魔法先生の副担任のこの日
人でありながら
この世界とは異なる世界を生き、世界そのものから嫌われ続けた龍を宿す男。
死なない為に鍛え続け、同じ志を持つ者達と共に世界そのものに反抗し続けた男は今、世界に仲間を奪われた上に追い出された果てに流れ着いたこの世界にて私が拾う形で生きている。
悪の魔法使いだの、闇の福音だのと呼ばれる私の正体に然程驚くことも無く、気まぐれで拾った私を事もあろうに『恩人』だと抜かした。
そしてその言葉の通り、アイツは女に対してどうしようもないだらしなさことあれど、私を囲う柵から解放する手伝いをしてくれた。
『登校地獄の呪いなんてギャグみてーな呪いだけど……んー、確かに何となく今のエヴァは『何かに蓋をされて』本来のパワーを引き出せてない気はするなぁ……。
オーケーわかった、専門外で役に立てるかはわからないけど、飯食わせてくれたばかりか職の紹介もしてくれた事だし、やれることはやってみるぜ』
登校地獄というふざけた呪いをかけるだけ掛けておきながら行方をくらませたあの男の見えぬ枷をアイツは壊す約束をし、その約束通り私を自由にしてくれた。
『エヴァが世間様からしたら悪い奴だったとしても、俺には関係ない事だ。
どこから沸いて出てきたのかもわからん――しかも普通なら『イカれた事を抜かしてる奴』の言葉をお信じてくれたばかりか、飯も食わせてくれた。
だから世の中がエヴァを悪だなんだと抜かそうが、俺からすればいい奴だ。
だから俺はエヴァが妙ちきりんな呪いとやらで困っているのなら何をしてでも助ける……。
こんな俺をトモダチと言ってくれたアイツ等のようにな……!』
普段はそこら辺の女に騙される間抜けなアイツが、過去を懐かしむように笑いながら私に向けた言葉。
『俺の――俺達の生き方は俺達が決める。
どこかの誰かが決めた『正しさ』なんかには興味はない。
それが俺の、兵藤一誠の――赤龍帝の『生きる意味』なんだよ!!』
シンプルに見えて、果てしなく困難が続くであろう道を進んで歩もうとするバカな男――それがイッセーという男であり。
『さぁてと! 久々にやるかドライグ!!』
『ふっ……そうだなイッセーよ。
ありがたく思え芥共、オレ達赤龍帝による絶滅タイムだ!』
私にとっての『自由』の象徴。
ネギ・スプリングフィールドにとって最も尊敬する相手は父である。
父のような『立派な魔法使い』になるという『夢』の為、メルディアナ魔法学校でトップの成績を修めた。
しかし『卒業試験』の際に訪れた日本において、夢のために邁進し続けていたネギ少年にとって初めてとなるであろう強大な『壁』が立ちはだかった。
「昔、俺のトモダチから言われた言葉があるんだけど、重要なのは相手の気配や動きを掴む事だ。
ネギ先生の場合ははある程度それが感覚でできてるけど、一度テンパるとそれを忘れて目で追おうとする癖がまだ残ってる………と、思うぞ?」
「はぁ……はぁ……! は、はい……!」
卒業試験の為に訪れた日本にて出会った、教師をする自分の補佐をする青年。
魔法使いでもなんでもない、されど自分達の『事情』を把握している変わった青年。
「あまり深く教えるとエヴァに拗ねられるから言えない。
けどキミはその年で十分すげーと思うぞ? 俺がキミくらいの年の頃なんて誰かが捨てた残飯を食ってどうにか生きながらえようと必死でなんもできないガキだったからな」
「え、えぇ……?」
「アンタ、それって冗談………ではないわよね? 前に私が見た昔のアンタの夢の事もあるし」
当初は妙齢の女性にすぐ鼻の下を伸ばしたりするだけの人と思っていたネギだが、その実彼の内包する『魔法』とはまるで違う『力』はまさに『魔法使い』としての世界しか知らなかったネギにとって目が覚めるような感覚と共に『恐怖』を植え付けた。
「俺の話はさておきもう1セット行くけど、やれそうかい?」
「だ、大丈夫です! お願いします!」
普段はヘラヘラとしていて、悪い言い方になるが生徒達に舐められがちだった一誠という名の青年の『実』を見たのは修学旅行での事だった。
敵と定めた相手を例外無く血祭りにあげ、女子供であろうが容赦なく叩き潰す『躊躇いの無さ』を前にネギは明確な恐怖を覚えた。
「はぁぁぁっ!!」
しかし同時にネギは知りたいと思った。
彼の強さのルーツが。
どうやったらそこまでの力を手にしたのか。
