夢を見る。
オレ自身ではない、誰かの視点となる夢。
事故で死に、所謂神と呼ばれる存在によって別の世界に転生をした男の夢
別世界にて主人公として成り代わる為に転生した男の夢。
本来の主人公が持つ力、容姿、家族のの全てをそっくりそのまま手に入れた筈だった男の夢。
しかし男にとって―――いいや、きっと男を転生させた神にすら誤算だったのは、成り代わった相手が『生きていた』という点だろう。
名前も顔も、肉親も失い、存在すらも消え去る筈だった子供が悪魔によって再起し、新たな『個』として再び這い戻ったのだ。
当然転生した男は焦りと恐怖を抱いた。
間違いなく奴は自分を恨んでいると。
だからその前に殺してやると決意を固めた矢先、悪魔達によって再起を果たした青年はそんな男を――
『最近、主が管理する町に見知らぬ堕天使やらが侵入してきていると聞いたが……』
『ひ……ぁ……が……!』
小道に落ちていた石を退かすかのように。
なんの感慨も感情も、殺意も無く作業のように男と、男が転生してから培ってきた全てを『破壊』した。
『あー、リアスか? 例の堕天使共は全員殺したんだが少し邪魔が入った。
ああ、問題ない―――思ってたよりクソ雑魚だっただけだ』
簡単に他の命を奪う青年は、自分が手にかけた屍の山達を前に平然と誰かと電話しており、やがてその通話が終われば、続きだとばかりに既にまともに戦えなかった男や、そんな男をかばおうとする少女をも、わざと苦痛を与えるかのごとく徹底的に痛め付けた。
『人様から奪った人生歩んでおきながら、その程度とか舐めてんのかカス野郎? ……。まあ所詮『自力』じゃない力を持つ奴なんてそんなもんだったという訳か』
『や、やめろ……! ね、狙いはオレなんだろう!? アーシアは関係な――』
『したっぱの堕天使共と何かやろうと共謀している時点でテメー等の判決は決まってんだよボケが。
今から迅速に殺戮してやるから、黙って死ね』
女であろうが、子供であろうが、戦えなくなろうが……。
燕尾服を着た青年―――日之影一誠は簡単に他を傷つける。
これはきっと、彼がこの外史に来る前の過去の夢。
気に入らない奴は誰であろうと噛みつき、誰であろうと残酷に痛め付ける夢。
『……さて』
最近、そんな夢を頻繁に見るようになった理由はわからない。
同じ力を持つという共通点がそうさせているのか、それともオレにこの力を渡した自称貂蝉からの警告なのだろうか……。
まだオレにはわからない。
けれど最近は夢を見ると、同じ最後を見るようになった。
それは屍に囲まれている日之影一誠が真っ直ぐ――禍々しい殺意に染まった瞳で此方を――――いや、間違いなくオレ自身を睨むのだ。
『テメーも必ずこうしてやる。
くくく、意図してようがしてなかろうが、免罪符になると思うなよカス野郎。
――――――人様の精神に土足で踏み込んできた挙げ句盗みをした輩は例外無くぶっ殺す!!』
憎悪、怒り、殺意。
日之影一誠の力を使うオレに対する日之影一誠からの宣戦布告。
『心配するなよ。
テメーだけじゃなく、テメーの取り巻き共も纏めてバラバラの肉塊にしてやるから地獄でも寂しくねーぜ? くくくくく!』
悪魔のような笑みと悪意に満ちた宣戦布告。
それが最近見るオレの悪夢……。
間違いなくオレという存在を否定しようとし、決して相容れない男との殺し合いの予兆……。
今まで神器とは全く無縁な人生だった日之影一誠は勿論神器の使い方なんて聞いた程度しか知らない。
『今からお前の魔力を『倍加』させる』
「………………」
しかし代わりに異常性という己の個性を武器にしてきた一誠の感覚からすれば神器の扱いはまさにそれに近い事に気付く。
その証拠に広大な河の畔にしゃがんだ姿で水面に右手を手首程まで入れていた一誠は、左腕に纏われている『少々色褪せている赤龍帝の籠手』の基礎能力を――
『Boost!』
「verセラフォルー………
己の貧弱した出力を底上げさせる為として早速使いこなし始めていた。
「……………」
『どうだ一誠よ?』
「確かに素よりは大分出力そのものが上がってる。
