いーちゃんの言う通り、この時代の『いーちゃん』を知らずに生きた人達の全員が私達が生きた時代よりもかなり弱い。
サーゼクスちゃんはこの時代でもどこかの誰かに『超越者』だなんて呼ばれるだけの力はあるにせよ、言ってしまえばそれまでであるし、私達の時代のサーゼクスちゃんと比べてしまうと、どうしても見劣りをしてしまう。
つまりは、この時代のサーゼクスちゃんといーちゃんが戦ったら、勝つのはいーちゃんだと確信できる。
もっとも、この時代と私達が生きた時代は歴史そものもが違うのだから、勝ったところでいーちゃんは全く喜ばないと思うけどね。
つまり何が言いたいのかというと、小さい頃からいーちゃんの『狂気』を根にした『進化』を見てもなければ知りもしないこの時代のリアスちゃんやソーナちゃんもまた『普通の悪魔』でしかなく、この先起こるかもしれない大きな災厄に対抗できるか……かなり不安だったりする。
もしこの時代を生きるあの子達に危険が迫っていても、きっといーちゃんは文字通りただ『見ているだけ』だと思うから。
いや寧ろ……。
「レーティングゲームの駒の数が足りないから手伝え……ねぇ?」
「対価はきちんと用意するわ。
契約違反であることは重々承知しているけど、私には時間が無いの」
いーちゃんはこの時代を生きるリアスちゃんやソーナちゃんを『他人』と区切ってしまっている。
「嫌ですね。
オレは見世物小屋みたいな所で、闘犬の真似事をするつもりはございませんので」
それを冷たいと捉えるかどうかは人其々かもしれない。
だけど私はそんないーちゃんの性格を承知した上で独りにはさせまいと傍に居る。
今の私はセラフォルー・シトリーの欠片。
だから私は、いーちゃんの決めた事に付いていく――ただそれだけ。
「自分の我を通したいのなら、通せるだけの『力』を持てば良い。
悪魔だろうが人間だろうが、結局最後にモノを云うのは暴力だとオレは思いますがね……」
この時代を生きるリアス・グレモリーが、何やらどこぞの純血悪魔の男と婚約させられただの。
その婚約というか相手の男が嫌だからなんとか解消したいだの。
解消させるためにはレーティングゲームで勝たなければならない――という所までは話し合いでなんとか持っていけただの。
勝つ為に現状転生悪魔ではないが、見習いという事で力を貸してほしいだのだのだのだのと……。
要は勝てる自信がないから、不気味ではあるし、未だに疑う所はあるが力はそれなりに持っているだろうイッセーを利用しようと考えたリアスに対してイッセーは呆気なく、そして断固として『拒否』をした。
「…………」
「………」
その際、仲介のつもりで来たらしいサーゼクス・ルシファーの女王にて嫁であるグレイフィア・ルキフグスと顔を合わせたのだが、グレイフィアの目は確実にイッセーに対して怪訝なそれを見るそれであった。
事前にセラフォルーからある程度この時代の冥界については聞いていたので、グレイフィアが自分を知っている訳も無いことはわかっていたので特に思うことはない。
寧ろ自分に対して不審者を見るような目で警戒する方が正しいとすら思っているくらいだ。
「オカルト研究部の人達が休みらしいけど、何か知らない?」
「………………………」
寧ろイッセーとして軽いショックを受けた事といえば、これまで鍛えて来なかったからなのか、この時代のリアスはどこか甘えた部分があり、まさか自分の我を通す為に自分自身を極限まで追い込む――のではなく、自分の力をアテにして来たことだろう。
セラフォルーによれば、その純血悪魔とやらはあのフェニックス家の三男らしいのだが、末っ子の忌々しい金髪娘ならイザ知らず、三男なんてイッセーの居た時代のリアスなら苦もなく黙らせられた筈だと思えば思うほど、残念に思えてならないわけで。
「…………………」
「何でオレに聞く? みたいな顔してるっぽいけど、アンタこの前オカルト研究部の人に連れていかれたでしょ? 何か知ってるのかと思っただけよ」
「………………………………」
