自由過ぎるお馬鹿達
何が正しくて、何が悪いか分からないこの世界で、誰よりも楽しく、誰よりも身勝手に、誰よりも狂った生き方をしてやると決めたオレは世間様から見たらどうしようもないチンピラにしか見えないだろう。
社会のゴミだのクズだのと後ろ指を指され続けるかもしれない。
だけどオレは自分が決めたこの生き方を変えるつもりなんて無い。
誰かの顔色をビクビクと伺いながらコソコソと生きるなんてゴメンだし、そんなのは生きているとは言えない――と、オレ個人は思っているから。
少女が初めてその少年達を見た時に抱いた気持ちは、確かな『驚愕』と紛うことない『歓喜』だった。
それまでの少女は漠然と、そして確信とまではいかないものの『自分と他の人達は両親を含めてなにかが違う』と思いつつも、それを隠しながら生きてきた。
しかし彼等はどうだろうか? 明らかに周囲の――平々凡々達からの化け物を前にした怯える目等一切気にする事もなく、誰よりも楽しそうに、誰よりも好き勝手に、誰よりも自由に生きている。
少女はそんな少年達がとても羨ましく、そして輝いて見えた。
とりわけ少女が牽かれたのは、自分より二回りは年の行っている女性にアホ顔晒しながらナンパばっかりする、自分の髪の色に近い髪色をした同い年の少年だった。
いっそ少年達の中では一番に間抜けに見えるその少年の発するそれが、少女にとって一番輝いて見えたからなのかもしれない。
だけど少女にとって未だ昨日のことのように覚えている一番の理由は、その少年が誰よりも真っ先に少女が『同類』であることを見抜いて、あまつさえ当然のように『遊ぼう』と手を差し伸べてくれたからだ。
その時の――今でも時折見せる子供っぽい笑顔を少女は忘れることはないだろう。
何故ならその瞬間から少女は決めたのだから。
誰よりも楽しそうに、誰よりも好き勝手に、誰よりも狂った生き方をするこの少年と一緒に居続けようと……。
どれだけ少年がどこの馬の骨ともわからない女共に鼻の下を伸ばそうとも……。
そんな少女の名は――
「それで、またまた悪魔さん達に呼び出されたようだけど?」
「ん? ああ、別に何時も通りだよ。
何時も通り、オレを悪魔の駒使って転生悪魔にしようとして失敗してたよ」
「それにわざわざ付き合うイッセーもだけど、あの人達も懲りないわねぇ……」
「逆に無理とわかってるからわざと付き合ってんだよ。
そうすりゃあ面倒な監視も緩むってもんだろ?」
「そりゃあイッセーも立場や種族は違えど、あの人達に近い立場だものね」
「一応仲間集めに躍起になる前にもうちょい強くなった方が良いとは言ってるんだが、あんま聞いちゃい無いんだよなそこら辺のことは。
多分真面目に喧嘩すれば藍華一人で完封できるぞ?」
桐生藍華といった。
訳あって元の姓ではない姓を使って現在を生きている少年こと霧島一誠は、陽気なのかもしれないし、ノリも決して悪くはない性格なのだが思いの外友人は少ない。
それはきっと彼のその性格の奥に潜む『狂気』を少なからず悟られることで距離を置かれるからなのと、本人が『親友』と呼べる繋がり以外に対する執着があまりにも薄いからなのかもしれない。
とはいえ、今現在通っている高校で浮いた存在――という訳でもないのではあるが……。
「なあなあイッセー、何と無く聞かなかった疑問があるんだが……」
「ん? なんだ急に?」
そんな霧島一誠ことイッセーは、現在バリバリの学生をやっており、この日も何時もの変わらない――少々騒がしい学生生活を満喫している。
そんなとある日のお昼休み、入学した際にほんの少しだけ話が合うだけで別に『親友』とまでは呼べないクラスメートの友人二人を前に、『お金が勿体ない』と言って毎日用意してくれる『親友』の手作りお弁当をパクパクと食べているイッセーに、元浜と松田というクラスメートの友人二人が、イッセー―――ではなく、その隣に当たり前のように座って食べている女子生徒をチラチラ見ながら、大分前から疑問に思っていた事を質問する。