修学旅行の時の不甲斐なさを自覚したからこそ力を渇望するネギにとって兵藤一誠という青年はまさに―――立ちはだかる大きな『壁』なのだ。
一誠に膝を付かせたら弟子にしてやらないでもない……。
現状のネギでは殆ど不可能に近い条件を突きつけてから早数日。
当然ながらネギ単体ではどう足掻こうが――それこそ内包する親譲りの魔力を全動員させてもかすり傷すら負わせられないのは、彼を拾って就職の世話までしたエヴァンジェリンが一番わかっている。
何せ一誠とネギの数滴の血により、ネギの父親から施された呪いを完全に克服して全盛期以上の力を取り戻した自分でも、もしも一誠と殺し合いになっても勝てないと思う程一誠の単純な戦闘能力は異常なのだ。
「それで? 敢えて見逃しているが、お前は何のつもりでナギの倅に教えている?」
つまるところ、今現在既に自由を取り戻しているエヴァンジェリンは、自宅であるログハウスにて呑気にパンを齧るイッセーに対して何のつもりだと問いかける。
「あー……」
「お前に膝を付かせたら私があの坊やを弟子にするという条件を付けたというのに何故お前が教えている?」
「いやほら、彼に俺がガキん頃やってたトレーニング方法を教えた時に久々に俺もやってみたんだが、運動不足感を感じてな。
それによ、定期的に誰かと戦っておかないと勘が鈍るし、その相手をもうひとりくらい作ってみよーかなと?」
しらーっとした目をするエヴァンジェリンに対して一誠は茶々丸に入れて貰ったコーヒーを飲みながら答える。
「相手が私だけでは不満だと?」
進化の糧となる相手を欲したからと話すイッセーに無意識にエヴァンジェリンの声が更に不機嫌そうなものへとなっていく。
「いんや? 今俺の相手をまともにやれるのはエヴァだけだし、そこに不満は無い。
だけどエヴァばかり相手にしてたらタイプの違う敵が出てきたら後手に回るかもしれないだろ? だからエヴァの持つ力とは他の『力』を体感してみたくなっただけだ」
「お前がそうそう後手に回るようなタマではないだろう?」
「ははは、俺を買ってくれるのは嬉しいけど、そんなタマだから俺はダチや恩人を目の前で殺されたからよ……」
「………」
自嘲するように笑うイッセーにエヴァンジェリンはイッセーの過去に『踏み込んでしまった』と目を逸らす。
イッセーは自身の精神や過去に土足で踏み込む者に対して冷徹に嫌悪を示す。
しかしエヴァンジェリンの場合は例外に当たるらしく、嫌悪の様子は見せはしない。
「もう二度とあんな思いはしたくないからな。
確かにネギ先生がこのまま強くなったら、将来敵になる可能性はあるかも……そう思えば俺のやってる事は不正解なのかもしれない。
だからこそ、それ以上に俺は強くなる為に『この世界の力』をもっと体験したいんだ」
「死なない為にか……?」
「ああ、それと万が一エヴァが誰かに狙われた時に助けられるようにだ」
嫌悪ではなく、信用する相手に見せる大人になりきれない子供ような笑みで恥ずかしげもなく言い切るイッセー
「ふん……! お前に守って貰う程私は落ちぶれちゃいない」
「エヴァの強さは知ってるよ。
だからこれは俺が勝手に決めてる事だ。
仮にお前が嫌だって言おうが無理矢理助けてやるから覚悟しとけ?」
ニヒヒヒと悪戯小僧のように笑うイッセーにエヴァはツンとするがその心の奥底には暖かいものが広がるのだった。
「ラス・テル・マ・スキルマギステル……風精召喚!」
そしてその言葉の通り、毎日のようにイッセーに膝を付かせて自分の弟子になろうとするネギを相手にする時は殺さないように加減こそすれど手は抜かなかった。
「へぇ、分身の魔法ってか? エヴァので見慣れてるけどマジで便利そうだよな魔法ってのは」
「分身ではなく、精霊召喚だ」
「精霊? ………ふーんよくわからんけどすげーな」
これで何度目になるかわからない弟子になるための試験においてネギは魔法を駆使してイッセーに膝を付かせんとする。
「今日こそ……今日こそは……!!」
精霊召喚による分身を構えもせずその場に突っ立っているイッセーの周囲を取り囲ませながらネギは、アスナや古菲や楓やついでにカモといった者達に見守られながら飛び掛かる。
「せめて後1万体は呼び出しできるようにしてくれよネギ先生! 準備運動にもならねぇからなァ!!」
