一度はイッセーと共に完膚なきまでに叩き潰してやった白いのとその宿主がこの世界で生存していた訳だが……。
「激情のコントロールですか?」
奴等の事だ、間違いなくオレ達に再戦を挑んでくる事は明白だ。
そうなれば当然だがオレ達は奴等にむざむざと負けてやるつもりなぞない。
明確にオレと白いのの『序列』が決まった今、わざわざ『均衡』にしてやるなぞオレのプライドが許さん。
その為にはイッセーのみならず、神器としての枷から解放されたオレ自身も強くあらなければならぬ。
「お前達の世界ではどうかは知らんが、巷では『常に精神を平静に保つ事こそが強さの証』だなどと言われている事もある」
「はい、幼き頃はよく父や母から言われておりました」
「そうか。
ならその教えは一旦忘れろ」
幸い、己の領域を更に引き上げるだけの『材料』に関してはこの世界にもある。
「それはつまり、己を省みる事無き闘争に身を捧げろ――という事なのでしょうか?」
「そうだ――と、言いたいがそれだけでは足りん。
それではただの知性の無い獣でしかない」
「では一体……」
竜人族という種族の小娘を引き上げる事で、己自身もその感覚を研ぎ澄ませる。
正直小難しい事はオレとしても面倒なのだが、イッセー達が現状
「必要な時に己の感情を爆発させるのだ。
イッセーは敵への果てしなく憎悪と怒りを爆発させるが、平時の際はああだろう?」
「む、言われてみれば確かに……。
知らぬ者がみれば別人のように思えるのじゃ」
「それがアイツの『真骨頂』に繋がるのからな。
怒りと憎悪を己の力に変えて敵を粉砕し――そして糧とする」
竜の小娘を本物の『龍』へと至らせてやる約束をした以上、この小娘が投げ出さぬ限りは見てやると決めているのだから。
怒りで己を見失うことを恐れるな。
怒りを制御し、己の力に変えよ。
父と母と故郷を神により壊された光景を前に、その感情を爆発させかけた事があるティオにしてみれば、これまでの人生で無意識に避けていた部分だった。
しかし龍の帝王は言うのだ。
怒りを己の力とせよと……。
ただし、怒りの赴くままに暴れるだけではただの獣でしかない。
自身の怒りを制御し、理性のあるまま怒りを力へと変えることが要であるのだ。
「言われてみればみるほど難しいのじゃ。平静と激情は相反するとこれまでは思っていただけに……」
「相反するからこそ掴める境地だ。
口で説明するだけでは簡単に掴めるものではない」
「イッセーとドライグ様は掴めているのですか?
平静と激情の両方を掴むという――まるで『我儘』のような境地を……」
「完全かどうかはオレ達にもわからん。
だが今お前が言った我儘というその言葉はまさにその通りだ。
オレたちはこの境地を無我の境地という言葉の正反対――『我儘の極致』と勝手に呼んでいる」
「我儘の極致……」
「本能のままに突き動かす力には限界は無い――己の我を貫き通さんとする力とでも云うべきか……」
イッセー達が元の世界のクラスメート達を各々のやり方で鍛えている頃、分離して人化中のドライグは、竜人族の娘であるティオを自分なりに鍛えていた。
「うーむ……怒れと言われてもどうすれば」
「神に両親や故郷を壊された時の事を思い出せば良いだろう」
「思い出してはおるのですが……んー……」
既に肉体的にはドライグによる――かつてイッセーも通ったスーパー鬼畜トレーニング方法により目覚ましい強化を果たしているティオだが、この精神に関係するトレーニングは難航をしている様子だ。
その反対に、ドライグはといえばティオからもたらされる竜人族に伝わる技術を吸収していた。
「これが部分竜化といったか……?」
「おお、妾の説明だけで既にそこまで……」
「まあ、オレの場合は人から竜に変化する訳ではなく、龍が人に化けているだけの話だからな。