「お前と桐生って……なんつーか……なあ?」
「前々から気味悪いくらい仲が良いように見えるんだけど、本当に付き合ってたりしてないのか?」
「んぁ?」
「…………」
この学校に入学して知り合った時から、常に行動が一緒であるイッセーと藍華の関係性は端から見ると異様というか、少々気持ち悪いくらい仲がいいように見える。
この元浜と松田にしても、最初は二人がそういう仲なのかと思った訳だが、困ったことに周囲の考えとは反対にイッセーはキョトンとした顔をしながら決まってこう返すのだ。
「オレと藍華が? ははは、ナイナイ。何回かそれ聞かれてるけどそんなの無いって。なあ?」
「まぁね。
そもそもコイツの性癖がどんなのかアンタ等も知ってるでしょ? つまりはそういうことよ」
そんな関係ではないのだと。
そしてイッセーに同意するように頷く藍華の言葉通り、イッセーの性癖のことを考えたら確かにと元浜と松田も理解はする。
しかし理解こそすれぞ、どうにも納得はできないというのが二人の考えだ。
なにせ……。
「ごっそさん。
大分藍華も腕上げたよなぁ。
最初なんてだし巻きすらまっ黒こげだったのにな?」
「それでもパリパリと食べてくれたじゃない」
「そりゃあ藍華が作ったもんだしな。
アイツ等も『うめーうめー』言いながら食ってたろ?」
「だから人並み程度には料理できるようになると決意したのよ私は。
ほら、お茶よ」
「おー、さんきゅー」
「「………」」
これで付き合ってないのか? 最早これは夫婦ではないのか? と、普段はお騒がせエロトリオとして女子達から鬼のように毛嫌いされまくりな元浜と松田から見ても、イッセーと藍華のやり取りは『なにもない』と言うにはあまりにも気色悪い近さを感じてしまう。
「今日は買い食い禁止よ? 夕飯は唐揚げにするから」
「お、マジ!? 既に楽しみ過ぎるし、海外にフラフラ行っちまったあのバカ二人に自慢写メ送りつけてやるぜ」
(『相変わらず何にも無いと言うくせに気持ち悪い仲の良さで、逆にムカムカしてくる……)』
当然、友人二人のみならずそんな二人のやり取りをほぼ毎日見せられる他のクラスメート達も含めて、イッセーと藍華の仲は近すぎるのだった。
桐生藍華にとっての『当たり前の日常』とは、両親との暮らし――ではなく、自身の『同類達』との暮らしである。
訳あってその同類達の内の二人は……。
『ラーメン皇にオレはなる!!』
『バーガーの英雄にオレはなる!!』
と、バカ丸出しな宣言をして其々本場の国にフラフラと出掛けてしまって現在近くには居ないが、イッセーだけは……。
『じゃあオレは年上お姉さんハーレム王になる!! ………って、言いたいけど、そうなると藍華を置いてけぼりにさせちまうから残るわ』
等と、誰よりも身勝手に生きたい筈なのに、わざわざ自分の為にここに残ると言ってくれた。
自分の生き方を全く変えるつもりなんて無い癖に、トモダチの為ならそんな信念すら簡単に捨ててしまえるからこそ藍華はイッセーという少年が大好きなのだ。
とはいえ、確かにクラスメート達に聞かれるような関係とは言えないのも事実である。
何せイッセー自身の性癖は年上の女というどこかで間違ってしまったが故の癖のせいで自分をそういった対象として見てはいないだろう。
加えてイッセーの場合、そんなねじくれた性癖とは正反対のタイプにどういう訳か懐かれやすい。
イッセーと、海外にお出掛け中の二人の男子をまとめて『三バカ共』と呼ぶ正体が堕天使である保護者の男が取り纏めている堕天使の組織に属するとある堕天使……。
「ちーっす! 年増女だと思った? 残念でしたー! ミッテルトちゃんでーっす!☆」
