色々なIF集   作:超人類DX

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つづきというか、一旦削除して修正しました


悪役令嬢さんは知らず知らずの内に沼にはまる

 

 

 弱いから敗けた。

 

 弱いから失った。

 

 弱いから奪い取られた。

 

 弱いから生きることも許されない。

 

 敗けて失った俺が今更こんな所で恨み言を吐き続けた所で全てを取り戻せる訳ではない。

 

 どんな理由があるにせよ勝てば官軍で敗ければ賊軍なのだ。

 

 そして俺は敗けた。敗けて追い出された。

 

 それだけが事実。それが現実。

 

 

 こんなどことも知らぬ世界に追いやられて、むざむざと生き恥を晒し続けているのも全ては俺が敗けただけだ。

 

 

 敗けた俺が、失敗した俺が今更御託を並べても、ただの負け犬と遠吠えにもなりはしないことなんて解りきっている。

 だけど――それでも俺は生きている以上は必ず這い戻ると決めている。

 

 そうでなければ、こんな俺を庇って散っていった人達の死が無駄死になってしまう。

 何がなんでも這い戻って、全ての清算を果たすことこそが俺の―――そしてこんな俺に託して死んでしまった人達の生きた証になる。

 

 

 俺は確かに敗けた。惨めに敗けた。

 だが、俺の精神はまだ殺されてはない。

 昔誰かに聞いた言葉に、喧嘩に敗けた奴が敗者になるのではなく、最後の最後まで『張り続けられなかった奴』が敗けるという言葉通り、俺はまだ『張る』ことを諦めた訳じゃない。

 

 生きている限り、俺は何度でも這い戻る。

 俺を殺した気になっている奴等の喉元を必ず喰いちぎってやるその日まで。

 

 

 

 俺は張り続けてやる。

 

 

 

 

 

 敗北し、身を砕かれ、世界を追われた青年がその魂と共に異世界へと流れ着いた。

 そして数年をあまり思い出したくない生き方で過ごした後に、自分が何者であるのかを全て思い出した事で青年の精神は再臨を果たした。

 

 当然、この世界の全てに対してどうなろうとも興味がない青年はひたすらに『這い戻る』だけを考える。

 この世界の肉親達と死に別れることで全てを思い出した青年にとってこの世界のことなぞどうでも良い。

 

 所謂前世の記憶を取り戻したせいもあり、あまり金髪の女に対しては良い印象が無かったりするというのに、エレノーラ・ヒルローズの執事をしているのは、ただ這い戻る為。

 

 世間知らずの小娘があまりにもしつこくて五月蝿いので、殺す勢いで彼女のフィジカルを引き上げたのも、全ては這い戻る為の布石。

 

 ただそれだけの事。

 

 

 

 

 私以外の――それも原作にすら存在しないイレギュラーの存在は、私の今後にとってどうなるのか。

 私の障害となるのか、それとも助けになるのか。

 

 正直今のところどちらとも言えないので、下手な真似は控えるべきだろうというのが私の考えなのだけど、私としてはこの世界を原作としたゲームの主人公であるアリシア・エンライトも最近そうかもしれないという疑念がある。

 

 

 というのも、アリシアとはあまり話をしたわけではないのだが、初めて目が合った時も何故か睨むような顔をされたり、今さっきも学園の食堂でボッチ飯中だった私の前に座りだしたかと思えば、唐突に魔王の生まれ変わりなのかと問われたりと、違和感があるのだ。

 

 人の多い食堂でそんな事を唐突に聞いてこられたせいで、ただでさえ他の生徒達や教師達に敬遠されまくりな私はますます孤立してしまう事になるだろう――という話はさておき、エレノーラの背景にイッセーとかいうイレギュラーの存在があった以上、確かめておいて損は無いだろう。

 

 そう思った私は早速気配を消してアリシアの監視をしてみたのだが……。

 

 

(普通に良い子だわ……)

 

 