なるほどな、これが神器か……」
広大な運河を広範囲に渡り一瞬で凍結させた一誠は、真っ黒な頭髪とシトリー姉妹を彷彿とさせるアメジスト色の瞳の状態で真っ白い吐息と共に魔力の行使のものが倍加した感覚を身体に覚えさせる。
「何時見ても凄いわねぇ……」
「綺麗~」
そんな特訓中の一誠の後ろでは、先日『引き上げられた』女子達が見ており、河を一瞬で真冬以上に凍結させる一誠の魔力に感嘆の声を出していた。
「だがそれでもフルパワーには程遠い。
所詮セラフォルーの猿真似だからというのもあるが、アイツなら本気でやれば大陸全土やわ――いや世界そのものの時間すら氷付けにできるだろうからな……」
とはいえ本人は出力そのものが上がりはしたものの、満足の行く範囲を凍結させられなかったことに力不足を痛感しているらしく、二度程手を叩いて凍結させた河を解凍しながら、もっと広範囲に及ぶパワーを模索する。
『お前さえ良ければだが、オレに提案があるのだが……』
「あ?」
そんな一誠に、ドライグが提案をする。
それはドライグにとっての相棒であった『一誠』の戦闘スタイルについてだった。
リアスとの精神と肉体的な繋がりにより掴んだ消滅の魔力を織り混ぜた赤龍帝式戦闘技術。
そして彼が『必殺技』として愛用していたアレを……。
『アイツがガキの頃よく親父と見ていたアニメの主人公の必殺技をそっくり真似たものなのだが……。
ドラゴソボールは知っているか?』
「…………。ガキの頃セラフォルーんところで良く見た覚えはあるが……。
まさかそっちの俺とやらはそんなのを使ってたのか?」
『まぁな。だがこれが結構オレの倍加と相性が良くてな。
鍛えぬいた結果、全力で放てば星そのものを破壊する規模にまで至れた』
「…………」
懐かしむようや声色で話すドライグに、一誠は当時見ていたアニメのことを思い出しながら徐に構えてみる。
そしてアニメの主人公が叫んでいた技の名前を口にしながら前方に向かって両手を突き出す。
「ドラゴン波」
するとかなり小さい――ピンポン玉のようなサイズの球体から糸ミミズみたいな光線がちょろりと両手から放たれる。
「…………できたのか?」
『流石だな! 世界も育った環境も、歩んだ人生も違えどお前はやはり一誠だ!
よし、もう一度やってみてくれ! 今度はお前に合わせてオレが力を貸すぞ!』
「あ……ああ」
ハイハイしていた赤ん坊が初めて自分の足で立ち上がった時の父親みたいなテンションに若干引きつつも今度は両手に生成した魔力を先程よりも強く練り上げてから構え、ドライグの倍加と共に撃ち放つ。
「………」
すると明らかに先程とは比べるまでもない威力の光線が河の水面を割りながら放たれ、河の向こう側にあった小規模の岩山を巨大な爆発音と共に破壊する。
「「「「……」」」」
「…………」
突然今まで見たこと無い光線を放って岩山を消し飛ばしたともなれば、後ろで見ていた雪蓮達もぎょっとするわけだが、一番驚いているのは実は撃った本人だったりする。
『殆ど初の実践でここまでの威力を出せるとはな。
ふふふ……流石だ一誠』
そんな状況の中ドライグだけは我が事のように喜んでおり、ドラゴン波の構えを解いた一誠は『ひょっとしたら、この赤い龍と相棒だった俺の方が強かったんじゃ……』と、少しだけ凹んでいると……。
「………あ?」
突如として全身を強烈な倦怠感が襲い、その場に前のめりでた折れ込む一誠。
「一誠!!?」
急に倒れたと駆け寄る雪蓮達が心配しながらうつぶせに倒れてぴくりとも動かない一誠の顔を覗き込む。
「急に力が抜けた……」
一誠自身もなんで自分が倒れたのかわかっておらず、寧ろ困惑している様子であり、そんな五人に対してドライグが『ふむ』と呟きながら話し始める。
『すまん。
どうやらドラゴン波を使うと体力を大幅に消費してしまうらしい』
「……なんだと?」
「え、じゃあ一誠は別に怪我をしたという訳じゃあないのね?」
『ああ』
「よかったぁ……」
「しかし先程の謎の輝きを放つと倒れる程に体力を使うとなるとおいそれとは使えないな……」
