感想でやっと元ネタを思い出せたので
拝啓、お父さんとお母さん。
お二人がオレを奴等から庇って死んでしまってから14年、オレは色々な事がありました。
子供がなんの準備も知識も教養も無く世間に放り出されたら、その日のご飯にありつけることすら難しいということ。
意外と世の中ってのは『見てみぬフリ』ばかりだってこと。
ほんと、生きる為には文字通りに『なんでも』やらなければ今日までとてもじゃないけど生きることなんてできませんでした。
でもオレは謝らないといけない。
お父さんとお母さんを殺したあのクズ野郎を殺して仇を討てなかったから。
きっと二人の事だから、そんな事をオレに望むことなんてしなかったでしょう。
でもオレはどうしても許せなかった。
だから強くなったつもりだったんだ。
けれどオレは結局敗けちゃったよ。
アイツ、殺してやりたいくらい嫌いだけど、むちゃくちゃなくらい強くてさ……。
うん、でもこれでお父さんとお母さんの所に逝けると思っちゃったからかな。
張り続けることを辞めてしまったからなのかな……。
続きは二人の所で話すよ。
だからもう少しだけ待っててくれないか?
何故か知らないんだけど、オレはどうやらまだ死んでないみたいだからさ……。
何故か死ぬことは無く、異世界で目を覚ました少年ことイッセーは、それこそ『バ○オみてーな世界と化した世界』にて、おつまみ感覚で襲い掛かるゾンビ達を蹴散らしながら、生きている以上は必ず帰るという意思の下に、生存者である三人の姉弟と共に、それこそ宛のない放浪の散歩をしていた。
「なん……だと……」
『なん……だと……』
ゾンビを素手で蹴散らし、なんなら手からビームまで出せる異世界人という、頭のイカれた話を割りとすんなりと信じてくれたという理由もあって、ゾンビから逃げることしか出来ない無力な三人姉弟を守りながら放浪をするイッセーと、そのイッセーに宿るドラゴンは、今現在、人生で一番の驚愕をしていた。
それは既に死の街と化していた街を徘徊するゾンビ達を文字通りの屍にしまくって良い汗をかいた時まで遡る。
食料関係や日用品の類を手に入れようと、既に打ち捨てられているお店やらを回っていた際、イッセーは三人姉弟と中では一番年が近いであろう少女に当然、書店に連れ込まれ、とある本を差し出されたのだ。
それはイッセーが生きた元の世界にも存在していた所謂『ライトノベル』というものであるのだが、その表紙と絵に誰よりもイッセーと――そして相棒のドラゴンは驚愕したのだ。
「こ、この表紙の赤髪の女の子、リアス・グレモリーにそっくりだ」
『そっくりどころか名前すらこの本の主人公共々お前とまったく同じだぞ』
「お、おう。
今ちょっと流しで読んでみた感じ、流石にオレ達が生きてきた過程とこよ物語の内容は結構違うがな。
というかこの本の主人公――オレと同じ名前の主人公がリアス・グレモリーの眷属になるのかよ……?」
『らしいな。
しかも理由が割りとアレだな……』
その内容こそ違えど、登場人物の名前やら挿し絵の描写からなにまで、あまりにも覚えがあるのだ。
一体全体どうなっているのかと、自分をここまで連れてきてこの本を読ませてきた少女に訊ねるという意味合いの視線を向けると、少女はぽつりと話し始め――イッセーとドライグは愕然とした。
「つ、つまり……お、オレがこの『ハイスクールD×D』ってラノベの主人公だってのかよ……?」
『イッセーの名を聞いた時、妙にイッセーの顔を確認するように眺めていたのは、お前はこの本の存在を知っていたからだったのか』
「は、はい。
切っ掛けは偶々夜更かししてテレビを見た時にやっていたアニメでしたけど……」