 原作ゲームの通り、純粋で明るい性格で誰かの目が無いところで性格が変わるでもなく、動物にも優しい……。

 つまり原作ほぼそのままなのだ――私を見る目が妙に怯えのそれ以外は。

 今だって気配を消しながら見ている私の目には猫と戯れてるアリシアという、実にほんわかとした光景なのだ。

 

 

「……」

 

 

 やっぱりアリシアは別に転生者ではないのか。

 

 

「はぁ、今日も見つけられなかったな……」

 

 

 そんな事を思い始めていた私は、これ以上の監視は止めて切り上げようとしたせいで、アリシアの独り言を聞き逃していた。

 

 

「あ、どうしたの?」

 

「?」

 

 

 そして、それまで楽しそうにしていたアリシアに懐いていた白い猫が唐突にアリシアから離れて学園内にある森の奥へと歩き始めたのだ。

 それだけなら猫の気まぐれで済む話なのだが、不可思議なことにその白い猫はチラチラとアリシアと―――

 

 

(!? あ、あの猫、まさか私に気づいてるの?)

 

 

 監視の為に木の上に立っていた私の方を確実に見ながら、まるで『ついて来い』とばかりに森の奥へと歩いて行くのだ。

 

 

 

「ついて来てってことなのかな?」

 

 

 

 そんな白い猫になにかを感じたのだろう。

 アリシアは訝しげな顔をしながらもその白い猫の後をついて森へと入るので、私も気配を消しながらその後を追う。

 

 

 

「どこに行くの?」

 

「にゃー」

 

(ま、間違いない。

あの猫ちゃん、私がついてきてるかを確認しながら歩いてる……)

 

 

 完璧に気配を絶った私の存在に気づいているその白い猫の事が気になるというのもある私は、アリシアに気取られぬよう更に森の奥へと進むアリシアの後を歩く。

 

 

 そして――

 

 

「……ぁ」

 

「っ!?」

 

 

 

 恐らく私とアリシアはほぼ同時にそれを見た。

 

 

 

「にゃーん♪」

 

「あ? ……なんだまたお前か。

この世界にチュールなんて便利なもんはねーし、オメーに食わせる餌なんぞ無い―――いや、干し肉ならあるからそれで我慢しやがれ」

 

「にゃー♪」

 

 

 

 エレノーラの執事にて、完全なるイレギュラーことイッセーを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エレノーラに呼ばれるまでは基本的にトレーニングをし続けるイッセーは、基本的に何故か猫に懐かれやすく、どうやらその体質は世界が違っても同じだった。

 

 誰も来なさそうな場所を選んでトレーニングをしていると、わらわらと野良猫が現れて纏わりついて来るということはよくある話だし、本人としても慣れてしまっているので特に思うことはない。

 

 しかしその野良猫が、よくも知らない小娘とその後ろから気配を消してる黒髪女を連れてきたともなれば話は大分変わるわけで。

 

 

「…………………………………………」

 

 

 

 アリシアとその後ろからどうしたら良いのかわからないというような雰囲気出して隠れているユミエラの存在を認識したその瞬間、イッセーの表情は石像のように固まってしまう。

 

 

(なん、だ? この小娘は? というかその後ろに居るのはレベル99だかなんだかの黒髪小娘じゃねーか。

なんだこの状況?)

 

 

 自分を見て驚きに目を見開いているイッセーからすれば名前すら知らないピンク髪の女子生徒と、エレノーラ経由で顔と名前程度は記憶の片隅に放置していたユミエラ・ドルクネスが何故こんな場所に来ていると困惑するイッセーは、褒めて撫でろと言わんばかりに足にすり寄る白い野良猫に視線を落とすと、唐突に驚愕顔をしていたアリシアの表情がイッセー的には引くほど輝く笑顔へと変化する。

 

 

「銀狼の騎士さん!」

 

「「………は?」」

 

 

 

 イッセーに対してそう呼ぶアリシアにイッセーと気配を隠して見ていたユミエラの声が重なる。

 

 

「わ、私! 前にアナタに助けて頂いたんです! お、覚えてますか?」

 

「………………………………………」

 

(た、助けた? あまり彼を知らない私ですら、彼がコミュ障拗らせ男だとわかるのに、その彼がアリシアを助けたですって?)

