ただの茶番
短気は損気とはよく言ったものだと頭では分かっているし、気を長く持とうという心がけは一応あるにはある。
けれど、どうしても頭に血が昇るとやらかしてしまう。
俺達が生きた世界で唯一のトモダチだったギャスパーが目の前で殺された事がトラウマになってしまっているせいなのか、どうしても殺られる前に殺っちまえって考えてしまう。
『お前等全員、地獄に送ってやる……!
――――ぶっ殺したらァ!!!』
失う事への怖さと、途方もない悲しみを経験してしまったからこそ……。
俺はどうしてもトモダチを傷つけようとする輩はこの手で殺さなければいけないと思ってしまうんだ。
元の世界的に表現すれば、マフィア的な組織を派手に壊滅させたハジメ一行は、当然のようにギルドに呼ばれ、今回のやらかしによる被害状況をイルワにドン引きされた顔と共に聞いていた。
「消滅した建物9棟。
倒壊した建物15棟。
半壊した建物32棟。
死亡者約180名。行方不明者不明……」
決して小さくは無いハジメ一行による被害報告を語るイルワは、報告書に向けていた視線を、目の前で『一切反省の色が無い』ハジメ一行へと向ける。
「これだけ暴れておいて、民間人への被害が0であるのが奇跡としか思えない。
……聞くだけ意味は無いとわかってはいるが、何か言い訳は?」
「カッとなってやった事だから半分は計画的にやったんだが、途中で合流したイッセーが思いの外キレたせいでああなっちまった。
まあ、オレもイッセーも反省や後悔は無い」
「…………」
そうきっぱりと今回の騒動の理由である海人族のミュウを膝に乗せながら返すハジメに、イルワはため息を付きつつ少し離れた場所から顔立ちが似ている赤髪の男性と共に窓の外を眺めている茶髪の青年を見る。
「報告によると、キミがフリートホーフの組織する奴隷売買所に居た者達を残らず殺害したとの事だが……」
「カルシウム不足なもんでさぁ」
わざわざ一人一人をなぶり殺しにしたイッセーの態度もなんの反省も後悔も無いといったものだ。
「まあその……我々もフリートホーフには手を焼いていたからね。
少々やり過ぎだが正直助かったとも言えるよ」
「半分は見せしめ目的だったからな。
必要なら俺達の名前を使って良い、なんなら支部長のお抱え冒険者って事にしていいぞ」
「それならかなりの抑止力にはなるだろうけど、利用されるのは嫌なタイプなのではないかな?」
「世話になるし、わざわざ動きやすいように金ランクにして貰ったしな。それくらいなら構わねぇよ」
意外と丸い事を言ってくれるハジメにイルワは頬を少しだけ緩める。
「そうか……。
では話を変えよう……その海人族の子についてだ」
敢えて深くは聞かないことにしたイルワは、フリートホーフが消え去った理由であろう海人族の少女ことミュウについて話をする。
「彼女を故郷へと送る方法が二つある。
一つ目は正規の手続きでエリセンに送還する方法。
二つ目はこのままキミ達に預けて『依頼』という形で送還して貰う方法だ」
「………」
不安そうな表情で見つめてくるミュウを膝に、イルワの話を聞くハジメは、隣に座るユエが無言で頷いているのを見る。
ハジメとしても二つ目の方法でミュウをエリセンまで送る為にわざわざ派手に助けたのだから、異論は全く無い。
「その為にわざわざあんな派手な花火ぶちあげてミュウを助けたんだ。
大火山の攻略が少し不安だけど、なんとかしてみせるよ」
穏やかに微笑むハジメのその言葉にミュウは安心したようにハジメに抱きつく。
が、ハジメとしては一つだけ懸念する事があった。
「問題はイッセーだ。
……ミュウが完全にイッセーを怖がっちまってる」
ハジメとしても想定外のレベルでマジギレしたイッセーが、一々残虐な方法で組織の人間達を皆殺しにしたせいで、その一部始終を見てしまったミュウが完璧にイッセーに怯えてしまっているのだ。
「別に仲良くしろとは言わないが、イッセーはオレの仲間なんだ」
そうミュウに言い聞かせるように話ながら、人化継続中のドライグと共に窓の外を眺めながら、『お、美人なお姉さんだ』と鼻の下を伸ばしてるイッセーについて語る。
「俺がエリセンまでミュウを送るということはイッセーも一緒だという事だ。
……わかるな?」
「ぅ、うん……」
ミュウから見たイッセーは完全にただの快楽殺人者にしか見えなかった。
わざわざ笑いながら命乞いをする人達をなぶり殺しにして嗤う狂人。
故にミュウはイッセーを……そしてイッセーに顔立ちが似ている赤髪の男性ことドライグが怖かった。
しかしここで怖がったままだと、自分はハジメと離れ離れになってしまうと幼い心ながらに考えたミュウはその恐怖をなんとか我慢することをハジメと約束する。
「どうやらあの小娘を故郷まで送り届ける事になったらしいぞ?」
「ふーん? まあ、はっつぁんらしいわな。
良いんじゃねーの?」
「あの娘に完全に怯えられてしまっておるようじゃが……」
「仕方ないだろ。
原因は俺なんだし、無理に仲良くなる訳にもいかねーだろ?」
「意外とこういう時のイッセーってドライなんですよ」
道行く女性に鼻の下を伸ばすイッセーにムッとなるシアに邪魔されているという光景を見てもミュウはイッセーが怖いと思うのだった。
そんな不安材料を残したまま、ミュウを連れてイルワから渡された手紙を届ける為にホルアドという――ハジメにとっての
「…………」
「…………」
「えっと……どうしたんだ?」
「っ!? な、なんでもないの……!」
その車中は――結構気まずいものであり、仕組まれたとしか思えない座席順により、イッセーとミュウが隣同士で座っており、先程ハジメに言われた事を思い出しつつ、なんとか恐怖を払拭せんとチラチラと窓の外の景色をぬぼーっとした顔をしながら眺めていたイッセーを気にするミュウ。
(ハジメさん、流石に無理矢理すぎませんか?)
