色々なIF集   作:超人類DX

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続き

遊んでます


執事と幼女

 

 

 

 時折夢を見る。

 

 自分の夢でも無く。知っている人達の夢ですら無い。

 

 誰かの中から観ているような夢を。

 

 

『やあ、キミが◯◯◯君だね? 僕はサーゼクス、今日から僕がキミの面倒を見るように◯◯◯さんから頼まれたんだ』

 

 

 血を連想させるほどに鮮やかな赤い髪をした恐ろしいほどに美形の男がにこやかに――多分目線的に子供だと思われる者に対して挨拶をする。

 

 けれどオレではないオレはそんな男の言葉を全く信じようとせず、何故か男に対して喧嘩を吹っ掛け……。

 

 

『いててて……久しぶりに心の底から驚かされた。

彼女が言うにはまだキミは『自覚』をしたばかりだと聞いていたんだけどな? まさか肋の骨を折られるなんて……。

何時以来かなぁ……? 僕がまともな傷を負ったのは』

 

 

 圧倒的な力の差に敗れ、何故か嬉しそうな顔をする赤髪の男に連れていかれる子供。

 そして赤髪の男によって連れていかれた場所はあまりにも巨大で、あまりにも荒唐無稽で、それこそこの外史のような場所だった。

 

 悪魔という空想めいた種族達が蔓延る世界。

 悪魔である赤髪の男とその家族達によって迎え入れられた人間の子供。

 

 他人を信じようとせず、誰彼かまわず噛みつこうとする狂犬のような子供に対して、その狂犬っぷりを封殺する勢いでかまい倒す悪魔の母や女達。

 

 そんな悪魔達のもとで育っていった子供は燕尾服に袖を通した青年へと成長していく。

 

 

 ああ、そうだこの夢はきっとオレが与えられた力の元の持ち主のものだろう。

 誰にも負けたくないという意思を形にしてみせた……オレにとってのオリジナルとなる男の――――

 

 

「……………」

 

「どうかしたの一刀? 最近妙に難しそうな顔をしているけど」

 

「ちょっと色々とな……」

 

 

 最近頻繁に見るようになった夢のせいで、オレはまだ直接会った事もなければ、話をしたこともない彼に対して確信が持てなくなりつつあった。

 あの……思い出すと正直胸焼けしかしない自称・貂蝉が言うことをそのまま信じてここまでやって来たが、あの夢がその通りだったとしたら、彼は本当にこの外史を破壊する為に誰かに送り込まれた存在なのかと思ってしまう。

 

 

「一刀! 貴様、華琳様の前でそんな間抜けな面をするじゃあない!」

 

「わ、わかってるよ春蘭! た、ただ最近不安なんだよ……」

 

「? 何がだ?」

 

「……。このまま進軍を続けていたら間違いなく大きな戦いになる。

そうなったら孫堅や、孫堅達の所に身を隠した劉備達と戦う事になるだろう?」

 

「まあ、向こうが無条件に降伏しなければそうなるな」

 

「ああ、オレの予想としてはまず間違いなく抵抗してくる。

そうなれば間違いなくあの男も……」

 

「悪鬼か……」

 

「ああ……。

正直奴の強さは予想がつかない、妖術を扱うというのも不気味だし……」

 

 

 数千規模の敵軍を一瞬で跡形も無く消し去ったという話があると思えば、敵の本拠地を一瞬で氷付けにして無力化させたという報告もある。

 それは彼の力を持ってからは死にたく無い一心で修行をし続けたオレでは使うことが不可能だった力であり、あの夢が本当だとしたらその力は彼を育てた悪魔達の持つ『魔力』というものである。

 

 

「そんな事を悩んでいても仕方ないわよ一刀。

貴方にも同じ力があるし、正直貴方のお陰で私達は私達の知らない可能性を引き出せるようになったもの。

決して彼一人に負けるような私達ではないわ」

 

「華琳さまの言うとおりだ! 悪鬼だか狂犬だか知らんが! 私にかかればそんな男なぞ一撃で斬り伏せてくれる!!」

 

「流石は姉者、何時も通りに前向きだなぁ……」

 

 

