こんなもんです
力が足りない。
敗北により世界を追い出されたオレは、恐らく別世界の――所謂『もしも』のオレ自身として生まれ変わったオレはとにかく更なる進化をし続ける必要がある。
生きている以上、オレは必ず奴への報復をしなければならない。
そうでなければ、あの時、見捨ててしまえば良かったのにも拘わらず、血なんて繋がってない――もっといえば種族すら違ったただの他人であったこのオレの身代わりになってしまった人達が無意味なものになってしまう。
だからオレは、正直かなり苦手なタイプのガキの召し使いのような真似事も甘んじて受けている。
全ては再起の為に……。
「その為にわざわざ貧弱なお前をそれなりに引き上げたんだ」
「ええ、それを承知でアナタに教えられて来た以上、対価はきちんと払うわ」
「結構。じゃあ始めるぞ」
もう敗北は恐れない。
しかしこの命がある限り、何度でもオレは這い上がる。
何度でも……何 度 で も な !
衝撃的な真実の出会いの後、今一度冷静に前世の記憶を思い出しながら整理をしていたユミエラだったが、やはりどれだけ思い出しても原作ゲームにはエレノーラはともかく、あのイッセーなる執事キャラは存在しないということしかわからない。
無論、自分自身というイレギュラーが存在する以上、何もかもが原作ゲーム通りという訳ではないことくらいは承知していたのだが、それにしてもあのレベルのイレギュラーはユミエラとしても『想定外』だ。
(自分のレベルを任意に隠せるまでの実力を持つエレノーラというだけでもイレギュラーなのに、そのエレノーラを鍛えたとされるあのイッセーとかいう男……。
というか冷静になってみたらイッセーという名前がこの世界では珍しい名前だわ)
予想外のイレギュラーの出現により、すっかり思考回路がエレノーラとイッセーに関する考察のみへと振りきれてしまったユミエラは、授業中であろうと休憩中であろうと、ご飯の時間であろうと、四六時中エレノーラとイッセー――特に原作ゲームには影も形もなかったイッセーの事ばかり考えていた。
黒髪で闇属性の魔力適正があり、しかも入学式の時点でレベルが99だったという盛りに盛った地雷特性を晒したせいで、実に寂しい学生生活を送っているユミエラだが、本人は特に遠巻きから怯える生徒達の視線に晒されても気にしてはいない。
(まさか、私と同じ転生者……?)
そんな寂しい生活を送るユミエラは、原作の記憶には存在すらしない謎の青年に対し、もしかしたら自分とは違う形で現実世界からこの世界に転生した存在なのかもしれないと考える――と同時に、そうだとするなら彼の目的がわからない以上は警戒すべきなのかもしれないとも考える。
(私とは違って原作ゲームの知識がない転生者だとしたら、私を見ても特に反応が無かったと納得もできるわ。
……寧ろ単に具合が悪そうだった気もするのだけど)
原作主人公以外にもその動向に目を光らせなければならないと思えば、ユミエラとしても面倒なと思うのだが、自身の今後の平穏なる人生を思えば、野放しにし続けるという訳にもいかない。
生憎イッセーなる男の主であるエレノーラはユミエラに対して悪意を感じないので、そこを利用して適度な距離感を保ちながら観察をしようと、早速放課後になったら行動に移そうとぼんやりした顔で思うのであった。
「と、いう訳で先日のお礼として今度は私がエレノーラ様をお茶会にご招待したいと思いまして……」
「あら! そういう事なら喜んでお受けさせて頂きますわ!」
顔に似合わず行動を起こすときは早かったりするユミエラは、やはり原作と違って取り巻き等を引き連れている様子が無いエレノーラに対して早速先日のお返しと称して誘いを入れてみる。
すると、一瞬だけきょとんとした顔をしたエレノーラは普通に嬉しそうにはにかみながらユミエラの誘いに乗ってくれた。
『よし、第一段階は完了』と内心思ったユミエラは、極自然な流れを装ってもうひとつの目的の為に口を開く。
「その……。
エレノーラ様の執事の方もできればご一緒にと思うのですけど……」
エレノーラの実力が実際どんなものなのかについても勿論気になるが、それ以上に存在そのものが謎なイッセーの方が比率的に気になっているユミエラは、自分では『よし、流れで連れてきてくれと言えたわ』と思うのだが……。
「ふーん……うちのイッセーも?」
(え、あれ? 急にエレノーラの様子が……?)
