日常編だけどマークされた
最近不思議な夢を見る。
私の過去や最近の出来事の夢ではなくイッセーさんの夢。
イッセーさんは自分の事をあまり私には教えてくれないけど、勿論どんな子供だったのかとか、リアス先生とはどうやって出会ったのか、聞けるものなら聞きたいとは思っていた。
でも私は聞くことを躊躇ってしまう。
しつこく聞いたらウザいって思われちゃうかもしれないと思うし、嫌われたくないから。
しかし、だからこそ私が時折見るこの夢はきっと―――
『はぁ……。
一日かけて30件くらいコンビニやファミレスのゴミ箱漁ったっていうのに、全然食い物が見つからなかった……』
『それどころか警察に補導されかけたしな』
『普通なら学校に行ってないとおかしい時間だからね……』
着ている服も、髪も、肌も、何もかもがボロボロに汚れている――それこそ今のネギ先生と同い年くらいの男の子は間違いなく――小さい頃のイッセーさんなんだって。
そしてこの小さなイッセーさんの姿こそがイッセーさんの『過去』なんだって……。
『い、いつつつ……! あのヤクザ達、子供相手に拳銃ぶっぱなしやがって……。
鍛えてなかったら普通に死んでたぞ……』
『オレからすればあんな玩具で負傷している時点でまだまだだがな』
『まだまだって言われても、ロボットじゃないんだから怪我するに決まってるじゃないか……』
親も兄弟も居ない。
ホームレスのような生活をしながら、それでも生きようと悪いことにも手に染める姿。
『やっと16になれた! こ、これで日雇いの仕事で普通に食っていけるぞ!!』
『それならもう強盗だの恐喝だの(反社会的な連中限定)は卒業しておけよ?』
『わかってるぜドライグ。
まあ、卒業しようともきっと俺は死んだら地獄行きだろうがな!』
アルバイトが出来る年齢になれたと喜び、あくせく働く姿。
『……』
『あ? なんだお前は? こんな所に何故人間が……』
そして、ある存在への『復讐』の為に生きる事への執念を燃やし続けていた日々が変わった日。
『別に、ただの通りすがりなだけさ』
誰かに追われてボロボロにされていたリアス先生を助ける為に飛び込んでいく姿……。
『通りすがりなんだけど、俺ァバイトの掛け持ちで昨日から数えて20時間働いたんだ。
そしていざ日給だと思ったら、住所不定を理由に貰えず、頗る機嫌が悪いんだ』
『は? 何を言って――――』
『……………運が悪かったな、オメー等。
女の子一人囲んで袋にしてるっつーことは、今からオレが八つ当たりでテメー等全員ぶちのめしても文句なんてないよなー!!!』
イッセーさんの過去は、それまで普通に生きてきた私では到底重すぎる。
だからきっと話そうとはしないんだと……夢で見た私は頭ではなく心で理解していく。
『大丈夫か? キミがボロボロにされているのを見ちゃってつい余計な真似をしちゃったんだけど――あー、口に合うかどうかは分からないけど、スーパーで買った値引き弁当でも食べる?』
『しかしひっでぇな、その髪って明らかに無理矢理切られただろ? ………え? 目立つ色だから自分で切った? ――――やっぱりキミ、野郎が寄生してる悪魔なのか? 何が一体あったんだ?』
『はぁ!? 眷属だった人達に裏切られた挙げ句、野郎に無能呼ばわりされて裏切った連中と一緒になって攻撃されたって!? ――――あ、相変わらず心底胸くその悪い悪趣味変態野郎だな。
え? なんで野郎を知ってるかって? ………まあその、今よりもっとガキの頃にあの野郎に親と共に殺されかけたからね。
まあ、だからかな……キミを助けようとか思った理由は』
『こんな風なホームレス生活になってしまうことにはなるけど、戻りたくないのなら好きなだけ居て良いよ。
今のキミを見てると、今よりももっと惨めだった昔の自分を思い出すんだ』
『しかし解せないな。
あの野郎は種族関係なく外見の良い異性に対しては寒気のする真似をする為に外面の良い言動やら行動をするのに、なんでキミにはそこまで攻撃的なんだ? は? 単に奴の好みじゃなかったからだと思う? あー……いや、やっぱり理解できないな。
キミは今はボロボロだけど、ボロボロだとしてもかなり美人だと思うけど……』
『別に感謝しなくても良いよ。
善意で助けたって訳じゃないし、言っちゃえばキミを見た瞬間に全身に電気が走るような衝撃を受けたからってだけだし。
……要はただの下心ってやつ。
そうさ、キミを知ってから理解しちまったけど所詮俺もあの野郎と同じ狢って奴さ、キミに対する下心みたいなものを持っちまった時点でな』
『俺はどうやらキミにひとめぼれって奴をしちゃったらしいんだよ――リアスちゃん』
何があってもリアス先生だけしか見ないその理由となる過去の夢……。
『俺はキミの弱った精神に付け込んだゲスだよ。
それを自覚した上でも俺はキミの事を守りたい。
