オレがあの褌マッチョに与えられたこの力の元々の持ち主――便宜上ではオリジナルというべき男が呉の勢力に居ることは既に知っている。
オレが最初に彼を見た時の印象は、寒気を覚える程の人間性の無さだった。
当時まだ華琳が一太守の時期にあった黄巾党討伐の際に、孫堅が連れていた黒い燕尾服を着ていた茶髪で荒んだ目付きをした男。
褌マッチョ――自称貂蝉が言っていた通りに年の頃はオレと同じくらいだったのはハッキリ覚えているし、何より彼はオレが元居た時代における『魔法』のような力を使い、次々と賊の兵達を殺していた。
何の躊躇いもなく、同じ未来から来た男とは思えない程簡単に、それこそ通り道の邪魔だったからと言わんばかりに、既に逃げ惑っていた者達ですら冷気の魔法みたいな力で凍結させ、バラバラに粉砕していくその様を見たオレは素直に怖いと思った。
今でこそ、この時代に居る以上は綺麗事なんて言って居られないと解っているし、相応の覚悟もしている。
しかし、あの当時はそんな覚悟もまだ持っていなかった。
だから、息をするように人を殺せる彼の事が怖く、そして自称貂蝉の言っていた通り、この世界においてはあってはならない力なのだと理解したし、野放しにすればこの世界そのものを滅ぼしてしまうと感じた。
オレはそれを止める為、そして何よりただ未来の知識を齧った程度のオレを『一端の男』にしてくれた華琳達と
名前すらまだ知らないあの男を……。
史実の通りならば、もう既に近づいている赤壁の戦いで華琳達――いや曹操率いる魏は負ける。
けれどオレは、例え外史の歴史が変わろうとも勝つ。
オレの殆ど役にも立たない三国志の知識を元に、何よりこの『共に無限に成長する力』を使って、オレのみならずオレと繋がりを持った人たち共に強くなった。
既に冀州、幽州、并州、青州、徐州、兗州、豫州、司隷を支配し黄河の中~下流域までは既に制覇した。
勿論、その間の蜀や呉の動きは気にしながらだ。
特に呉に関しては、史実において既に『代替わり』をしている筈なのに、孫策はおろか孫堅すら未だに生存している。
それは恐らく、呉に住み着いているであろうあの男もまたオレのように知識を使って、彼女等が死ぬのを阻止したのだろうと思っている。
既にオレもあの男も史実をねじ曲げている。
つまり、こうなっている以上は最早未来がどうなるかなんて予想も付かない。
仮に史実の通りに、オレ達魏がこのまま荊州に侵攻し、折よく劉表が病没。後継の劉琮が戦うこと無く降伏させる事が出来たら、劉備達は呉の元へと逃げようとするだろう。
華琳は一応劉備達に対して降伏勧告を出すであろうが、問題は彼女達がどうするかだ。
ここからが全く読めない。
あの男の存在に恐怖してそもそも劉備達が降伏し、下手をしたらオレ達と組むのかもしれない。
逆に劉備達もあの男の異常な力は知っているであろうから、その力を頼り、史実通り呉と蜀の同盟が生まれてしまう可能性も捨てられない。
そもそも、既に呉はあの男が影からその力を使って支配しているかもしれない。
だからこそオレはこの力をあの男以上に使いこなさないとならない。
敵を――人を簡単に殺すあの男から華琳達を守る為に。
凄く詳しく聞いた所によると、例の劉備とやら達は上司的な奴が曹操に対してあっさり降伏してしまったせいで、逃げる他無かったとの事らしく、呉の本拠地である建業へとやって来た劉備達の出で立ちは、割りとみすぼらしいそれだったとの事。
「で、結局その使えそうもねぇ奴等を匿うのか?」
「とても五分の同盟を組むに値しないって感じだったものだから微妙に迷っているのよねぇ……」
「徐々に我等の領土にまで侵攻して来ている曹操の大軍に対抗する兵の水増し程度の期待しか出来んなアレは……」
聞けば聞くほど厄介な時限爆弾抱えて入り込んで来ました感が否めない劉備達の現状を聞いた一誠は、当然彼女達の前には一切姿を現しては居ないものの、話を聞くだけで寄生虫のような印象しかなかった。
「彼女が連れていた軍や民達の中には既に事切れている者も多かったわね……」
「劉備達からしても想定外だったのだろうな、劉表の後継である劉琮がすぐに降伏したのが」