 確かに華琳の言うとおり、相手が並の相手ならこんなに難しく考える必要なんて無いくらいにはオレ達は強くなった。

 特に何事においても天才肌な華琳や、華琳の為に命を張れると豪語している春蘭といった者達も明らかに人間離れしたものを掴んでいる。

 だがそれは多分あの男と共に居る孫堅達も同じだろう。

 それに、気付いているのかどうかはわからないが、もしもあの男がオレが持つコレの事を知ったらどうなるか……。

 

 

 

「わかってるさ。

死なない為にもここまでやって来たんだからな」

 

 

 直接会ったことも無いし、話をしたこともない。

 けれど本来彼が持つ力を見ず知らずの男であるオレが持っているばかりか、大いに使っていると知れば、きっと彼はオレを許しはしないだろう。

 

 だけど、オレももう止まることは出来ない。

 ただ未来から事故のような理由でこの外史に来てしまっただけの男のままだったら、きっと華琳達はオレに価値なんて見出だしてなかった。

 オレに力があったからこそ、華琳達はオレを受け入れてくれた。

 

 

(恨みは無い。でもオレはお前に勝たなければならない)

 

 

 負けて失う事になれば、オレは見捨てられる。

 だから何としてでも勝って、この力を完全なものにする。

 

 自称・貂蝉との取引の為にな……。

 

 

「恨みは無いけどオレはアンタに勝たせて貰うぞ。

オレも今更引き返すわけにはいかないんだ」

 

 

 

 

 

 

 根本的な人格自体に問題は無いにせよ、精神の大半を持っていかれたという影響はやはり大きいと痛感しているのが日之影一誠の現在である。

 

 

「ふ、ふん! ババァなんぞ怖かねぇ! 本当ならあんな事された時点でバラバラの肉塊に変換させられてたんだ! だけど殺っちまったら戦力が減るからと思って敢えてやらなかったんだよ!!」

 

「そうねぇ、一誠は優しいものねぇ?」

 

「わかるぞ一誠? なんだかんだでお主にはそういうところがあるものなぁ?」

 

「あぐっ!? や、やめろ……そのニヤケ面をやめ――」

 

「だが、その後雪蓮達にめそめそと泣きついてたのは事実だろ? あー、オレも聞きたかったなぁ? 生娘みてーな反応するお前が?」

 

「――――…………………野郎ぶっ殺してやるゥゥゥゥッ!!!」

 

 

 

 精神の大半を削られたせいか、それとも胃もたれするレベルの濃いキャラクターをした面々達のせいなのか。

 最近の一誠は元の時代での全盛期の頃よりも更に特定の女性に対して弱くなるという変な特性がより強くなってしまっており、先日あった粋怜との件が特にそうだったわけで……。

 

 

「落ち着かぬか一誠! 挑発に乗るんでない!」

 

「母様も要らない挑発しないで頂戴!」

 

「こういう時の一誠は繊細です故……」

 

 

 炎蓮からの挑発につい、どこぞのコマンドーの悪役みたいな顔と共に飛びかからんとする一誠を雪蓮達が必死になって止める訳だが、咎められた本人である炎蓮は愉快だぜとばかりにヘラヘラ笑っている。

 

 

「覚えてろよババァ共……! 今に絶対後悔させてやる」

 

「なんだ? 閨事でオレを足腰立たなくなるまでヤるってか? 構わないぞオレは?」

 

「あらやだわ~ 一誠の若さに負けちゃいそうねぇ~?」

 

「想像するだけで恐ろしいのぅ~?」

 

 

 何を言っても、どんな暴言だろうとヘラヘラ笑いながら受け流す肉食ババァ三人衆(一誠命名)に一誠は物理的な意味ではない敗北感に歯噛みする。

 

 

 

「クソが!!」

 

「あ、一誠!」

 

「何処へ行く気だ!?」

 

「ちょっと頭冷やしてくるだけだ! 誰も俺に近づくなよな!!」

 

 

 呼び止めようとする雪蓮や冥琳達にそれだけを言うと大股で出で行く一誠。

 

 

「ちくしょう、削られてるせいかなんだか知らないが、下らねぇことで一々精神が揺れやがる……!」

 

 

 啖呵を切るような形で城を飛び出し、すれ違う面々に別に偉い地位になってるわけでもないのに何故か頭を下げられて絶妙な居心地の悪さを感じつつ、とにかく人の居ない場所を目指して歩く一誠は、最近になって自分の精神がちょっとしたことで動じるまでに貧弱化している弊害に苛立つ。

