ステータスプレートとかいう物で己の今の力を見て気づいた訳だけど、いくら代償でパワーの大半を失ったとはいえ、俺自身の力はどこまでもドライグありきのものなんだなと。
力を失っても尚この世界のチンピラ程度ならぶちのめせていたのは、ドライグの力があってこそであって、分離をしている状態ではそこら辺の人間に毛が生えた程度でしかない。
力を失って2年が経っても尚力を取り戻せていないのはぶちのめしてやった神とやらの嫌がらせなのか、それとも俺の精神的な問題なのか……。
いや、逆に考えるんだ俺。
今までドライグの力におんぶに抱っこであったという事実を知れた事は却って自分を見つめ直すのに良かったと思うべきだ。
どこを切り取っても今の俺が弱いのであれば、そこから這い戻れば良い。
ドライグありきであった力ではなく、俺自身の力を……。
そうでなければ、もうひとつの神――確かエヒトだったか? そいつが再び消しに掛かって来た時、俺はシア達を守る事ができない。
ギャスパーを目の前で失ったあの時のように……。
認めろ、俺は弱い。
だからこそ取り戻すだけで満足してはいけない。
ドライグと対等の領域へと進化してこそ、本物の赤龍帝になれる唯一の道だ。
どんな手を使っても、何が起ころうとも、俺はその全てを『糧』として進化をし続ける。
それが、ガキの頃に一度だけ俺達の前に現れた女が、俺自身が持つコレ――――終わりの無い進化という異常。
無神臓
オレ自身も、あの忌々しい神の悪あがきによって本来イッセーと共に積み上げ続けてきたパワーの大半を封じられた。
2年という歳月が過ぎても本来のパワーが戻る気配は未だに無い。
しかしそれにしても、分離している状態のイッセー自身の力があそこまで失われているとはオレも思わなかった。
考えてみればオレは既に神器としての封印を『進化』することによって強引に捩じ伏せた――つまり神を超えた領域に到達できたのはイッセーありきである。
イッセーに宿っている状態だからこそ到達出来たのであれば、分離している今の状態では力が分散されるのは当たり前の事だ。
「ウ、ウィルの母、サリア・クデタです」
「ち、父のグレイル・クデタです。
この度は息子が大変お世話になりました」
ここまで力を弱めているのであれば、とっととオレがイッセーの中へと戻って力を貸し続ければ良い。
だがきっとイッセーは断るだろう。
自分自身の力を例のプレートとやらで解った今、アイツと事だから間違いなく『俺自身の力を取り戻すまではなるべく別れていよう』とでも言うだろう。
イッセーはそういう奴だからな……。
「で、ですので是非何かお礼が出来ればと思ったのですが……」
なら待ってやろう。
イッセーならば必ず力を取り戻し――そしてそれ以上の進化を果たせる。
オレはそう信じているのだ。
「な、なにが赤龍帝だ……!」
………。まあ、その本人は今別の意味で現状の弱さを嘆いている最中なのだが……。
「おれは! 弱い!!!」
まるで義兄を目の前で失ってしまった直後の海賊王候補みたいに、ぐしゃぐしゃな顔をしながら自分の弱さを嘆く青年に、息子のウィルを救出してくれたことへのお礼を言いにやって来た両親は、メソメソと泣いている青年を前に困惑していた。
「一体イッセー殿になにが……?」
「……色々あったんだ、気にするな」
両親を連れて挨拶にやってきたウィルも、短い間ながら世話になった一人であるイッセーが、わんわんと泣いているその姿に何事かと訊ねるのだが、ハジメ、ユエ、ティオ、ドライグの四人は答えようとはせず、踞って泣きまくりなイッセーの背中を菩薩のような表情で――なんとなく艶々な肌をしたシアが撫でている。
「ふふふ……」
(一体ナニをされたんだよイッセーの奴……?)
(基本的に動じずヘラヘラしてるイッセーがああなるなんて……)
(よ、よほど凄い事をしておったのか……?)
