やっぱり俺の進化は完全に止まってしまっている。
この『個』を自覚をしたその時から、そして何度も
しかし今の俺はその壁を乗り越えられない。
今まではどれだけ高くとも駆け昇れば必ず見えていた筈の『頂点』が全く見えない。
「なるほど、思い出したよ。
何をやっても越えられないと思えてしまうこの感覚こそが
これでハッキリしたと同時に思い出した。
兵藤一誠という名も、役割も、力をも無くしたただの残骸である俺がそれでも生きようと掴んだ
「そうだ、これが普通の感覚なんだったな。
死ぬ気になっても、努力だけではどうあっても越えられない壁にぶち当たり、挫折をするこの腸が煮えくり返る気分が……くくくく」
無限に進化し続けるだなんて言われた異常が、残骸である俺が
「あの変態のカマ野郎のせいでこうなっているのか? はたまた別の何かが要因であるのか?
俺は随分と『どこぞの誰かに』恨まれているだろうからなぁ? くくくく、俺をどうしても消し去りたい輩は腐る程居るだろうよ」
人を超え、魔を超え、そして人外を更に超えて外から管理者気取りで見下してほくそ笑むゴミ共を超越する。
日之影一誠としての我を掴んだ俺の野望の邪魔をするつもりだったのか、はたまた厄介払いなのか。
どちらにせよ、あの変態カマ野郎は何かを知っていると見て間違いはない。
「良いぜクソ共、確かに俺はテメー等に今は為す術も無いさ。だから精々今はそこから見下ろして『強者気取りでも』していやがれ。
俺の
そしてその時は、テメー等全員皆殺しにしてやるからよォ……!」
上等だ。
『俺』が生きている限り、例え肥溜めに叩き落とされようが何度でも這い上がる。
テメー等が俺という存在を殺しきれない時点で、テメー等は詰んでいる事を必ず教えてやる……!
「何があろうと! どんな手使おうと!! 最後の最後立ってる奴が………強ェんだよ!!!」
フルパワーさえ取り戻せば全てを終わらせられる。
そう己に言い聞かせながら外史という異世界を生き残ってきた一誠は、己の要となる異常性が最早機能すらしていないという自覚をすることで、常に後ろを向いていたその精神をほんの少しだけ前に向けることが出来た。
「俺みたいだった……ねぇ?」
それは何故か? 今の自分に近い領域まで己の野性的な感覚のみで到達してみせた炎蓮との殴り合いの喧嘩の果てに耳にした劉備達の話からある程度悟ったからだ。
「まだ決まった訳ではないが、ふふふふ……! やってくれるぜマジでよぉ………くくくくくっ!」
兵士一人一人の練度が人間離れしている。
人間とは思えない膂力で、数百人規模の兵団を吹き飛ばしていた。
それだけならば、よくある話で済ませていたのだが、蜀の面々は口を揃えて言うのだ。
『前線に出てきた白衣を纏った天の御使いは、それこそアナタに似ていた』
『性別や容姿ではなく、上手く口に出して説明はできないが、雰囲気があまりにも似ていた』
あまりにも天の御使いが自分に似ていた。
容姿でもなければ体型でもなく――雰囲気が。
「つまり今も上から見下ろして神気取りしてるカスは、俺から
くくくく、何時から連中は人様の個性まで奪い取れるようになったのやら……」
確証はないが、そう考えると、自分の個性が残骸程度にまで消え去っていた事に合点が行く。
つまり自分は無理矢理個性を剥ぎ取られた挙げ句、外史などという訳のわからない世界に飛ばされたという事であり、今天の御使い等と呼ばれている男が自身の個性をただの『能力』として使い倒しているということになる。
「全く自分の脆弱性には反吐が出る。
これがサーゼクスの野郎だったら、半笑いで返り討ちにできていただろうしな」
個を奪われた事への怒りよりも、己の脆弱さに嫌悪する一誠。
「他所の世界に飛ばされたのも、連中に力を剥がされたのも、どことも知らねぇ野郎に使われているのも、元を辿れば俺自身が弱いからだった。
強ければ、こんな事にはなりゃあしねぇ……ふっ、本当に弱いってのは罪だぜ」
弱いから無くす。
力が無いから抵抗も出来ない。
