大分ふざけきってます
ガキはよくわからん。
ついさっきまで俺を見て怯えてた癖に、それが嘘だったかのように懐いてきた。
何年か前からそうだったんだが、子供は意外と切り替えが早いと褒めるべきなのか、それとも所詮はガキだなと思うべきなのか。
……俺もこんな時代があったのかもと思うと、ますますわからないぜ。
残虐ファイトを目の当たりにしたことで、完全にイッセーなた対して怯えていたミュウは、それまでのシリアス風味な空気は何だったんですかレベルでイッセーに懐いていた。
懐き過ぎて、ハジメの事はパパと呼んだり、ユエといった女性陣には名前の後にお姉ちゃんを付けて呼ぶ癖に、イッセーの事だけは既に呼び捨てだった。
「なんだろ、俺ってガキに舐められやすいのか? なんで俺だけ完全に呼び捨てにされてるんだろ……」
「怯えられ続けるよりは良いんじゃないか?」
「そうかもだけどよ……」
思えばこの世界で生きていく上でシア達兎人族以外の様々な亜人を知った訳だが、その亜人の子供達からは絶大なる支持を受けていたりするイッセーは、それを舐められていると解釈しているらしい。
別に子供にばかにされただけで一々キレたりもしないし、そもそも自分の精神レベルなんて悪ガキと大差ないと自覚している。
しかしそれとこれとは別に、自分より年下のハジメの事はお兄ちゃん通り越してパパなんて呼ばれてるのに、ハジメより年上の自分は呼び捨てにされているのか――微妙に複雑なのだ。
「つーん……」
「オマケになんでか知らないけどシアが機嫌悪いし……」
「それはきっとイッセーがちょっとだけ悪い」
「そうは言うけどユエっち、俺は暫くナンパしに行ったりしてないんだぜ? しかもミュウが俺にビビってた時は機嫌悪くなかったし、急だぞ急?」
「それはそれ、これはこれという気分なのじゃよイッセー。
お主は少しばかり女心というものを学んだ方が良いぞ」
「……。ティオにだけは言われたくないんだけど」
こうして結局はいたいけな幼女の脳を焼いてしまったイッセーは解せない気持ちのまま、ハジメがイルワから渡された手紙を届ける為に訪れる事になったホルアド近郊まで到着する。
「あれは、オルクスの迷宮の入り口だ。」
その道中、ハジメはハジメにとっての始まりとなった迷宮の入口をユエと共に見つめていた。
「ホルアドもすぐ近くだ。
思えば、オレはある意味ここから始まったんだな。
落ちこぼれとしてこの先の町にやって来て、無能のまま迷宮に入り……。
そしてクラスメートの誰かによって奈落におとされた……」
既に遠い過去のようにすら思えるハジメの始まり。
そこからユエと出会い、オルクスの迷宮を制覇し、そしてイッセーとシアと出会った。
「はっつぁんが無能ねぇ……」
「あんまり想像が出来ませんね」
「多分当時のオレを見たら『誰だお前?』ってなるぞ? それくらいどうしようもなかった」
イッセーとシアが出会った時には既にハジメは白髪の姿だったので、自分で無能だったと言う頃のハジメがどうにも想像できない。
そんな二人にハジメは苦い顔で笑っている。
「ほんと、あれから四ヶ月くらいしか経ってない筈なのに、何年も前の出来事に思えるよ」
特にイッセーとシアとの出会いはハジメにとっても『可能性』という視野を広げられる切っ掛けになれたと一人思っていると、同じく話を聞いていたティオがハジメに声をかける。
「ハジメはやり直したいと思わないのか?
お主の過去は聞いては居るが、皆が皆ハジメを傷つけたという訳ではあるまい?
