とにかく実戦式に拘る男
コンプレックスと報復心と偶然が重なる結果、南雲ハジメ等がよりにもよって魔人族の勢力と結託することになった―――等とは当然知らない天之河光輝や檜山大介といった面々は、元の世界から本能的に避け続けてきた兵藤一誠という男と異常さを、異世界の地において嫌と云うほどに知っていく。
【グォォォアァァァ!!】
「……」
その異常さの一部にて、最も解りやすいのはその戦闘力だ。
以前、初の迷宮入りの際に起きた事故によりベヒモスなる魔物と戦うことになったあの時に見た異次元の力。
クラスメート全員どころか王国の騎士やメルドですらまともに戦うのではなく逃げを選択させたあのベヒモスやトラウムソルジャーの大群を実質一人で殲滅させた時の寒気を感じた恐怖は今でも忘れることはできない。
顔色ひとつ変えず、当たり前のように、なんの躊躇いもなく、ただの作業のように、邪魔な石ころを退けるかのように殺してみせた。
その異次元の戦闘力を持つクラスメートの異常性を異世界という『非現実的な現実』を生きることで漸く認識したからこそ、彼の傍に集まる彼女達もまた『異常』なのだと光輝達は認識する他がなかった。
「ふふ、あの時はただ怯えていただけだったわ。
けれど、ふふ、今こうして向かい合っていても恐怖は微塵も感じないわ」
中村恵里、谷口鈴―――そして八重樫雫。
元の世界に居た頃からイッセーの傍に居た恵里と鈴はともかく、自分達と同じく異世界の地で生活をしなければならなくなった頃からイッセーの異常性を認識した筈の雫だけが、遠征任務へ赴く事になった三人の後を追い始めた事で、異様な速度で『変質』した。
【グガッ!?】
「残念。
もう今の私にとってアナタは前菜にもならないのよ」
【ギッ!?】
「いいえ、今のアナタはただの前座よ」
異様な速度の成長。
遠征前は自分達と変わらない――勇者である光輝よりも劣っていたステータスだった筈だった。
しかし諸々の事情(畑山愛子が生存していた南雲ハジメと共に行方を眩ませた)により再会した時の雫の強さは異次元のそれであった。
「フッ……!」
【!?】
剣士という職の名残なのか、その腕に輝く魔力の刃を纏い、舞うように敵を次々と斬り伏せていくその姿は凛々しくもどこか寒気を覚える。
「受けてみなさい、我が刃!!」
今もそうだ。
イッセーがオルクスの下層階から『調達』してきたベヒモスをたった一人で――そして冷笑すらしながら一刀のもとに斬り伏せた。
【】
「む……手加減したのに本当に一太刀で倒しちゃったわ。
もう少し新技を試したかったのに……」
『…………』
これが自分達を鍛えると約束してくれた際にイッセーが『コイツ等のような速度でキミ達は強くはなれない』と言っていた意味なのか。
「ほら見てイッセー君。
あの時はアナタに寄生することしか出来なかった能無しだったけど、今は一撃で仕留められるわ」
「当然だろうが。
寧ろ出来なきゃオメーを半殺しにしてやってたわ」
「え……? …………。しまった、わざとミスすべきだったわね」
魔力の刃で一刀両断されて絶命したベヒモスの亡骸をバックに、ヘラヘラとした空気で会話をしている雫も、最早以前の雫ではないとクラスメート達はイッセーから割りと塩な対応をされているのに何故かにやにやしている雫を見つめるのだった。
「と、いう訳で今からキミ達は一人でこの獣を殺せるようになって貰う」
『……え?』
クラスメートの誰しもが、カースト最上位組で唯一、カースト番外組であるイッセー達の異常性に適応できてしまった雫に対して畏怖のような感情を抱いていたのだが、直後イッセーが口にだしたその言葉に割りとどころではない絶望をする。
「ひ、一人だと? い、今雫がやって見せたような事をオレ達にもやれと?」
「言葉が足りなかったか? そう言った――心配すんな。
今八重樫が殺した獣については谷口が『否定』して戦線復帰させるから、相手には困らないぞ?」
『………』
違う、そうじゃないと、ある意味一番わかりやすくおぞましい谷口鈴の『異質さ』の事は深くは知らないけどある程度わかってしまっているクラスメートの誰しもが思った。
確かにイッセー達の指導によるトレーニングによって、頭打ち気味だったステータスが再び上昇し始めたのだが、単独であのベヒモスを撃破出来るのかと問われたら話はまた別なのだ。
「さ、流石に雫みたいに一人でベヒモスを倒せる自信とか無いんだけど……」
特に戦闘タイプではない職持ちからすれば難易度ベリーハード処ではない話であり、とあるクラスメートの女子――園部優花がおずおずとした表情で言うと、イッセーの相変わらずの冷めた目が優花に突き刺さる。