 

 

 顔色が段々悪くなるイッセーに気づいていないのか、興奮した面持ちで語るアリシアに気配を殺していたユミエラは驚く。

 

 

「そ、そのお礼をずっと言いたくてアナタを探してて……でも、でもやっと会えました……!」

 

「…………っっ!?!?」

 

 

 そんな状況で何も知らないアリシアは実に嬉しそうにはにかみながらイッセーに駆け寄ると、その手を取って包むように握る。

 その瞬間イッセーの全身がゾワゾワと総毛立ち、二日酔いより酷い顔色となる。

 

 

「私! アリシアと言います! そ、その……騎士さんのお名前を教えて欲しいです……」

 

「うぷっ……!?」

 

 

 いきなり見知らぬ小娘が出てきたかと思ったら、これまた記憶に全くないことで礼を言われて触れてきたという、コミュ障にしてみれば難易度NIGHTMAREな状況に、リバース寸前と化しているイッセー。

 このままではアリシアの顔面目掛けてどこぞのゲロインみたいにリバースしてしまう――という状況の中、流石にこのままではマズイと察したユミエラが気配を隠すのを止めて声を張り上げた。

 

 

「あ、イッセーさーん、エレノーラ様が探してましたよー?(棒)」

 

 

 棒読みも棒読みな下手演技と共に姿を晒したユミエラに、全く気づいてなかったアリシアはイッセーから手を離しつつギョッとした顔で振り向く。

 

 

「ユ、ユミエラさん……!?」

 

 

 アリシア目線だと全身真っ黒なユミエラがまさにいきなり現れたとの認識なのだからこの反応も仕方ない。

 しかしユミエラはそんな反応をされても形振り構ってられず、口許を抑えて背中蹲るイッセーを、今はとにかくアリシアから引き離そうと、咄嗟に出てきた嘘を並べる。

 

 

「ご、ごきげんようアリシアさん。

ええと、そちらの方はエレノーラ様の執事でして、今しがたエレノーラ様から彼を連れてくるようにと頼まれたものでして……」

 

「エレノーラさんの執事……?」

 

「うぶっ……!?」

 

 

 イッセーの名前すら知らず、なんならエレノーラの存在は知っているが、その執事とまでは知らなかったらしいアリシアは驚きに目を見開いている。

 

 

 

「そ、そういう事ですので彼はこのまま連れて行かせてもらいますので……」

 

「………」

 

 

 何か言いたげな目を向けてくるイッセーの視線がチクチクと刺さるユミエラが、そそくさとグロッキー状態のイッセーに肩を貸して立たせる。

 

 それがアリシアの目にどう映ったのかは不明だが、自分は名前も彼が何をしているのかも知らなかったのに、ユミエラは知っていた――――――という事実にモヤっとでもしたのか、キッとユミエラを睨んだ。

 

 

「ユミエラさんはその方とどんな関係なんですか?」

 

「は?」

 

 

 若干低めの声にジトっとした目をセットに質問されたユミエラは、なんだその質問はと思いつつ自分の肩を借りながらリバース寸前のイッセーを見て答えに詰まった。

 

 

 

(どんなって……どんな関係よ私とこの人って? 同級生の執事ってだけで別になんの関係でもないし)

 

 

 事実ユミエラとイッセーの関係なんてただの顔見知り以下で、まともな会話なんて一度もした試しもない。

 なのでそっくりそのまま正直に言えば良い話なのだが……。

 

 

「じー………」

 

(私の勘が言ってるわ。

事実を言っても絶対に信じちゃくれないと……)

 

 

 めんどくさい。かなりめんどくさいとユミエラはアリシアを見て思った。

 そもそもこっちだってアンタが言ってた銀狼の騎士とやらが何なのか気になるのだ――と内心毒づく。

 

 

 

(黒狼の騎士とかなら私も見たからわかるけど、銀狼ってなんなんのよ? 見間違えたのかしら?)