その中には仲の良かった者もいたのではないか?」
「………」
ティオの言葉にハジメは誰かを思い出すように少しだけ笑みを溢すが、それも一瞬だけだった。
「確かにそういう奴も居たかもな。
けれど、オレは何度やり直しても同じ道を辿ると確信している」
「ほう? 何故じゃ?」
ティオの問いに新調した車の助手席から降りようとするユエに手を貸しながらハジメはその理由を口にする。
「何度でもユエと会う為さ」
その言葉と共に優しい笑みを浮かべるハジメに、ユエも嬉しそうに笑みを溢す。
「なるほどのぅ……」
「かー! 見せつけてくれんなぁはっつぁん! 憎いなこのこのー!」
「あーあ、ユエさんは良いなぁ。
イッセーと違ってハジメさんは浮気しなさそうだしー!」
「う……」
「………………ごめんなさい。理不尽でした……」
「お、おおぅ……い、良いんだ別に。
俺は
ユエと何度でも会う為に。
そして今ここに居る仲間達と何度でもこうしてアホらしい真似をして笑うために。
何故か自分をパパと呼ぶミュウを肩車して町へと入ったハジメ。
行き先はこの町にあるギルドだが、『無能』だった頃に使っていた宿が目に入った事で少しだけ感傷的になる。
「そういやウルの町で出会したはっつぁんのクラスメートとまな板先生以外にもクラスメートは居るんだよな。
……どんな奴らなんだろうな?」
「あまり良い印象は感じませんけど」
「まぁな。
俺は学校とか行けなかったから『学生』ってのがわからないんだが、どんなんだろうな?」
「あくまでオレの感想だが、苦痛だったよ」
そんな雑談をしながら歩き続け、やがてギルドの施設へとたどり着くと、ハジメの頭上からミュウが質問をする。
「パパ、ここはなに?」
「この町の冒険者ギルドだ。
預かった手紙を渡すだけだからすぐに用も終わるさ」
そうミュウに教えながらギルドの施設に入ると、目付きが悪い――ちょっと蛮族にも見えなくもない冒険者達の鋭い目が入り口にたっていたハジメ一行に突き刺さる。
「ひぅぅぅ!!?」
イッセーの残虐殺戮スイッチは克服したが、その他はまだまだ怖がるミュウは泣きそうな声を出す。
「おい坊っちゃん。
ここは女を侍らせてる奴が来て良い場所じゃないんだよ。
ブッ飛ばされる前に消えちまいな!」
そんなミュウに構わず突っかかってくる冒険者の男にハジメは目を閉じてろとミュウに優しく語ってから黙らせてやろうとすると……。
「………」
「あ゛………!?」
無言の一睨みにより、突っかかってくる男は泡を吹きながら卒倒してしまった。
その異常現象に近くに居た冒険者が小さな悲鳴をあげる中、武器に手を伸ばそうとしていた一人の冒険者に向かって今度はイッセーが『神に中指立てて殺しにかかっていた頃のギラギラ期』の殺意を剥き出しに牽制する。
「おうコラ、その手にかけてる
『いぎっ!?』
静かな殺意とは逆に、災害を思わせる極悪な殺意を剥き出しに獰猛な笑みを浮かべるイッセーに、バタバタと意識を手放す冒険者達。
「やっぱはっつぁんが自分で言ってる無能だった頃ってのが信じられないんだがな……」
「あったんだよ。てかお前、今ドライグと別れてる状態なのにあきらかに『強く』なってやしないか?」
「ああ、『蓋』をされてたもんがやっとこじ開けられたんだよ。
後で説明するわ」
こうしてギルドは二人の少年によってあっという間に制圧も同然に支配されることになるのであった。
「ここの支部長に会いたい。
フューレンの支部長に手紙を預かった」
「そしてその後はお姉さんと俺とでいけない冒険をしたいぜ!」
「え、あ、はい?」
こうして誰しもがハジメ一派に怯えているのも何のそので当初の目的を果たす為に受付の女性に話をするのだが、ハジメが話してるすぐ隣でイッセーが急に受付の女性をナンパし始めるものだから話が全然進まない。
「え、ええと、支部長からの直接の依頼ということでしょうか?」
「ああ……」
「お姉さんにいけない受付をされたいぜ!」
「…………。す、ステータスプレートを拝見しても宜しいでしょうか?」
目で『隣のこいつの言うことは流せ』と言われた気がしたのと、なによりイッセーが下心満載なだらしない顔をするせいで完全にドン引きしている受付の女性はハジメが渡したプレートのランクに驚愕する。
「き、金ランク!? も、申し訳ございません! 大切な情報を……」
「別に構わないから支部長に取り次いで貰えるか?」
「ついでにお姉さんとのデートの時間を取り次いで――」
「シア!!」
「はーい。
ほーらイッセー? ハジメさんの邪魔をしてはいけませんよー?」
それでも懲りないでいたイッセーに、我慢するのを止めたハジメは、ストッパーであるシアを呼ぶと、実は後3秒後には言われるまでもなくイッセーを黙らせるつもりであったシアが、イッセーを強引に下がらせる。