(とことん心を許した相手には受け身になる奴だなイッセーは……)
目の前にウィルの母親という人妻が居るというのに、それすら気に止めずただただ泣きじゃくるイッセーが一体ナニをされたのか……。
それを知るのは当事者のイッセーとシアにしかわからない事である。
「大丈夫ですよイッセー? 今のイッセーは色々あって本当の力を失ってますもんね? でも今の雑魚雑魚なイッセーも大好きですよ? 『し、シア、お、おれもう無理ぃ……』って半泣き顔のイッセーも――」
「チクショー!!!!!」
結局挨拶もお礼もグダグダになってしまったまま、クデタ一家とお別れしたハジメは、漸く泣き止んで目が真っ赤なイッセーが、ルームサービスの軽食を食べながらボソボソ呟いている声に耳を傾ける。
「ある意味ステータスプレートってので今の自分がどれくらいの力が残ってるのか知れて良かったよ。
フッ、ドライグと分離した赤龍帝じゃない俺なんぞクソ雑魚ナメクジだってな………くくくく」
「いや、数値だけで見たら十二分に強いと思うが……」
「強くなんてねーさ。
強かったらああはならないさ………」
余程凹まされる事があったのか、言ってる事の全てがネガティブ過ぎるイッセーに、ハジメ達の視線がその隣で食べているお肌艶々なシアに注がれる。
「お前、イッセーに何したんだよ?」
「ウィルの母親が目の前に居ても何もイッセーがしなかった程の事をしたとしか思えない」
送り出した手前、あまり強くは言えないものの、メンタルをぶち壊す程の何かは気になるハジメとユエの質問に、やっぱりお肌艶々なシアはにこにこ顔で口を開く。
「イッセーに天井の染みを数えさせてただけですよぉ? ねぇイッセー?」
「……」
やっぱりな返しをしながらイッセーに話を振ったシアに、イッセーは一瞬びくりと震わせつつほろりと涙を流す。
「小娘にゃあ早いとわからせてやろうとしたら、逆にわからされたってだけだ……グスッ」
『…………』
ここに来て力の大半を失った弊害を噛み締めさせられたと呟くイッセーに、ハジメ達は無責任に背中を押しまくった事を少しだけ反省した。
なんというか、兎人族だけど中身がえげつねぇ肉食動物だったんだなという意味で。
……と、この様な話が挟まったものの、数時間後にはいつもの調子を取り戻していたイッセーは、真面目な顔になってドライグと話をする。
「ガキの頃並みの鍛練量に戻してみようと思う。
多分今のままの量じゃ何時まで経っても戻せないからな」
「ああ。
それで? 具体的にはどうするつもりだ? ハジメとユエは街の観光区へと出掛けてしまったが……」
「二人の邪魔をする気は無いし、俺も暫くはナンパを辞める」
赤龍帝としてではない、自分自身の力を取り戻す事に本気になるという宣言を、自身の左胸に触れながらするイッセーに、血の様に真っ赤な頭髪をした10数年年を重ねたイッセーに酷似した容姿のドライグは頬を緩める。
「良いだろうイッセー。
幸いあの頃と違い、今のオレは口だけではなく、直接お前の鍛練の相手も出来る」
二年前以降、少々腑抜けてしまった
「聞いていただろうシア、砂利。
お前達もイッセーの持つ本来の『熱』を取り戻すのに協力しろ」
「当然私は構いません。
二年前の頃のイッセーが帰ってきてくれるのであれば何でもします…………………まあ、まさか私に『負けた』のが切っ掛けになってくれるとは思いませんでしたけど」
「妾の事はまだ砂利呼ばわりなのですね……」
幸いあの頃とは違って修行相手には困らない。
「次は負けねーからなシア?」
「そんなに私に体力負けしたのが悔しいんですか? というかリベンジ宣言しながら私の胸を鷲掴みにするのはどうなんですか? 別に良いんですけど……」
こうして漸く『本気』で取り戻す事を決めたイッセーは、その頃街の地下水道にて、ハジメとユエが海人族の子供を発見している事を知らないまま、街の外へと出て修行を開始するのであった。
正直強引すぎて罪悪感が半端無いのではあるのだけど、酔ってはないイッセーと二人だけの時間を過ごせたのは大きな前進だと思う。
何故なら途中から完全に私に体力敗けをしたイッセーに『敗北感』を認めさせる事で、やっとイッセーが二年前の自分を取り戻す事に本気になってくれたのだから。
「こうなったら本格的にシアには二年前の俺が到達していた
「え、それはつまりプロポーズ?」
「………。みてーなもんだと思ってくれや」
しかも私も一緒に二年前までイッセーが君臨していた
やる気にならない訳がない。
「分離した俺は今のシアとあんまり変わらない
だから最初から本気でやらせて貰うぞ」
「のぞむ所です。
殺す気で掛かって来てください! 私はその全てを受け止めてあげます!」
もっと先の先へ。
畑山愛子なんてぽっと出の女とどこぞでまた出会した時に、これでもかと勝ち誇ってやる為に……。
「…………行くぞォ! シア!!!」
旦那様がイッセーとシアの戦いを眺めているので、妾も一緒に二人の殴り合いを観戦していたら、唐突に旦那様が妾に言った。
「暫くはあの二人でやらせておくとして……砂利」
旦那様はいつも妾を名では呼ぶことはせず、砂利と呼ぶ。
旦那様にしてみれば妾は正しくその程度の認識でしかないのだろう。
事実竜人族の長の血族であっても、妾と旦那様は別種族と思える程の開きがある。
「これからも付いて回るつもりなら、精々オレの役に立て」
だから妾はこの方を旦那様にと決めた。
神を粉砕する伝説を体現するような竜――否、龍であられるドライグ様のお側に……。
「相棒が本気で取り組む以上、ただ待ってるつもりは無い。
オレも完全に取り戻す――お前はその為の糧だ」
そう無慈悲に言い放ちながら、旦那様は人のお姿から、妾が惹かれてやまない赤いドラゴンのお姿へと変化する。
強く、逞しく、雄々しく――跪いてしまうほどに圧倒的な覇気を放つ赤き龍。
【変化しろ砂利。
オレの糧になる対価として、貴様を一端の『龍』にしてやる】
ああ、妾の意思なぞアナタ様にしてみれば虫にも劣るのでしょうね。
妾の返答なんて聞く耳など持たないとばかりに命じてくるその横暴さ。
「わかりましたドライグ様。
ですがひとつだけ妾の願いを聞いてはくださりませんか?」
【……なんだ?】
「妾をアナタ様のかつての好敵手であったドラゴン達と同じ
必ず妾はその領域に――いえ、超えてみせます。
その時は妾を名で呼んで欲しいのです……」
【…………。なれるものならなってみろ砂利】
その全てが眩しい。
手を伸ばしても、飛翔しても決して掴めぬ太陽のような赤い龍の立つ領域に到達したいという欲求こそが今の妾の存在意義。
【約束ですぞ、旦那様!!】
補足
受けいれた存在にはどうにも攻撃力が大幅に下がって受け身がちになるのがイッセーくん。
結果、分離状態だと互角なシアさんにあれこれされて泣いたらしい。