「戦場のど真ん中で使ったりしたらそのままされるがままになっちゃうよ」
どごぞの爆裂魔法使いみたいに、一発で体力を持っていかれるという欠陥を抱えるドラゴン波を習得した日之影一誠。
(オレの残りの意識を対価に、『切り札』を使えば奴等を殲滅することも出きるかもしれんが……)
倒れて動けない一誠が雪蓮、冥琳、小蓮、梨晏の四人に悪戯されている状況の中、日之影一誠として生きてきた一誠の潜在能力が己の相棒であった一誠に匹敵することを確信したドライグは、内心己の残り全ての命を代償とする『切り札』を考えつつ、弱っているスタミナについて真面目に考えるのであった。
それまでは冷酷で異常で、寒気のする恐怖を身を以てという意味でも体感していた。
変な眼鏡(グラサン)を掛けた時だけ口汚く此方を罵り、意図なんてしていないのに『璃々をほったらかしにしたから』という理由で璃々の母親を容赦なくぶん殴る。
全くもって読めない狂犬男。
それが呉へと逃れた蜀な面々の日之影一誠に対する印象だ。
一部の者――見た目が子供な者達はそんな日之影一誠をかっこいいだのなんだのと謎に賛美するが、正直あれのどこにそんな素養を感じるのかが理解できないし、理解したいとも思えない。
それがとある蜀所属の女性武将の日之影一誠に対する忖度無しの印象な訳だが……。
「惚れ申したー!!!!」
とある蜀所属の女性武将は現在、リアルに何故か孫策に横抱きに抱えられた(所謂お姫様だっこ)をされた状態で、『塵を見るような冷めた顔』をしている日之影一誠の眼下にて無駄にスタイリッシュなきりもみ回転を経てのスライディング土下座をしていた。
「日之影殿! ………いや、なんと言うべきか、日之影殿の中? よくはわからぬが日之影殿の中に隠れている御仁! 私は貴方様に惚れました!」
「……………………………」
「ちょっと……こんな人前でみっともないわよ?」
「なに惚れたって?」
「返答次第じゃかなり許せないんだけど?」
「待て。
彼女の様子が明らかに可笑しいし、先程から一誠のことを言ってる訳ではない気がするぞ」
そもそも女に抱えられてる野郎という、なんとも言えぬ絵面に彼らを知る民達の視線は『かなり生暖かい』ものだったのだが、ここに来ていきなり他所の勢力の武将のキテレツな行動を相俟って実に居心地が悪い。
「取り敢えずその格好をやめてもらえるだろうか? どうやら詳しい話を聞く必要もありそうだし、場所を変えさせて貰いたい」
「ぬ? うむ、貴殿等がそう言うのなら私は従おう……!」
「…………」
「なんなの突然?」
「確かこの前一誠に一撃で伸された人だよね?」
民達の視線を敏感に感じた冥琳は取り敢えずこの無駄土下座をする劉備の所の武将を立たせると、人目の無い場所まで連れていく事に。
そして人払いを済ませた部屋へと案内した冥琳達は、まずは取り敢えず先程の件で体力切れして動けない一誠を寝かせつつ改めて爛々と目を輝かせ、犬みてーにソワソワしている女性――趙雲から詳しい話を聞く。
「急にウチの一誠に町のど真ん中で言った言葉の意味を知りたいのだけど……」
「? 私は別に日之影殿に言った訳じゃあないぞ」
「はい? じゃあ誰に言ったのよ?」
「うむ……それが私にもよくわからん!」
ふんすと無駄に胸を張りながら言う趙雲に、雪蓮達は彼女の頭の中がちょっと心配になる。
「日之影殿に関しては異次元の武を持ちながらも、少々変わり者な御仁としか思っていなかった。
だというのに、先程孫策殿に何故か抱えられていた日之影殿を見たその瞬間、それまで日之影殿から感じなかったものを私は感じたのだ。
こう、私が真に求めていたもの……というべきか? 日之影殿ではなく日之影殿の奥底に秘めるナニかを見つけたというべきか……」
「「「「「……………」」」」」
かなり抽象的な発言をしている趙雲だが、逆に一誠達はかなり驚いている事に本人はまだ気付いていない。
(おい、この女……)
『まさか、完全ではないとはいえオレの存在に気付いたのか?』
(一誠じゃなくて一誠に秘めたナニかって――)
(ドライグの事か……?)