「ええぃ邪魔するなシア! こんな綺麗なお姉さんを前に何もしないのは犯罪だ!」
「安易にナンパするほうが犯罪です」
「あ、案内しますのでこちらに……」
殺人的な殺意に恐怖させられたのもあるし、そもそもあんなド下手なナンパに掛かる気も、イッセーを好みとも思ってない受付の女性はハジメ達を案内する。
「ぐ、もう少しだったのに……」
「どこがですか。
まったく……」
「…………」
「ほら、ミュウちゃんがさっきのイッセーを見たせいでこんな冷たい目を……」
「う……た、確かに道端の石でも見てるような冷たい目だ」
「なんというか、イッセーの口説き文句は下半身に直結してるとしか思えんの」
「悲鳴をあげられなかっただけマシに思え」
「ティオとドライグまで冷たい……」
暫くまともにナンパしてなかったので、つい張り切ってしまったが、やはりの大失敗に肩を落としながら呆れた顔をするハジメとユエの後をついて行く。
そして何やら部屋が騒がしい事に気づき、そのまま沈んだ気分で見ていると、前髪で目が隠れている少年が飛び出て来た。
「……遠藤?」
それはどうやらハジメの知り合いであったようで……。
遠藤浩介というハジメのクラスメートの一人との予期せぬ再会を果たしたのだが、ナンパの失敗で軽く凹んでいた為にイッセーはその遠藤少年の話はほぼ聞いてなかった。
「頼む! 俺と一緒にオルクスの迷宮にもぐってくれ! 一人でも多くの戦力が必要なんだ!」
「よくはわからないが落ち着けよ遠藤。
勇者の天之河が居れば大抵の魔物はなんとかなるだろうし、メルド団長だっているだろ?」
見た目も話し方も変わり果てたものの声で南雲ハジメだとすぐ見抜いた遠藤はなにやら焦燥したようだったが、ハジメは冷静に戦力的には大丈夫な筈だと返している。
しかし遠藤は共に居た騎士達は自分を逃がす為に全滅したと言い、そのタイミングで渡した手紙を片手にやって来たホルアドのギルド支部長を交えて事情の説明をする。
「魔人族だと?」
その内容は、迷宮の89階層に突如として現れた強力な魔物を従えてた魔人族によって天之河達が全滅の寸前だという話だった。
天職が暗殺者の遠藤は気配を極限まで消すことで大概の魔物達に悟られずに地上へと抜けられたのだが、直前で魔人族に追い付かれてしまった。
しかし待機していた騎士達が命懸けで盾となってくれたお陰で自分は地上に戻れ、今に至るとの事らしい。
「急いで戦力を集めて戻らないと、天之河達も……」
「話はわかった。
しかし、魔人族が従える魔物はそこまで脅威ではないはずだ。
事実なら魔人族との戦争に影響が出るぞ……」
同席していたホルアドの支部長は魔人族の従える魔物達がそこまで強力であることに驚いていると同時に救援は難しいと呟く。
「勇者達も助けたいが、89階層まで到達する事すら不可能だ」
「………」
支部長の言葉に肩を落とす遠藤だが、ふと向かいに座っていたハジメ達に視線を移すと、そこにはミュウがもきゅもきゅとお菓子を食べていて、それを見てほっこりしているという、この場に限って言えば場違いすぎる光景だった。
「イッセー、このお菓子結構美味しいですよ?」
「いらねぇ。失恋したせいで食欲がねぇ……」
「そもそも始まってすらないでしょうが」
「チッ、腹の足しにならんぞ。
だから分離は不便なのだ」
「では妾のを差し上げます」
「別に要らん」
あまりにも他人事に見える光景に遠藤はちょいとキレ気味にテーブルを叩く。
「この状況を理解してんのかよ!?」
「ひぅ! いっせぇ!」
驚いたミュウが今度は勝手に失恋したと宣って傷心モードのイッセーに飛び付く。
「むっ!?」
当然、ハジメの膝に居たくせにイッセーに飛び付くミュウにムッとするシアだが、イッセーはといえば飛び付いてきたミュウと背中を擦りながら涙目のミュウと目を合わせる。
「ミュウ、俺はただのビビりが嫌いだ。
俺が好きなのは、ビビりでも『立ち向かえる』奴だ」
「……!」
俺の昔の親友と、シアみたいなな……と呟くイッセーにミュウはぐっと涙を堪える。
「ふ、それで良い。
泣きたきゃ泣けば良い、怖ければ怖がっても良い。
だけど、それを糧に強くなれ」
堪えてみせたミュウに自分なりの進化論を教えたイッセーは、それはそれとしてとばかりに、既にメンチをきっていたハジメと一緒に左右の指をバキバキと鳴らす。
「俺はさっきギルドの受付のお姉さんにこっぴどく振られてな、頗る悲しいんだ」
「は、はぁ?」
「……………運が悪かったんだよ、お前は」
「う゛!?」
そして先程とは更に別次元――隣に居たハジメですら寒気を覚える程の極大の殺意を遠藤に向かって剥き出しにすると、堪らず遠藤はその場で吐いた。