イッセーについて言及した途端、それまでニコニコとしていたエレノーラの表情が恐ろしいまでの『無』へと変わり、じっとユミエラを見据える。
「なにか気になる所でもおありなのかしら?」
「え、ええと……」
急にこちらを警戒するような目をするエレノーラに、ユミエラは『し、しくった?』と内心焦りつつも、なんとか軌道修正させようとそれらしい理由を話してみる。
「い、いえ……エレノーラ様の師という立ち位置が実に気になると言いますか、結局先日は一言も会話も出来なかったからといいますか……」
「……………」
イッセーが何者であるかを確定させないと、色々と不安だからと言える訳もないので、必死に捻り出した理由を告げるユミエラをエレノーラは実に湿度高めの目で暫く見つめると、はぁと小さなため息を溢す。
「要するにユミエラさんは、わたくしのイッセーが99であるアナタより強いのかもしれないかどうかの真相が知りたいというわけですね?」
(……うちのイッセーからわたくしのイッセーに何気に変わってるんだけど)
なんか、一介の使用人に向けるにしては色々と重いような気がしてならないと感じたユミエラは、エレノーラの言葉にコクコクと頷く。
「ま、良いでしょう。
アナタの目的がなんとなくわかりましたし。
それなら純粋なお茶会はまた今度にして、ユミエラさんをわたくしのお部屋に招待しますわ」
「あ、ありがとうございます」
「お気を害されたのなら謝りますわ。
イッセーとはかれこれ子供頃からの付き合いでしてね……」
何気にイッセーとは何時からの付き合いなのかという情報を聞きながら、エレノーラへの自室へと招待されることになったユミエラは、ヒルローズ家の娘とユミエラ・ドルクネスが一緒に居るという、実に目立ちまくりな状況も忘れてしまうのだった。
「イッセーは両親に捨てられた孤児でしてね。
偶然賊に襲われた私を、当時から異次元の力を持っていたイッセーがねじ伏せて助けられたのが最初の出会いでしたわ」
(なんかこのままエレノーラをつつけば勝手にイッセーとかいう人の情報が知れるかも)
「という訳で、どうしてもイッセーのことが知りたいので、ユミエラさんを連れて来たの」
「………………………………」
「こ、この前はどうも」
部屋につくまでに散々エレノーラからイッセーとの出会いから今に至るまでの軌跡を聞かされていたユミエラは、本人と再び会うことになったのだが……。
「おい」
「? 何よ?」
「ちょっとこっち来い」
「?」
ぺこりと頭を下げて挨拶をするユミエラを前に3分程無言で固まり続けていたイッセーが、横に居たエレノーラの腕を引っ張って部屋の隅っこまで連れていくと、なにやらヒソヒソとエレノーラに話し始める。
「なんで連れてきた? というかなんだ知りたいって?」
「私の師という立ち位置が気になるみたいよ?」
「だからなんだ。
この前の時点で、ただのレベルが99ってだけの小娘だったってわかったんだからもう用なんてねーんだろうが?」
「そうだけど、同級生でもあるし……無下にもできなかったから」
「知らねーよ! どうしろってんだオレに!? 帰らせろや!?」
(………むっちゃ聞こえてるんだけどな)
なにやら揉めてるようだが、ばっちり聞こえてしまっているユミエラは、今まで散々魔王の生まれ変わりだなんだと腫れ物のように扱われていた事には慣れていたのだが、『99なだけの小娘呼ばわり』される事自体は初の経験であり、向こうは自分に全く興味がなさそうだったとことにそれはそれで複雑というか、若干むっとなってしまう。
「あのー……私が知りたいのは本当にエレノーラ様のお師匠様であるのかどうかなのと、だとするなら今の私よりひょっとしたら普通に強いんじゃないのかなー……という好奇心といいますか」
「……………………………………………」
このまま待ってても延々とエレノーラとヒソヒソやってるだけな気もしたので、揉めている二人に割って入るように声を出したユミエラに、イッセーは凄く嫌そうな――それこそどこかの若かりし頃の白ひげ海賊団の船長のような嫌そうな顔をしていた。
(い、嫌そうな顔だわ。
状況的に私に話しかけられて嫌そうな顔をしたわ。
な、なんなのよ……! 段々ムカついてきたわ……!)