 

 

「女の裸体だのなんだので一々ブレてんじゃねーぞボケが……!」

 

 

 粋怜にされたことに対して、情けなくなるくらいに精神的に同様させられた事が余程ショックだったのか、自分自身に対して罵倒の言葉をぶつける一誠。

 完全な精神のままであったのなら、高々あの程度の事で精神を揺らす事なんて無かった――と、本人は思っている様だが、正直そこに関してはあまり変わらない―――という現実をどうしても認めたくはないらしい。

 

 

 

「こんな姿、サーゼクスの野郎には絶対に見られたくねぇ……」

 

 

 

 本家本元や、無数に枝分かれした世界の一誠の性格ならば寧ろ『ありがとうございます』と泣いて喜ぶような状況でも、兵藤一誠としての精神のほぼ全てを捨て去った日之影一誠にとってすれば寧ろ己の精神の脆さに怒りがわいてくる。

 

 

「シッ!」

 

 

 とにかく今は身体を動かし、強さの邪魔になる煩悩を消し去ろうと一心不乱にトレーニングを始める日之影一誠は――まさに思春期の真っ只中なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 凄まじく不機嫌そうな顔をしながら一人町の外へと歩いていく姿が目撃された―――という、情報を偶々町の散策中に聞いた蜀所属の者達は、その目撃された場所を頼りにその後を追ってみる事にした。

 

 

「この森林の中に入っていったみたいだけど……」

 

 

 そしていくつかの情報を元に劉備達は遂に普段はその姿さえ目にすることも難しかった日之影一誠の姿を捉える事に成功し、臼ぐらい森の中へと入ってくその姿をこそこそ隠れながら窺っていた。

 

 

「えーと、皆はどうしたい?」

 

 

 基本的には呉の主要な面々とは合同の訓練だの雑談だのといった事をしているのである程度の面識はある。

 しかし唯一彼とだけは一度目の会談以降、顔を合わせるどころか姿すら見つけることが困難な程だった。

 

 天の御使いを擁する曹操軍に唯一対抗できるかもしれない青年。

 白衣の衣装を纏う天の御使いとは正反対に、漆黒の衣装を纏う青年。

 正直気になるかならないかで言えば気になる。

 顔色ひとつ変える事無く、身内の中では最強格であった愛紗や星を一方的に叩きのめす程の武は決して嘘とは思えない。

 

 

 というか何よりも――

 

 

「当然追うのだ」

 

「も、もしかしたら日之影さんの強さの秘密を知ることが出きるかもしれませんからね!」

 

「あくまでこれは私達の未来の為ですから!」

 

「う、うん……そうだね?」

 

 

 初邂逅と初試合以降、義姉妹の契りを交わした一人である張飛こと真名を鈴々やら諸葛亮こと朱里やら、凰統こと雛里といった――共通点があるとするなら見た目がまんま少女な少女達が異様なまでに日之影一誠の動向を気にしているのだ。

 今のこの行動にしても、町の散策中に彼が町の外に機嫌悪そうな顔で出ていったと、呉の警備隊の兵隊さんが『慣れた様子』で話しているのを聞いたその瞬間、目の色を変えた三人に付き合わされたようなものだった。

 

 

(妙に気になるみたいだけど、不思議な事に何故かはわからないせど私も気になるんだよなぁ……日之影さんの事)

 

 

 そんな劉備こと桃香も実は内心、日之影一誠のことが妙に気になる者の一人であったりする。

 言えばそれだけで大騒ぎというか、愛紗辺りが誤解して彼に喧嘩を吹っ掛けてしまいそうなので言わないでいるのだが、何故か桃香は彼と彼が着る不思議な衣服(燕尾服)に対して妙な胸のざわめきを感じるのだ。

 

 

「じゃあ入ってみようか?」

 

 

 そのざわめきが何なのかはわからない。

 けれど不思議な事にそのざわめきに不愉快なものは感じない。

 

 

(変なの、こんなに気になるなんて……)

 

 

 不愉快ではないからこそ、彼が気になる。

 ある種の本能に従う様な形で薄暗い森の奥へと歩み出した桃香、鈴々、朱里、雛里は少し歩きにくい獣道に時折足を取られて転けそうになったりしながらも更に奥へと進んでいき――