「え!? あ、アニメ化もされてるのか!? ………うおおっ!? た、確かに本の帯に『祝・アニメ化』って書いてあるぞ! ど、どんな声してんだろアニメのオレ(仮)は……?」
「今のイッセーさん声そのままでした……ドライグさんも」
『なんと』
自分はこの世界では創作物の存在であり、しかもアニメ化までされていたという事実にイッセーはまたしても驚愕する。
「けどオレは悪魔の眷属ではない。
確かにこの本のオレっぽい奴と同じく赤龍帝ではあるけど……」
『ああ、それになんだか妙に気に食わんぞ……。
本の描写とはいえ、お前がこんな小娘共に鼻の下を伸ばすなぞ……」
「当時余裕なんて全く無かったから気付いてなかったけど、思い返したら確かにこの挿し絵通りの美人さんだったとは思うぞ。
それによ、よくよく考えたら、あの人達も可哀想な立場だったっぽいし」
『相変わらず甘い奴だ。
お前はそいつらに殺されかけたことだってあったのだぞ?』
「いやでもあの野郎に無理矢理従わされてたし、本人達もオレが逃げられるようにこっそり加減してくれてたじゃん。
でもそうか、なるほどな……読んでみてわかったがよ、どうやらやっぱりあのクズ野郎は存在すらしなかったらしいぞ。
で、奴が引っ掻き回したことで今のオレになっちまったと……」
『うむ、それは間違いないな。
しかしお前が悪魔の眷属になる物語ねぇ……』
「違和感はスゴいよな。
あはは見ろよ、ハーレム王にオレはなる!! だってよ?」
だがどこを読んでも『奴』の描写がなく、それによりイッセーとドライグはこの本の世界観と自分が生きた世界での人生の違いを理解する。
「ありがとな、教えてくれてよ。衝撃過ぎる話ではあるけどさ」
「い、いえ。
でもこれで確信できました。やっぱりアナタはイッセーさんなんだって……!」
「ま、まあキミが思うと思うような一誠ではないけどね? 悪魔ちゃうし……あははは」
妙にキラキラした目をしてくる少女にイッセーは居心地が悪そうに目を逸らしてから笑いをして誤魔化す。
「そ、それでそのぅ……参考までにお聞きしたいといいますか。
こ、恋人なんか居ちゃったりなんてするんですか?」
「え? ……………いや居ないけど。
ぬ!? ま、まさかこの本の暫定オレは居るのか!? だったら羨ましいぞ! えーと、何巻で出来るんだ――」
「居ないんですね!?」
「うぉう!? お、おぉう……残念なことにな」
「そ、そうなんですね? ……ふふふふ」
「…………」
『急に笑いだしたぞ』
「よ、よくわかん子だなやっぱり」
本当に本物だった。
その声も、顔も、そして力も、全てが私が本やアニメで見た通りの人だった。
でも、どうやらこのイッセーさんは原作やアニメとはまったく違う人生を送ってきたらしい。
だって、イッセーさんはリアス・グレモリーや他のヒロインのことは顔見知りではあるけど親しくはないと言っていた。
それはつまり、イッセーさんはハーレムでもなんでもなく、フリーということであって……。
「ほれ食いな」
「わー、カレーだ!」
「ありがとうイッセー兄ちゃん!」
「がははは! わんぱくでも良い! 逞しく育てよ小僧共!」
弟達はすぐにイッセーさんに懐いたし、イッセーさんも弟達に優しくしてくれる。
「なっはっはっー! ………と、ほら、キミも食いな?」
「う、うん……」
こんな状況なのに、他に見た生存者達は生き残る為に心があらんでいくのを見てきた私にとって、イッセーさんの存在はとても安心する。
「でもイッセーさんは……?」
「オレはさっきちょっと食ったから良い。
キミはどうしてもこの子達を優先して自分を後回しにしたがるだろ? わからんでもないが、オレが持ってきたものはキミも遠慮無く食っとけ」