(イッセーも気まずいせいかちょっと素っ気なくなってしまってる)
(旦那様もイッセーの中へと戻ってしまったぞ……)
そんな空気に敢えて触れずに見守るシアは、ちょっと無理矢理すぎるのではと運転するハジメに小声で話しかける。
(いや、いつものイッセーならすぐにミュウと打ち解けられそうだと思ったんだが……)
普段のイッセーのキャラならば、ミュウの恐怖も一時のものになるだろうと考えていたからこそ多少無理矢理会話の機会を儲けさせる為に隣同士にしたのだが、ミュウどころかイッセーすら絶妙に気まずそうにしている。
(チッ、はっつぁんめ。
変な気を利かせんなよな……)
『海人族だったか? その小娘がお前を気にしているぞ?』
(そんな事言われても、どうすりゃあ良いんだよ……)
(ミュウがこのお兄ちゃんを怖がったから、きっとミュウのこと怒ってるの……)
子供には割りと好かれやすいが、初見で怖がられるというのはこれまた割りと初の経験だったイッセー的にもどうすれば良いのか絶妙にわからずに無言を貫き、ミュウはミュウでどうであれ、ハジメと同じく自分や他の奴隷にされていた人達を助けてくれた人なのに、お礼も言わずただ怖がってしまったのは失礼だったとミュウなりに考え……。
結果お互いにどう切り出して良いのかわからずの沈黙が続いているのであった。
「えーと、ミュウ……だったか?」
そんな沈黙に耐えきれなくなったらしいイッセーが、ほぼヤケクソに初めて自分の方からミュウに話しかけてみる。
「う、うん……ミュウはミュウなの。
お兄ちゃんのお名前はイッセーお兄ちゃんだよね……?」
「おう……。
なんてーかよ、怖がらせて悪かったな……」
「う、うぅん……! ミュウこそお兄ちゃんが助けてくれたのに怖いって思ってごめんなさいなの……」
「いや、それは普通に仕方ないからな……」
幼女と謝罪合戦をするイッセーを見てちょっとほっとなるハジメ達。
よかった、この分なら向こうに着くくらいには仲も向上するだろうと考えながら車を走らせるのだが……。
「ミュ、ミュウちゃ~ん? ハジメパパとユエママの所に行きましょうね~?」
「やー!!! ミュウはイッセーといるのー!!!」
「……………………………」
ホルアド近郊まで来た時には、最初の怯えは何だったんだレベルでミュウはイッセーに懐いていた。
「お前、ミュウに何かした……訳じゃねーよな?」
「さっきまでのが嘘みたい……」
「途中からミュウがお主の話を聞いて笑うようになった辺りから妙じゃなとは思ったがのぅ?」
「いや、別に俺なんもしてないってか、ただ普通にあの子と話してたのははっつぁん達も見てたろ? だからわからん」
ミュウに顔に纏わりつかれた状態で、なんでこうなったかについての身に覚えは全く無いと供述するイッセー。
事実、車内では少しずつお互いに話をしたりしていただけだった。
だったのだが、途中からミュウがイッセーの嘘みたいなジョーク話に笑うようになってからすっかり恐怖が無くなった辺りから寧ろミュウの方がイッセーにあれこれと振るようになってからがおかしかった。
「ぐ、ぐぬぬー! イッセーの子供からのウケっぷりを舐めてました!」
「いや、好かれてはないだろ。
俺の事をただのアホだと思って怖くなくなったってだけで――普通に俺だけ呼び捨てにされてるし」
「もうミュウはイッセーの事怖いと思わないもん。
ミュウはイッセーが好――」
「あー!!!? イッセーの浮気者! 故郷で暮らしてた時もでしたけど、イッセーが小さい女の子となんて犯罪です!!」
「な、何言ってんだ。そんな訳ないだろ。
寧ろ俺はミュウの母親の方が気になってるんだが……。
未亡人っぽいし、聞いてるだけでドストライク確定……ふへへへ」
一気に、それも物理的な意味でも距離感が近くなったのだ。
それもどちらかといえばあれだけイッセーを怖がっていたミュウの方から積極的に……。
これには初見の時点で怯えられていたからありえないだろうと思っていたシアの予測を大幅に裏切られたものであり、焦ったシアは大人気なさもへったくれもなくミュウをイッセーから引き剥がそうと必死だ。
「取り敢えずよ、そろそろ降りてくれないか?」
「イッセーはミュウとこうするの……や?」
「え? あー……別に重くはないから良いっちゃあ良いんだが、シアが……」
「そこはドライになってくださいよ!? 絶妙に優しいのがむかつくんですけど!!?」
「いやだって子供だし……」
「うがー!!」
いまいちミュウがなんで急に心を開いたばかりか犬みてぇに懐いてきたのかについてはわかっていないイッセーは、何故シアがこれでもかと悔しがっているのかもよくわからないのであった。
補足
一旦打ち解けたら、速攻でこうなってしまう。
ただし、子供にのみ