 

(ユミエラさんはこの方をイッセーさんと呼んでいた。

しかもエレノーラさんの執事だとも……うう、なんでそんなに知ってるの?)

 

(き、気持ち悪い、頭ん中がぐちゃぐちゃして……)

 

 

  

 気づけば変な修羅場となっている中、唐突にその妙な空気は終わりを告げる。

 

 

「ごぼぇ!?」

 

「「…………へ?」」

 

 

 

 耐えきれなくなったイッセーが、引くほど大量の血を口からぶちまけるという、ホラー展開によって。

 

 

「きゃあ!?」

「な、なっ、ななな!? い、イッセーさん!?」

 

 

 夥しい量の血を地面にぶちまけたイッセーに、アリシアとユミエラは互いの探り合いを忘れてパニックになる。

 しかし当の本人はといえば、肩を貸してくれたユミエラから然り気無く離れつつ軽く咳き込みながら舌打ちをするだけで、あまり重傷そうには見えない。

 

 

「げほ、げほ――チッ、久々に胃かなんかに穴でも開いたか?」

 

「だ、大丈夫ですか!? す、すぐに医者を!」

 

「いやまずは回復魔法で仮の治療をすべきです!」

 

 

 イッセーからすれば緊張が極限まで高まれば何時もこうなるし、暫く放置すれば勝手に治るので慣れたものなのだが、初見のユミエラとアリシアはそうではないのでパニックになりながら治療をしようと近寄ってくる訳で。

 

 

「寄るな!!!」

 

「「っ!?」」

 

 

 そんな少女二人に口に残る血を拭いながらイッセーは冷たく言い放つ。

 

 

「放っておけ。

暫く寝てれば勝手に治る」

 

「そ、そんなわけないでしょう!? あんな量の血を吐いておいて……」

 

「そ、そうですよ! 私に出きることがあるならさせてください!」

 

 

 

 勝手に治る訳がないと、それでも近寄ってくるユミエラとアリシアにイッセーは懐かない野良犬のようなギラギラとした目と殺意を二人にぶつけて硬直させる。

 

 

「お前ら二人に出来る事があるとするなら、今すぐ俺の視界から消え失せろ」

 

「「ぅ………」」

 

「それと俺の後をついて回るんじゃねぇ。

ただの他人ごときが」

 

「「……」」

 

 

 そう言って勝手に肩に乗って来た白猫と共に去っていくイッセーをユミエラとアリシアは追う事はできずに、ただその背中を見つめるのであった。

 

 

「げほげほ、あー……このアホ猫。

オメーがよくわかんねー小娘なんぞ連れてくるからこうなったってのに肩なんぞ乗りやがって」

 

「にゃう……」

 

「チッ、まあオメーに言ってもしゃーねーか」

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ、この虚しい気持ちは。

 

 アリシアはともかくとして、自分まで拒否された事に対してちょっと傷つきつつも納得できないモヤモヤした気持ちだけが残ったユミエラは、泣きそうな顔で俯くアリシアに対して初めて皮肉ゼロで同情した。

 

 恐らくアリシアは、その時の事なんてなにひとつ覚えてないであろうイッセーに以前何かの拍子で――多分結果的な意味で助けられたのだろう。

 

 

 

(まあ確かに、強さだけで言ったら私と同等以上だからね……)

 

 

 それなのにやっと再会できたかと思えばそいつは極度のコミュ障な挙げ句、『近寄るな』と拒絶されてしまえばメンタルがやられてもおかしくはない。

 現に自分も結構傷ついているのだから。

 

 

「あ、あの……なんといえば良いのか、あまりお気になさらないほうが良いですよ。

エレノーラ様から彼の事は少し聞いてまして、彼は極度の人見知りと照れ屋なせいでつい相手を突き放す言動になってしまうと……」

 

「…………」

 

 

 同情心からついそんな事を言ってしまうユミエラにアリシアは俯きながら首を横に振る。

 

 

「きっと迷惑だったんです。

急に来て、勝手に舞い上がってた私に……」

 

 

 そう気丈に笑おうとするアリシアだが、どう見ても無理して笑おうとしているのが丸わかりだった。

 