それがエゴだというのならそれで良い。
親の復讐が生きる動機だった俺に違う生きる動機をくれたキミの為に俺はもっと強くなる―――キミが大好きだから』
リアス先生が羨ましいと思ってしまうほど優しい顔をした昔のイッセーさんの夢…。
修学旅行をする孫娘と友人をちょろっと遠くから見守るだけで20万円の臨時ボーナスを払うという言葉にホイホイしたがった結果、見守るどころではない労働をすることになってしまった。
もっとも、借りのある相手でもあったので仕方ないという思いもあったので50円の報酬であろうとも文句は無い――とイッセーとリアスは思っている。
そもそも今までの仕事の報酬の殆どを貯蓄に回しているので、実はプチ金持ちであるのだ。
故に金銭に関する悩みは無い。
あるとするなら、京都での一件で白龍皇の存在と、ネギという少年教師に自身の存在を知られた事だろう。
面倒で厄介だという意味で。
「イタタタタ……。
こんな格好で申し訳ないが、改めて孫娘を助けてくれたことを礼を言うぞい……」
「それなりの代償は払いましたがね……」
「大丈夫ですか学園長……? 取り敢えず湿布を貼り替えますね?」
「アイタタタ……うむ、恩に着るぞいリアス先生……イタタタ……!」
元々学園長の孫娘――つまり木乃香を密かに見守るという仕事だったのである程度自分の存在が知られてしまうリスクは承知していたので文句は無い。
だが、その護衛の仕事においてまさか自分に匹敵しうる存在と出会すとは思わなかった訳で……。
「既に報告は受けておるが、本当にお主の宿敵とされる存在が居たのか?」
「ええ、本人曰く『過去の記憶を持った状態で別の生命体に生まれ変わった』らしいですけど……」
「どこまでが本当かは分かりませんが、少なくとも排除に失敗してしまったのだけは本当です」
何故か腰をいわしている学園長の事は割りと信用しているイッセーとリアスが京都で出会した白龍皇について話すと、学園長はうつ伏せで床に伏せた体勢で難しそうに唸る。
「むぅ……。
お主の攻撃を耐えきる者が居るとは信じられぬが、嘘ではないのじゃろう。
攻撃に巻き込まれたリョウメンスクナは一撃で消滅し、エヴァンジェリンも肉体が完全に消し飛ぶ程のものじゃったらしいからのぅ……」
ギャーギャーと喚くものだから仕方なく腰を犠牲にエヴァンジェリンの呪いを一時的に解除した状態で京都に送り込んだのだが、予想の通りエヴァンジェリンを送り込む必要は全く無かった。
そのエヴァンジェリンもイッセーの一撃に巻き込まれて死ぬ寸前の重症を負ったとかで、ますます恨みを募らせているようだが……。
「全身を包帯で巻いていたエヴァンジェリンが血走った目でお主に対して恨み言を言っておったぞ?」
「ああ、そうですか……」
当の本人がエヴァンジェリンへの認識を『そこら辺に落ちてる石ころ』と言わんばかりの無関心っぷりであるのだから困ったものだと学園長は自身の腰をリアスに貼り替えて貰った湿布越しに擦りながら苦笑いを浮かべるのであった。
「それで? ネギ先生についに存在を知られた様じゃが、一体何をしたのじゃ? 彼がお主について語るその口調や表情に若干引くものを感じたのじゃがの……」
「……。俺にもさっぱりですよ」
とうとうイッセーの存在を知ったネギの彼に対する印象が斜め上に行っている事も含めて……。
京都の修学旅行からの帰還以降、ネギとアスナとカモは学園の用務員と非常勤保険医として働いていると言っていたイッセーとリアスの二人を勿論訪ねて、改めて話をしてみようと考えていた。
しかし帰還後いくら探しても保健室に居るリアスのとは稀に会えるものの用務員らしいイッセーの行方は全く掴めなかった。
「グレモリー先生は本当に高等科の保健室に居たけど、あの兵藤って用務員は全然見つからないわ」
「ホントに用務員なのかも怪しいっつーか、いっその事あの男と親しいお嬢ちゃん達の誰かに聞いた方が早くないか兄貴?」
「それは僕も思ったけど、宮崎さんや木乃香さんに聞いてみたけど教えてくれなかったんだよ」
異次元の戦闘力を持つ男がただの用務員をやっているというのも信じられない訳だが、未だにイッセーを見つけられない最大の理由がイッセーと親しい者達の全員がイッセーの行方をはぐらかすのだ。
『あ、えっとー……私の口から言っちゃうとイッセーさんが怒ると思うから言えないといいますかー……』
『ちゃんと探せば割りと簡単に見つけられますよ? ……まあ、のどかと同じく教えはしませんけど』
『二度と俺に関わらないでくれ―――なんて言われたくないからねぇ』
『イッセーくんを見つけるのも修行の内やでネギくん?』
『これ以上師匠の周りに人が増えると構って貰えなくなるので死んでも私は言いません。なんといっても私は弟子ですから?』