「だからなんだ? キミは――えーと、名前なんだっけか?」
「……。園部よ、園部優花」
これまた相変わらず人の名前と顔をまったく記憶するつもりが無いイッセーからのそこそこ傷つく言葉に、ちょっとむっとなりながら名乗る優花。
しかしイッセーはそんな優花のむっとなった顔に対して一切気に止めた様子もなく淡々と返す。
「今キミが宣った台詞を、今にもぶち殺して来ようとする敵にも抜かすつもりか?」
「そ、それは……」
ベヒモスよりも危険な敵と遭遇して、無理だの自信がないから見逃してくれと言った所でどうなるんだ? と問われてしまえば、優花も言葉を詰まらせてしまう。
「命の危険がないトレーニング程度だけやってて強くなれるんだったら誰もがそうするだろうよ。
……。というか、今までのキミ達はそうやって来たんだろう? それで? 結果はどうだったんだ? 魔人族と戦闘バカのヴァーリ相手に全滅寸前に追い込まれたのはどこの誰だ?」
『…………』
「キミ達のよく知るあのナグモってのは少なくともそこら辺の経験を乗り越えたからある程度の力を持った筈だ」
あのオタクだった南雲ハジメが急激に力を付けて現れたのは、命の喪う代償をかけた戦いを越えてきたからだ……と話せば全員が神妙ながらも微妙な顔をする。
いや、確かにそうなんだろうけど、その南雲達すらアンタ等は半笑いで何百回も殺しまくったじゃないかと……。
「お、オレはやるぞ? もしベヒモスに殺されても、兵藤がなんとかしてくれるんだろう?」
「俺じゃなくて谷口だ」
「な、ならやるさ。
間違いなく今のオレではまだベヒモスに喰い殺されるだろうけど、ここで足踏みしてたら生き残れねぇからな……!」
そんな状況の最中、ある意味変わった檜山大介がイッセー達の前に立つ。
白崎香織に関する理由で南雲ハジメが気に喰わず、陰湿な真似をし続けてしまった事への密かな贖罪が彼を突き動かしているせいか、声こそ震えているもののその意思は確かなものがある。
「檜山の言う通り、確かにここで躊躇っていたらオレ達は兵藤達や南雲達のお荷物のままだな」
「や、やってやるよ……!」
そんな檜山を見た光輝や坂上龍太郎といった面々が次々と名乗り上げると、少しずつ他の生徒達もやる意思を示していく。
「わ、わかった! あ、アタシもやるわ!
……南雲達の事もあるし」
最初は躊躇っていた園部優花も、吹っ切るように乗り越えてやるという意思を示す。
こうして少しずつながら、天之河光輝等も『世界の定めた範疇』を越える一歩を踏み出すのであった。
「ああ、言い忘れてたけど、キミ達がこの獣に殺されたとして谷口に否定させるつもりではあるけど、無限には否定させる気はないからな。
10回だ。10回まではキミ達が殺されても谷口に否定させるが、それ以降は否定はさせない―――つまり、文句なくあの世に行って貰う」
『…………え゛?』
【グォォォアァァァガァァァッ!!!】
「ギャァァァッ!?!? お、オレの腕がぁぁぁぁっ!!!?」
オルクスの迷宮の下層地点が何故かより凶暴化しているベヒモスによって阿鼻叫喚となっている状況を、バーベキューをしながら呑気に眺めているイッセー等『異常組』。
「随分とまあ原始的な鍛練を課すのじゃのう?」
「まぁね。
タイプが違う人間を引き上げるってのがこうも難しいとは思わなかったってのもあるが、こういうやり方のほうがてっとり早い」
檜山と光輝がボロクズにされてダウンしていた後に挑みかかったクラスメートの女子の園部優花が、スピード&パワーの乗ったベヒモスの爪攻撃よって残念な姿になってしまっている光景を眺めながら、本当に呑気に串に刺した肉をムシャムシャと食べているイッセー
「最初ボク達もああしてイッセーがどこからか拉致してきた色々な種族の魔物達と戦わされたっけ」
「うんうん。
だから皆も二日くらいでベヒモスを倒せるようになるじゃない?」
「うーん……それはどうかしらね」
「お前らとあそこに居るガキ共は根が別物だからな。
お前らのようにはいかんだろう……が、闘争の意識を植え付けるという意味では実戦に勝るものはないだろう」
基本的にイッセー式トレーニングはとにかく敵と戦って感覚を掴ませるという脳筋方式だ。
その方式に上手く適応できれば一気に『進化』が始まる訳だが、そこに至るまでがとにかく厳しい―――というのは経験者である恵里、鈴、雫にはよくわかる。
「あーあ、さっきイッセーに文句抜かしてた園部さんがベヒモスに頭から喰われちゃってるし」
「文句とは言わないのではないかのう……?」