保護者の堕天使の援助によって借りているアパートの自宅の扉を開けた瞬間、待ち受けていたとばかりにポーズしながら出迎える金髪でゴスロリ衣装を着た少女――ミッテルトに藍華は『また居るし』と内心ため息を洩らしつつイッセーの反応を伺う。
「また来たのかよ? そんなに暇か」
「いやー暇といえば暇っすねー――と、ちーっすアイカ」
「はいはいちーすちーす。というか何時までもそこに居て貰うと入れないのだけど?」
「おおっと失礼。
じゃあ早速、おかえりイッセー、ご飯にする? お風呂にする? それともウチにする?」
「風呂と飯だな。
今日は唐揚げ祭りだし」
「え!? マジっすか!? ひゃほー!」
体型からなにまでツボの外でしかないので、ミッテルトの下手くそな誘惑に気付いても無い様子のイッセーが夕飯について語ると、ミッテルトも当然食べるつもりなのか、一々大袈裟に喜んでいる。
「アイカが作るんすよね? ウチも食べたいっす! ねーねー良いでしょう?」
「居座るつもりな以上、アンタだけ食べさせないなんて訳にはいかないでしょうが。
ほら、作るまでちゃんとおとなしくしててちょーだい」
「わーい! 大好きっすアイカー!」
「はいはい……」
抱きついてくるミッテルトに対して適当に相手をする藍華。
そんな藍華を見て、イッセーは何やら楽しそうに微笑んでるのに気付いてちょっと恥ずかしくなってきた藍華は、それを誤魔化すように朝の内に仕込んでいた材料を取り出して夕飯の支度をするのであった。
別に藍華としても堕天使のくせに妙に人懐こいミッテルトのことは嫌いではないのから。
「そうそう、ヴァーリとジンガは留守らしいから別に二人には言わないっすけど、この町になんか色々と勘違いしちゃってるウチの同族がなんかやらしちゃいそうなんすよねぇ」
「は?」
「同族? 堕天使が……? 誰よその堕天使って?」
「ええと、リーダー格はレイナーレって名前なんすけど、ぶっちゃけイッセーとアイカなら秒殺で終わらせられる程度の中級堕天使っす」
「じゃあお前も余裕でぶちのめせるじゃん」
「えー? ウチは戦闘タイプじゃないんで無理っす無理っす。
まー、そのせいか知らないっすけど暇でフラフラしてらそのレイナーレってのに『手伝え』って勧誘されちゃいましてねー」
「勧誘て……なんて答えたのよ?」
「キナ臭さ全開だったんで、受けたフリして速攻アザゼル様にチクってやりました。
そしたら『何かあったらイッセーと藍華んとこ頼れ』と言われつつ探れって言われたっす」
そんなミッテルトだが、どうやら今回家まで押し掛けてきたのには相応の理由があったらしく、詳しく聞いてみると悪魔が実は管理しているこの町で、どこぞの堕天使の集団がリーダーであるアザゼルの目を盗んで良からぬことを企んでいるらしい―――という情報を聞かされることになった。
「アザえもんめ。
めんどくせーからって一応フリーなオレに丸投げしたな?」
「まあまあ、ここが悪魔の管理下に置かれてるってこともあるし、アザゼル様的には悪魔達につつかれても『預かり知らぬところ』で押し通すつもりなんだと思うっす」
「色々と外交が面倒だってこの前愚痴ってたわねアザゼルさん……」
めんどくさがって自分に問題を丸投げしてきたアザゼルに対してぶつくさ言うイッセーに、ミッテルトと藍華がアザゼルにも色々と立場があるのだろうと宥めれば、イッセーも『確かにそうだな』と納得をする。
「そういう事なんで、しばらくウチはレイナーレ達の所で潜入捜査をするんで、ウチがバレて殺されそうになったら助けて欲しいっす」
「お前は別に殺されないだろ」
「ただの堕天使なんでしょ? その連中は……」
「そうっすよ。
でもウチだって囚われのヒロインとかやってみたいっすー!! 危ない所にイッセーに助けて貰っちゃったりして! それからそのまま宿で一晩明かして宿屋のご主人に『ゆうべは おたのしみ でしたね』って言われたいんすよー!」
「初代のド○クエじゃねーんだからよ……」