そして強くなった気でいた自分はとんだピエロだったのだと、個をも失った残骸として自嘲するようにひとしきり笑う。
「何でもかんでもテメー等の思いどおりになると思ってんなよ? テメー等が使ってる駒も何もかもぶち殺してやる」
だが日之影一誠は終わっていない。
完全なる消滅をしない限り、悪魔の執事であり狂犬は何度でもしぶとく立ち上がるのだ。
「……。ある意味敵は『俺自身』と考えれば良い、前の俺自身ってな」
劉備達がやって来たせいで、ますます影が薄くなることを、一誠から地味女その1呼ばわりされてからは気にするようになってしまった孫家の次女こと蓮華とその2こと思春はこの日、炎蓮からの召集命令により、お城の玉座の間に来ていた。
炎蓮から何か話があるのだろうか? とてっきり思っていた蓮華と思春――それからその他未だに一誠と一切の会話をしたことがない面々は、以前初対面の劉備達をド級の下ネタ混じりに罵倒していた時と同じ真っ黒な眼鏡を掛けた一誠が、見たことも無い板(自作した黒板)に、白い棒(自作したチョーク)を片手に待ち構えていた事にひたすら驚かされた。
「これは一体?」
「何故日之影が……」
「炎蓮様に呼ばれたので参じたのですがねぇ~?」
「私もそのつもりで参じたのですが……」
いつの間にか内装が変わっている玉座の間に困惑する蓮華達は、既に来ていた炎蓮、雪蓮、小蓮、冥琳、雷火、祭、粋怜、梨晏達が横に長いテーブルに座っているのを確認すると、黒板の前に立っていたグラサン一誠が口を開く。
「あらかたの面子は集まったか。
おい、アンタ等はコイツ等の後ろのテーブルに座れ」
「え、あ、はい……」
「な、なんなんだ?」
「というか今、普通に私達に向かって話してませんでした?」
「た、確かに……」
座れと、何気に初めてまともに口を聞いてきた一誠に、驚きつつも言われた通り座る蓮華達。
全員が着席したのを確認した一誠は、早速とばかりに自作した黒板に自作したチョークを駆使し、冥琳や雪蓮に教わってある程度扱えるようになった文字を書く。
そして書き終えると、再び席に座る女性達の方へと向き直すと前側の席に座っていた小蓮を呼ぶ。
「小蓮、なんて書いてるか読めるか?」
「? えーと『日之影一誠の力について』……で良いの?」
「正解だ小蓮! 1ポイントゲッツ!!」
『………………』
「えっと、よくわからないけど…………わーい!」
普段の一誠とは思えない妙な様子に、実は蓮華達と同じように殆ど内容も知らされずに呼び出された炎蓮達が変な奴を見るような目でグラサンをかけている一誠を見る。
「おい一誠」
「んぁ? なんだね炎蓮さん?」
「(ば、ババァ呼ばわりじゃない……だと……?)……。いや、突然オレ達を呼び出した理由をそろそろ教えて欲しいんだが―――」
「今小蓮に読ませた通りだろ。聞いていなかったのか? 残念! 炎蓮さんマイナス1ポイントォ!!」
「ま、まいなす? ぽいんと?」
(あ、あらら……母様が困惑しているわ)
(一体どうしたというのだ一誠は?)
(なんか変……)
おかしなテンション過ぎて酒でも飲んでるのかと思うくらいハイになっている一誠に全員が困惑する。
「改めるとだ、考えてみたら俺はアンタ等に俺の力の根元を言ってなかった事を思い出してな。
で、それとあの金髪のチビ女――曹操つったか? アレの所に居る天のなんたらと関係している可能性があるから、まずは俺の力についての説明を踏まえて言って置こうと思ってな」
『!』
妙なテンションとはいえ、その言葉には全員反応を示す。
「あの妖術の事か?」
「それも含めてだな。
別に完全に頭に入れなくては良い。あくまでも『そういうものだ』と頭の片隅にでも置いてくれればそれで良い」
「確かに興味あるわね……」
「出来れば先にシャオにだけ二人きりの時に教えて欲しかったけどなぁ……」
「早く教えてよ一誠~!」
(日之影の力の根元……)
(こ、これを知れば私も……!)
(そう言えば何故日之影さんが妖術を使えるのかは知りませんでしたね~……)
(こ、これを知れば私もお猫様の肉球に踏んで貰えるのかも……!)