しかしそんな分身達をイッセーはその場から動かずに次々と叩き落とすように破壊する。
「わかっています! イッセー先生を相手には牽制にも陽動にもならないことくらいは!!」
残り3体となった瞬間にネギは古菲や楓から教わったことで向上した体術を以てイッセーに接近すると、がら空きだった胴に渾身の正拳を叩き込む。
(気を拳に一点集中させた!! これなら――)
10歳前後の少年とは思えぬ確かな一撃がイッセーのがら空きだった腹部を貫き、ネギは初めてまともな手応えを感じた。
しかし……。
「成績は悪いが、こういうことを教えるのは割りと上手いんだな、古菲と長瀬は……」
「うっ……!?」
イッセーは全く効いてないとばかりにヘラヘラと笑いながら、気なる概念を教えたであろう古菲や体術を教えた楓を見やりながら自身の腹部に叩き込んできたネギの腕を掴む。
「ぎっ!? (ふ、振りほどけない!)」
咄嗟に逃げようとするが、自身の手首を掴むイッセーの握力の強さにゾッとなるネギはミシミシと骨の軋む音と痛みに顔を歪める。
「一応キミは前よりは確実に強くなってるよネギ先生? 正直キミの事は『本気で』教えて俺の殴り相手のひとりになって貰いたいんだが、あっちで見てるエヴァとの約束があるんでね……ふふふ、キミが俺に自力で膝を付かせるまでは、のらりくらりでやらせて貰うぜ?」
振りほどかんともがくネギにヘラヘラ笑いながら言ったイッセーがゆっくりと反対側の手をネギの額に近づけると軽いデコピンをする。
「うがっ!?」
その瞬間ネギの身体は重力の法則をガン無視するかの如く乱回転しながら水平に吹き飛び、50mに差し掛かった所で何度も地面にゴムボールのようにバウンドし、100m付近で見えない壁に衝突することでようやく停止し―――そのまま意識を失うのだった。
「で、デコピンひとつでこんなに人間って吹っ飛ぶものなの……?」
「気を集中させれば不可能ではないアルが……」
「ああ、イッセーは気なんて使ってない。
つまり今のは単純なイッセーの膂力によるものだ」
「と、とんでもねぇ……」
今の段階では最初からネギに勝ち目は無いと思っていたアスナ達ギャラリーは、ただの腕力だけで子供とはいえ人の身体をデコピンだけで吹き飛ばすイッセーに引いたり関心したりとしている。
「ほれ、少し腫れはするが加減はした。
早く先生を介抱してやるんだな」
「え、ええ……」
「ほ、本当にこんな化け物相手にネギの兄貴は膝を付かせられるのか……?」
額を紫色に変色させ、眼鏡がぐしゃぐしゃに壊れた状態で目を回して気絶しているネギの元へと走るアスナとカモは改めてイッセーという女に詐欺られまくりの男の異次元さを知るのであった。
たった一発のデコピンで戦闘不能へと追い込まれたネギが額に残る鈍い痛みと共に目を覚ますと、試練の場所ととして使っていたエヴァンジェリンの作り出した空間内は文字通り『荒れ果てていた』。
「魔法の射手
連弾・氷の17矢……!」
以前相対した時とは比べ物にならない連度の魔法を扱うエヴァンジェリンと――
『Boost!』
「フンッ!!」
修学旅行の時にも見た、左腕に謎の魔道具のような籠手を填め、謎の掛け声と共に次々と生成されては放たれる氷の矢を叩き落としていくイッセーによって。
「こ、これは……」
「あ、目が覚めたのねネギ」
「は、はい、額がまだ痛いですがなんとか……。
しかし何故エヴァンジェリンさんとイッセー先生が……?」
「アンタをデコピンで吹っ飛ばした後、見たこともないくらいに血走った目をしたイッセーが急にエヴァンジェリンさんに『掛かってこい』って言い出したのよ」
アスナの説明の通り、よくよく見てみれば放たれる魔法を真正面から殴り飛ばしながら肉薄し、自分が受けたデコピンとは比べ物にならない――割りと本気なんじゃなかろうかと思う程度の拳を容赦なくエヴァンジェリンの顔面に叩き込んでいるイッセーが見える。
「ぐっ……!」
登校地獄の呪いから解き放たれ、十全の力を発揮出きるようになったエヴァンジェリンが苦悶の表情を浮かべながらクレーターだらけとなっている地面に墜落する。
「もっと……もっとだ……!」
そんなエヴァンジェリンとは正反対に地面へと着地したイッセーは餓えた獣を彷彿とさせる血走った目と形相で、立ち上がるエヴァンジェリンを見据えつつブツブツと呟いている。
「な、なんだかイッセー先生の様子がおかしくありませんか……?」
