかった龍皇と、戦うだけが己の価値であると思い込む龍帝の持つ意地。
「ッダラァッ!!」
『Boost!』
「ダァッ!!!」
『Divide!』
その意地のぶつけ合いは異世界を舞台にしても尚止まらない。
「……チッ」
「流石だ。
やはりお前との戦いはこうでなくてはつまらない」
奇しくも同じ『南雲ハジメ』として生まれ変わった男達の晩餐はまだ始まったばかりなのだ。
「しかし……お前は兵藤イッセーの頃と比べると、随分と力を落としたらしい。
修行はして来なかったのか?」
「部長も、皆も居ない世界でみっともなく俺だけが生き残ったんだ。
する理由がなかったんだよ」
「部長……リアス・グレモリーか」
たまに変な所でハイテンションになったりするものの、基本的に思考回路が怠惰なそれであることはわかっていた。
されど彼のその強さだけは疑いようもなかった。
けれど彼を一番近くで見てきたからこそ白崎香織、八重樫雫、ユエの三人は不安を感じてしまうのだ。
「あの白い髪のハジメ君……ヴァーリさんって人」
「ええ、宿敵を名乗るだけあるわ……とても強い」
「………。あんなに苦戦しているハジメは初めて見る」
あの白髪のハジメ――白龍皇と名乗る男の強さは下手をすれば今のハジメよりも上であるのかもしれない事を。
「ふむ、ヴァーリが言っていた通り、確かに強いことは強いね。
しかし、今互いに『準備運動』の状態だったとしてもこの勝負に勝つのはアタシのヴァーリだろうねぇ?」
『………』
同じく、二人のハジメの繰り広げる攻防を見ていたカトレアは、特に不安そうな様子も無く、白髪のハジメ――つまりヴァーリが勝つことを確信している。
「ハジメくんは負けないよ……」
その言葉に香織が反応をするも、周辺を破壊しながらぶつかり合う二人のハジメから視線を移したカトレアは笑みを浮かべる。
「まあ、確かに喧嘩は始まったばかりだしねぇ。
だけどさっき聞こえたけど、あのイッセーとかいう坊やは今の今までトレーニングをサボってきたんだろう?」
『…………』
その指摘に香織達は沈黙をする。
確かにハジメ――イッセーは元の世界においてもこの世界においても一切の修行をすることはなかった。
そもそもの話、香織達ですらハジメとして生きる現在のイッセーの本気を知らないのだ。
「けどヴァーリは違う。
アイツは呆れるくらいに力を求めては戦ってきた……」
互いに禁手化の鎧を纏い始める二人のハジメに視線を戻したカトレアの言う通り、イッセーとヴァーリはハジメとして生まれ変わった後の生き方が違った。
片や腑抜けて怠惰になってしまったまま精神を腐らせた。
片や敗北を経験したからこそ這い戻る為の努力を敵が存在しなかった世界においても惜しまなかった。
その差があるからこそ、少しずつ赤き龍帝はかつて勝利した相手である白き龍皇が再び自身と同じ高さまで這い戻る事を許してしまったのだ。
『ぐっ!?』
そしてその事を今一番身を以て体感しているのは他ならぬイッセーである。
油断をしているつもりなぞ無く、何なら最初から全開で戦っているというのに、ひとつひとつの攻防の全てに上を行かれてしまう。
『こ……のっ……!』
『遅いぞ兵藤イッセー!』
苦し紛れに突き出した拳を掴まれ、槍のような鋭いヴァーリの拳が脇腹を貫く。
『ごふっ!?』
久しくなかった痛みと苦しみに、ハジメとしての肉体が悲鳴をあげ、纏っていた鎧の口の端から血が吹き出る。
『…………』
『げほ……!』
膝を付く赤い龍の鎧を纏ったイッセーを、白い龍の鎧を纏うヴァーリは追撃をすることもなくただ見下ろす。
『本当に今の今までサボっていたらしいなお前は……』
その胸中を支配するのは落胆だった。
昔のイッセーならばこんな挨拶にもならない一撃なんて意に返す事もなく、呆れるくらいの野生で食らい付いてきたというのに……。
『へ、へへ……ガッカリしてるようだが、舐めんなよ? 俺がどれだけサボってパワーダウンしようが、お前くらい余裕だぜ……!』
『………………』
軽口を叩きながらながらよろよろと立ち上がろうする所はあまり変わってないものの、弱くなった事は否定しない。
『そうだな。
お前はリアス・グレモリー達が居ないと力を発揮しない男だ。
彼女達が居なければ、オレ達の『半減』で彼女達の胸のサイズを半分にしてやるとでも挑発してやればお前はやる気になってくれるんだろうが……』
そんなイッセーをヴァーリはどうにかして引っ張りあげてやろうとする。
ヴァーリが求めるのはあくまで『自分を下したあの頃のイッセーにリベンジ』することであり、こんな弱くなってしまったイッセーを倒しても意味は無いのだ。
だからこそイッセーのやる気を引き出してやろうと思うのだが、そのやる気の源となるリアス・グレモリー達は存在しない。
『へ、俺が元々お前程強くない。
俺は部長や皆がこんなどうしようもなかった俺を仲間としてくれたからこそここまで来れたんだ。
その部長達を守れず、ズルズルと生き恥を晒してる時点で俺に価値なんざ――』
『では、彼女達の代わりに、今のお前と共に居る仲間達になにかをすればお前はやる気になるのかな?』
自分を卑下しようとするイッセーの言葉を無視するヴァーリが、ならばと鎧越しに視線を香織達へと移す。
『あ?』
その瞬間、弱音のようなものを吐いていたイッセーがピクリと反応をするので、ヴァーリは内心『これだな』とほくそ笑みながら煽り始めた。
『白崎香織と八重樫雫の二人はオレが生きた世界にも存在はしていたが関わりは極僅かでね。
そうだな、例えば今から彼女達の胸を半減させ……『永遠に成長させない』なんて力を与えてみようと思うが、それでもお前は黙って見てるだけかな?』
『………………』
イッセーとしての性格をよーくわかっているような煽りをするヴァーリにイッセーの纏っていた赤い鎧の胸元にピシリと皸が入る。
『リアス・グレモリー達とは違って仲間ではないだの、勝手についてきてるだけだのとお前は言いたいようだし、別に構わないだろう?