小気味の良い黒板を叩くチョークの音と共に一誠が簡易的な絵と共に異常や魔力についての説明を書いていく。
「まず前提として、俺が魔力――アンタ等で云うところの妖術ってのを扱えるかについては至極単純―――死ぬほど鍛えたからだ」
「鍛えたから?」
「待て一誠、それはつまり鍛えれば私達も同じような力が扱えるのか?」
「待て、その質問は俺の話を聞いてからにしてくれるか?」
鍛えただけで妖術が扱えるようになったと聞いて、思わず質問する冥琳達に落ち着けと促しながら、一誠は黒板に
「人間は一人一人その人間が持つ性格――『個性』ってものがある。
例えば雪蓮お前はアホだし、冥琳は頭が良くて冷静沈着……といった具合にな」
「あ、アホ……」
「一誠なりの褒め言葉だと思うぞ?」
アホ呼ばわりされてちょっと凹む雪蓮を慰めながら話を聞く冥琳。
「個性というもなは人それぞれで一人一人違う。
親子であろうが姉妹であろうが完全に同じということは無い。
そして己の個性を本当の意味で知り、受け入れた時に力となる事――それが
「すきる……?」
「要は力と思ってくれて良い。
俺はその個性を力にする事が出来た」
「整理すると、一誠は自分の性格を力に変える事が出来て、その力が妖術を扱う力ってこと?」
「残念だが少し違うな梨晏。
妖術はあくまで個性の力によって鍛えた上での副産物だ」
「では一誠の個性の力とは一体……?」
「俺の個性は―――永遠に自分自身を進化させ続ける事が出来る……いや、だっただ」
割りとざっくばらんながらもスキルの概念を外史の女性達に植え付ける一誠が、自身の個性の力について語ると、あまりピンとは来ていないのか女性達のリアクションは結構薄かった。
「永遠に自分自身を進化ってあまりよくわからないのだけど……」
「ふむ、じゃあ例えば武官の諸君に聞くが、鍛練を続けている際……自分の成長をあまり実感できず壁のようなものにぶち当たるって経験はあるよな?」
『………』
一誠の問いに、思い当たる節がある者は無言で頷く。
特に思春なんかは隣に座っていた蓮華が引くレベルの――ヘッドバンキングしているような勢いで首を縦に振っている。
「俺もそういった壁にぶち当たる経験は何千回もあった。
けれど俺はそういった壁を鍛練や経験を積み重ねる事で無尽蔵に、そして限界無く乗り越えて先の領域に到達することが出来た。
つまり、俺は常人のような『極める』という事が無く、永遠にその先へと進むことが出来たんだ」
「鍛えれば鍛えるほど、苦痛の量だけお前は際限無く強くなれるということなのか……?」
「そういうことだ。
そしてアンタ等が気になる妖術に関しては、その過程で身に付けたものだ」
「ああ、だから副産物だって言ってたのはそういう意味だったんだ
永遠に成長する過程に扱えるようになったって事だね?」
「正解だ。
冥琳と梨晏にワンポンイト贈呈!!」
説明下手な自分の説明をなんとなく理解してくれている冥琳と梨晏に何の意味もないポイントを付与した一誠は、先程ポイントをゲットしていた小蓮と共に自作した紅茶とクッキーをあげる。
「えーと、質問よろしいでしょうか~?」
「ぬ? なんだね……えーと……冥琳の部下1号さん?」
「…………。陸遜ですよぉ~! そして真名は――」
「はい陸遜さん、質問どうぞ~?」
「………」
真名が穏である陸遜を冥琳の部下程度の認識しかしておらず、姓や名すら覚えてなかった事に、内心割りと傷つきながらも、笑顔のまま然り気無く真名を授けようとしたのだが、食い気味に姓と名で呼ばれてしまい、暗に『要らん』と言われた穏は、表情こそ笑顔なもののその両目からはちょっぴり涙が溢れていた。
「ぐすん……質問をつ、続けますね? ひっく……しゃ、しゃきほどから日之影しゃんは……エグッ……ご、ごじしんのお力について『だった』とまるで『過去』のように語って……か、かたって…………ぇ……ぇぇぇ……!」
そこまで明確に、露骨に拒否することはないだろと、今までの事もあり、気丈になって質問しようとした穏だったが、最早途中から呂律が酔っ払いのように回らなくなってしまい、終いには普通にメソメソと泣き出していた。
「????」
そんな穏を周り――特に同じように一誠とまともな会話すら成り立たなかった女子&女性達が慰めるのだが、元凶たる本人は『なんだコイツ?』と、穏をただの情緒不安定女と思うというドイヒーっぷりを遺憾無く発揮していた。