「妙な人間界の知識ばっかりつけてくるわね…」
しゃべり方もそうだが、人間界の片寄った知識ばかり吸収するミッテルトにイッセーと藍華は微妙な顔だ。
「アイカは毎日イッセーとしっぽりヤれるから良いけど、ウチはそうはいかないんすよー……!」
「しっぽりヤッてねーよ」
「そりゃあしっぽりできたら良いけど、イッセーの性癖がねじくれ過ぎてるせいで未だこのザマだっての」
「じゃあ危険な任務に出向くウチの為に今から三人で仲良くしっぽりっす!」
「なにが『じゃあ』なんだよアホらし――――って、おい何やってんだ藍華?」
「え? なにって――言われてみれば二度とミッテルトとご飯食べられなくなるかもしれないし……」
「そこまでミッテルトは貧弱じゃないのはお前も知ってんだろが……」
「皆で裸になれば怖くねーっす~! ほら、イッセーも脱げっす! ざこざこなイッセーを気持ち良くしてやるから感謝しろっす!」
「………」
もっとも、そんな片寄り知識に便乗して攻めにかかるのが藍華だったりするのだが……。
「いいなー……アイカのおっぱいが明らかにこの前より大きくなってるし」
「だからこそ横から挟み込めばイッセーも一粒で二度美味しいになれるのよ」
「いやあの……そんなん言われても普通に困る」
訳のわからん内に左右から挟み込まれたイッセーは、確かに誰よりも身勝手なのかもしれない。
補足
簡易人物紹介。
霧島イッセー
訳あって元の姓は名乗らない赤龍帝
三バカ達の中では唯一地元に残って割りと真面目な高校生をやってるのだが、悪魔達には目を付けられて毎日のように転生悪魔の儀式(力量差から不可能)に付き合わされてる以外は特に不便の無い毎日を過ごしている。
しかし、彼は無意識に『身内』と『それいがい』を徹底的に区別する癖があり、それ以外に対する態度は外面を保つ程度にしか留めず、逆に身内に対しては、自分の信念や命すら簡単に捨てる程度には深いというか重い。
桐生藍華
漠然と自分は両親を含めた他の人達となにかが違うが、隠してたほうが平和だと思ってた幼少期だったのだが、その時期に出会ってしまった三バカの破天荒な生き方を知ったことで取り繕うのを辞めた。
三バカの中では一番最初に気付いてくれたばかりか、手を差し出してきたイッセーに惹かれてるのだが、本人の性癖のせいで中々にか空回りしているようす。
けれど、これから攻めは辞めない模様。
ミッテルト
大体桐生さんと同時期に知り合ったゴスロリ堕天使。
三バカとは仲が良いのだが、一番仲が良いのがイッセーであり、隙あらば桐生さんと一緒にねじくれたイッセーの性癖を矯正させようとする。
三バカと偏見無しに仲が良かったので、実は密かにアザゼルの懐刀的な立ち位置になってるので、その気になった戦闘力はそこら辺の悪魔やら何やらには負けはしない。
ヴァーリ
三バカにて白龍皇。
現在ラーメン皇になるために海外にて授業中
曹操(神牙)
三バカにて結構マジな英雄まで上り詰めたお馬鹿。
現在バーガー界のヒーローになるため海外にて修行中
アザゼル
通称アザえもん。
神滅具持ちの三バカの保護者をやってるせいで、他の勢力から凄まじく警戒されてるのだが、本人は気にせず時折会いに来ては三バカの遊びに付き合っている。
悪人顔の堕天使
真の意味でアザゼルが背中を預けられる相棒のような堕天使。
悪人顔だ喧嘩も大好きなのだが、押し掛けてくる元同胞には若干弱いらしい。
悪人顔堕天使に押し掛ける天使
戦争時代に全力の喧嘩をしたばかりか、命まで助けられたこともあり、戦後は周りの目も気にせず押し掛けまくることに定評がある天使。
引く程の美貌なのに、男の趣味が……と揶揄されても本人は『見た目でしか判断できない者達の声など雑音だし、そもそも私は彼の容姿が好みど真ん中ですから』と鼻で笑う。
そのブレなさが美しさに磨きをかけまくるのだが、本命にはいまいち響いてはないらしい。
続きは――ない