「おえっ!? ごほっ!? (な、なんだコイツは!? な、南雲の仲間だとは思うけど、迷宮に居た魔人族とは比にならない!?)」
人とは思えない殺意に恐怖する遠藤はこれでもかと吐きながら謝り倒したのと、周りがイッセーを止めたので事なきを得たが、この場に居た仲間達以外の者達は理解した。
この南雲ハジメの仲間と思われる謎の男もまたヤバイ奴だと。
続く。
正直に言ってしまえば、ハジメのクラスメート達については元から興味ゼロだったりするイッセーとシア。
畑山愛子という例外はあれど、その他については一般人時代のハジメの過去を聞いていたので良い印象はほぼない。
無いのだが、ハジメが唯一『借りを返したい奴が居る』と言えば拒否する理由もない。
「なんだいお前達は?」
「俺達は今日大変な一日でな――」
「とどのつまり、オレ達は今頗る機嫌が悪いんだ――」
「は? 何を言ってるんだい?」
「わかりませんか? じゃあ簡単に言いましょう――」
「「「運が悪かったんだよ、お前らは」」」
だからこそイッセーとシアはハジメと共に目の前の敵をぶちのめすのだ。
そして……。
「マジか、あの黒髪の子がはっつぁんにいきなしコクったせいでユエっちと修羅場になってる……」
「まさかイッセーじゃなくてハジメさんがああなるなんて……」
リーダーの修羅場を見ることになるイッセーとシアが居たり……。
「あの……」
「? なに?」
「む……」
「貴方さっき私に向けられていた魔人族の魔法から助けてくれたでしょう? だからお礼を……」
「??? 助けた? 俺じゃなくて助けたのははっつぁんだろ」
「勿論南雲君にも助けて貰ったわ。
でもアナタは私を庇って背中に傷が……」
「傷? ああ、こんなの飯食ったら直るし、別に助けたって感じでもないから気にするなよ。
なぁシア?」
「ええ、お礼とか本気で要らないのでできればそれ以上イッセーに近づかないで貰えますかね?」
「……」
ミュウの件もあってイッセーに立とうとする旗をどうにかして事前に消そうと警戒心剥き出しなシアだったり
「おいおい、そんな威嚇すんなよシア? 心配しなくてもこんな若い子には興味ねーぞ俺は?」
「わかってます。
ですけど、何か猛烈に嫌な予感がするんです」
「?」
その瞬間を見てしまった時、かの少女達は『自分ではない自分』を思い出した。
「その目に焼き付けておくんだな」
「これが私とイッセーの真の力です!!」
「「ファイナル・ドラゴン波ァァッーーー!!!」」
魔人族達の襲撃に絶体絶命だったその瞬間に天井を突き破って現れた者達。
一人は髪の色が変わってしまった南雲ハジメ。
そしてもう一人は。
「イッセー! シア!」
「了解です! 合わせますよイッセー!」
「おうよ!」
茶髪の若い男。
左腕に赤い籠手を纏い、ハジメとその仲間達である少女達と共に戦う男。
当然会った事なんてありはしない。
しかしその男が纏う左腕の籠手。
放たれる赤き閃光。
戦うその背中を見てとある少女達の脳裏にそれは呼び覚まされたのだ。
「……。イッセー」
「……イッセー君」
「………いっちー」
存在しない筈の記憶が。
そして自分達が何者であるかを……。
「むっ!? なんですか? お礼とかなら先程そちらの方に必要ないと言いましたよね?」
「意外と律儀なんだな……。
けどシアの言う通り、本当に礼とか要らな――」
「ぼくのこと、本当にわからないのイッセー?」
「は?」
「なっ!?」
「私達も今の今まで忘れていたわ」
「でもね、いっちーを見たその瞬間に全てを思い出したんだ」
「何を言ってるんだキミ達は……? ヤバイ薬にでもヤッてるのか……?」
だからこそ、今のイッセーの全てを独占するこの非人間の少女が憎い。
「もう二度と白音に奪わせない」
「思い出した以上、いっちーは誰にも渡さない」
「今度は私達がアナタを守る番…」
「い、イッセー? この人達、話が通じなさ過ぎて怖いです」
「き、奇遇だなシア、俺もだ……」
ヤバイ電波を受信したどころが汚染されまくってしまったとある少女達から身に覚えが無さすぎる迫られ方をされるイッセーの明日はどこへ……。
「ほら、昔みたいにぼくのおっぱい揉んでも良いんだよ? ぼくはずっとイッセー専用――」
「ふ、ふざけるなです! イッセー専用は私だけなんですぅ!」
「マジで誰と勘違いしてんだこの子達は……?
以上、大嘘予告
補足
絶対に大嘘です。
マジにしたら世界が消し飛ぶレベルでの殺し合いになりかねないので。
あらゆる概念を『壊す』スキルを持つ眼鏡ぼくっ娘。
現実と幻想をコンタクトレンズ感覚で入れ換えるスキルを持つ元気娘。
受けた痛みやダメージを糧にして強くなるスキルを持つ剣士少女。
神程度なら鼻で笑って捻り潰せてしまうかもしれないものを持つ者達なんていないいないしとけ