 

 

「嫌われちゃったなぁ……」

 

「………」

 

 

 余程イッセーに対する印象というか理想が高かったのか、明確に拒絶された事へのショックが大きい様子のアリシアは乾いた声で笑う。

 

 

「あ、あのー……つかぬ所をお聞きしますけど、アリシアさんはイッセーさんをどう思っていたのですか?」

 

 

 実態はただのチンピラコミュ障執事だったイッセーに対する印象を訊ねたユミエラ。

 すると『あははは』と痛々しい笑みで笑っていたアリシアは口を開く。

 

 

「なんだか寂しそうな人……かな」

 

「…………」

 

 

 

 エレノーラがその場にいたら、むっとなる程度には的を射てる発言にユミエラも『あー……そういう解釈も出来なくはないかも』と納得しつつ耳を傾ける。

 

 

「でも銀色に輝く鎧を光と共に纏って、私に襲いかかってきた魔物の群れを倒す姿は――か、かっこよかったです……」

 

「………うそん」

 

 

 だが、その内頬を染めてもじもじとしながらの発言に対してはユミエラは思った。

 

 

 

(お、乙女ゲーの世界じゃなくていつからギャルゲーの世界になったのよ……)

 

 

 なんで乙女ゲーの原作主人公の好感度をカンストさせてるんじゃい……と。

 

 

「ユミエラさんこそ、イッセーさんとは何時お知り合いに?」

 

「私はただエレノーラ様からお茶会に誘われた時に、知り合っただけで……」

 

「……………。好きじゃないんですか?」

 

「は? い、いやいや……何をバカな、そんな筈―――――――」

 

「?」

 

「な、無い無い。無いですよホント……」

 

「………ふーん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソが」

 

「ユミエラさんとアリシア・エンライトさんがねぇ……?」

 

「なんのつもりか知らないが、頼んでもないのに寄ってきやがった。

クソ、いっそ頭かち割って記憶を消してやりてぇ……」

 

「ユミエラさんはともかく、私としてはそのアリシアさんとやらとはお話してみたいわ。

文字通り『なんのつもりなのか』とね」

 

「まったくだ、あの小娘……どこかで俺のトレーニングを盗み見てたらしい。

ちくしょう、俺の落ち度だ……」

 

「確かにアナタの二人目のご友人から託された銀牙騎士の鎧姿を見られてしまったのは誤算だわ。

その後の態度含めてね……」

 

 

終わり

 

 

 

 

オマケ、ちょっとだけな未来

 

 

 

 

 

 

 

人の中にある『地雷』というのは解らないものである。

 

 解らないからこそ、知らず知らずの内に『踏んで』しまうものなのかもしれない――と気付いた時にはまさに時既に遅しだろう。

 

 原作ゲームには絶対に存在しない人間。

 そして原作ゲームには絶対に存在しない力。

 そのどちらの要素を持つからこそ、私はひとつの結論に至ってしまった訳で。

 

 だけどまさか、その言葉が彼に対する『地雷』になるなんて思うわけがない。

 だって……。

 

 

 

 

 

「くっくっくっ……! クククク! フッハハハハハハハハハハァ!!!!!」

 

 

 彼は、私のような存在によってその人生を壊された側だったなんて――思う訳なんてないのだから。

 

 

「まさかこんな所で、死ぬほど腹が立つクサレ単語を耳に入れる事になるとは俺も驚きだが――そうだな、よーく考えてみればテメーがその手の人間だって考えれば説明も付く。

だってそうだろう? 思えばテメーはエレノーラよりもどういう訳かこの俺の存在を気にしていたもんなァ?」

 

 

 普段は他人と喋る事すらエレノーラを介さないと喋らない男が初めて見せる、手負いの獣のような荒々しい殺意と、嘘だろと思う程に荒すぎる言葉遣い。

 

 

「つくづく俺という奴は、テメー等と縁があるらしい」

 

 

 イッセーという――よくよく考えたら私の前世であった日本人に近い名を持つ男は、『転生者』という言葉に呼応するかのように、その殺意を剥き出しにした。

 