恐れられるという意味で人が寄り付かないのならまだしも、言動からして完全に見下した挙げ句寄ってくるな的な態度をされる事に腹が立ってきたユミエラだが、イッセーはといえばそんなユミエラに喧嘩でも売ってるかのようにエレノーラに耳打ちをする。
「えーと、今イッセーはユミエラさんに対して『好奇心とか本当に勘弁してくれますか? 別に自分は貴女様に欠片の興味もないので』………だ、そうですわ」
「か、欠片の興味もない……」
「…………」
自分では言わず、エレノーラに言わせるのも腹が立つが、何よりも『興味がない』と言われた事にユミエラは、理不尽な気分だ。
「……………………」
「それくらい自分の口で―――はいはい、わかったわ。
ええとですねユミエラさん、今イッセーは『貴女はレベル99 凄い 強い 最強 だから使用人風情なんてそこら辺のゴミと思ってください さようなら』―――と、言ってますわ」
「じ、自分で言えば良いのに何故エレノーラ様に一々代弁させるのですか?」
「イッセーは人見知りを拗らせ過ぎてますのでね。
わたくしか、実家の父と母以外とは殆ど口をききませんの」
(ひ、人見知りを拗らせてるって……私より大分酷いコミュ障ね)
まさか自分を遥かに越えたコミュ障が存在するとは思わなかったユミエラは、然り気無くエレノーラの背中に隠れようとまでしているイッセーにドン引きするのであった。
向こうは単に自分を見下していたばかりか、歯牙にもかけていなかったという事実に、ほんの少しは安心すべきなのか、逆にそれはそれでムカつくべきなのかとモヤモヤさせられるだけだったユミエラだったのだが……。
『うちのイッセーが無礼が過ぎましたので、お詫びをさせてください』
流石に自分の使用人の態度が失礼過ぎたと思ったらしいエレノーラからお詫びをさせて欲しいと、消灯時間後に寮の外で待ち合わせすることになった。
「こんな夜になにをするのでしょうか?」
「どうしてもイッセーの実力だけは知りたいようですので、その実力を見せて差し上げましょうと思ったまでですわ」
「え?」
『少し走りますけど、ユミエラさんなら付いて来られますわね?』と言って、自身と同等か下手をすれば超えられてるかもしれないと驚く程の速度で学園の外へと走るエレノーラに慌ててついていくユミエラ。
(は、速い!? 結構本気なのに追い抜けない……!?)
イッセーがあまりにも気難しすぎて軽く忘れかけていたユミエラは、ここで漸くエレノーラのレベルが本当に自分と同等なのだと理解しながら少し離れた平原まで付いていく。
「ここですわ」
「っ……」
到着した平原ななんの変哲もないただの平原であり、涼しげな顔でエレノーラが指した指の先の方向を見てみると、約100m程先に立つのは、燕尾服を着たイッセーが細身の両刃剣を振るって野良の魔物を切り裂いていた。
「今日は剣の鍛練のようですわね」
「…………」
演舞のような、一見すれば無駄な動きにも感じられる動きで四方八方から襲い掛かって来る魔物達を斬り伏せるイッセーに、ユミエラは悔しいことにちょっと目を奪われてしまい、同時にユミエラはイッセーが魔物呼びの笛を使っていることに驚いた。
「あれは私の修行方法と同じ……」
まさか修行方法に意外な共通点があったことに驚かされたユミエラは、割りとヤバめの竜まで呼び寄せている事に気づく。
「あ、アレは希少種のドラゴン……!?」
「あら、今日はそこそこの『当たり』を呼べたようですわね」
「そこそこ……?」
別にドラゴンを相手に殺されない自信はあるユミエラだが、直後に隣に居たエレノーラが『そこそこの当たり』と呟いたその意味がわからず、思わずどういう意味なのかとエレノーラに視線を向ける。
「見ていればわかりますわ」
そんなユミエラにエレノーラはこのまま黙ってイッセーを見ていればわかると返すので、視線をイッセーに戻すと、咆哮と共に地上に降り立つそこそこのサイズのドラゴンを前に剣を鞘に納めている。
(剣をしまった? 一体何故………っ!?」
武器を使わないという意味なのかと考えるユミエラだが、直後レベル99による視力を持つ彼女の目は、イッセーが首に掛けていたペンダントを外し、軽く息を吹き掛けているのを目撃すると同時にペンダントが妖しい輝きを放つ。
そのままペンダントを天へ捧げるかの様に頭上に掲げて一回転させた瞬間沿って赤い円陣が出現し、イッセーだけを赤き光が照らし、降り注ぐ赤い光がほんの一瞬だけ閃光となって広がることでそれは降臨するのだ。
「あ、アレは……一体……?」
一瞬の閃光と共にイッセーの肉体を覆う禍々しき黒い鎧。
それこそ自身の闇魔法と同等――否、同じ等ではなく、遥かに凌駕する禍々しき闇のオーラにユミエラは戦慄した。
「イッセーのご友人の形見のひとつだそうですわ」
「形見……?」
絶対に原作ゲームではみたことなんてない装備だと直感したユミエラは、エレノーラから話を聞きつつ、黒狼の鎧を纏ったイッセーが一撃でドラゴンをまっぷたつに斬り伏せ――――その肉身を『喰らっている』光景にこの世界に転生して初めて心の底から『恐怖』した。
「え、エレノーラ様、彼は一体なにを……?」
「あの鎧に葬った魔物から出る力を喰わせているらしいですわ。
そうすることであの鎧は際限無く力を増すらしくて」
「…………」
慣れているのか、抑揚無く説明するエレノーラに対しても若干恐怖するユミエラ。
こうして正直見て後悔するレベルの現場を見せられたユミエラは、下手な真似をすれば殺されてしまうと特にイッセーとの差を実感するのであった。
「これでお詫びになりましたか?」
「正直、戦った訳ではないのに初めて徹底的な『挫折』を知った気がしたのと同時に、本当に彼がエレノーラ様の師でもあったと理解しました……」
斬り伏せた数百はくだらない魔物の残骸達を残らず鎧に喰わせる光景が正直夢に出てきそうでトラウマになりかけているユミエラは、若干心が折れたような顔だったという。
終わり
下手をすれば自分があの禍々しい鎧の餌にされるかもしれない。
そう思ってしまったからこそ、その日以降のユミエラは無意識にエレノーラとイッセーのご機嫌取りのような事をするようになっていた。
そしてあまりの衝撃で、普通に原作主人公の動向なぞ忘れ去っていたユミエラは本気で絶叫しかけた。
何故なら……。
「あ、あの! 今日も修行お疲れさまです! よ、よかったら使ってください!」
「……………………………………………」
(な、なにをしてくれちゃってんだ主人公ォォォッ!?!?)