 

 

 

 

 

 

「ねーねーおとーさん、璃々お腹すいた~」

 

「黙れクソガキ!! 誰と勘違いしてるか知らねーが俺はお前の親父じゃねぇ!!」

 

 

 何故か知り合いの娘と共に居る日之影一誠を発見するのであった。

 

 

「ぶっ!? り、璃々ちゃん!?」

 

「な、なんで璃々が居るのだ!?」

 

「し、しかも日之影さんと……」

 

「いつのまに……!?」

 

 

 

 何故か仲間の娘が先んじて彼の元へと来ている事に驚く桃香達だが、それ以上に記憶の限りでは一度も顔を合わせた事なんて無い筈の璃々が、何をどこで間違えてるのか知らないが、一誠をお父さんと呼んで懐きまくっているところだろう。

 

 

「むー……がきじゃなくてりりだってば~」

 

「うるせぇ、知らんガキに配慮するほど人間デキてねぇんだよ俺は」

 

「でもおとーさんの後をついていっても、おとーさんはりりのこと抱えてくれたもん……」

 

「知りもしない他所のガキに怪我されて、親にクレームつけられたくねーんだよこっちは。

あーもうめんどくせぇ……!」

 

「くれーむ?」

 

 

 見知らぬ幼女に懐かれて心底面倒な顔をしている一誠だが、対応そのものは素であるような気がすると、思わず隠れて覗く桃香達はまさか璃々に一番乗りされるとは思わなかったと、絶妙に悔しい気持ちになりつつも声をかけるタイミングを窺う。

 

 

「チッ……腹減ったとか言ってたなオメー? ったく、なんでこの俺が見ず知らずのガキの空腹なんぞ気にしなきゃなんねーんだ? おら、これ食って良いから騒ぐなよな」

 

「え、いいの?」

 

「ガキにぐずられるのが嫌なんだよ俺は」

 

「ありがとうおとーさん!」

 

 

 

 

 

 

「………。思ってたより璃々ちゃんに優しいんだね日之影さん」

 

「思ってた以上なのだ……」

 

「口では悪態ついてますけど、ずっと璃々ちゃんが怪我をしないかを気にしてます……」

 

「食べ物もちゃんと分けてあげてます……」

 

 

 

 口ではガキだなんだと悪態付く一誠だが、行動そのものは子供である璃々に対する配慮が普通に見えた桃香達は、ここに来て彼は子供に対しては優しいのではと思う。

 その予想はそのままの正解であり、腹を空かせた璃々に自作の保存食を全部与えているし、食べる璃々を見ながら『ちゃんと良く噛めガキ』と言ってもいるし……。

 

 

「おら」

 

「これは……?」

 

「林檎を蜂蜜に浸けたもんだ。前に蜂蜜中毒のガキの勢力とやりあってぶちのめしてやった際に、そいつが隠し持ってたのをそっくりそのまま奪ったもんを使ってる」

 

「ふーん……? あ、甘くておいしー」

 

 

 なんか普通に美味しそうな果物まで食べさせてるし……。

 

 

「美味しかった、ありがとうねおとーさん?」

 

「だから俺はオメーの親父じゃねぇ。

つーかそんなに似てるのか?」

 

「さー? りり、おとーさんの顔知らないもん」

 

「………………………。悪い」

 

「? どうして謝るの? りり気にしないよ?」

 

 

 なんかどんどん態度が軟化してるし……。

 

 

「んー……りり眠くなってきた……」

 

「……………………」

 

「ほえ? どうしたのおとーさん?」

 

「乗れ。仕方ねーからオメーを親元に届けてやる。

ったく、手間のかかるガキが……」

 

 

 果てには眠いと言い出す璃々を背中に背負い、森を出ようとするし……。

 

 

「な、なんだか完全に先を越されちゃったね?」

 

「「「…………」」」

 

 

 完全に出る幕を失ってしまった桃香は、絶妙に泣きそうな顔をしている三人に乾いた声で笑いかけるしか出来なかったのであった。

 

 

「えへへ、おとーさんの背中あったかーい」

 

「はぁ……俺も甘くなったもんだぜ」

 

「?? ぺろぺろ」

 