オレとしてもお前の弱体化にはがっかりしてしまったしな……気晴らしにくらいはなるだろう』
『…………』
胸元に入った小さな皸が少しずつ全身へと伝わっていくのを横目にヴァーリは更に煽る。
『では早速――』
『ぶっとばす……!』
その煽りは大分イッセーに響いたらしく、ひび割れた鎧の節々から赤い光が漏れ始めた。
『調子に乗るなよボケがァ……! いくら弱くなってもお前一人ぶちのめすくらい訳ねーぞォ……!!!』
漏れ始めた光はその輝きを増し、殻を突き破るかのようにイッセーの全身を覆う。
『女の子のおっぱいは俺が守る……!』
『……。くっくっくっ! ならばオレを止めてみろ……!』
その瞬間、ヴァーリは目の前の男の腑抜けていた精神に再びの『炎』が宿った事を感じ取ると、鎧越しに獰猛な笑みを浮かべた。
「ふんっ!!」
全身から吹き荒れる闘気がひび割れた赤龍帝の鎧を砕き、頭髪を真っ赤に染め上げ、ティオや人化したドライグと同じ爬虫類を思わせる瞳となったハジメがヴァーリを睨み付ける。
「ドライグ……やるぞ!」
『実にお前らしい理由でやる気を取り戻したな。
が、これ以上白いのに調子に乗られるのはオレとしても気に食わんからな。良いだろう……!』
「『赤龍帝・融―――」』
イッセーの呼び掛けにドライグが応じると共にハジメとドライグが同時に声を放とうとしたその時だった。
「うぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」
今まさに切り札のひとつを解放しようとしたイッセーの真横から雄叫びと共に放たれた衝撃波がイッセーの身体を吹き飛ばしたのだ。
『なっ!?』
『………』
これには目の前に居たヴァーリ以外にこの場に居た全員が驚いてしまう。
何故ならその衝撃波の正体は……。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
剣と瞳を輝かせている天之河光輝だったのかだから。
行方不明だと思っていた香織と雫が生きていてくれた。
されどその二人の意識は全て恐らくは本物であろうハジメにしか向けられていなかった。
それが光輝の精神を大いにかき乱し、認められないという精神が彼を突き動かしてしまったのだ。
「ちょ、ちょっと光輝!?」
「な、なにをしてるんだよ……」
派手に岩肌の壁まで吹き飛び、砂煙が上がる中、突然の光輝の行動にクラスメート達は盛大に狼狽える中、光輝は銀に輝く瞳のまま手に持った剣の切っ先を今度は白い鎧姿となっているほうのハジメへと向けた。
「皆、騙されるな。
あそこに居るのはどちらも南雲じゃない……」
そう言う光輝にクラスメート達の目は丸くなる。
「ど、どういう事だよ?」
「南雲は錬成師のはずだった。
それなのにあの二人の南雲と同じ顔をした奴等はどちらもその力ではなく、知らない力を使っている。
つまり、アイツ等は南雲の姿を真似ただけの偽物だ……!」
そう力説する光輝だが、正直当たらずとも遠からずではある。
確かに二人のハジメは其々イッセーとヴァーリが生まれ変わった存在なのだから。
しかしそういう事は当然気づいてない光輝は、どちらも錬成師の力とは無縁の力を使うから偽物だと言い、確かにとクラスメート達の何人かはなっとくしてしまう。
「た、確かに南雲の癖にあんな力を使えるわけないよな……」
仮に偽物だったとしても、正直今の危険な状況的になんのプラス材料にもならないという現実から目を逸らすようにそうだそうだと光輝に同意し始めるクラスメート達を、香織達は信じられないような顔をする。
「……。治療はハジメ君の戦いが終わってからにすれば良かった」
「そうね……そこまでしてハジメ君を否定したがるのを見ていると不気味だわ」
どうしてそこまでしてハジメを否定したがるのかが理解できない香織達の冷めた目をしているわけだが、それに気付いていない光輝達の士気が無意味に上がっていく。
「片方は倒した! 後一人を倒せば皆で帰れる!」
そうしてクラスメート達を鼓舞しながらつまらなそうにしているヴァーリに向かって構える光輝。
「アタシ達の世界と似てるね、このガキ共の態度は……」