イッセーさんからは少し聞いたけど、確かに一誠さんとイッセーさんは違う人生だったのかもしれない。
だけど、それでも今私達の傍に居てくれるこの人は紛れもない―――手を伸ばしたところで触れる事なんて出来ない筈の、あのイッセーさんだ。
「食ったらちゃんと歯ァ磨けよ? それとシャンプーとリンスとボディソープあるから、風呂も入っとけ」
こんな世界になってしまった事に絶望する筈なのに、不謹慎な事に私はこの今の明日も見えない生活が楽しいと思ってしまう。
「ふんっ!」
そんなイッセーさんは、出会ってから今に至るまでご飯も殆ど食べないだけではなく、碌に眠る事もしていない。
そしてその間は何をしているのかと言えば、私達が安心して眠れるように周囲を見張っているか、身体を鍛えている。
「力自体はほぼ変わってない。
でもゾンビくらいしか相手がいないせいかあんまり強くなれたる気はしないな」
『仕方あるまい。この世界はオレ達のような存在は空想でしかないらしいしな。
暫くはこの理性なき畜生を相手に勘を錆び付かせぬように維持させるしかない」
「そうだな……っ!」
私達は逃げる事しかできなかったゾンビに対して寧ろ自分から戦いを挑み、どれだけの数に囲まれても疲れることもなく倒してしまう。
今だって、世界がこんなことになってしまっている事を皮肉るように綺麗な満月の荒れた街中を彷徨うゾンビ達を次々と倒している。
「ふむ、バ○オみたいにタイ○ントとかG生物的なやべーBOWが出て来てくれないかな。
もしくは金髪オールバックのグラサン男とか……」
『ゲームじゃあるまいし、そんな非人道的な真似をする製薬会社なぞありはせんだろう』
「いやいや、意外とあるかもしれないぜ? ……あー、ウ○スカーみてーなの出てこないかなー!」
どれだけのゾンビを前にしても、物の数ではないとばかりになぎ倒していくその姿は流石としか言い様がないし、だからこそ本当にあのイッセーなのだと私は弟二人が安全に眠っている隙を突いて、お外で闘っているイッセーさんの姿を物陰から眺め……。
「おー、夜更かしは美容の大敵らしーぜお嬢さん?」
うん、普通にバレちゃってた。
でも、あっさりと盗み見るような真似をしていた私にイッセーさんが笑って声を掛けてくれる――それだけで私はこんな世界となってしまっても『幸福』だと感じることができる。
何時になるかもわからず、ましてやそんな方法すらわからない。
しかしそうだとしても生きている以上は必ず元の世界へと帰り、今度こそ負けやしないという覚悟を持つイッセーは、敵が殆ど存在しない世界にて、なるべく勘を錆び付かせない為に、知り合った三姉弟達が寝静まった後は、こうして外に出ては徘徊するゾンビの群れに喧嘩を売っては叩き潰す真似をしていた。
「おーおー、街全体が廃墟化すると電気がついてないせいか月やら星がきれーなもんだ」
「そ、そうだね」
既に街の大半のゾンビ達を狩り尽くしたせいか、打ち捨てられた街ではあるものの割りと安全地帯化している中、拠点にしていた大型デパートの屋上へと来ていたイッセーは、付いてきた少女と共に皮肉なくらい輝く月や星を眺めている。
「てか、寝なくて良いのか? さっきも言ったけど夜更かしは健康に悪いぞ?」
「イッセーくんだって全然寝てないし……」
「オレは良いんだよ。
これでもオレって中々コスパの良い身体に『進化』してるし」
「進化……?」
「おっと、こっちの話だったな、気にするな。
とにかくオレはそこまで柔な鍛え方はしてないって意味さ」
不思議そうな顔をする少女に対して適当に話をはぐらかすイッセーはそれ以降何も言わずに何故か空ではなく自分を見てくる少女の視線に気付かぬフリをしながら空を眺める。