何時そのゲームが始まるかは知らないが、ここ数日リアス達は学園を休んでいるらしく、学園のカースト最上位の不在に多くの一般生徒達のテンションが駄々下がりしている中、最早リアスに対しての関心がゼロからマイナスになりかけているイッセーは、返事もしなければ話もしない――というかあからさまにシカトされていると解っている癖に、それでも尚何故か話しかけてくるクラスメートの桐生藍華に最近これまた何故か疑われている。
「お待たせ~、自販機が混んでて時間掛かっちゃって―――って
どしたのアイちゃん?」
何を疑われているのかはイッセーも覚えがないのでわからないが、とにかく最近の桐生藍華は傍に通訳をするセラフォルーが席を外していようが平気で話しかけくるようになっていた。
「んにゃ、ちょっとした世間話よ」
「世間話? 出来たの?」
「ご覧の通り、一瞬だけ目が合っただけで返事はしてくれなかったわ。
けど、これまでの事を考えればかなりの進歩だと思わない?」
「おぉ、それは確かに――っと、はい頼まれてた飲み物だよ」
「…………」
世羅マコトとして学生をやっているセラフォルーが買ってきた飲み物を受け取り、そこで終わりかと思えば当たり前のように昼食に同席してくる桐生藍華にイッセーは不快に思うことはないが、軽い鬱陶しさを感じるのであった。
「それでさー――」
「はん、お前らしい―――」
(そう簡単に尻尾は掴ませてはくれないか……)
桐生藍華にとって、世羅マコトと兵藤イッセーは少々――いやかなり風変わりなクラスメートの友人である。
一年の頃からまともに声を聞いたことの無い、コミュ障というレベルでは査定不可能な男子と、正反対にコミュ強の女子。
(二人は幼馴染みで家も隣同士……。
だからマコトは兵藤のこの性格に付いていけると思ってたけど……)
楽しそうに話しかけるマコトに対して、無愛想に相づちを返すイッセーは、一見すれば地味な見た目をした……それこそカースト下位同士のやり取りに見えるし、事実これまでは藍華もそう見えていた。
(でも、アレは絶対に夢でも見間違いでもない)
しかし藍華は見たのだ。
一見すれば地味コンビに見える二人の、地味には見えない姿を。
「アイちゃんもそう思わない?」
「……………」
普段はぼっさぼさで前髪で目元が隠れているイッセーが、ボサボサの髪を整え、それこそどこかのお金持ちの家に居そうな執事の格好で。
牛乳の瓶底みたいな分厚いレンズの黒縁眼鏡を掛けた地味姿から、これまた女児アニメのヒーローみたいな格好をし、眼鏡を外せば地味どころか可愛らしい顔をしていたマコトが。
『こ、この魔力……! 何故魔王が二人も!?』
『残念ながら人違いだぜっ☆』
『殺しの勘が鈍ってるとお前達の仲間を殺った時に感じたものでね。
………足しになりそうもないが、錆び付いた勘をお前らで磨き直させて貰おう』
背中から黒い羽を出す謎の存在達を――――――この前偶々困っていた金髪の外国人の女の子が住んでいる町外れの廃教会にて、その謎の者達を次々と『殺していく』姿を見てしまった。
「? どったのアイちゃん?」
「………………」
「いーや? 一見すれば絶対に合いそうもない性格同士なのに、ホント仲良いわねーと思ってただけよ?」
「えぇ? そんなに仲良く見えるの? へへへー」
「…………………」
返り血を浴びる事なく、命乞いをする背中から謎の黒い翼を出す者達の首をはね飛ばすイッセーの姿を。
逃げ惑う者達を持っていた玩具みたいなステッキを振ることで、一瞬にして凍りつかせるマコトの姿を。
(他の連中は気にも止めないけど、アンタ達はアンバランス過ぎるのよ……)
桐生藍華はあの日の夜のことが頭から離れないのだ。
『何故か心の底からガッカリするような顔をされながら断られたわ』
幼馴染みがしたくもない結婚を解消する為に助っ人を願った相手から断られたという事を聞いたソーナ・シトリーは、姉の眷属候補らしき二人の男女を注意深く、そして悟られぬように観察した。