が、しかし冥琳の部下1号であるだけあって分析力は高いらしく、どうやら彼女は自分の言い方に違和感を察していた。
故に一誠は周りに慰められながら鼻をずっていた穏の元へと近寄り、自作のクッキーと紅茶を渡す。
「後半何言ってるのかよくわからんかったが、アンタの質問は良い質問だった。
よって……ワンポイント!」
「ふぇ?」
「「「「「………」」」」」
そう子供みたいな声を出す穏にグラサンで目元はわからないけど、口許だけは無意味に爽やかな笑みを浮かべると、何か言いたそうな顔をする前列席の女性達のジトっとした目を無視して黒板の前に戻る。
「そう、そこの陸遜の質問の通り、俺はそういう個性を
だけど今はその力を殆ど失っている」
「なんだと……?」
「そもそも俺がこの地――いや世界に来たのは、この世界を外史と呼ぶ、見た目がゲテモノでしかない変態野郎が此方の了承も何も無く勝手に俺を元の世界から飛ばしやがったんだ。
………殆どの力を失った状態でな」
そう忌々しそうに口を歪めながら、持っていたチョークを指で砕いてしまう一誠。
「最初はこの世界に飛ばされた影響で力を抑え込まれたと思っていた……」
「お、おいしい……!」
「う……ね、ねぇちょっと一口――」
「お断りしますぅ~ 欲しかったら皆さんも日之影さんにわんぽんとを貰えば良いじゃないですかぁ~?」
「うぐ! そ、そのわんぽいんとを簡単に貰えるのなら苦労はしない!」
「でも違ったの?」
「ああ、アンタ等の世話になりつつ鍛え直せばすぐにでも取り戻せると思っていたが、全体の3割程度で完全に進化が止まった。
そして最近劉備とかいう奴等の話を聞いてからやっとわかったんだよ。
俺はてっきりテメーの力をあの変態野郎共によって制限されていた訳じゃなかったってな。
俺の力は制限ではなく引き剥がされて――」
「一口だけ! 一口だけで良いから……!」
「先っぽだけ! 先っぽだけで構わないから……!」
「お、落ち着いてくだはい二人とも!」
「ひ、日之影様のお話が聞こえません!」
「地味女1号&2号!! マイナス1000ポイントぉぉぉぉっ!!!」
割りと真面目に話をしていたのに、何故か蓮華と思春が先程穏にあげた紅茶とクッキーを奪おうと揉み合っていて全然聞いておらず、挙げ句の果てには強引に穏から奪ったのを見た一誠は燕尾服の懐から予備のチョークを二本取り出すと、マイナス1000ポイントと叫びながら二人の額目掛けて弾丸のような速度で投げつけた。
「「あぎゃん!?」」
弾丸のような速度で投げつけたチョークが蓮華と思春の眉間にクリーンヒットすると、そのまま二人は女の子が出しちゃいけない断末魔と共に白目を剥きながら、これまた女の子がしちゃいけない表情のまま椅子からひっくり返り、いつぞやの趙雲の時みたいに死にかけのカマキリのように痙攣するのだった。
「うっわぁ……」
「あれは痛いぞ……」
「投げつけた白い棒が砕けてるの……」
そもそも蓮華と思春らしからぬ行動に驚きつつも、今は一誠のお喋りの邪魔はしないようにしようと炎蓮ですら固く決める。
「話を戻すぞ。
つまりすっげー簡単に言うと今の俺は常人に多少毛が生えた程度でしかないって訳だ。
で、問題はここからだが、引き剥がされた俺の個性の力が今どこにあるかだ」
真面目な様子で話をする一誠が、ここで始めてグラサンを外しながら言う。
「劉備共の話を照らし合わせた結果、俺の個性の力の大半は今例の天のなんたらが持っていやがる」
これまでとは違って、戦えばただではすまされないという現実を。
「しかも、推測するにあの天のなんたらとかいう野郎は俺の個性の力を他の連中にも分け与えてる可能性がある」
「なっ!?」
「そ、そんな事が出来るの!?」
「………。俺の個性は認めた相手を引き上げるという副産物があったからな。
あの野郎、多分それに気付きやがったんだろう、劉備達が言うにはただの一般兵ですら呂布並の強さだったらしいからな……」
「あ、あの呂布と同等じゃと?」
「……。俺ならまず考えもしない使い方だよ。
まったくもって気に食わねぇ」
敵となる存在はかつての一誠の写し鏡のような存在だということを……。
補足
グラサン掛けるとコミュ障がちょっと治る執事。
ちなみに、没にしたけど本当は『自作したロン毛のヅラ被って登場』し、『このばかちんが~』とか『人という字は~』とかワケわからん話を交えてレクチャーするみてーな悪ふざけに走ろうかと思ってた。
充分これも悪ふざけなんだけどね。
敵は日之影一誠としての過去そのもの……みたいな?