「イッセーくんってさ……」
「んえ?」
暫くぽけーっと眺めていると、この世界では自分が創作物として世に出ている存在だからなのか、常にじーっと見てくる少女が唐突に話しかけてきたので、イッセーは空に向けていた視線を少女へと落とす。
「なにも見返りとか求めないの……?」
「? 見返り? なんの?」
突然どうしたと首を傾げるイッセーに少女は目を伏せる。
「イッセーくんとこうして出会えてからの私達って、ずっとイッセーくんにおんぶにだっこみたいだから……」
「ああ……」
少女なりに申し訳思っていると察したイッセーだが、正直イッセーはどうとも思ってはない。
「べつになんとも。
そもそもドライグ以外に話し相手が欲しいと思ったからキミ達を守ってるだけだしな。
それに一般人なんてそんなもんだと思ってるし」
普通に暮らしてきた人間がこんな意味不明な世紀末を迎えたところで、すぐに自力でどうにか出きるなんて限られた人間くらいだとわかっているので、特に思うところはないと返す。
「第一キミこそオレなんぞ信頼して良いのか? キミからしたらオレは完全に意味不明な存在だぞ?」
「イッセーくんの事は元々知ってたし……」
「それは例のラノベやらアニメのオレ(仮)だろ? オレとはまた違うだろ」
「でも根本はそんなに違わないよ」
「えぇ? オレべつにハーレム王目指してないんだけどなぁ」
所謂原作の自分ならば、描写的に目の前の少女に対して鼻の下とか伸ばしそうなものだが、イッセーは生きた経緯があまりにもカオス過ぎたせいと、人生の目標が完全に『復讐』一辺倒化しているのもあるせいか、異性への関心よりも己の進化欲に片寄ってしまっている。
「まあまあ、オレがもしあのラノベのオレ(仮)みたいに親と普通に生きていられたらああなってたかもだけど。
でもなあ……正直女の人の好みが違うしなぁ」
「っ!?」
完全に異性への関心が無いと言えば嘘になるものの、好みが根本的に違うとぽろりと洩らすイッセー
するとそれまで伏し目がちで聞いていた少女が突然顔を上げた。
「ど、どんな人が好みなの……!?」
「お、おお? 急にどうし―――」
「お願い、教えて!!」
あまりにも自分達に見返りを求めなさすぎて、逆に不安になっていた―――というよりも、ここに来て話の流れで不透明だった目の前のイッセーの異性の好みを聞けるチャンスが思わぬ形で来たと思った少女の勢いの良さにちょっと引き気味になるイッセーは、言うまで聞いてきそうな気がしたので、少し躊躇いつつも教えておくことにした。
「えーと、年上かな……。
欲言えば今のオレより最低でも10以上は離れててくれると尚良し」
「……」
なんで年の近い少女に己の性癖をぶちまけてしまってるのだろうと思いつつも言うと、それを聞いた少女はそれはあからさまに肩を落として落ち込んでしまった。
「そこは原作のイッセーくんと違うんだね……」
「あ、ごめん。夢を壊したか?」
「べつの意味で……。原作のイッセーくんはそこまでの拘りは無いし」
聞けば、アニメを偶々見てから原作まで読んだらしいので、そこそこ外れてる事を言われてがっかりされてしまったと思ったイッセーは取り敢えず謝っておく。
「じゃ、じゃあもしも――もしもだよ? もしも同年代の人から好きだって言われたらどうする?」
「え? あー………んー……どうなんだろ。
そんな経験全くなかったからわかんないけど、まあ多分断るね」
「なんで……?」
「元の世界基準でもオレは『まともじゃない』からかな。
多分オレの『根っこ』を知ったら間違いなくドン引きされて離れていくだろうしな」