「っ!? お、オイコラガキ! 何してんだコラ!?」

 

「? だっておとーさんが甘くなったって言うから、甘いのかなって……」

 

「そういう意味じゃねーわ!?」

 

「甘くはなかったけど、おとーさんって良い匂いがしてりり好きだよ?」

 

「ミリキャスや小蓮みてーな事を言いやがって。

やっぱりガキってのは意味がわからねぇわ……」

 

 

 結局一度も声を掛ける事が出来ずに町へと戻った桃香達は、そ知らぬフリをして璃々を探してました的な風を装って一誠に近づく作戦へと変更することになる。

 

 

「り、璃々ちゃん! よ、良かったぁやっと見つけた!」

 

「………………」

 

「あ、あの……! どうしてかはわかりませんけど、日之影さんが璃々ちゃんをみていてくれたんですよね? その、ありがとうございます!」

 

「………………………………………」

 

「う……。(ま、全くの無表情でなんの返事もしてくれない……)」

 

 

 すやすや眠る璃々をおんぶしながら町を歩いていた一誠に、演技混じりに近寄ってお礼を言う桃香だが、璃々と接していた時が嘘だったかのように一誠は石像の様に無表情だった。

 

 

「なあ兄ちゃん? 璃々は紫苑の娘なのだ」

 

「紫苑さんのもとまでご案内しますので是非ご同行して頂けませんか?」

 

「で、出来れば細やかなお礼なんかも……」

 

「……。待てチビ共。

今お前らが口に出したそれは真名じゃないのか?」

 

「鈴々ちゃん達が呼んでいる方は黄忠さんです。

お会いになったことは……?」

 

「……………………………………………………」

 

「黄忠と会ったことはあるのか兄ちゃん?」

 

「いや無い」

 

「…………。(な、なんで私の事を無視して鈴々ちゃん達とは普通に話すの……!?)」

 

 

 挙げ句の果てに自分の言葉に対しては返答しないとに、鈴々達に対してはぶっきらぼうながらも返すものだから、桃香からしたら理不尽な気分でちょっと泣きたくなる。

 

 

「とにかく案内するからついてくるのだ!」

 

「……。いや、このままお前等にこのガキ渡して帰りたいんだが……」

 

「しかし眠っている璃々ちゃんは日之影さんの衣服を握っていて離してくれそうにありませんよ?」

 

「せっかく眠っていますし、無理矢理起こすのは可哀想ではないかなー……なんて?」

 

「………………………。チッ、どこまでも手間の掛かるガキが。

だったらさっさと案内しろ、こうなりゃあコイツの母親に一言文句言ってやる」

 

 

 結局桃香だけが何故かガン無視される形となり、鈴々、朱里、雛里の三人に案内される一誠を見てガックリと肩を落とした桃香。

 すると、どこから見ていたのか……そんな桃香の肩を軽く叩く二人組の女子が。

 

 振り向いてみるとそこには孫権こと蓮華と甘寧こと思春が生暖かい目で桃香を見ており……。

 

 

「わかるわよ劉備……」

 

「私達も普段奴にはあんな態度しかされないからな……」

 

「そ、孫権さんと甘寧さん……」

 

 

 皮肉な事に、一誠にガン無視される者同士というよくわからない理由で勢力を越えた同志と出会うのであった。

 

 

 そして結局は敵意の無い子供に対して非情になりきれない一誠は、眠る璃々を親元(ババァ三人衆と同じ匂い)がする黄忠という妙齢の女性へと届けたのだが……。

 

 

「まあ! 貴方様が私の娘の面倒を……!? それは大変ご迷惑をおかけしました……!」

 

「…………………」

 

 

 大体劉備の知り合いって時点で察してはいたが、一誠は現在劉備達に与えた居住区のど真ん中に初めて足を踏み入れ、絶賛何事だと沸いて出てくる蜀面子の視線に晒されてむちゃくちゃ吐きそうになっていた。

 

 

「つきましては、日之影さんに是非お礼をしたいと思うのですが…」 

 

「それはいい考えね!