(なんで気付いたのよ……?)
当然必要以外は赤龍帝の籠手は纏っていないので彼女に見られていたわけではない。
だというのに彼女は一誠を見ただけでドライグの存在を感覚的に察知しているような様子だ。
「さあ! 理由は話したぞ! 今度は私が知る番だ! 教えてくれ! この胸の高鳴りがなんなのかを!」
「「「「「……………」」」」」
『………』
教えてくれるまで付きまとうぞとばかりに興奮した面持ち趙雲に、雪蓮達は一誠を見て、一誠は纏ってはいない自身の左腕に視線を向ける。
(おい、なんかわからんが、この女はアンタ気配をかなり大雑把ながら察知してやがる。
話しても良いのか? 正直言わなきゃうぜぇことになりそうだ)
『いや、うむ……お前の中からこの外史とやらの世界は見ていたがつくづく不可思議な世界だな……。
生きている人間達も含めて……』
(それは俺も思ったよ。
で、どうする? 別に俺はアンタの存在が周囲に知られても構いやしねぇが……)
『……。オレも構わん。
しつこく付きまとわれてお前達の邪魔になられても困るからな……』
繋がるようになってからは意識内の会話も慣れたらしく、性格は違えど相棒と話しているようで実は内心かなり嬉しいドライグは、自身の存在を彼女に晒す事に同意する。
すると一誠は横になった状態のまま左腕を何故か正座して座っていた趙雲に向けると赤龍帝の籠手を纏う。
「なっ!?」
流石に目の前で起こる面妖きわまりない現象に驚く趙雲。
そんな趙雲に向けて誰のものでもないとても渋く低い男の声が語り掛けてきた。
『一目でオレの存在に気付くとはな小娘? オレに何の用だ?』
威厳を感じるけど、なんかひょうきんさも感じさせる渋いアルトボイスに趙雲は更に驚くがそれも一時の事であり、フラフラとした足取りで立ち上がると、ゆっくりと色褪せた赤い籠手に近寄る。
「アナタが日之影殿から感じた方なのか……?」
『それは知らんが、お前が感じた別の気配が何なのかと言えばオレ以外には居ないな』
「そ、そうか……やはり」
脱け殻のような声と共に赤い籠手の前に膝を付く趙雲。
それを『この女、放置すると面倒な事になりかねないな……』と考える一誠や、『本当に気付いていたのか』と殆ど関わりなんて無かった趙雲に対して微妙な気分で居る雪蓮達に見られながら、彼女はゆっくりと手を伸ばし、赤い籠手を撫でるように触れる。
『?』
「そうか……アナタが……」
嫌に愛しそうに、やっと求めたものに辿り着けたことへの安堵するような表情で籠手を撫で続けた趙雲。
暫しそんな絶妙に気まずい空気が流れ続けた訳だが、そこに来て赤い籠手を撫で続けていた趙雲が突然赤い籠手の甲に施された淡いグリーン色の玉に向かって顔を近づかせ――――――――――
『!?』
「っ!?」
「「「「「なぁっ!?」」」」
舌を出して舐め始めたのだ。
「ちょ、ちょっと趙雲!?」
「なにをしている!!?」
「ん……? ああ、すまないな。
日之影殿から感じていたこの暖かい感覚の主で間違いないとおもってつい……」
「つい……でそんな真似するとは驚いちゃうね」
妙に惚けたような顔の趙雲に、雪蓮達は一誠ではなくドライグに対してとは分かっていても咎める声を出すが、本人は辞めるどころか変なスイッチが入ったが如く左腕の赤い籠手に身を寄せる。
『おい小娘、なんのつもりだ……』
「私は貴方をまるで知らない。
見ている限り貴方は人ではないし、少々複雑な存在なのだろう? しかし貴方から感じるこの気配が実に心地良いのだ。
ああ、そうだ……どうやら私は本当に貴方に惚れたようだ」
「……………………」
「「「「えぇ……?」」」」
そう言ってまたペロペロし始める趙雲に、一誠をもドン引きさせる。
「は……ぁ……♪ 私も自分がおかしくなっている自覚はしている。
しかし貴方はどうしようもなく私をおかしくしてしまうらしい……ふふふ」
まあ、ある意味竜が龍に惹かれた……のかもしれない。
補足
……まあ、仕方ないね父性度カンストしてるドラちゃんだもの