幼少期からホームレスをし、生き残る為には反社会的な組織だけをターゲットに強盗やら暴行を働いて来たイッセーはその根も含めて自分が完全なる社会不適者であることを自覚している。
だからこそ、イッセーは自分の全てを理解した上で尚認めてくれる人なんて居ないと思っている。
「このまともじゃなくなった世界でも?」
「まともじゃなくなりすぎて、まともじゃない人間含めてほぼゾンビ化しちまってるしなぁ」
自分の事を理解した上で受け入れてくれるのは亡き両親か、相棒くらいしか居ないと勝手に思い込んでいるイッセーの言葉に少女は悲しい気持ちになる。
(確かに違う。でも……)
確かに少女はイッセーをまだ殆ど知らない。
彼がラノベの主人公とほぼ同じ容姿と声をした異世界人である事以外、何一つイッセーのことを知らない。
それはイッセーが語らないからというのもあるが、それ以上に少女は怖いのだ。
しつこく聞いて、嫌われてしまったらと……。
「今日はやけに色々と聞いてくるな?」
「もっと知りたいから……イッセーくんのこと」
「ああ、この世界的にはアニメだなんだの世界から来た疑惑のある奴だから気にはなるよなそりゃあ……オレも正直違和感しかないんだけどね」
だけど、だからこそこんな世の中になってしまったからこそ言わなければならないと思った少女はヘラヘラ笑うイッセーに向かってほんの少しの勇気を振り絞った。
「違う。
私はまだ世界が普通だった頃、偶々深夜にやってたイッセーくんのアニメを観た時からその……」
「? ファンってか? てっきり白龍皇だ木場って金髪イケメンだ魔王とかのファンかと思ってたんだが――」
「イッセーくんが好きになったの……」
現実に現れてくれたヒーローへの想いを。
「――――ああ、オレが好きに――――――は!?」
一瞬流しそうになっていたイッセーもいきなりの少女からの言葉に固まった。
「あ、は? それはアレなのか? オレがドラゴソボール――えとこの世界じゃドラゴンボールの孫悟空が大好きだぜって意味だよな? ファン的な意味で……」
「最初はそうだと思い込んでた。
でも、イッセーくんがこうして現実に居るんだと思ったらそうじゃないって思ったの……」
「………………。それはあれだな! 世界があんまりにも世紀末化し過ぎて先行きが不安になっちまってるからだろ! うん、そうに違いない!」
「……………」
「ぬぐ……!? ちょ、ちょっと真面目に待ってくれ。
展開が急すぎて頭の整理がぐちゃぐちゃになっちまった……」
流石にストレートに、しかも好きだといわれてしまったいか、心底混乱するイッセーは困ったときの相棒だとドライグに相談する。
(お、おい、これ嘘だよな? この子なりのドッキリだよな? ありえないだろ!?)
『この生真面目小娘がそんなボケをかますとも思えんな。
第一、差異はあれど最初から妙にお前に詳しかったし、俺を見ても特に驚かなかっただろう?』
(い、言われてみれば……。
寧ろ変身ヒーローの変身ポーズ見てはしゃぐ昔のオレみたいな目してたっぽい……)
思い返せば、一般人なら悲鳴あげて逃げ惑うだろう現象を見せても逃げるどころか、弟二人共々キラッキラした顔してた事を思い出したイッセーは、じーっと……ちょっと潤んだ目でこっちを見てくる少女にどう返せば良いのか分からずに内心頭を抱える。
「ちょ、ちょっと待とうかお嬢さん」
「……。ずっと私のことを『キミ』とかそうやってお嬢さん呼ばわりするのはやめて。
ちゃんと名前は教えたよね?」
「うぐ……」
打ち明けたせいで色々と吹っ切ったのか、それまで指摘すらしなかった事を言い出す少女にイッセーはうっと身体を反射的に仰け反らせる。
「わ、わかったわかった。とにかく落ち着こうか藤野さん、クールに――」
「名前で……名前で呼んで」