その逆のことを身の一部にするだけだ」
「それでも竜人族でも限られた者にしか使えませぬ。
流石妾の旦那様なのじゃあ……」
「誰が旦那だクソガキめ」
人の姿のまま背にだけ龍の翼を広げるドライグにうっとりとするティオだが、ドライグはそんなティオの言葉を素っ気なく斬る。
「し、しかし白い龍には既にドライグ様の嫁だと認識されておりますし……」
「お前が勝手にほざいただけの事だろうが……!」
竜から龍へと至る龍門はまだ開いたばかりのティオなのだった。
基本的にイッセーに宿りっぱなしだった為、実は分離状態――しかも人化の姿にまだ慣れていなかったりするドライグ。
最初の方こそティオが鬱陶しいのでイッセーの中に戻る事ばかりを望んでいたのだが、新たな境地を模索するという意味ではこの状態で己自身を強化する必要があるのかもしれない―――そう考えたドライグの最近は人化状態での戦闘技術をティオを相手に磨いている。
「妾が指摘するのは大変烏滸がましいとは思っておりますが、ドライグ様はなんといいますか、結構大雑把なのじゃ」
「……だろうな」
人の姿での戦闘という意味ではティオの方こそ経験が上であり、この時ばかりはティオからの指摘やアドバイスに耳を傾ける事が多い。
「とはいえ、妾が放つ魔法の悉くを気合いだけで掻き消す事が出来るのは流石としか言えませぬ」
「ふん、くだらんおべんちゃらは止せ。
お前が加減をしていることぐらいオレが見抜けぬと思っているのか?」
「それでも常人なら仕留めきれるだけの力は加えておりますぞ」
ドライグはかなり大雑把な性格な事もあって、身体的なスペックこそティオの上を行くが、人の身で戦う為の技術に関してはティオに軍配がある。
それ故に互いに龍と竜の姿となって戦う場合は簡単にドライグがティオを捻り潰せるのだが、人化の状態で手合わせをすると意外にも苦戦を強いられてしまう。
「ドライグ様のステータスプレートがあれば、人の姿の状態でもれだけ本来の力より制限をされているのかがわかるのですが……」
「ああ、あのカードのようなものか。
確かにそれがあればある程度は確認できそうだな」
ティオの放つ魔法を大雑把にごり押しで凌いだせいか、身体の所々にかすり傷を作っているドライグは、軽く深呼吸をしながら人化の際に身に付けていたスーツのワイシャツのような衣服のバタンを上から三つ程外しながら、近くにあったちょうど良い岩ち腰かける。
流石に トレーニングをするにあたって、人間達の住居のある場でやる訳にはいかないので、ハイリヒ王国の城下町のすぐ外の平原でやっている訳だが、変に人間達に騒がれたくもないからという理由の方がドライグとティオ的には大きい。
以前、町外れでトレーニングをしようとしたら、ギルド所属のよくわからないチンピラ共に囲まれて絡まれ、ティオを寄越せだのなんだのと武器をちらつかせて来たということもあるので。
「…………」
「隣、失礼するのじゃ」
もっとも、その後そのチンピラめいた冒険者達がどうなったかはお察しなのだが。
「分かっていると思うが、お前達竜人族をオレは下に見ている訳だが、少しばかり訂正する必要があるやもしれん。
竜と人の身を持つ種族だからこそ、お前達はそれに適した進化をしてきたのだとな」
「ドライグ様ならすぐにでも我等の遥か先に到達できるのじゃ。
アナタ様に鍛えられたり、手合わせをして頂いているからわかるのです」
赤い龍として進化をすれば、二人で一つの赤龍帝として更なる次元に到達出来る可能性が見えたドライグからの珍しい言葉に、少し驚きつつも、ドライグならすぐにでも竜人族の頂点に君臨出来ると言い切るティオ。
「ドライグ様さえその気ならば、我等一族の王になれます」
「興味の無い話だな。