「それは私も思ったわ。
エヴァンジェリンさんが言うには定期的に来る欲求ってやつみたいだけど」
「欲求……?」
ヘラヘラとした笑みではない――言ってしまえば危険な薬か何かに手を出した人間を彷彿とさせる形相のイッセーにネギは身震いをしながらアスナから話を聞く。
「ああなるとイッセーは一切周りが見えなくなるらしい」
「欲求を解消させれば落ち着くとも言ってたアル」
「は、はぁ……。
でもその欲求というのはどういうものなのでしょうか?」
「聞いたけど教えてくれなかったわ。
『お前ら子供にはわからない大人の話』だって……」
エヴァンジェリンの放つ魔法により全身を氷付けにされるも、即座に内側から破り、謎の掛け声と共に更に速度を上げながらエヴァンジェリンに飛び掛かるイッセーの更なる側面にネギは戦慄しつつも、これもまた強さの秘密のひとつなのかもしれないと、痛む額を押しながら『体術』に切り替えたエヴァンジェリンととても嬉しそうに嗤いながら殴り合うイッセーを見つめる。
「そらっ!!」
「ぶっ!?」
異様な雰囲気をむき出しにするイッセーもさることながら、そんなイッセーを相手に圧されてはいるものの純粋な殴り合いに食い下がるエヴァンジェリンに驚かされるネギ。
「す、すごい……! エヴァンジェリンさんが体術でイッセー先生に食らいつけているなんて……」
「イッセーと暮らすようになってから密かに鍛え直してたんですって」
「……正直悔しいアル」
「うむ。
あのイッセーを相手に正面から食い下がれるのははっきり云って羨ましいでござるよ。
今のイッセーは完全にエヴァンジェリンだけを見ている」
まともに貰えば砕け散るだろうイッセーの剛の一撃を捌きながら急所を的確に叩くエヴァンジェリンの体術に、古菲や楓の二人からも悔しげな声が出てくる。
「くくくく! 良いぜエヴァ……! 貧弱だったのにここまでやるようになってくれて俺は嬉しいぜ……!」
「お前の性欲じみた欲求を受け止める為に、こっちは原始的なトレーニングを強いられたのだからな!」
野生を剥き出しにするイッセーの一撃を捌きながら返すエヴァンジェリン。
全ては世界を追われた男の抱える無尽蔵の
「zzz……」
無神臓とイッセーとドライグ呼ぶ
魔法とは違う、イッセーという個人の精神に宿る指紋のようなそれは聞くだけではインチキみたいなものだ。
無限に、際限なく、永遠に自己を進化させ続ける。
まさにインチキであり、人という種の限界を否定するものだ。
「好き勝手暴れるだけ暴れ、後片づけもせず寝るとはな」
「数年は無かった『欲求』を完全に解放したからな。
まあ、これで暫くは大丈夫だろう。久々に壁を越えられたようだからな」
坊や達が帰った後、空間から出た私達は満足そうに寝ているイッセーが私の膝を枕にして寝ているその顔を眺めながら、人形に意識を移しているドライグからイッセーの抱える
「テイキテキにシンカカベをノリコエタクナル――ネェ? マルデ『発情期』ダナ? ケケケ」
「そんな低俗なものと一緒くたにするなチャチャゼロ」
口を挟むチャチャゼロの言葉にムッとした声を出すドライグだが、正直似たようなものだと思ってしまう。口には出さんがな。
「ん……」
「っ……」
それにしてもイッセーの奴。
一度してからというものの、図々しいくらいに眠る際に私にこんな真似をさせてくる。
この私の膝を枕にして寝るには飽きたらず……。
「オオット? ハジマッタカ?」
こ、この私の身を抱き枕代わりに……。
「や、やめろバカイッセー!」
「んー……」
一度寝ると全力で頭をぶっ叩いても起きないのは分かっているし、ここ最近は諦めの境地にも近いものを抱いてはいるのだが、ドライグやらチャチャゼロやら茶々丸の前でされるのは流石に抵抗したくなる。
けれどバカイッセーはいくら頭を叩いてやめさせようとしても、ますます私を抱く力を強める。
「行くぞ」
「チャント『避妊』ハシトケヨ~? ケッケケケ!」
「じー……」
どいつもこいつも好き勝手言うだけで助けもせんし……。
「私はお前の好むような見た目の女ではないんだぞ? このバカイッセー」
ここまでするのなら、他所の女に下手な口説き文句を垂れ流すのは辞めろと思う私は悪くない。
終わり
補足
設定としては基本エヴァにゃんの世話になってて、財布の管理もされてる。