「そ、そこ拘るとこなの……?」
「私にとっては命より重要なの」
「えぇ……?」
そうイッセーにズイッと詰め寄るように身を乗り出す少女にイッセーは困惑するが、呼ばないと呼ばないで何時までもこうされそうなのと、別に名前を呼ぶことに禁忌感があったわけではないので出会った時に教えられていた少女の名を呼ぶ為に口を開く。
「お、おう……じゃあその、深月さんよ? とにかく一旦落ち着こう? そしてちょいと離れてくれると非常にありがた――」
とにかく一度落ち着けと促そうとしたのだが、深月と少女の名前を口に出したその瞬間――
「あ……っ!? ひんっっっ!?!??」
「うぉっ!? ど、どどど、どうした!?」
突然電気ショックでも喰らったかのように上体を逸らしながらビクビクと身を震わせると、そのまま前に倒れそうになるので、イッセーは慌てて深月という名の少女の身体を抱き止める。
「はぁ……はぁ……」
「え、ほ、本当にどうしたんだよ? 具合でも悪―――あっつ!? むっちゃ熱いんだけど!?」
頬を紅潮させ、抱き止める自身の胸板に顔を埋める深月の全身が熱を帯びている事に気付いたイッセーはどこかのリアクション芸人のような事を言いつつ病気かと慌てるが、深月なる少女は引き続きイッセーの胸元に顔を埋めたまま首を横に振る。
「ち、違うの。
具合なんて悪くなくて寧ろ元気になれたくらい。
お、思ってたよりイッセーくんのその声で名前を呼んでもらえたのが嬉しくてちょっと変になっただけだから……」
「そ、それなら良いけど……。あの、ちょっと一旦離れ――」
「もう少しだけこうしていたい……。
お願いだから……なんでもするから……」
「っ……わ、わかったよ。
やっぱり変な子だ……」
知り合ってまだそんなに時間すら経ってもない少女にコクられたイッセーは、こうして『もう少しだけ』と連呼しまくった結果、結局朝まで外から聞こえるゾンビの群の呻き声をバックに抱き合うのだった。
「~♪」
「ねぇねぇイッセーお兄ちゃん、お姉ちゃんが凄くたのしそうだよ」
「なにかあったの? 起きた時に二人が居なくて探してたら屋上で抱き合ってたけど……」
「え? さ、さあ? い、色々あったんだよ色々……」
今度こそ終了
補足
簡易人物紹介
兵藤イッセー
このシリーズにある経緯により死んだと思ったら異世界にあたる『バ○オみてーな世界』で意識を取り戻した青年。
生きている以上、その目標は元の世界への帰還と報復であるのだが、困ったことにその方法なんてわからないし、自分達がこの世界ではアニメやらラノベの登場人物になっていることに驚愕する。
ちなみに特に他種族への殺意は持ち合わせてはおらず、寧ろ『転生者』によって従わされている形となっている本来のヒロイン達には何度か殺され掛けても寧ろ同情している。
戦闘能力に関しては『バ○オみてーな世界』においてはオーバーキルレベル。
藤野深月
イッセーがこのバ○オみてーな世界において最初に出会った一般人。
弟に隆司と優がおり、二人は手からビームだしてゾンビ相手に無双するイッセーに速攻懐き、深月に関してはこの世界ではアニメ化されてたD×Dを偶々視聴した事で、どこかの黒髪悪役令嬢さんよろしくにイッセー推しになる。
そして世紀末化した世界において、差異はあれどまさかの本人と出会ってしまった事で、その後の人生を180°変える事になる。
多分だが、どこかの黒髪悪役令嬢と会ったらある意味すぐ仲良くなれるであろうポテンシャルを秘めている。
バ○オみてーな世界の本来の主人公。
当然生存中。
しかし偶々食料探し中のイッセーにゾンビ(女)相手にアレコレしてるのを見られてしまい、ドン引きされてしまっていこう消息は不明