そもそもぽっと出のオレが王になれる筈も無かろう」
「いえ! そこは妾が一族を説得すれば良いのです! というかなって欲しいのじゃ!」
「あ? 何故だ……?」
「だって、ドライグ様が王となればもっと合法的に妾も嫁げるし、一族の者達も反対しないだろうし……」
「それが目的なのか貴様は? アホらしい……」
竜人族の王になれると言い出すティオの本音爆発な言葉にドライグは呆れ顔だ。
「もっとも、そんな回りくどい事をせずとも妾はドライグ様のモノになるつもりなのじゃが!」
「言ってろクソガキが」
両親よりも遥かに長く生きている、おっさんボイスのドラゴンに対するぶつかり方が半端無いティオの歪み無い言葉。
「せめて
「む……わかっております。
どちらもかつてドライグ様が下したドラゴンである以上、妻を名乗るにはその両方を超えなければ話にならないのでしょう? 必ず超えて見せるのじゃ……!」
系統や別のが付くとはいえ、かつて神々にすら喧嘩を売り――そして勝利を掴んだ赤き龍は竜であるティオにしてみればまさに『希望』そのものなのだ。
Y Ddraig Goch(ア・ドライグ・ゴッホ)
年齢・無始無終
レベル・無始無終
天職・守護者(イッセーにのみ)
筋力・不明(龍化形態+測定不能)
体力・不明(+測定不能)
耐性・不明(+測定不能)
敏捷・不明(+測定不能)
魔力・不明
魔耐・不明(+測定不能)
スキル
【言語無視】【倍加】【全適応】【融合・合体】【永続進化(速度50%)】【対神耐性】【対魔耐性】【全属性耐性】【神滅】【その他詳細不明】
ティオ・クラルス(563歳)
レベル・???
天職・守護者
筋力・110000(竜化形態+1000000)
体力・110000(+1000000)
耐性・110000(+1000000)
敏捷・58000(+1000000)
魔力・450000
魔耐・422000
龍が竜を導いている頃、遠く離れたグリューエンの大火山に存在する迷宮への入り口を発見した南雲ハジメ一行。
早速とばかりに侵入を果たしたのだが、中も外も暑い………というのが入ってからの感想だった。
「なんだこれは……? マグマが宙に浮いているのか? しかも川のように流れている……」
「これは頭上にも注意が必要」
迷宮内部を流れるマグマの川に注意をしながら取り敢えず進んでみるハジメ達だが、浮かんでくる言葉はただ一つだった。
「か、覚悟はしていましたけどやっぱり暑いですぅ……」
「冷気を出しても殆ど効果がない……」
何はともあれ、とにかく暑い。
レベルが上がって多少は熱への耐性はあるものの、長時間の滞在はスタミナにも影響がある程度には迷宮内は暑かった。
「………………」
が、しかしそんなハジメ達とは正反対に、白音だけは顔色ひとつ変える事もなく平然と壁から流れるマグマを観察していた。
「小猫さんは暑くないんですか?」
「平気そうな顔だけど、痩せ我慢?」
そのあまりの平静っぷりに、ちょっとチクチクする言い方で尋ねるユエとシアに、白音は『ええ』と返す。
「以前、太陽に直接全身を焼かれた事がありますからね。
あの時の事を思えばここはマシですよ」
「「「…………」」」
確かめようのない荒唐無稽なエピソードに、ハジメを含めてツッコミが出来ない。
だが、あまりにも平然としている辺り、本当に暑さへの耐性はあるのだろうが……。
「あー……平気そうなのはわかったが、なんてーか厚着着ている小猫を見てると余計暑く感じるっつーか……」
三人は暑さのあまり薄着となっているのに、白音だけは別世界に居るかのような厚着姿だったりするわけで、ハジメは正真正銘の下心無しにせめて見た目だけでも涼しそうになってくれやしないかと頼む。
するとどこかの忍世界の宇宙人的な存在を思わせる平安貴族のような衣装であった白音は困ったような顔をする。