「……。要は同盟だなんだと都合の良いこと抜かすだけ抜かして、『ウチの台所事情がズタボロなんでなんとかしてください』ってか? そんな奴ら本当に役に立つのか?」
「まー……うちの兵達の盾替わりくらいにはなるんじゃないかしら?」
「武官も何名か見えたが、うむ……まあ常人の域程度だと思うしな」
最早史実に対して中指立ててる状況であるこの外史の世界においては、どうにも劉備達と手を組んでもメリットが殆ど無いというのが正直な感想だった。
とはいえ、数の暴力のことを考えたら今現存する劉備等の勢力と此方の戦力を足して漸く曹操の大軍にギリギリ対抗可能だというのが現実でもある。
基本的に脳金な炎蓮も流石に多勢に無勢のまま喧嘩となるのは考えものだったらしく、結局は劉備達を一旦受け入れるという話になったとの事らしい。
「一度落ち着いたら改めて話の場を設けるわ」
「心底嫌なのは解るが、その場に出席はしてくれるか一誠?」
「………………………」
何が一誠にとって嫌かと言えば、その同盟組む組まない以上に、なんかもう既に役にも立たなそうな気配しかしない――それもどうせ殆ど女ばっかりな連中と顔を合わせなければならないというその一点のみなのである。
「…………わかったよ。
癪な話ではあるけど、お前等には結局返したつもりでも借りがすぐ出来てしまうしな。
ちったあ我慢してやらぁ」
こうして執事にとって地獄の様な時間の幕が開けられる事になるのだが……。
「……あ、そうか」
その時……! 執事が閃くっ……! 圧倒的閃きっ…!!
それほどの閃光…! 光が…!! イッセーの脳を刺す……!
閃いてしまったっ…!! この土壇場で…! 悪魔の執事が考える悪魔的奇手っ………!!
「そうか、要はそいつ等があんまり見えなきゃ良いんだ!」
「「はい?」」
突然一人でハッとした様な顔をした一誠に、冥琳と雪蓮は首を傾げつつ、何故かは知らないが一瞬だけ一誠の鼻と顎が尖って見えた気がしたと云う。
「よし、冥琳に雪蓮。俺に協力しろ」
一体全体どうしたのかと訳も解らず協力しろと言われてしまった冥琳と雪蓮。
「なんの協力よ?」
「当日お前の仮病の口裏合わせとかなら断るぞ。
すぐに炎蓮様には見抜かれるからな」
「仮病なんか使わないし、それなりに腹も括っている。
協力してくれたら二人の言うことを無条件で一度聞いてや――」
「勿論一誠に協力するわ!」
「お前がそういう事をねだる事なんて殆ど無いからな。
ここは親密な関係を持つ者同士として聞こうではないか」
最初は渋ろうとしたものの、 一誠からの提示に対して内容すら聞いてもないのに即座に受け入れた雪蓮と冥琳。
一誠と関わる内に、すっかりポンコツなチョロいん属性を付与されてしまった二人の目が割りとマジになっていることに一誠は気付くこと無く、ヒソヒソと二人に閃きの内容を話すのであった。
「よし、そうと決まれば練習だ。
それと事前にババァ達にも話を通しておこう」
こうして執事の悪魔的閃き作戦の準備がひっそりと始まるのであった。
そんなこんなで数日が経過し、受け入れた相手が色々と落ち着いた所で始まった会談。
建業にある孫呉の城では、王である炎蓮を中心に今で言う主要幹部達が勢揃いしており、何度も死にかけながらも辿り着いた『チャンス』を目の前に代表者である劉備や彼女を慕う者達は、緊張した面持ちであった。
「先ずは私達を受け入れてくださってありがとうございます孫堅さん」
まず劉備が行った行動は、とにもかくにも逃げ落ちた自分達を受け入れてくれた事へのお礼だ。
玉座に座して此方を見やる孫堅の圧は決して緩いものではなく、寧ろ一度会った時よりもその圧は――それこそあの曹操に匹敵するものであると肌で感じた劉備達だったが、自分達とてそれなりの修羅場は潜ってきた。
故にその圧には負けず、まずはただただ素直なお礼言葉を送ってから、例の同盟的な話へと移行させたのだが……。
「オイそこの中途半端赤髪の――劉備つったか? そんなザマでウチの王である孫堅文台様と同盟組めやとコラ?」
「へ……?」
『え?』