マークから外していた間に、よりにもよって魔王の生まれ変わり呼ばわりされてる自分なんぞよりある意味魔王っぽいイッセーに絡んでいるのだから。
当然、コミュ障拗らせのイッセーはその主人公少女に近寄られてる事に対して猛烈に嫌そうな顔をしているのだが、主人公はぐいぐいと――どうやら同じ生徒と勘違いしてるらしいイッセーに絡みまくる。
「や、ち、違うんです! か、彼女はその庶民出の生徒で、恐らく悪気は無いんだとは思います!」
下手をしたらバラバラに切り刻まれて犬の餌コースになってしまうと危惧したユミエラは、内心なんで自分が能天気な主人公をフォローしなくてはならないのだろうかという疑問を圧し殺して、イッセーへのご機嫌取りをする。
「アリシア・エンライトねぇ? 少しお話をするべきですねぇ……」
(と思ったら寧ろエレノーラの方の地雷踏んでたぞ主人公ぉ!」
しかし寧ろキレていたのはエレノーラの方であり、エレノーラが本気になれば今の主人公なんて魚の餌になってしまうのは明白だったので、これまたユミエラは必死に悪気はないと思うと説得をする。
こうして下手な好奇心のせいで毎日が胃痛の生活になってしまったユミエラの密かな苦労を尻目に、主人公ことアリシア・エンライトはイッセーが夜になると外で毎日修行をしているという情報を手に入れてしまい、毎晩ストーカーのように覗いてくるようになる。
「はぁ……銀狼の騎士様……」
「ど、どうしたアリシア?」
「最近変だぞ? 上の空というか……」
「それにその絵は一体……?」
友人達(原作攻略対象)が完全に意識からも視界からも消え失せるという形で……。
「わ、私が言うことではありませんが、あのアリシアさんという方とは絶対に関わらない方が良いです! 彼女は殿下と仲が良いので、下手に関わるとかなり面倒なことになります!」
「そこに関しては私も賛成よイッセー。
どうも彼女はアナタのもう一人の友人さんの形見の力に見惚れたようだし、正直ユミエラさんが止めなければ今すぐ『平和的な対談』をしたいもの」
「関わってないし、オレにどうしろと……」
もう一人の友人の形見の力である銀狼の鎧の修行を見られたせいで、非常に厄介な事になってしまったとユミエラはギリギリと痛む胃にますます悩まされるのだ。
「すいません、あの銀色の鎧を纏う方と一緒に居るところを見たのですが……。
出来ればどんな方なのか教えて欲しいのです!」
「ふ、ふふふ、初めてですよ。
このわたくしをここまでコケにしてくれはおバカさんは……」
「お、おバカって。
わ、私はただあの銀狼の騎士様とお話したくて――」
「っ……お、お腹が……い、痛いぃ……!」
「…………………」
「あ、アナタが変にフラグ体質のせいでこんなことに! って、『そんなことオレが知るか』って顔してますよね!? そんなんだから私に皺寄せが……! うぅ……!」
「………………。なんかすまん」
「へ? え、あ、い、今私に謝ったんですか?」
「……まあ」
「………………………………はっ!? だ、な、い、一回謝られたところで帳消しになると思ったら大間違いなんですけど!? そ、そんな怒られた仔犬みたいな目されても誤魔化され―――あうあう」
「…………???」
終わり
補足
執事シリーズにおける三馬鹿ぽじは匙くんと木場きゅんとイッセーです。
そしてこの二人は進化の結果何故か魔戒騎士化してました。