「そうは言われましてもね、私の服はこれしかありませんし……」
そう言いながら暑そうな顔をしているハジメに視線を向けた白音はふとハジメが錬成師なるスキルでユエやシア達の服をつきっていた事を思い出す。
「そういえば、この人達の服を用意しているのは南雲さんでしたね。
それなら少しばかり注文を付けさせて貰いまが、アナタが作ってくれませんか?」
「え?」
確かに宙に浮いてるおじいさんと同じような服に関しては実は趣味じゃない白音としても、替えの服は調達しておきたかったので、これ幸いだとばかりにハジメに頼んでみる。
すると案の定というか、何故か突然無駄に張り切り出したハジメは『任せろ!』と言い出すと、ユエとシアからの何か言いたそうな視線に刺されながら、あれこれとデザインの注文を付けてくる白音の要望に無駄に全力で応えながら衣装の作成をしてみせるのであった。
そして完成した衣服に着替えたのだが……。
「うーん、まさかまたこの服に袖を通す事になるとは……ふふふ」
その衣服は白音が事細かに注文を付けた事もあってほぼ完全に再現された『駒王学園時代』の女子制服そのまんまだった。
妙な平安貴族めいた服だったこともあってか、その制服姿の白音にユエとシアは絶妙に似合っていると悔しがり、ハジメは――引くほどガン見していた。
「どうもありがとうございます南雲さん。
ふふ、まさか口で説明しただけでここまで再現して頂けるとは思わなかっただけに、少し嬉しいです」
「お、おっふ、小猫さん……」
デフォルメされた猫の髪留を付けた白音から微笑まれたハジメは、どこぞの究極絶対最強愛されガールを前にした人間達から出るようなリアクションが飛び出てしまう。
「「っ!! っ!!」」
「いてっ!? な、なにすんだ!!?」
「「ふんっ!!」」
そのリアクションがとても気にくわなかったユエとシアは、ボケーっとしていたハジメのふくらはぎに向かって綺麗なローキックをする。
こうしてギスギスしまくりな迷宮攻略が始まったのだが、先行きはとても不穏で不安なものだった。
「いてて……な、なんでユエとシアはキレてんだ?」
「女の子には色々とあるんだと思いますよ」
「色々って、その色々がわからないから聞きた―――っ!?!?」
「? 今度はなんですか?」
「い、いやなんでもねぇ……」
「?? なんでもないとは思えないのですが、というか何を突然前屈みに……」
「ほ、本当に!! なんでもないし、3分だけ待ってくれ! 後生だからっ!!!」
「??? わかりました。
では私は少しこの先を探ってみますね」
「い、今み、見えちまった。
こ、小猫のぱん―――」
「「……………」」
「いっ!? ゆ、ユエにシア……!?」
「ちょっとハジメを最低だと思った」
「私達にはそんな反応しないのに……小猫さんにはそうなんですね?」
「ち、ちげぇ!! い、いや違わないけど違う!」
「「…………」」
「ぐ、わ、悪いかよ!? お、オレだってな! お、おれだってなぁ……!! 小猫がタイプど真ん中なんだよ!! ちょっと塩対応気味なところとかな!!」
「「……………………」」
前途多難そのものだった。
塔城小猫(真名・白音)
年齢・???
天職・???
筋力・0
体力・0
耐性・0
敏捷・0
魔力・0
魔耐・0
「ハジメの力を戻してくれたのは感謝している。
けれど、アナタと会ってからハジメはおかしくなっていっている」
「おかしい? はて、私から見れば彼は最初から変わってると思いましたが……」
「は、ハジメさんはもっとクールな方なんです!」
「そうは言われましてもね……」
補足
駒王学園の女子制服に着替えた白音たん。
その破壊力により南雲くんが大変なことになったとさ