「だからつまらないんだよ。
可能性の扉を勝手に閉め続けるだけの、成長の欠片も見当たらない奴等はな」
「だろうね。
ヴァーリの持っていた『可能性』に劣等感抱いて否定し続けていたし」
そう言って憐れむような目をするカトレアからすれば『可能性という名の進化』を自ら否定して閉じようとする輩が理解できない。
「香織、雫! それからキミ達もだ! オレ達と一緒にあの白い奴を倒そう!」
「ごめん、それは無理」
「今のでどうあっても交えるなんて不可能だって悟ったわ」
「正直、今この場であなた達を消してあげたい」
「ミュウ、あなた達が嫌い……」
「妾の息子と旦那様に攻撃をしておきながら共に闘えじゃと? 笑わせてくれる……!」
寧ろ状況を最悪にしているということにすら目を逸らした時点で詰んでいるようなものだということがよくわかるとカトレアとヴァーリは、刹那で拒否した香織達に勝手にショックを受けている光輝達を見て鼻で笑う。
「ど、どうして、あっちの南雲の偽物を倒したのだからキミ達の洗脳も解けている筈……」
「洗脳、ねぇ? まあある意味で洗脳されてると言えばされてるかもね」
「や、やはり! それなら――」
「ええ、恋という名の洗脳をされちゃったもの……ふふふ」
「な……!?」
全身から癒しと破壊の炎を静かに放出する香織。
聖と魔の力を宿した体剣を持つ雫。
皮肉にもその二人の浮かべる笑みは恐ろしいほどに冷たく、されど恐ろしいほど美しく、誰もが見惚れるほどだった。
「もうアナタ達がハジメくんをどう思うが好きにすれば良いわ。
誰がなんて言おうとも、彼こそが南雲ハジメなのだから……」
「これで本当の意味で吹っ切れたし、うん……今なら本当の意味で理解できる。
私達と皆とでは見えているものが全く違うんだって」
「それに、勘違いしないで。
あんな程度でハジメがやられるなんてありえない」
そんな見惚れる笑みを浮かべる少女達に呼応するように、彼女達の背後にあった瓦礫の山から赤い閃光が放たれる。
「『まったく、一々締まらないな俺は」』
一瞬の強烈な閃光に目を覆う光輝達だが、その光が止むのと同時に二つの声が重なったような声をした赤髪の青年がそこには立っていた。
「な……だ、誰だお前は……!?」
ハジメ――のような面影があり、されど別の何者かにも見える謎の青年の出現に狼狽える光輝が思わず尋ねる。
「『俺か? 俺は南雲ハジメでも、赤龍帝でも――そして兵藤イッセーでもない。
俺は……ふっ、そこに居る白野郎をぶっ飛ばす者だ……!』」
歴代の赤龍帝が残してきた領域の全てを捨て去る事で到達した、最後の名も無き赤龍帝として彼は異界の地にて再び降臨するのと同時に、彼は真っ直ぐ狼狽えている光輝を見やると……大きく目を見開いた。
「ぶべらっ!?」
その瞬間、見えない何かが一瞬で光輝の全身を叩き、ついでに近くに居たクラスメートの男女数人を巻き込んで吹き飛ばした。
「『チッ……指摘通りに弱ってる感は否めないか。
確かに昔の俺ならこれで粉々くらいにはしてたんだが……』」
見開いたと同時に繰り出された『お返し』により、光輝の全身の骨と顔面を砕いたハジメは、ぴくぴくと地面にひっくり返っている光輝と他数名が生きてはいることを確認すると、やはり鈍っていることを改めて自覚しつつ、ジロリとヴァーリを睨む。
『「続きだ尻フェチ野郎。
今度の俺達はちょっと強ェぜ?』」
『知っているさ。
くくく、本当の戦いはこれからだ……!』」
喧嘩はまだ続く。
そして……。
「あ、あの……」
「ん、なぁに?」
「見ての通り、今物凄く忙しいわ。
ハジメくんがここまで本気になっている状態を見逃すわけにはいかないわ」
「い、いやほら……光輝達の治療をしてくれたらなぁ……なんて」
「? 嫌だよ? 治療してもまた邪魔をするだろうし?」
「それに少し全身の骨を砕かれたくらいなら死にはしないわ」
「邪魔」
「そのままにしておいた方が大人しくなるからのぅ」
一瞬でも光輝に賛同してしまったクラスメート達の気まずさも続くのだった。
補足
おっぱいを半減させるのはやっぱり許さないマンことハジメ(イッセー)なのだった。