イッセーの行方がわかる人達の誰しもから、自分で探してみろと言われてしまったので探すのだが、依然として姿が見えない。
何なら放課後になるとそそくさと教室を出て行く彼女達の後をこっそり追った事もあるが、何故か途中で『見失って』しまう。
「む、ネギ坊主、もしかして今日もあの男を探してるアルか?」
「あ、古菲さん、長瀬さん、龍宮さん……」
しかもネギ達だけではなく、京都で返り討ちにされた古菲、楓、真名までもがイッセーの行方を追っており、ここ最近なこの三人と協力するようにもなった。
「ネギの奴がどうしても会いたいって言うからね……」
「あー……ネギ坊主はあの男に会いたいのか?」
「はい! 影のあるクールなヒーローそのものですからね!」
「ヒーロー……でござるか?」
「ネギにはそう見えるらしいのよ……」
「……………………」
キラキラした顔でイッセーをヒーロー呼ばわりするネギに、違和感しかない楓は、真名をチラリと伺う。
京都での遭遇で一番『折られた』のが真名であり、聞けば前々からイッセーの存在自体は把握していたというのは既に聞いている。
あれだけの言葉を吐き捨てられたのに、依然として――いや以前よりも強くイッセーに対して執念めいたものを燃やす真名は、最近少しだけ精神的に不安定なのだ。
「じゃあ今日も一緒に探してみるアル。
正直あの男は強いし、改めて手合わせをしてみたいアル」
「ありがとうございます! じゃあ今日は父に関する手がかりを探すことを含めて図書館島を……」
「…………………………………」
(最近の真名は目がバッキバキだな……)
(真名の目がヤバイわ……)
不安定過ぎてアスナですら速攻気づくレベルで目がバキバキになっている程度に……。
(兵藤イッセー……兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー兵藤イッセー……!!!!!)
一人の少女を完璧に拗らせまくっている自覚は、勿論本人は知らないし自覚も無い。
ネギ達の目を掻い潜りながら、今日は珍しく先に一人で用務員室へとのどかは、ぺらぺらと本を読んでいたイッセーが一人で居ることに気づく。
「こんにちはー……」
「ん」
「私の貸した本、読んでくれてるんですね……?」
「ん、暇だし……なんか日課になっちまったよ」
最初は読むことすら拒否していたイッセーが、唸ることもなく静かに本を読んでいる事に嬉しい気持ちになるのどかは、ちゃっかりと椅子を移動させてイッセーの傍に座る。
「………………」
「……………」
真剣な顔で読んでいるその横顔をただ眺めるのどか。
おおよそ今までの人生でも出会ったこともなければ、普通に生きていれば関わることもなかったタイプの異性の男性。
前までの自分なら怖いとすら思って近づこうとも考えなかったであろうタイプの人なのに、不思議な程怖さを感じない。
いや、それどころかこうして横顔を眺めるだけて胸の奥がくすぐったくなる……。
「……ふふっ♪」
それが堪らなく幸せだった。
偶然でもなんでも、あの時出会えて良かったと心の底から思える。
「きっとこれが好きって気持ちなんだろうなぁ………」
「…………あ? 急になんだ???」
「…………………………うぇ!? あ、ち、ちがっ!? 違います! ま、間違えました!」
「…………?? ふっ、変な子だなキミは」
「うぅ…笑わないでくださいよぉ……」
「はっはっはっ」
例え芽なんてなくても、ただ一人だけを見ていても。
そんな彼の姿を見続けていたい。
それが宮崎のどかの抱いてしまった気持ち。
「ぐぬぬぬ……! イッセー師匠!! 本も良いですが、もっと私にとお嬢様にも構ってください!」
「せやせや。
本屋ちゃんばっかりずるいで」
「何がだ……。んな事よりあの小僧共は撒いてんだろうな?」
「当然です! 万事抜かりはありません! ですので褒めてください! こう、よしよしと頭でも撫でながら!」
「今ならサービスでお腹も撫で撫でしてもええで?」
「するかアホ」
「じゃ、じゃあ優しく頬を撫でてくれたりなんて……」
「やらねーっての。
やるにしてもリアスちゃんにしか俺はやらねぇ」
「なーんかこうして見ると何気にイッセーさんってモテるかも……?」
「少なくともイッセーさんを知ってる女子の殆どは嵌まってますからね……。
もっとも、本人の意識はリアス先生だけですけど」
「ふふ、ゆえとハルナは違うのかしら?」
「え? あー……まー……たまにちょっとだけ優しくされるとドキッとはする――かな?」
「この前転んで足を挫いた時に、黙っておんぶをして貰った時はどぎまぎさせられましたけど……」
「……へぇ? ふふふ」
終わり
補足
身内認定すると一気に塩対応が緩和されるどころか、その者の為なら平気でなんでもやらかす。
だから嵌まる子は蟻地獄に落ちるが如く嵌まる。