「いっちーに逆らう奴は全員死ねば良いって至極真面目に考えてるからねぇえりりんは」
「まあ、ベヒモスくらいは単独で倒せるようになって貰わないとこの先はもっと厳しいし、ここは心を鬼にしましょう」
「しかし、あの白髪のガキ共は今頃野垂れ死んでるのではないか?」
阿鼻叫喚の光景を前にして平気で肉を喰えるメンタルをしているからこその異常者達の鬼畜修行はこうして続いていく。
イッセーへの報復が完全に殺意へと昇華した南雲ハジメ等は、まさかの魔人族と結託する流れとなった。
その理由がイッセーへのコンプレックスもそうだが、一番は白音が常日頃口にする『先輩』の正体がよりにもよってイッセーだったという事実が、ハジメの殺意の波動を高めてしまった。
「あのさ、ナグモって言ったっけ?」
「小猫の姉――黒歌だったな? なんだよ?」
そんなハジメに一切興味が無さそうな妹と、その妹に対してハンカチでも噛んでるような顔で睨む吸血鬼と兎人族の少女を見て色々と察してしまった黒歌は、しっかり迷宮から神代魔法のノウハウを回収を済ませると、こちらに呼び寄せる事になったヴァーリとカトレアを待つまでの間に一応の忠告だけはしておくことにしておいた。
「キミって白音になんか色々と拘ってるみたいだけど……」
「………。そうだとしたらなんだよ? 姉としては心配だってか? なら心配させないだけの男に――」
「そうじゃないわよ。
単に白音は止めた方が良いわ」
「は?」
妹の持つ『無限の食欲』をかつて身を以て体験しているからこそ、白音をどうこうできる男なぞ世界が変わろうとも存在しないと断言出来てしまう黒歌。
「さっきの話を聞いてた限りだと、キミも相当あの鬼畜赤龍帝に恨みを持ってるのは理解できたし共感もしたわ。
けれど、現実問題あの鬼畜男を殺すのは難しいのはわかる?」
「…………」
「その難しい鬼畜男と真正面からやりあって寧ろ圧せるのが白音なの。
そして白音はあの鬼畜男に対してどうしようもない執着心を持っているわけ」
「つまりアンタはオレに、脈なんて欠片もないから諦めてしまえと言いたいのか?」
「まぁね。
第一、キミには好いてくれる女の子がちゃんと居るじゃない。
なんでわざわざ白音に拘るのよ?」
普通の人間よりはそれなりに強いという評価をハジメに対して持っている黒歌からすれば、そこまで妹に拘る理由がわからない。
「兵藤とその取り巻きに力を壊されたオレを助けてくれたのが小猫だったんだよ」
「それだけで?」
「それだけで悪いかよ……? ……まあなんだ。
ちょっとした事故で小猫と抱き合ったことがあったんだが、その時感じたの安心感が心地よかったというか……小猫の前なら強がり続けなくても良いのかもしれないと思えたからというか……」
「………………」
あ、ダメだにゃん。
と、思わず心中で呟いてしまう黒歌は、段々声小さく恥ずかしげに語るハジメに厄介さを覚える。
「だからオレは兵藤を超えなきゃならねぇんだ。
あいつを超えられたらきっと小猫は……」
「……………」
そう言いながらフリード・バグワーと会話中の白音を見つめて頬まで染めるハジメだが、その直ぐ後ろのお嬢さん二人の事を先ずはどうにかすべきなのではなかろうか――と、妹の精神がぶっ飛びすぎてるせいか、割りと常識的な事を思ってしまう黒歌なのだった。
「あ、そう。
じゃあもう敢えては忠告はしないけど、ひとつだけ言っとくにゃ」
「? なんだよ?」
「お年頃なんだろうけどさ、私と白音の胸を見比べるつもりなのか、ガン見するのはよした方が良いわよ?
普通にバレてるし」
「!?!? ち、違う! そ、そんなつもりじゃねー!! た、ただ小猫が本気の姿になると本当にアンタ並みのデカさになるのか気になったとかそんなんじゃねーし!!」
「……………。テンパって全部白状しちゃってるし。
精々キミを慕う子達に後ろから刺されないように気をつけることだにゃーん?」
「ぐっ……!」
おわり
補足
目の前でクラスメートが餌になってるのにも拘わらず、平気な顔してBBQやってる異常者組。
八重樫さんもついに精神からしてそっち側入ってるので止めもしない。
ちなみに、おさらいとして、八重樫さんのスキルは『某サイヤ人の肉体を持つナルシスト界王神見習い&メタル化した宇宙最強の一族の長兄のように受けたダメージに対して適応強化して回復する』というスキルです。
つまり、むっちゃイッセーの無神臓や白音たんの暴因暴喰に近く、戦闘スタイルは専ら某ロゼ的なそれ
黒白猫姉妹の胸の戦闘力の差が気になってついガン見しちゃうけど、余裕でバレてる主人公。
そして後ろから刺される未来が見えてきてる