その話を切り出した途端、それまで隅の方で大人しくしていた黒い服を着た青年が突然、謎の黒い眼鏡(自作したグラサン)を掛けると、これまた自作したグラサンを掛けた雪蓮と冥琳の二人た共に前に躍り出ると、下手くそな今でいうところの関西弁混じりに劉備を罵倒し始めたのだ。
これには一誠の存在が劉備達の間でも噂になっていたというのもあって驚いてしまうのだが……。
「ワレェ、何様のつもりやコラボケ!」
「え……い、いや……」
「オマケにお前等と曹操の喧嘩のケツ持てやとアァ? 調子に乗るのもええ加減にせぇやコラ! ボケェ!」
輩がいたいけな女性に対して罵声浴びせているという、現代基準的にはアウト過ぎる展開に、劉備側としても無機質な像のように敵を殺していく『江東の悪鬼』と噂される青年に対するイメージが別ベクトルの悪い方向へと傾くし、同席していた小蓮並に幼い見た目の軍師だ武官だなんだの娘さん達はビクビクしていた。
「ご、ごめんなさい。
私達もその……民や皆を守る為にはこうするしか無くて……」
しかし劉備はそんな輩丸出しな一誠に対して、退いたら終わると思うからこそ自分の想いを語るのだが、今度はそれまで一誠の隣で同じような眼鏡を掛けていた雪蓮が口を開く。
「せやからウチん所がオメー等と同盟組んでウチ等が何の利になるんじゃコラオー!!?」
『!?』
一誠と同等の輩丸出し罵倒をする雪蓮に、劉備達は勿論、唯一事前に何も知らされていなかった蓮華も、先程からの奇行含めてギョッとしていたのだが……。
「テメェ等何言ってるのかわかってんのかい! ウチ等と曹操を喧嘩させる気かい!!」
冥琳までもが一誠、雪蓮に続いて怒号を飛ばしたものだが、蓮華からしたら全員頭がおかしくなったのではないかと思う訳で……。
「は、はわわわ……! し、しかしこのままだと曹操さんはそちらにも進軍をしてきましゅ」
「ちょっと待てコラそこのガキ、何抜かしとんじゃコラ? 曹操の所とは、テメーの【自主規制】の毛が生える前から不可侵の状態なんじゃコラ」
「は、はわわわ! 【自主規正】の毛って……わ、私まだ生えてましぇん!!」
「黙れガキ! ものの例えじゃボケ!」
『……………』
一誠のデリカシーゼロ過ぎる発言に当然劉備達側の殆どはドン引きするか赤面をするし、逆に後ろで聞いていた炎蓮達はプルプル震えながら爆笑を我慢するし、雪蓮と冥琳の二人も『そんな台詞は打ち合わせになかったぞ』的な顔を一瞬だけしている。
唯一劉備側に近いリアクションなのが蓮華だけという、なんだかカオスな空間と化している状況になっていくのだが、『全員悪人モード』に入っていた一誠は構わず続ける。
「テメー等みてーな落武者同然の三下抱えたくれーで……戦争にでもなったら誰が責任取るんじゃボケェ!!!」
「なぁんもする前から孫呉の後ろにコソコソ隠れようとしくさりやがってゴラァ!!」
「おどれら、戦争になったら真っ先に全線でワイ等の盾になってくれるんやろうなァ!?」
一誠、雪蓮、冥琳の順から罵倒の言葉をバンバンぶつけられる事で、劉備の横に居た関羽がキレそうになる。
しかしそんな関羽を周りが宥めるのを横目に、俯き加減の劉備が口を開く。
「わ、わかって……ます……」
「アホかテメーは!?」
「大体テメー等の戦力なんぞ知れたもんやろうがい! それでも五分の同盟組めなんぞほざきやがって……! テメーで何言ってんのかわかってるのかい! おう!?」
「ご、ご迷惑は決してかけませんから……!」
「迷惑もハローワークもあるァ!! ボケェ!!」
「は、はろーわーく……?」
「あ、しまった。この時代には無かった単語だった……」
「い、一誠、今のは台本に無いわよ……!?」
「そ、そもそもあんな見た目幼い子供になんて事を言ってたのだお前は……!?」
「な、流れで言っちまったんだよ! 本家は『チ○ポの毛が~』だったけど、どう見てもメスのガキだったから……」
「どちらにしても品が無さすぎる!」
「だ、第一それを言ったら一誠は毎日私を裸ひんむくんだから、私も無いって知って――」
「そんな話じゃねーだろ! あ、合わせろアホ!」
こうしてニコニコ笑顔な会談は進んでいくのであったとさ……。
補足
呉←花○会
炎蓮さん←布○会長
一誠←西野若頭
雪蓮&冥琳さん←中田若頭補佐
劉備さん達←木村
で、お送りしました