 

「俺がなんなのかを知りたいと言ったな? 良いだろう、教えてやるよ。

俺の名を聞いただけでその場で血反吐を吐き散らかす程度にきちんと教えてやるよォ!!!」

 

 

 焦げ茶色の頭髪が真っ黒に染まり、アメジスト色の瞳となったイッセーという男の地雷はあまりにも特大で、あまりにも絶望的で――

 

 

「無神臓verセラフォルー……!」

 

 

 あまりにも冷たい。

 

 

 こうしてそれとなくイッセーと二人だけになれそうなタイミングを見計らったユミエラは無口の極みであったイッセーに対して世間話感覚で『前世』だの『転生』などと云った言葉を出してみた訳だが……。

 

 

「チッ、本当にただフィジカルだけ上げただけの木偶の坊だとはな。

殺しの技術(テク)が話にもなりゃしない」

 

「………………………………嗤いながら私の腕をひきちぎっておきながら良くそんな台詞が吐けますね」

 

「闇魔法とやらで再生できるんだろう? そのお陰で簡単にはくたばらないサンドバッグなれるんだからなテメーは」

 

 

 正直、その時の自分を止められるものなら全力で止めたいと思う程度には現在のユミエラは後悔の真っ只中だった。

 

 イッセーの立ち位置は確かに自分のような転生者に近い立場なのかもしれないが、そうなった原因がまさにその転生者だったので、転生者という存在そのものを嫌悪していると聞いた時は』『あ、オワタ』と本気で死を覚悟させられた。

 

 だがイッセーは紛いなりにもレベル99という有用性を利用するつもりなのか、殺すのではなく自身の鍛練の為の相手にしろと言い出したのだ。

 

 大抵の致命傷なら闇魔法で再生可能だということを知ってからは、その攻撃性が増しており、イッセーは黒い狼の鎧の他にこの世界とセオリーとは全く違う魔力を扱えるらしく、一瞬で全身を凍らされて凍死寸前になるわ、対象を『消滅』させる魔力で手足を簡単に消し飛ばされるわ、チンピラの喧嘩のような暴力で半殺しにされるわ等々……。

 

 レベル99である自分が完全に虫けら扱いされるイッセーの力は明らかに99以上だった。

 

 

「チッ、転生者なんて言うもんだから、もっと理不尽な力を持ってると思ってたんだが、適当に鍛えたエレノーラより弱いとはな」

 

「べ、別に私は神から力を与えられてから転生した訳じゃないし……」

 

 

 挙げ句の果てに勝手に落胆されるし、エレノーラより弱いとハッキリ言われてしまったユミエラのメンタルはズタボロなのであった。

 

 地雷を踏んだ結果、体の良いサンドバッグ扱いにされてしまったユミエラだが、逆を言えばイッセーの持つ未知の力に触れられる機会が増えたとも言える――――と、必死になってポジティブにものは考えている。

 事実イッセーの持つ力はどの力もこの世界の力とは別物であり、指摘された通りユミエラは魔物相手に戦ってきた事はあれど、対人の戦闘技術はステータスの暴力でなんとかするだけの素人だ。

 

 

「私は幼少の頃からイッセーに相手を『殺す術』を徹底的に叩き込まれましたから。

確かにユミエラさんの場合、同等の力を持つ人間との戦闘経験が不足しているように感じます」

 

「……だって他に居なかったし」

 

 

 現にイッセーから徹底的に殺す技術を叩き込まれたエレノーラとの模擬戦では、お茶飲んで駄弁ってるだけ(ユミエラ目線)の貴族のお嬢様とは思えない動きでユミエラを降し、圧倒的に対人経験が足りてないと指摘されてしまった。

 

 

「幸いわたくしが相手になれますし、その辺の経験は今からでも培える筈ですわ。

多分今のユミエラさんではイッセーを相手にしても一方的に叩きのめされるだけで勉強にはならないかと思いますし」

 

「…………はい」

 

 