ウチの娘も日之影さんを気に入ってくれているようだし……」

 

「うん。りりおとーさんのこと大好きになっちゃった!」

 

『お、お父さん!?』

 

「まあ……。

大分うちの娘がご無礼を……」

 

「…………………………………………」

 

 

 璃々の余計な一言に予想通りなリアクションをする良く知らん蜀面子達はさておき、よくも知らん野郎を掴まえて勝手に親父呼ばわりする娘に対して黄忠なる女性のリアクションに拒否感情があまり見えない。

 

 いや寧ろ璃々の一言を切っ掛けに、一誠を上から下までじーっと見つめ出す始末。

 その視線にとうとう耐えきれなくなって来た一誠は、その場でリバースする――というのが大体のお約束だが、それは以前までの事であり、今の一誠にはある種の切り札があった。

 

 そうそれはグラサンを掛けることでの『全員悪人モード』である。

 

 そもそもこんな場所まで璃々を送り届けたのも、親に対して文句を言ってやりたかったからであり、早速とばかりに胸ポケットに仕込んでいた自作グラサンを掛ける。

 

 

「なんだテメーコノヤロー? ウチのシマでガキを好き勝手させた挙げ句そのケツまで俺に拭かせて礼で済むと思ってんのかバヤカロー?」

 

「え……」

 

「お、おとーさん?」

 

 

 一瞬で輩丸出しの口調と、周辺を黙らされる殺意を滲み出す一誠に、その場の全員が一斉に口を閉ざす。

 

 

「そ、そう……でしたね。

ええ、確かにご迷惑をおかけしました……」

 

「それをテメーはさっきからヘラヘラしやがって………何が礼だコノヤロー!!!」

 

「ぅ……」

 

『……』

 

 

 それまで普通ににこやかにしていた黄忠は当然、璃々ですら母に対して輩丸出しの罵倒をぶつける一誠に声が掛けられず黙ってしまう。

 

 

「も、申し訳ございませんでした……」

 

 

 当然こうなれば謝罪しかないと黄忠は頭を下げるのだが、全員悪人モード状態の一誠は容赦をしない。

 

 

「そんな価値のねぇ頭下げた程度で済むと思ってんのかバカヤロー? テメー俺に喧嘩吹っ掛けておいてすいませんで済ませるってか? 舐めてんのかゴラァ!!!」

「う……で、ではどうすれば……?」

 

「当然指――いや利き腕一本と言いてぇが……」

 

「べぶっ!?」

 

 

 そのままの流れで指詰めでもさせようと考え掛けたものの、それをやると色々と拗れる気がしてきたので、代わりに死なない程度に手加減した張り手を黄忠の横っ面にお見舞いし、彼女の身体をきりもみ回転させながらぶっ飛ばした。

 

 

「な、なんて事を……! き、貴様! いくらなんでもこれは―――」

 

「あ゛? じゃあテメーがそれの代わりその利き腕もいでみるか? そうすりゃあ丸く収めてやるが?」

 

「う……」

 

 

 きりもみ回転しながら頭から地面に落ちた黄忠が泡を吹いて気絶している様を見て抗議しようとする者が出てきたが、チンピラそのものの声で黙らせる。

 一気に尻込みしてしまうその者に対して鼻を鳴らした一誠は、泣きそうな顔をしていた璃々に対して、目線を合わせるように膝を付いてからグラサンを外す。

 

 

「と、いう訳でお前の母ちゃんはこれで許してやる。

今後は勝手にフラフラすんなよな?」

 

「こ、ごめんなさい。

りりのこと嫌いになったよね……?」

 

「別に嫌いにはならねーよ……。ガキはガキらしくしてりゃあ良いしな。

だだ俺は、テメーのガキほったらかしてヘラヘラしてたお前の母ちゃんの態度にちょっと腹が立っただけだからな」

 

 

 少し泣いている璃々の頭を撫でながら、少し柔らかい声色で言った一誠は再び立ち上がると、気絶している黄忠を一瞥してから、声が出せない周囲の面々に向かって最後に一言。

 

 

「そこで伸びてるオバハンが起きたら言っとけ、次またテメーのガキを迷子にさせたら、この程度じゃあ済まさねぇってな」

 

『…………』

 

 

 それだけを言ってその場を去る一誠に、蜀の面々はすっかりお通夜状態となるのであった。




補足

子供には甘いが、親の責務を疎かにする親にはグーで殴るタイプ。
それが執事。


……まあ、サンプルが悪魔家族だからね
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