魔王のひとりである姉が、あれだけ頑なに眷属を持とうとしなかった姉がどうしてこんな人間二人を候補とはいえ迎え入れたのかが妹としても理解不能であり、またそんな話を聞かされていなかったのもあって、正直いえばソーナは兵藤イッセーと世羅マコトが『かなり気に入らなかった』。
「リアスの負けね……」
その日、幼馴染みの婚約を賭けたレーティングゲームを観戦したソーナは、リアスがライザーフェニックスに敗北する様を見て、複雑な気持ちであった。
確かに元から眷属がフルメンバーではないリアスに対して相手はフルメンバーである以上、下馬評の時点でリアスが不利だという声が多かった。
しかしリアスなら――幼い頃からの親友でありライバルであったリアスならきっと勝ってくれると信じたかった。
しかし現実というのは非常であり、やはり個々の力が優れていても数の差に押し切られてしまったリアスは敗けてしまったのだ。
「もし、リアスの戦力にあの二人が居たら……」
魔王サーゼクスが決して悟られぬようにしながらも複雑そうな表情で俯くリアスと眷属達に労いの言葉をかけている姿をモニター越しに見つめながら、ソーナは気にくわない二人のことを考える。
気にくわないとはいえ、あの世羅マコトは未だ不透明ながら兵藤イッセーならば戦力として通用するだけのモノがあった筈だ。
にも拘わらず彼は『見世物小屋の犬になるつもりはない』と、レーティングゲームを見世物小屋呼ばわりした挙げ句断った。
仮にも姉の――魔王の眷属になるかもしれない男が言って良い言葉ではないし、我々悪魔への侮辱にすらなるのだと解らないのかとソーナは肩を落としながら断られた話を聞いた時に思ったが、何よりも気にくわないのは『姉と酷似した魔力を扱う』事だった。
確かに姉は趣味もなにもかも含めて軽いし、妹として何度も恥ずかしい思いをさせられてもきた。
しかしそんな姉をソーナは大好きだったし、口ではなんとでも言うが心の底から尊敬もしている。
そんな姉が眷属の候補として見出だした相手が姉とまったく同じ性質の魔力を扱うと知れば、妹としてもソーナの心中は穏やかではない。
『……………………』
『……。なんですか、その目は? 何か言いたいことがあれば……』
『いえ、別に……』
『別に? その目は別にの目ではないでしょう? 言っておきますがね、今までひとりも眷属を持たなかった私の姉に見出だされたからといって大きな顔をされては困ります。
アナタは候補であってまだ眷属ではありませんかね』
『……。勿論、承知しております』
『承知しておりますな顔じゃないわね……? 勝手ながらアナタの学生としての様子を調べさせて貰ったわ。
ハッキリ言いますが、アナタのような対人コミュニケーション能力が破綻しているような人が姉の眷属が勤まるとは――』
『………………………………………ぇ』
『――は? 今なにか言いましたか?』
『………………………………る……せぇ』
『は? もっとハッキリ言いなさい。
そんなジメジメとした雰囲気の男が姉の眷属になる資格は無―――』
『うるせぇ、クソ雑魚ド貧乳まな板眼鏡』
『』
「ぜ、絶対に許さないわ。あんな野蛮男が姉のような魔力を扱うことも……この私に向かってあんな暴言吐いたことも……!」
姉の眷属候補と知ってから初めて顔を合わせた際に言われた言葉を完全に根に持ったソーナは、とにかく兵藤イッセーが大嫌いだった。
故に姉がどれだけ言おうが眷属だなんて認めないし、横に居た雰囲気が姉に何故か似てる気がしないでもない世羅マコトが『わ、悪気はないんです悪気は!!』と一見慌てて謝ってるように見せて、バッチリ自分の胸元を見てちょっと口角が上がりかけていた事もソーナは許さない。
「だ、大体地味眼鏡って何よ? 地味眼鏡は世羅さんみたいな子の事を言うのであって私の場合は知的な女子って言うのよ……!」
幼馴染みと自分に対する敬意の欠片も見当たらない見下した態度がとにかくソーナは気に入らないのだった。
終わり
補足
てなわけでこの世界のアーシアさんは行方不明になるし、リアスさんは敗けて婚約確定するしで踏んだり蹴ったりだ。
何故か? 元執事の『線引き』が極端だから。