 何が裏ボスキャラだ。

 エレノーラとイッセーの方がよほど裏ボスキャラじゃないかと、若干自信を喪いつつあるユミエラの明日はどこに行くかはまだ誰もわからない。

 

 

「でも私、完全にイッセーさんに嫌われたみたいです……」

 

「あまり気にしなくて良いですわ。

基本的にイッセーは他人嫌いですもの」

 

 

 嫌われてるどころか殺意持たれている――と、恐らくは事情を知らないであろうエレノーラに言うわけにもいかずに、マイルドな表現をするユミエラにエレノーラはこれまでの付き合いで覚えがあるのか、苦笑いを浮かべる。

 

 

「エレノーラさんはよく彼を使用人として傍に置けましたね。

絶対あの人、誰の命令も受け付けないってタイプだと思うんですが……」

 

「お察しの通り、イッセーは私の命令なぞほぼ聞きませんわ。

でも、どこか律儀といいますか、イッセー曰く『貸しも借りも作りたくもねぇが、オメーには借りがある』なんて素直じゃない事も言うのですよ?」

 

「…………」

 

 

 地位や名声を文字通り力で捩じ伏せる事が出来るくせに、エレノーラの執事をしているイッセーをこんな調子で少しずつ知っていくユミエラだが、自分が転生者である事実を知られている以上、死ぬまで彼は自分には敵意を向け続けるだろう。

 

 

(言わなければよかった……)

 

 

 だからこそユミエラは安易に言ってしまった事を後悔するのだ。

 そんな後悔を胸に時は流れ――――

 

 

 

 

 

「エレノーラさん! イッセーさんはどこですか!?」

 

「あ?」

 

(アリシアのおバカ! なんで今聞くのよ!?)

 

 

 完全にほったらかしにしていた主人公がここに来て事態をややこしくしてくれた事に、ユミエラの胃は大変な事になるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは絵本で読んだ登場人物がそっくりそのまま現れた―――と思った。

 

 二振りの剣を手に降臨する、白銀の騎士。

 

学園に入学する少し前、故郷近くの森で魔物に襲われた時に自分を助けてくれた白銀の騎士と全く同じ。

 

 庶民である自分が稀少の魔力を持っていたがゆえに、慣れない学生生活を送る内に記憶の奥底への追いやられた想い出が、とある夜を境に再び呼び起こされた少女は、その白銀の鎧の下が年の変わらぬ青年であった事を知り、そして同学年の女子生徒の使用人であることまで突き止めてしまった。

 

 

 そして現在、少女は彼の主であろう同学年の女子生徒の前に立って言ってしまうのだ。

 彼に会わせてくれと……。

 

 

「貴女は確か、殿下達とよく一緒に居るアリシア・エンライトさんでしたわね?」

 

「はい」

 

「そのアリシアさんが一体全体どんな理由があってうちの使用人に会いたいのか疑問しかございませんが?」

 

「あ、会いたいからです。

他に理由なんてありません」

 

「おぐ……お、お腹が痛い……」

 

 

 腹が立つくらいまっすぐな目で、ひきつる笑みを浮かべてるエレノーラを見据えるアリシアに、傍で見ていたユミエラはギリギリと痛む胃に苛まれていた。

 

 

(ほ、本人は知った事じゃないと暢気にしてる癖に、なんで私がこんな胃の痛い思いまでしないといけないのよ……!)

 

 

 それもこれも全部自分の知らぬ所で、アリシアに何かを見られていたイッセーのせいだと思うと腹が立って仕方ない。

 あんな人格破綻者もいいとこな男になんでこうも妙なフラグばかり立つのかと、この場に居ないイッセーへの恨み節が次から次へと湧き水のように湧いてくるユミエラの苦悩も知らずに我らが原作主人公位置のアリシアは、イッセーに会わせてくれとブルドーザーのように突っ込んで来るせいで、ユミエラの胃はストレスマッハ状態のイッセーとお揃いレベルでオカリナだったとさ。

 

 

 

終了




補足


コミュ障チンピラ執事くんの存在により、皮肉にもふつーに仲良くなりかける主人公さんと裏ボスさんなのだった
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